3-4-20 仲間だろ
最後の曲が終わっても、箱の中の熱はすぐには引かなかった。
スピーカーから音が消えたあとも、低音だけが床に残っているようだった。
拍手。
歓声。
足音。
名前を呼ぶ声。
笑い声。
息を切らした声。
全部が、低い天井の下で跳ねていた。
リバクラ三人は並んで頭を下げた。
mcRCの肩が上下している。
wataは汗を拭きながら、まだ笑っている。
EGUIは少し息を整えながら、客席をまっすぐ見ている。
BEEFはDJブースの奥で、片手だけ上げた。
それだけだった。
マイクは持たない。
前にも出ない。
言葉にもならない。
それでも客席は、ちゃんと拾った。
「BEEF!」
「やりやがったな!」
「最高だったぞ!」
「赤い耳!」
「まだ赤い!」
BEEFは、最後の言葉にだけ明らかに反応した。
顔は動かさなかった。
でも、フェーダーに置いていた指が少しだけ強くなった。
短いスクラッチ。
キュッ、と箱の端を切るような音。
客席がまた笑った。
「返事した!」
「怒ってる!」
「照れてる!」
「音で文句言うな!」
wataがマイクを持ち直した。
言いかけた。
可愛いかよ。
その口の形まで、mcRCは見えていた。
mcRCが横から、視線だけで止める。
EGUIも、静かに首を横へ振る。
wataは、口元だけで笑った。
飲み込んだ。
そして、客席に向き直った。
「今日は、マジでありがとう!」
歓声が返る。
「ありがとう!」
「最高!」
「また来る!」
「リバクラ逃げんなよ!」
wataが笑う。
「逃げねえよ!」
EGUIが低く続ける。
「ちゃんと帰れよ。足元、気ぃつけろ」
客席から笑いが起きた。
「急に保護者!」
「EGUIが現実に戻した!」
「帰るまでライブ!」
mcRCがマイクを上げる。
「今日ここにいた全員、ちゃんと見えてた。声も、手も、笑いも、息を飲んだ顔も。全部、今日のライブの一部でした」
少し間。
「横に来てくれて、ありがとう」
その言葉で、客席の熱が少しだけ柔らかくなった。
叫びよりも、拍手が増えた。
派手な終わりではなかった。
でも、いい終わり方だった。
新川さんが後方でスタッフに合図を出す。
照明が少し明るくなる。
終演アナウンスが入り、出口へ向かう導線がゆっくり動き始めた。
リバクラ三人は、すぐには舞台袖へ引っ込まなかった。
客席が落ち着くまで、ステージに残った。
手を振る。
声を返す。
深く頭を下げる。
前列の顔を見る。
後ろの方まで目を向ける。
ライブは、音が止まったら終わりではない。
客が無事に帰るところまで、場を荒らさない。
それは、三人が前の荒れた夜から学んだことでもあった。
客席の出口付近では、会話が止まらなかった。
「NO EASY PEACE、痛かったな」
「痛かった。でも変に重すぎなかった」
「That’s Liveで一気に持ってかれた」
「ていうか、あれ本当に今やってたの?」
「分からん。分からんけど、今この場のこと歌ってたのは確実」
「スポドリまで拾ってたし」
「また今回もスポドリ拾ったああ、は笑った」
「スポドリ、リバクラの準レギュラーになってる」
「BEEFの赤い耳も準レギュラーだろ」
「それは本人が嫌がる」
「だからいいんだよ」
BEEF勢とリバクルーが、自然に同じ輪の中で話していた。
最初は別々の空気をまとっていた。
BEEF勢はBEEFを見に来た。
リバクルーはリバクラを見に来た。
初見客は、噂を確かめに来た。
でも、終わった後は少し混ざっていた。
「あのThat’s Liveって、毎回あるの?」
BEEF勢の一人が聞いた。
リバクルーが首を横に振る。
「毎回は無理」
「じゃあ今日レア?」
「レアどころじゃない」
「マジか」
「前の神回もやばかったけど、今日はBEEFが仕掛けて始まったから、意味が違う」
「BEEFが仕掛けたのに、リバクラが曲にした?」
「そう」
「で、BEEFも客席の声を刻んだ?」
「そう」
BEEF勢は少し黙った。
それから、笑った。
「なんだよそれ」
「意味分からんだろ」
