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40 思い出と迷い

 残された課題は、一つだけ。

 あの人に対する答え、だけだ。

 そこそこ長い付き合いの中で、あの人の性格は知っているつもりだった。

 でもあの行動は、和人の知るそれを超えていた。

 だから正直、リアクションは読めない。

 もっとも、女性の反応って読みにくいんだけども。

 だが、あの人は分かっていたはずだ。

 和人の出す答えが、何であるか。

 そう、分かっていて、敢えて勝負を挑んだのだろうか?

 そういうタイプでは無い、と思っていたんだけど。

 それほどまでに、あの人を追い詰めたのだろうか……?



「あった。これだ」

 和人は家の物置を漁っていた。

 過去の思い出を封じ込めた箱を、奥から引っ張り出す。

 さほど大きくもない、白い箱。

 熱で朦朧とする中、この中にしまい込んだ、思い出。

 部屋に持ち帰り、蓋を開ける。

 一番上にあったのは、クマのぬいぐるみだった。

「やっぱり。ペアだったんだな」

 それは、七海の部屋にあった、小さなクマのぬいぐるみと同じものだった。

 いや、正確に言うと、服が違う。

 彼女の部屋にあるのは服が赤く、和人の手元にあるのは、青い服を着ている。

 元々、二つとも七海の家にあったものだった。

 七海は引っ越す前に、そのうち一つを和人に託した。

 それは和人が引越しの話を聞く前で、何故なのか分からなかった記憶がある。

 七海は言わないつもりだった想いを、これに込めていたんだろう。

「ま、結果的には、言う事になっちゃったけどな」

 他に箱の中には数冊のアルバムが入っていた。

 幼い日々の思い出の数々が、その中には収められている。

 それぞれの親に連れて行ったもらった場面が多い。

 それでも親同士の交流が無かったのは、多忙だった故、だろう。

 写真に写る頃の彼女は、どちらかというと勝ち気な少女だった。

 それが今や、可愛らしい、という形容詞が似合う女性だ。

 幾分、落ち着いたところもあるけれど、あんまり変わっていない。いや、ちょっと大胆になった、かな。

 この前のキスを思い出すと、思わず顔が赤くなる。

 ほんと、可愛くなりやがって……。

 ぬいぐるみを机の片隅に置き、アルバムは棚にしまう。


 代わりに、別のアルバムを抜き出す。

 ○×年度、文化祭。

 あの、語り継がれる文化祭。

 その中枢を担った、一部始終が収められている。

 檄を飛ばす、生徒会長。

 指示を出す、瑞穂先輩。

 その横に寄り添う柳。

 副会長と会計の二人と、頭をつき合わせている俺。

 指示に走り出す後輩の姿。

 スタッフ全員の集合写真。

 それぞれが、それぞれの立場で駆け回っていた。

 あの一体感は、忘れられない。

 あの頃、こんなことになるなんて誰が想像しただろう?

 司とは違う意味で、親友だと思っている。

 男女間の友情なんて、無いという人もいるけれど。

 あの人とはそう居られると、思っていた。



 俺は、どうするべきか。

 関係を断ち切るのは簡単な事だ。

 でも、それはしたくない。

 もしそうなれば、周りの皆も動揺するだろう。

 関係を壊したくないという思いは、沙紀や愛の行動を見れば分かる。

 七海も、自分のせいだ、と本来関係の無いはずの自分を責めるかもしれない。

 それに……愛さんには、見栄を切ってしまったしな。


 自分勝手だと、分かってはいる……。


 だからこそ、考えろ。

 冷静になれ。

 思い出せ。あの人のこれまでの行動を。

 そして、そこから導き出される答えを。

 俺の答えを分かっていて、あの人は何を望むのか……。


 思考の堂々巡りが続く。

 残された時間は、それほど長くは無いけれど……。

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