21 山、と言えば?
やはり渋滞も無く、スムーズに進んだ。
高速を出てから、ちょっと信号に引っかかるのが多かったけれども。
それでも、ほぼ予想通りの時刻に柊渓谷へ到着することが出来た。
整備された遊歩道を、皆でわいわいと歩いていく。
平日だけあって、観光客の数は少ない。
平地よりは標高が高く、木々の生い茂りや、渓谷を流れる川の水音と相まって、気温よりも涼しく感じる。
「森林浴って、感じよね?」
「うん。気持ちいい!」
女性陣はご満悦のようだ。
やっぱり、空気が違うよね。
紅葉の頃来たら、もっと綺麗なんだろうなぁ。
そんなことを考えながら歩いていくと、渓谷を渡る吊橋が見えてきた。
吊橋を渡って階段を上った先に、渓谷を見渡せる展望台があるという。
吊橋を揺らそうとする輩を押しつつ、前へと進んでいく。
「思ったよりキツくないか? この階段」
整地が甘いのか、対岸の遊歩道は反対側よりも粗く、階段もゴツゴツとしていた。
「滑るなよ? 頼むから」
前を歩く太一に、注意を促す。
「落ちたら潅木に引っかかるだろ?」
「そうかも。その時は、介錯してやるから、安心して落ちてけ」
「洒落にならないから、勘弁してくれ……」
「はいはい。だから、滑るなよ?」
女性陣から文句一つ出てないと言うのに。
まぁ、きっちりスニーカーを用意して来たみたいだけど。
「絶景かな。絶景かな」
展望台、と言っても、突き出た岩の突端に過ぎないんだけど。
おざなり程度に柵やベンチは整備されているけどね。
谷川を挟んで、山脈の山々が見える。
頂上の方は紅葉が始まっているのか、わずかに赤茶けた色が見える。
時期が時期なら、綺麗にグラデーションが見えるだろうな。
「山はいいよねぇ」
「うん。山はいいよねぇ」
ん? 誰だ?
こっそり名シーンを語った奴は?
「ね、写真撮ろうよ?」
沙紀の声で皆が集まる。
撮る人が入れ替わって、何回も撮る。
旅行ならでは、だね。
その後、風景を撮りながら谷川のせせらぎに耳を澄ませる。
大きくひとつ、深呼吸。
やっぱり、ゆっくり出来るよね。
普段は何かに追われるように、生活をしている気がする。
それは課題だったり、人間関係の些細な行き違いだったり。
普段のしがらみから開放されて、のんびり出来る。
たまには、こんな時間も必要かな。
年寄りくさい、とか言うなよ?
「和くん」
またもや、いつの間にか隣に来た七海の顔を見る。
「どうした?」
「えへへ。呼んだだけ」
本日二回目の、満面の笑み。
「なんだよ。それ……」
可愛いじゃないか。コンチクショウ。
「また、紅葉の時期にでも、来たいね?」
「そうだな」
思わず裏読みをしてしまいたくなる言葉だが。
こういう時間の共有も、悪くない。
また、皆で、来れればいいな。
「そろそろ行こうぜ?」
司の声に、皆が動き出す。
ゆっくりと遊歩道を戻り、車に乗り込む。
宿までは、三十分程かかるという。
「なぁ、泊まるとこ、どんな宿なんだ?」
宿泊場所を決めたのは、愛さんだ。
「ん? まぁ、楽しみにしてなって」
「そう言われてもなぁ……」
気になるじゃない?
まぁ、愛さんならセンスの良い宿を選びそうだけど。
「期待は裏切らないよ。大丈夫!」
自信満々のドヤ顔で言われましたよ。
ちらっと運転席の司を見るが、特に変化は無い。
おそらく慣れない道路に集中してるんだろう。
ま、あまり詮索してもツマラナイ、か。
どんな宿なのだろうか。
これも、旅の楽しみ、ってね。