「分からん。でも、すげえのは分かった」
「それでいい」
別の場所では、初見の客がスマホを握りしめていた。
「リバクラって、こういう感じなの?」
近くのリバクルーが答える。
「いつもこうではない」
「じゃあ今日だけ?」
「今日だけ。でも、リバクラっぽい」
「なにそれ」
「説明が難しい。今日見たやつが一番近い」
初見客は少し笑った。
「次も来るわ」
「来た方がいい」
「BEEFも出る?」
「それは分からん」
「分からんのかい」
「分からんから見に来るんだよ」
その答えに、初見客は少しだけ納得した顔をした。
分からない。
でも、見たい。
それは、今日この箱に残った感情そのものだった。
Kateは、壁際でスマホを見ていた。
メモアプリは開いている。
開いているのに、ほとんど書けていない。
書いてあるのは、たった数行だった。
「BEEF、音で返す」
「That’s Live、客席が巻き込まれる」
「見るつもりが、声出た」
「これは分析だけでは足りない」
Kateはその四行を見て、笑った。
分析できる子として来たつもりだった。
でも、分析する前に食らった。
それが少し悔しくて、少し嬉しかった。
隣にMiwaが来た。
まだ頬が少し赤い。
「メモ取れた?」
Kateはスマホを見せた。
Miwaが覗き込む。
「少な」
「無理だった」
「わかる。私も途中から客席見てるのか、自分が客席なのか分かんなかった」
Kateは頷いた。
「でも、それでいいのかも」
「うん」
二人はステージの方を見た。
リバクラ三人は、まだ客席に手を振っている。
BEEFは機材を片づけ始めている。
いつものように平気な顔をしている。
しているつもりだ。
その姿を見て、Miwaが小さく笑った。
「BEEF、今日ずっと音で文句言ってたね」
Kateも笑った。
「でも、ずっと見てた」
「うん。すごかった」
二人の声は、冷静なスタッフのものではなかった。
ファンの声だった。
好きだから来ている。
好きだから手伝いたい。
その順番を、今日のライブが思い出させてくれた。
舞台袖に戻ると、空気が一気に変わった。
客席の熱はまだ聞こえる。
でも、ここには別の音がある。
ケーブルを巻く音。
機材ケースを閉じる音。
スタッフが確認する声。
ペットボトルのキャップが開く音。
誰かが深く息を吐く音。
wataは壁に背中を預けた。
「やばかった」
mcRCは水を飲んで、短く返す。
「やばかった」
EGUIはタオルで汗を拭きながら言った。
「成立した」
wataが笑う。
「EGUIの“成立した”、だいぶ褒めてるやつ」
EGUIは否定しなかった。
「かなり」
wataは嬉しそうに笑ったあと、DJブース側を見た。
BEEFが機材を片づけている。
近づきたい。
いじりたい。
赤い耳の話をしたい。
でも、今やるとたぶん逃げる。
wataは一度、口を閉じた。
mcRCがその様子を見て、小さく笑った。
「成長してる」
wataが眉を上げる。
「俺が?」
「今、言わなかった」
「俺えらい」
EGUIが真顔で言う。
「かなりえらい」
wataが胸を張る。
「もっと褒めて」
EGUIは水を飲む。
「調子に乗るから終わり」
「急に打ち切るやん」
そこへBEEFが、ケースを持って近づいてきた。
三人の会話が少し止まる。
BEEFは少しだけ嫌そうな顔をした。
「何だよ」
wataがすぐに返す。
「何も言ってないっす」
「言いそうだった顔してた」
mcRCが吹き出しかける。
EGUIが淡々と言う。
「観察力、上がってるな」
BEEFが睨む。
「うるせえ」
wataは耐えきれず、少しだけ笑った。
「今日、ありがとうございました」
BEEFは顔を逸らした。
「別に」
mcRCが言う。
「That’s Live、あれ、完全に仕掛けましたよね」
BEEFは少し黙る。
それから、短く言った。
「知らねえ」
wataが笑う。
「知らねえは無理あります」
「無理でも知らねえ」
EGUIが静かに言う。
「三人、一瞬止まったぞ」
BEEFは少しだけ口元を動かした。
