20 旅行だよ! 全員集合!
相変わらずの残暑の日々が続く。
本日も快晴なり、てか?
和人が集合場所の正門前に着いた時には、何人かの顔ぶれが揃っていた。
「ウッチー、遅ーい」
「悪い悪い、て、まだ時間前だろ?」
相変わらずラフなスタイルで元気を発する井上沙紀の言葉に軽く応じつつ、輪の中に入っていく。
ちなみに、井上はTシャツにショートパンツというスタイルに、ちょこっとキャップを被っている。
いや、何着ても似合うな、こ奴は。
そんな井上の隣から、パフスリーブのカットソーに、パンツスタイルの姫、いや、愛さんが手を振り挨拶をくれる。
トレードマークの赤い眼鏡は健在だ。
「オッス。お二人さん」
和人は、気持ち離れて佇む後輩二人に声を掛ける。
「内田先輩、お久しぶりです」
タイ付きブラウスに、スカート姿の寺岡詩織が、元気に挨拶を返してくれる一方で、淡い花柄のワンピースにドレープベストを羽織った水沢七海は、満面の笑みを浮かべただけだった。
いつもは後ろでまとめる髪を、今日はサイドテール気味に流している。
所在無さ気に佇む谷島太一をスルー……しようとしたら、悲しい表情をしたので雑談に励む。
まぁ、気持ちは分からんでもないが、な。
「メグ来たね。おーい」
沙紀の元気な声に振り返る。
「お待たせー」
あれ?
やってきた柳恵美は、普段のラフなスタイルではなく、フリルトップスにジレを重ね、フレアスカートというスタイルだった。
自慢の黒髪はシュシュでまとめている。
女の子ぽくまとめてるの、久しぶりに見た。
いや、マジで。
やっぱり、印象変わるもんだね。
定刻ジャストに、二台の車がやってきた。
鈴木司の愛車のSUVと、寺岡宏のミニバン車だ。
「揃ってるな!」
二人は車から降りると、それぞれのトランクルームのドアを開ける。
「荷物は後ろに積んでくれ。投げるなよ?」
いや、さすがに普通、投げないだろ?
そんなこんなで荷物を積み込み、車に分乗する。
振り分けは、司の車に司、愛、和人、恵美。
宏の車に宏、太一、沙紀、詩織、七海となった。
なんでも、井上が後輩二人をイジりたい、とか。
ご愁傷様、お二人さん……。
「さ、行くか!」
おかげで、こっちの車はいつもの面子だ。
ま、気兼ねしなくていいんだけども。
「で、どこへ行くんだ?」
「あれ、内田君に言ってなかったっけ?」
愛が助手席から振り返る。
「柊渓谷よ。紅葉ってわけにはいかないけれど、避暑にはぴったりじゃない?」
二県隣にある柊渓谷。
名前の通り、柊の葉の様に、入り組んだ地形が特徴だ。
高速使って、三時間強、てとこか。
「ま、ゆっくり行こうや」
ハンドルを握る司はそういうと、ちょっと手元を操作した。
流れている曲が変わる。
「あれ? これ、ジャズ?」
伸びのあるサックスの音。心地いいリズム。
司にしては、意外なセレクトだな。
心地いいサウンドに身を任せているうち、いつしか和人は眠っていた。
「ウッチー、起きて」
「う……ん」
体を揺さぶられ、目が覚める。
隣から恵美が覗き込んでくる。
「ん……今、何時?」
「お昼過ぎよ? ぐっすり寝すぎ」
「うん。爆睡してたな」
うーん、と大きく伸びをする。
「んじゃ、次のサービスエリアでお昼にしようぜ? 向こうにメールしといてくれない?」
司がバックミラー越しにこちらを見て言う。
「誰が?」
「寝てた人」
はいはい。送ればいいんでしょ。
「そんなに眠い? 寝不足?」
恵美がまた覗き込んでくる。
「いや? そんな事ないぞ?」
昨日もきっちり寝たし。
「あれだな。悩みだな」
「そうだね。悩みだね」
前の座席から茶々が飛んでくる。
く……司だけじゃなく、姫までも。
「勝手に決めるなっつーに……」
文句を言いながらも、ケータイを取り出し太一にメールを送る。
サービスエリアで、思い思いに食事を取る。
和人は黒豚カツカレーを頼み、太一が豚カツ定食を、七海が肉うどんを注文していた。
あれ? 井上の奴、外で大きい肉まん食べてる。
あんなの売ってたんだ?
食べ終わると、ついつい見てしまうお土産物色タイム。
向こういったら、家にくらい何か買うかな。
こういうのは、見てるだけでも楽しくなるね。
旅行って気がしてくる。
「和くん、こんなのあるよ?」
いつのまにか隣に来ていた七海が指したのは、ご当地マスコットキャラのストラップだ。
こういうのって、キワ物多いよな。
どういうターゲット、狙ってんだろう?
不思議でならない……。
ちょっと飲み物やおやつを買い足し、出発となる。
調子よく行けば、三時過ぎには現地に着くと思われる。
「ま、世間は平日だしな。こっから先も、混む事はないだろう」
出発前にドライバーの二人が、そう言っていた。
ま、平日に混んでるようなら、一大観光地だよな。
「そういえばさ……」
風景を眺めていた和人に、隣から声が掛かる。
「何?」
「谷島君や寺岡君に、話したの? 七海ちゃんのこと」
「あ……」
やべ。言ってない。
「言ってないの?」
「あ、はは。忘れてた……」
「おいおい。さすがに怒るんじゃないか?」
司が前から口を挟む。
うーん。どうだろう……。
「でも、さっきは何も言ってこなかったぜ?」
サービスエリアで食事をしている時も、別段変わった様子は見受けられなかった。
「沙紀がいるのに、バレてない、て事は無いと思うけど」
あのお嬢さんが、口にしないワケがない。
それは、全会一致なのね。
「もしかしたら、七海から妹さん経由で伝わってるかもしれない。前に、妹さんにまだ言ってないって、言ってたし」
「それ、いつの話?」
「お盆の頃」
「じゃ、案外そうなのかもね? でも、内田君らしくないねぇ」
愛が振り返る。
「何事にも、用意周到なキミなのに。やっぱり、彼女は特別な存在なのかな?」
もう目が笑ってるんですけど? お姫様?
「そんなつもりは無いけどね。特別といえば、皆特別だよ? あ、司は除くけど」
「さらりと酷いな……」
ぼそっと呟くのが聞こえた。
ま、ジョークだって分かってるだろうけど。
「あれ? 上手く誤魔化されたかな? まぁいいけど」
愛は再び前を向く。
「何にせよ、何がしかのアクションは覚悟しておくのね? 沙紀の事、向こうで何を仕込んでるか分からないから」
「最悪、フォローは任せますよ? 柳さん?」
「誰の?」
悪戯っぽく微笑む恵美。
あー、もう。
「言わなくても分かるだろうに。任せたよ?」
「仕方ないなぁ。昔の誼で、ね?」
なんか、日頃イジってる仕返しされそうな感じ?
勘弁してほしいなぁ。




