2-7-12 ここからだった
mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。
small win
https://youtu.be/SwQWUrYHf-E?si=gROitAythWZkGliJ
リバ点呼
https://youtu.be/gxHNR1Utnso?si=GxhyaBuPoYXKMjt4
THAT’S LIVE
https://youtu.be/ujqsLz2TWQA?si=MmEQcLI5hnIdcJpq
green light
https://youtu.be/YR4ECQMRI9E?si=gXQ5EDmQWGXRzpYt
ESCORT
https://youtu.be/U-FlEKJfJ9U?si=m_t-jL5suG1I4umI
Reverse Crown/リバクラ
https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe
DESTINATION
https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__
UNSEEN HANDS
https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts
THAT SEAT
https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ
BBQ
https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR
HOMEBASE
https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q
feel
https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51
keep moving
https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80
CALL ME OUT
https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv
READY
https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4
SHOWTIME!
https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN
ATTACK
https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu
SAY IT TO ME
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM
ORIGIN
https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H
nofake
https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy
決めろ!はコチラ
https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN
RUN IT
https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4
ORDER
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM
ライブ翌日、リバクラボラトリーとリバクラーメン
ライブの翌日。
リバクラボラトリーは、いつもより少し静かだった。
静か、というより、音が遅れている感じだった。
昨日まで、ここにはずっと何かの音があった。
仮音源。
マイクチェック。
wataの変な鼻歌。
EGUIの水筒を置く音。
mcRCがペンで机を叩く音。
歌詞を読み直す声。
笑い声。
言い合い。
「そこ違う」
「いや、これでいける」
「一回戻ろう」
「飯食ったか」
そういう音が、ずっと部屋の壁に染みついていた。
でも今日は、その全部が少し遠い。
机の上には、紙が並んでいた。
売上表。
チケット枚数。
会場費。
スタッフ費。
物販原価。
配送費。
制作費。
予習盤関連費。
広告・告知費。
差し入れ。
物販残数。
コメントまとめ。
新川からの報告書。
昨日の歓声は、紙になっていた。
昨日の拍手は、数字になっていた。
昨日の涙は、コメントとして抜き出されていた。
昨日の笑いは、切り抜き再生数になっていた。
そして、昨日の成功は、今日の机の上で、急に現実の顔をしていた。
wataは椅子に深く座っていた。
髪はいつもより雑に結ばれている。
いや、結ばれているというより、なんとかまとめてあるだけだった。
目の下には疲れが残っている。
それでも、スマホを見るたびに、口元だけ少し緩む。
「……やばい」