「見えた」
wataが前のめりになる。
「見てたんじゃないっすか」
「見てねえ」
mcRCがすぐ返す。
「見てない顔で見てました」
BEEFはmcRCを見る。
「お前、そういう言い方するな」
wataが小さく言う。
「こっち見ずに煽るとか、性格わりぃぞ」
BEEFは即座に返す。
「歌詞で言っただろ」
「今も思ってます」
「殺すぞ」
EGUIが静かに言った。
「久しぶりに出たな」
mcRCが頷く。
「殺すぞカウント、再開」
BEEFが二人を見る。
「数えるな」
wataは笑いをこらえた。
今日は、少し違った。
前なら、この会話はすぐ棘になった。
今も棘はある。
でも、刺しっぱなしではない。
ちゃんと返ってくる。
ちゃんと受けられる。
それが分かるだけで、空気が違った。
新川さんが、少し離れたところから近づいてきた。
「お疲れさまでした」
三人とBEEFが、それぞれ頭を下げる。
新川さんは、ステージ側と客席側を一度見てから言った。
「今日のThat’s Liveの入りは、正直、少し肝が冷えました」
wataが小さく笑う。
「俺らもです」
mcRCが頷く。
「一瞬、止まりました」
EGUIが言う。
「でも、客席は止まりきらなかった」
新川さんは頷いた。
「そこが良かったです。怖さで止まったのではなく、何が起きるかを見ようとして止まった」
BEEFは黙っている。
新川さんはBEEFを見た。
「BEEFさんの仕掛けも、前回とは違いました」
BEEFは少しだけ眉を寄せる。
「仕掛けてません」
wataが小声で言う。
「無理あるなぁ」
BEEFが見る。
「聞こえてる」
wataは視線を逸らす。
新川さんは、少しだけ笑った。
「仕掛けたかどうかは置いておきます。ただ、今日の音は相手を見ていました」
BEEFは黙る。
その言葉には、すぐ返せなかった。
相手を見ていた。
認めたくはない。
でも、今日の自分は見ていた。
三人の呼吸。
客席の熱。
wataの笑い。
mcRCの目線。
EGUIの声の置き方。
見てから切った。
見てから戻した。
見てから試した。
BEEFは、短く息を吐いた。
「……音がそうなっただけだ」
新川さんは頷いた。
「それで十分です」
mcRCは、その言葉を聞いて少しだけ目を伏せた。
音がそうなっただけ。
BEEFらしい言い方だった。
でも、たぶんそれが一番正直だった。
wataが、そっと言う。
「こっちは、ちゃんと受けましたよ」
BEEFはwataを見る。
「受け切れてたか?」
wataの目が少し鋭くなる。
「受け切りました」
BEEFは、ほんの少しだけ口元を動かした。
「まあ、落としてはなかった」
wataが固まる。
mcRCも止まる。
EGUIが目を細める。
wataがゆっくり聞いた。
「それ、褒めてます?」
BEEFは即答する。
「褒めてねえ」
EGUIが静かに言う。
「褒めてる」
mcRCも頷く。
「かなり」
BEEFが嫌そうな顔をした。
「お前ら、すぐ受け取るな」
wataが嬉しそうに笑う。
「受け取ります」
「受け取るな」
「もう受け取りました」
「返せ」
「返品不可です」
mcRCが吹いた。
EGUIも小さく笑った。
BEEFは心底面倒くさそうに顔を逸らした。
でも、帰らなかった。
そこが前と違った。
面倒なら、逃げればいい。
なのに、まだそこにいる。
三人も、それを分かっていた。
だから、追いすぎなかった。
客席の方から、また歓声が聞こえた。
誰かが出口付近で叫んでいる。
「BEEF最高だったぞ!」
別の声が続く。
「リバクラ逃げんなよ!」
また別の声。
「That’s Live、またやれ!」
リバクルーがすぐ返す。
「毎回は無理だって!」
笑いが起きる。
BEEFはその声を聞いて、少しだけ呆れたように言った。
「あいつら、元気だな」
wataが言う。
「今日の客、めっちゃ良かったっすね」
mcRCが頷く。
「ちゃんと返してくれた」
EGUIも言う。
「置いていかれなかった」
BEEFは少しだけ黙った。
それから、低く言った。
