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44 共通項

 個人的に荒れた十月は過ぎ、十一月の幕は静かに開いた。


 沙紀から謝罪の言葉があったが、逆に和人は恵美と二人で頭を下げた。

 心配をかけた以上、筋だけは通したい。

 七海には仲間内の空気が伝わる事はなく、平穏に過ごしている。


 そして、十一月といえば、学園祭。

 準備期間の間は、授業も休講となる。

 七海は詩織ちゃんと共に、どこかのサークルの手伝いに行っている。

 特にサークルにも所属していない和人は、学校に来る必要は無い、はずなのだが。


「内田君、お待たせ」

 赤い眼鏡が似合う、愛さんだ。

「珍しいな。姫が俺を呼ぶなんて」

「暇なのよ。分かるでしょ?」

「そりゃ、な。司は?」

「ちょっと放置。ケンカじゃないから大丈夫よ」

 何やらかしたんだ? 司の奴……。

「ここじゃ落ち着かないわね。行こっか」

 学園祭準備に走る学生を尻目に、和人は歩き出した愛の後ろに続いた。



 大学近くの喫茶店。いつもは学生が多いのだが、今日は空いている。

 本日のケーキセットを、二人ともブレンドで注文した。

 時々だが、愛さんとは気が合う部分がある。

「こんなトコ、七海ちゃんに見られたら問題じゃない?」

 わざとらしい質問だ。目が既に笑ってるし。

「どうせ司絡みの話してるとしか、思われないさ」

「ま、それもそうね」

 ケーキとコーヒーが来たので、一時閉口。

 今日のはモンブランだな。

 そのモンブランを一口食べてから、愛が口を開く。

「しかし、キミもキミなら、メグもメグだねぇ」

 切り出しがそれかよ。

「あの夜のメグ、珍しく酔ってたよ」

「ほへ?」

 我ながら間の抜けた声だな。

「柳が、酔ってた、だと?」

「うん。可愛かったよ?」

 どんな風に……じゃなくて。

「そこまで、か……」

 旅行の時も含め、何回か一緒に飲んでるが、彼女が酔ったところを見たことが無かった。

「まぁ、大丈夫だよ。女の子は終わったら切り替え早いから」

 そんなもん、かねぇ。

「ただね、メグも優しすぎるよねぇ。キミのせい、かな?」

「は?」

 どういう意味でしょうか?

「恨み節の一つも、こぼさなかったよ、メグ」


「……」


 どう答えればいいのだろうか。

 どちらかと言えば、非難されて当然だと思っていた。

 弄んだ、と言われれば、それまでだと。

 それが、一切恨まない、とは……。

「逆に……俺にはツライな、それ」

 和人はゆっくりと言葉を吐き出し、コーヒーを啜る。

「都合よく行くわけなんて、無いでしょ。普段酔わない彼女がそうなるほど、追い詰めたんだから」

 愛の口調は厳しいが、事実でもある。

「申し訳ないと思うなら、その分は七海ちゃんを想ってあげないと。そして、メグには以前と変わらず接する。それがキミの取るべき道、でしょ?」

 そう言いながらも、愛の眼差しは優しかった。


 そう。

 今の環境、これを壊さない事を、俺達は望んだ。

 一度意識してしまったものを、無かった事にする事は出来ない。

 それでも、今までと変わりなく接しよう。

 そう、決めた。

 それは暗黙の了解だった。

 小さな秘密と共に。


「そうだな……。ありがと、愛さん」

 自らに課した事は、守らないと、な。

「で、メグとどんな話をしたワケ?」

「は? ……聞いてないのか?」

「中身まではね。結果と感想だけよ」

 まぁ、言えない、だろう。誘惑しようとしたなんて。

「パズルの話、かな」

 タングラムの話を掻い摘んで説明する。


「なるほど。言うなればキミ達は、ほぼ同じ形のピース、なのかもね?」

 疑問形の語尾で言いながら、愛はウンウンと頷く。

 組み合わない、という意味だろうか。

 この人の真意を読み取るには、まだまだ経験不足なのかもしれない。



「そういえば」

 店を出たところで、愛が和人の顔を見る。

「七海ちゃんとキミは、同じ目をしているね」

「え?」

 何なんだ? この人は。

 傍にいた、柳や先輩ならともかく、姫が気付くとは……。


 って、七海と同じ?


「気付いてなかった、かな? ま、そうなった理由は、キミ達の中にあると思うし、聞かないけれど」

 和人はただ、彼女の顔を見つめていた。

 七海も同じ、ならば、これの原因はアレなのだろうか?

 そんな和人の思考を知らずか、愛は言葉を続けた。

「ちゃんと、意思表示してあげてね。初めて、だったら、それはそれで意味のあるもの、だから」

 言わんとしていることを察し、和人は思わず苦笑いを浮かべる。

「さって、私は帰るね? いつまでも司を放置しとくワケにはいかないし」

「ああ。ありがと。またな」

 愛は手を振ると歩いて去っていく。


 言いたい事だけ言われてった感じだが。

 それも、俺らを思っての事なんだろう。

 そんな友人がいてくれたこと、本当にありがたく思う。


 せっかく出て来たんだし、七海と詩織ちゃんの顔くらい見ていくか。

 和人はそう思い、再び大学へと足を向けた。

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