表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/54

13 回想 横顔

 あの日以来、一日一日が早く過ぎていく気がする。

 家に帰っても、予習復習も出来ず寝ちゃう事もしばしばで。

 それでも、充足感でいっぱいだった。

 昼休みでも、時間を惜しんで資料をまとめる日々が続いた。

 友達から慰められることもあるけれど。

 内田君や白石先輩と作業するのは、楽しいし。

 何より、クラスメイトの彼の仕事捌きが素晴らしかった。

 白石先輩は、後から聞けば、二年生で五本の指に入る成績の持ち主みたいで、単純な資料の処理は早く、やり取りの記録は完璧だった。

 それらの資料を基に、内田君が仕事を割り振っていく。

 それは当に、的確の一言だった。


 おかげで、思ったより早く、生徒会に資料を上げる事が出来た。


「さすが白石君。君を選んで正解だった」

 生徒会室で応じてくれたのは、阿部先輩だった。

「いえいえ。内田君たちが頑張ってくれたおかげです」

「そうかもしれんな。しかし、かなりの誤差があるな」

 そう、私達が思う以上に、備品の数に誤差があったのだ。

 単純に数字を修正するだけじゃ済まないと判断し、新しく作り直し、誤差だけをまとめた一覧表まで作って置いた。

「さっそく生徒会から上げるが、おそらく数は戻せないだろう。新しい表の方で行こう。生徒会で使用する備品については近日中に上げるから、よろしく頼む」

 うん。やっぱこの先輩も切れ者だ。

「阿部先輩。今年新たに購入する備品については、どうなってます?」

「まだ各出し物の企画書が出揃ってない。あれが揃わないと判断出来ないんでな」

「そうですか。では既存の備品だけで構いません。今回から、管理部の誰かが立会いの下で貸し出す形にしたいのですが?」

 出し入れ部分を管理するだけでも、数の誤差は減るだろう。

 合間に三人で話し合って出した結論だった。

「いいだろう。やり方は任せるよ。新規備品に関しては、数と使用先はまとめておく。文化祭が終了したあとは、管理部の元へ収納となるから、それもよろしく頼む」

「分かりました」

 これで、前哨戦は終わりとなる。

 後は、準備期間から当日までの、道具を実際に使う期間が本番でもある。


「ね、ちょっとお茶でも飲んでかない?」

 帰り際、言い出したのは白石先輩だった。

「いいですよ? 内田君は?」

「そうですね。お供しますよ?」

 二人が応じると、白石先輩は嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ。行きましょうか?」



「二人とも、本当にありがとう。私だけじゃ、こんなに上手く回らなかったと思うわ」

「いえいえ。そんな事無いですよ」

 さすがに先輩に面と向かって言われると、照れるなぁ。

「ううん? そんなことないよ。でも、本当に助かった。特に、内田君にはフォローされっぱなしよ」

「柳さんが数字まとめてくれてたんで。他考える時間が出来たんですよ」

 うわぁ、穴があったら入りたい、とは当にこの事!

「ふふ。そういえば、内田君、皆から何て呼ばれてるの?」

「俺ですか? 友達は、ウッチー、とか呼びますけど?」

「んじゃ、これからそう呼ぶことにするわ」

「はは、好きに呼んでください」

 和人も満更でもなさそうだった。

「じゃ、私もそう呼ぼ。代わりに、私は呼び捨てでいいよ?」

「ん? その方が気楽でいいか、な」

 ちょっとはにかんだ笑顔。

 結構いいかも。

 ここからは雑談タイムとなる。

 白石先輩の話は、為になる経験談が多かったなぁ。

 


 小一時間ほど談笑したところで、お開きになる。

 白石先輩は自転車で帰り、恵美は和人と共に駅へと向かう。

「ウッチー、聞いてもいい?」

「ん? 何?」

「私と組むの、嫌だった?」

 恵美の言葉に、和人は驚いたように目を見開いた。

「え? あ、いや、そんな事は全く無いんだが……俺、柳に何かした?」

 逆に聞かれる。

「いやさ、最初先生に、自分たちを選んだ理由、問いただしてたじゃない?」

「あー……。それね?」

 仕事をしてる間も、ちょっとだけ気になっていた。

 本当に、ちょっとだけだよ?


「別段、深い意味はないんだけど……自分の都合で、歯切れ悪い言葉で誤魔化して、都合のいい解釈を押し付けて、理不尽なものを受け入れろ、と強いる。そんな大人が、嫌いなだけだよ」


 それは、感情の無い、淡々とした言葉だった。

 そしてそんな言葉を吐いた彼の横顔が、とても怖かった事を、はっきりと覚えている。

 奥歯にずっと、何かを噛み締めてる様な。

 その目は、何かをずっと睨んでる様な。

 その横顔を見ているだけで、背筋が凍るような感覚に襲われた。

 その背後の夕焼けが綺麗だったから、余計にそう見えたのかもしれないけど。

 簡単には触れていけないような部分に、軽率に触れてしまったような後悔。

 それが率直な感想だった。


「ま、思ったよりも、楽しめてるからいいけど?」

 ふっと、表情が和らぐのが分かった。

 いつもの彼の、横顔だった。

「う、うん。そうだね?」

 ちょっと動揺した声になってしまい、ハッとする。

「ん? どした?」

 彼がこちらを振り返る。

「な、何でもない! でも、ウッチーの頭の中って、どうなってんの? 成績そこそこなのに」

「ひでーな。成績は余計だろ? ま、シンプルな話、優先順位、だよ?」

 努めて冷静に。何を成し得るのかを考える。

 必要な結果を導くには、何が必要なのか。

 順位を決め、必要なピースを嵌めてくだけ、と。

「簡単に言ってくれるね? 普通、出来ないよ?」

「あはは。まぁいいんじゃない? 俺は先輩や柳ほど、事務作業は得意じゃないし。適材適所って、そういう事だろ?」

「そうかもね。あ、人手どうする?」

 最初に先輩が一人抜けてしまったけど、結局そのままやりきっていた。

 だが、本番では各所に立会いもいるし、生徒会とのやり取りも増えるかもしれない。

 もともと最低限の人数で割り振られているから、他からの増援なんて望めない。

「仕方ない。司に声、かけるよ」

「司君? 動いてくれるかなぁ?」

「動いてくれる、じゃなくて、動いてもらう、さ。必要なピースだからな」

 和人がニヤリと笑う。

 うーん。中身は聞かない方が良さそうだね。

「んじゃ、任せるよ。また来週ね?」

「あぁ。またな?」

 駅で和人と別れる。


 あの一瞬の表情、何だったんだろう……。

 そして、大人びたとも言える、冷静な物事の処理。

 普段から落ち着いた人、だと思ってたけども。

 どんな過去を過ごしてきたんだろう。

 ふと、そんな事が気になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング参加中です。クリックを→  小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