「お前らが置いてかなかったからだろ」
三人が止まった。
BEEFはすぐに顔をしかめる。
「何だよ」
wataがゆっくり言う。
「今のは、褒めましたよね」
「褒めてねえ」
mcRCが笑う。
「いや、今のは無理です」
EGUIが頷く。
「完全に褒めてる」
BEEFがケースを持ち直す。
「うるせえ。撤収しろ」
wataが笑った。
「照れ隠しで撤収指示出した」
「違う」
mcRCが言う。
「でも撤収はします」
EGUIも頷く。
「客が出切るまで、邪魔にならないようにな」
新川さんが、そのやり取りを見ていた。
前より近い。
でも、まだ近づききってはいない。
ちょうどいい距離を、まだ探っている。
そう見えた。
けれど、その時だった。
wataが、BEEFを見たまま、不意に言った。
「なあ、BEEF」
一瞬。
空気が止まった。
BEEFがゆっくり振り返る。
「……何だよ」
呼び方が変わっていた。
BEEFさん。
ではない。
BEEF。
さんが、取れた。
wataは、少し照れたように笑った。
「いや、もうよくない?」
BEEFの眉間にしわが寄る。
「何が」
mcRCもBEEFを見る。
「俺も、それでいいと思う」
BEEFの目がmcRCへ移る。
「何が」
EGUIが静かに言った。
「敬語と、さん付け」
BEEFは、明らかに嫌そうな顔をした。
「なんだよ急に馴れ馴れしいな」
wataが笑う。
「急じゃないだろ」
BEEFが即座に返す。
「急だろ」
mcRCが言う。
「ライブ三本分かかってる」
EGUIも頷く。
「かなり段階踏んだ」
BEEFは三人を見た。
「お前らの段階、雑なんだよ」
wataが言う。
「雑じゃない。ライブで確認した」
「何を」
mcRCが少し真面目な顔になった。
「分かり合えるかどうか」
BEEFは黙った。
mcRCは続ける。
「もちろん、これで全部分かったとかじゃない」
EGUIが言う。
「BEEFのことを全部知ったわけでもない」
wataが言う。
「俺らのことを全部分かってもらったわけでもない」
三人の声は、さっきまでより少し低かった。
笑いが消えたわけではない。
でも、芯のある声だった。
mcRCが一歩だけ近づく。
「でも、今日分かっただろ」
BEEFは返さない。
wataが続ける。
「音と言葉で、分かり合える」
EGUIがまっすぐ見る。
「ぶつかっても、返せる」
mcRCが言う。
「見て、聞いて、返せる」
wataが少し笑った。
「つまり、俺らは分かり合える」
BEEFは、ケースを持ったまま、目だけを逸らした。
「……勝手にまとめんな」
mcRCは笑わなかった。
「まとめてない」
EGUIも言う。
「結論じゃない」
wataが言う。
「入口」
BEEFの指が、ケースの取っ手を握り直す。
「面倒くせえ入口だな」
wataは、そこで笑った。
「BEEFっぽいだろ」
BEEFが睨む。
「呼び捨てにすんな」
wataがすぐ言う。
「もうした」
「戻せ」
「返品不可です」
mcRCが吹き出した。
EGUIが静かに言う。
「呼び方も受け取った」
BEEFがEGUIを見る。
「お前もか」
EGUIは頷く。
「BEEF」
その一言で、wataが机に手をついて笑った。
「EGUIが言うと重い!」
mcRCも笑う。
「正式採用みたいになった」
BEEFは心底嫌そうな顔をした。
「採用すんな」
mcRCが、少しだけ柔らかい声で言った。
「でもさ、BEEF」
BEEFは、もうそこで何も言わなかった。
呼び捨てを止めるタイミングを逃した。
mcRCは続ける。
「仲間だろ?」
その言葉が、舞台袖に落ちた。
客席の声が遠く聞こえる。
スタッフがケーブルを巻く音。
新川さんが少し離れたところで誰かに指示を出す声。
機材ケースの金具が鳴る音。
その全部の中で、BEEFだけが黙った。
wataも、EGUIも、何も足さなかった。
ここで茶化すと、逃げる。
ここで押しすぎると、壊れる。
だから待った。
BEEFは、しばらく黙っていた。
いつものように、
違う。
勝手にすんな。
