24 仕掛け?
夕食の前に温泉に入ろう、ということで。
ボウリングで汗かいたしな。
浴衣に着替え大浴場へと向かう。
そこはなんと、総檜風呂だった。
もう、驚かないよ? 多分……。
「んー。極楽極楽……」
源泉かけ流しの温泉に、肩まで浸かる。
至福のひと時、とは当にこの事!
あぁ、癒される……。
全ての悩みも、流れ出てしまえばいいのに……。
「露天風呂行こうぜー」
司の言葉に、露天風呂に移動する。
大浴場と違い、岩風呂という風情の露天風呂は、開放的だ。
見える庭木はまだ緑が色濃い。
ほんと、紅葉の頃なら綺麗なんだろうなぁ。
月見酒とか、もみじ酒とか、やってみたいけど。
風に当たりながら、ゆっくりと浸かる。
この国に生まれて、ほんとに良かったと思うよ。
「先に上がるぞ」
皆に言い置き、和人は風呂から出る。
浴衣を着込み、ロビーのソファーにゆっくりと腰を下ろす。
「ふぅ……」
ほっとひと息、て感じ。
まさか、こんな老舗に泊まれるなんて。
今でもちょっと信じられない。
持つべきは友、だねぇ。
「お湯加減、いかがでした? どうぞ?」
女将さんが、冷たい麦茶を持ってきて下さいましたよ。
「ありがとうございます。最高の湯加減でしたよ」
「それは何よりです。そういえば、大学で、愛はどんな様子です?」
女将さんの顔が、親戚のおばちゃんになってますが。
「ええ。いつもお世話になってますよ。……」
当たり障り無い返事を返していく。
余計な事言うと、姫から後で何言われるか……。
女将さんと雑談に興じていると、ひょこひょこと近寄ってくる人影が一つある。
「あれ、和くんだ」
風呂上がりの七海だ。
普段とは違い、黒髪をお団子にまとめているし、顔はまだほんのり赤い。
そして何より浴衣姿。
これはこれで艶か……いや、何でもない。
「失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
女将さんが仕事に戻っていく。
「何かあったの? あ、麦茶いいなぁ」
「別に何も? 残り、飲んでいいよ」
「ほんと? ありがと」
和人は七海に、残り半分となった麦茶を渡す。
「うーん。美味しい」
「風呂上りだからな」
ロビーから外に目をやると、中庭がライトアップされている。
「七海。ちょっと散歩しない?」
「散歩?」
「そそ。中庭だけ、だけど」
「いいよ。行こ?」
夕食の時間までは、まだ二十分ある。
ゆっくりと中庭を歩く。
吹き抜ける風が、風呂上りの体に心地よい。
「何度も言うけど、紅葉の時期なら、最高だよね?」
「ああ。でも、その頃じゃ、多分ここには泊まれないぞ?」
競争率も高いだろうし、何より予算的にアウト、だと思う。
「そうだよねぇ。もっと大人になったら、かな?」
「そうだな」
そんな大人に、なりたいものだ。
ロビー側の中庭は大して広くない。
すぐに、出てきた玄関が見えてくる。
「ね? ちょっといい?」
不意に七海が立ち止まる。
「何?」
七海は、一瞬迷いの表情を浮かべた後、口を開いた。
「一つだけ、言っとくね?」
その目は、和人の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「あの日の約束、私は忘れてないから」
あの日の、約束……?
予想もしてない言葉だった。
覚えてる? とか、疑問形で聞かれるとばかり、考えていた。
俺、今どんな顔してる?
驚いた顔、かな?
落ち着け!
努めて冷静に、笑顔を作った、つもりだった。
曖昧な笑み、になったかもしれない。
「さ、ご飯の時間だね? 行こう?」
その笑みを答えだと思ったのか。
七海は和人の袖を引くと、歩き出した。




