38 姫の本気?
和人が目を覚ますと、午前十時を回っていた。
やっぱり、疲れきってたんだなぁ。
まだ目が腫れぼったい気がするけど。
隣では、和人の腕に抱きつくように七海が眠っている。
それはもう、すやすやと。
なんか悪戯したくなるよね。
そーっと手を伸ばして、その頬に……。
「何するつもり?」
「わ!」
起きてたのかよ……。
「もう、油断も隙も無いんだから……」
「起きてたなら、言えよな?」
和人は言いながら、バツの悪さに顔を背ける。
七海はそんな和人の頬に手をやり、背けられた顔を元に戻した。
「ふふっ。目、だいぶ落ち着いたね」
「そう?」
「でも、まだ分かるよ。昼間は安静に、ね?」
優しい笑みのまま言われ、正直照れる。
ま、仕方ない、か……。
布団を片付けると、七海が紅茶を淹れてくれた。
何だろう。
昨日より、美味しく感じる気がする。
「心境の変化、じゃない?」
七海がさらっと言ってのける。
「そうかもしれないな」
まだ、全ての問題が解決したワケじゃないんだけど。
肩の荷が下りた事は、確かだった。
「あり合わせでごめんね?」
お昼は七海お手製のチャーハンだった。
いや、あまりお腹すいてなかったから、いいんだけどね?
昨夜同様に和人が洗い物を済ませると、七海は机に向かっていた。
「ごめん。ちょっと電話していい?」
「いいよ。そんなに気にしないで?」
課題を始めた七海に断りを入れて、ベランダに出る。
電話の相手は、愛さんだ。
事情を知る彼女には、連絡をしておこうと思ったのだ。
「もしもし?」
『あれ? 内田君、どうしたの?』
「今、大丈夫?」
『バイトまではまだ時間あるから、大丈夫よ? 司も居ないし』
用件は分かってる、そう言いたいらしい。
「結論から言うよ。……思い、出した」
『みたいだね。声のトーンで分かるよ。落ち着いてるけど、沈んでないもの』
さすが姫、と言いたいところだけど。
「お見通しってワケですか?」
ここで引いたら、男が廃る?
『そんなことないわよ? まぁ、そうなったらいいかな、っていう希望的観測が当たってただけ、よ?』
「そう……。皆はどう?」
『沙紀は落ち着いたよ。そのうち、謝りのメールでも来るんじゃないかしら。他の皆は、特に何も。ただ……』
「ただ?」
柳のこと、か。
今のところ、七海がこちらを気にしている様子は無い。
『メグは、やっぱり沈み気味、かも。まぁ、私達しか気付いてないと思うけど』
「そっか。まぁそれは、俺が何とかするよ」
それが、あの人との約束だから。
『そうね。内田君が何とかしてくれないと、ね。ところで、今は……七海ちゃんの家、かな?』
「え……」
何ですか? この人。
あれだけの会話から、読み取るんですか?
それが分かる余地、あったか?
『あれ? 図星だったかな?』
電話の向こうから押し殺した笑い声が聞こえてくる。
「何でよ?」
『言葉を選んでる感じがするからよ? そんなに隠す事でも無いと思うんだけど?』
やりにくい。久しぶりにそう思った。
まぁ、楽しいのもあるんだけどね?
「ま、色々あるんだよ」
『そういう事にしとこうか? まだまだ楽しめそうだけど?』
「勘弁してくれ。こちとら寝不足だと言うのに」
『はいはい。分かったよ。くれぐれもメグの事、任せたよ?』
「ああ。分かってる」
『うん。……結果、どうあったとしても、私は二人の……キミとメグの、味方だから。それだけは覚えといてね?」
その言葉に、胸が詰まる。
「愛さん……ありがとう。それじゃ」
『またね? あ、私と切り結ぶ時は、もうちょっと余裕ある時に、ね? それじゃ』
通話が終了したことを確認し、部屋へと戻る。
どこまで見透かしているんだろうか。
俺の中にある迷いまで、彼女は気付いているのかもしれない。
どうあったとしても、か……。
これからの事を、彼女はどう予想しているのだろう。
いや、そんな予想なんて無意味、か。
結論は、自分が決めるしかないのだから。
しっかし、居場所まで読まれるとは……。
これが、姫の本気……?
認識を改めないといけないかもしれない。
「和くん?」
七海の声に、我に返る。
通話が終わったというのに、電話を握り締めたままだった。
「何でもないよ。邪魔して悪かったな?」
ケータイをしまうとクッションを枕代わりに横になり、タオルを目の上に載せる。
もう一度、寝よう。
意外とすぐに、和人は夢の世界に落ちていった。