調子に乗るな。
仲間とか言うな。
そう返すことはできた。
できたはずだった。
でも、言えなかった。
NO EASY PEACE。
That’s Live。
悪かったよ。
やりやがったな。
客席の声。
三人が止まって、受けて、返した瞬間。
全部が、まだ身体に残っている。
BEEFは、低く息を吐いた。
「……好きにしろ」
wataの目が光った。
「それ、肯定やん」
BEEFがすぐ睨む。
「違う」
EGUIが静かに言う。
「否定ではない」
BEEFがEGUIを見る。
「お前、そういう逃げ道を塞ぐな」
mcRCが笑う。
「仲間ってことで」
「決めんな」
wataが言う。
「でも否定してない」
「うるせえ」
EGUIが頷く。
「否定してない」
BEEFは顔を逸らした。
「……勝手にしろ」
その瞬間だった。
少し離れたところで見ていたKateが、ほとんど息みたいな声で漏らした。
「……かわいい」
全員が振り向いた。
Kateは、言った瞬間に固まっていた。
隣のMiwaが、目を見開いてKateを見ている。
wataの口が開いた。
mcRCも目を丸くした。
EGUIですら、少しだけ目を細めた。
BEEFの耳が、さらに赤くなっていた。
仲間だろ、と言われて。
否定できなくて。
勝手にしろ、と受け入れて。
そのうえで、耳だけが正直に反応していた。
Kateは、それを見てしまったのだ。
BEEFがゆっくりKateを見る。
「……何て?」
Kateの顔から血の気が引いた。
「い、いえ」
Miwaが小声で言う。
「Kate、今のは」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
wataが、両手で口を押さえた。
肩が震えている。
「とられたわ……」
mcRCが腹を押さえる。
「ずっと我慢してたのに」
EGUIが静かに言う。
「先にKateに取られたな」
wataがBEEFを指さしそうになって、必死にこらえる。
「BEEF、今の聞いた?」
BEEFが低い声で言う。
「聞いてねえ」
mcRCが笑う。
「いや、めっちゃ反応した」
EGUIが頷く。
「耳が」
BEEFが即座に言う。
「言うな」
wataが両手で口を押さえ直す。
「言うなって言われると……」
BEEFが睨む。
「言うな」
wataは、喉の奥で変な音を出した。
「くっ……」
mcRCが横で笑いをこらえて肩を震わせる。
EGUIも、珍しく口元を押さえている。
Kateは完全に固まっていた。
「す、すみません。本当に、すみません」
BEEFは少しだけ目を逸らした。
「……別に」
wataが小声で言う。
「受け入れた」
BEEFが見る。
「おい」
mcRCが言う。
「仲間になった途端、Kateにかわいい取られるBEEF」
BEEFが一歩詰める。
「お前も言ったな」
mcRCが即座に後ろへ下がる。
「俺は引用しただけ」
EGUIが静かに言う。
「引用でも発話だ」
mcRCがEGUIを見る。
「裏切るな」
wataが笑いすぎて壁に手をつく。
Miwaも、とうとう我慢できずに笑った。
「ごめん、でも、今のは無理」
Kateが小さく頭を下げる。
「本当にすみません」
BEEFは、しばらく何か言いたそうにしていた。
怒ることもできた。
逃げることもできた。
いつものように、殺すぞと言うこともできた。
でも、そのどれも少し違った。
Kateは悪意で言っていない。
茶化したというより、漏れた。
そのくらい、今日のBEEFは不器用で、赤くて、でも逃げなかった。
BEEFは、ケースを持ち直した。
「……飯行くんだろ」
wataが顔を上げる。
「行く」
mcRCも頷く。
「行く」
EGUIが言う。
「行こう」
KateとMiwaは、まだ少し固まっている。
BEEFが二人を見た。
「お前らも来んのか」
Kateがびくっとした。
「え、いいんですか」
BEEFは目を逸らす。
「知らねえ。こいつらに聞け」
wataが笑う。
「来たらいいやん」
mcRCも言う。
「今日の話、聞きたいし」
EGUIが頷く。
「客席からどう見えたか、知りたい」
Miwaが嬉しそうに笑った。
「行きたい」
KateはまだBEEFを見られない。
「私、さっきの発言を撤回してからなら」
BEEFが言う。
「撤回しろ」
Kateが真顔で言う。
「撤回します」
wataが小声で言う。
「でも記録には残った」
BEEFが振り返る。
「お前、マジで」
wataはすぐ両手を上げた。
「すみません、仲間初日なので許して」
BEEFは固まった。
仲間初日。
その言葉が、変に残った。
mcRCが笑う。
「仲間初日、飯行こう」
EGUIが言う。
「初日は大事だ」
BEEFは、少しだけ嫌そうな顔をした。
でも、否定しなかった。
「……勝手にしろ」
その言葉を、今度は誰も茶化さなかった。
wataも、mcRCも、EGUIも。
KateもMiwaも。
ただ、少しだけ笑った。
それは、BEEFなりの「いい」だった。
新川さんが少し離れたところで、その様子を見ていた。
口を挟まなかった。
言葉にするには、少しもったいない場面だった。
さっきまで、ステージで火花を散らしていた四人が、今は飯の話をしている。
呼び方が変わっている。
敬語が消えている。
BEEFは否定しない。
耳は赤い。
それで十分だった。
撤収がひと段落したあと、外へ出ると夜風が少し冷たかった。
さっきまでの低音が、まだ身体の内側に残っている。
wataが伸びをしながら言った。
「で、何食う?」
mcRCが即答した。
「そんなん決まってるやん」
wataも同時に言う。
「ラーメン」
EGUIが頷く。
「ラーメンだな」
BEEFが三人を見る。
「お前ら、まだそんなジャンクなの食べてんのか。ササミを食え」
三人が一瞬、固まった。
それからwataが言った。
「……今日はええやん」
mcRCも頷く。
「疲れたらエネルギーがいるねん」
EGUIが静かに言う。
「ライブ後は補給が必要だ」
BEEFは呆れた顔をする。
「補給でラーメン選ぶな」
wataが胸を張った。
「リバクラーメンやから」
BEEFが眉を寄せる。
「何だそれ」
mcRCがすぐ乗る。
「リバクラーメン」
EGUIが続ける。
「リバクライスも追加で」
BEEFが足を止めた。
「米も食うのか」
wataが当然のように言う。
「リバクライブの後ですもんね」
mcRCが笑う。
「出た。相変わらずの柔軟性」
EGUIが真顔で言う。
「リバクライブ後のリバクラーメン、リバクライス付き」
BEEFが頭を抱えた。
「お前ら、言葉を増やすな」
wataが言う。
「仲間初日記念セット」
BEEFが睨む。
「やめろ」
Kateが後ろで小さく笑った。
Miwaも笑っている。
BEEFが振り返る。
「笑うな」
Miwaがすぐ言う。
「すみません。でも、リバクラーメンはちょっと」
Kateが小声で言う。
「リバクライスも」
BEEFは空を見た。
「帰っていいか」
mcRCがすぐ返す。
「だめ」
wataも言う。
「仲間初日やぞ」
EGUIが頷く。
「初日は大事だ」
BEEFは深いため息をついた。
「ササミは」
wataが言う。
「明日」
mcRCも言う。
「明日食う」
EGUIが続ける。
「今日はラーメン」
BEEFは、しばらく三人を見ていた。
それから、諦めたように歩き出した。
「……一杯だけな」
wataが笑う。
「来るんやん」
「腹減っただけだ」
「はいはい」
「はいは一回」
mcRCが吹いた。
「急に先輩みたいなこと言う」
EGUIが真顔で言う。
「BEEF、ラーメン屋でササミトッピング探しそう」
BEEFがEGUIを見る。
「お前、今日よく喋るな」
EGUIは少しだけ口元を緩めた。
「仲間だからな」
その一言で、また三人が笑った。
BEEFは面倒くさそうに前を向いた。
でも、足は止まらなかった。
まだ終わっていない。
曲も。
関係も。
この熱も。
三本目の箱で鳴ったものは、まだ誰の中でも鳴り止んでいなかった。
そしてその夜、リバクラとBEEFは、初めて同じ飯へ向かった。