mcRCが資料から顔を上げた。
「何が?」
wataはスマホを少し持ち上げる。
「昨日の俺のやつ、もう育ってる」
EGUIが水を飲む手を止めた。
「昨日の俺のやつ?」
wataは、少しだけ得意そうに画面を見せた。
「リバクラーメン」
mcRCは一瞬だけ固まった。
それから、ゆっくり目を細める。
「……あれ、ほんまに言い出したのお前やったな」
「言った」
wataは胸を張る。
「ライブ後のラーメン、実質リバクラーメンでは? って」
EGUIが画面を覗き込む。
「もうタグになってる」
wataは笑った。
「そう。俺が軽く言っただけなのに、リバクルーが本気で拾ってる」
mcRCはスマホを受け取って、投稿を読み上げた。
「“SMALL WINのあとに食べるラーメン、実質リバクラーメン”」
EGUIが短く言う。
「早いな」
wataはさらに読む。
「“リバ点呼完了、リバクラーメン開始”」
mcRCが顔を伏せた。
「何してんの、リバクルー」
wataは笑う。
「文化は勝手に育つんやな」
EGUIが画面を見たまま言う。
「READYは明日から、もある」
その瞬間、EGUIの眉が動いた。
「それは危ない」
wataがすぐに笑う。
「出た。食事管理警察」
「明日から、はだいたい明日もやらん」
「厳しい」
mcRCは少し笑った。
リバクラーメン。
昨日のライブの余韻。
帰り道のラーメン。
泣いたあと、笑ったあと、叫んだあとに食べる一杯。
wataが冗談みたいに言った言葉を、リバクルーが勝手に拾って、勝手に育てていた。
意味は分からない。
でも、分かる。
大きすぎる夜を、生活に戻すための温かいもの。
そういう文化が、三人の手を離れたところで生まれている。
それが少し、嬉しかった。
wataが、またスマホを見て吹き出した。
「待って」
mcRCが見る。
「まだあるん?」
「ある」
wataは画面を読み上げる。
「“ラーメン食べられない民はどうすればいいですか?”」
EGUIが即答した。
「飯を食え」
「雑!」
「雑じゃない。飯を食えばいい」
wataは笑いながら、続きの投稿を見る。
「“じゃあ私は帰って米食べたのでリバクライスです”」
一秒。
二秒。
mcRCが、ゆっくり顔を上げた。
「リバクライス」
EGUIが短く言う。
「米もあるんか」
wataは机を叩いて笑った。
「リバクラーメンから、リバクライス派が分派してる」
mcRCは額に手を当てた。
「派閥作るな」
wataは楽しそうにスマホをスクロールする。
「“ラーメンは重いのでおにぎりにしました。リバクライス”」
「“ライブ後に食べる米は全部リバクライス”」
「“味噌汁つけたので実質リバクラ定食”」
EGUIが少しだけ真顔で言った。
「味噌汁は良い」
wataがすぐ見る。
「そこ?」
「塩分と水分」
mcRCが笑った。
「EGUI、完全に栄養担当やん」
EGUIは普通に返す。
「飯は大事やろ」
wataはスマホを伏せた。
「じゃあ、まとめると」
mcRCが嫌な予感の顔をする。
wataは指を立てた。
「麺派はリバクラーメン」
もう一本、指を立てる。
「米派はリバクライス」
さらに一本。
「味噌汁つけたら、リバクラ定食」
mcRCが止める。
「増やすな」
EGUIが静かに言う。
「定食は悪くない」
「乗るな」
三人は、少し笑った。
昨日のライブが大きすぎたからこそ、こういうしょうもない言葉がありがたかった。
リバクラーメン。
リバクライス。
リバクラ定食。
ふざけている。
でも、ふざけているだけではない。
ライブの熱を、食べ物に戻す。
音を、生活に戻す。
でっかい勝ちを、腹に入る大きさにする。
それは、SMALL WINの続きみたいだった。
大きな勝ちを、そのまま持って帰れない人のために。
ラーメン一杯、米一膳、おにぎり一個くらいの勝ちにして、今日を終える。
mcRCは、少しだけ肩の力を抜いた。
でも、今日は笑いだけで終われない。
机の上には、まだ資料がある。
mcRCは、机の上の紙を軽く整えた。
その音で、部屋の空気が少し戻る。
wataもスマホを伏せた。
EGUIは水を置いた。
mcRCが言った。
「じゃあ、見るか」
wataは小さく息を吐く。
「ついに来たか」
「来た」
「昨日の感動を数字に変換する時間」
「言い方」
EGUIが淡々と言う。
「でも、その通りやろ」
wataは椅子の背もたれに体を預けた。
「急に会社やな」
mcRCは、資料を一枚めくった。
「実際、金の話を見ない活動は続かん」
その言葉に、wataは少しだけ真顔になった。
EGUIも、資料へ目を落とす。
ライブが終わった翌日。
普通なら、余韻に浸ってもいい。
昨日は大成功だった。
チケットは完売した。
物販も売れた。
リバクルーは満足して帰った。
トラブルはTHAT’S LIVEになった。
リバ点呼は会場をひとつにした。
SMALL WINで、みんながそれぞれの勝ちを持って帰った。
新川からの評価も上がった。
切り抜きも伸びている。
コメントも止まらない。
胸を張っていい。
間違いなく、でっかい勝ちだった。
でも。
勝ったなら、見なければいけないものがある。
どれだけ売れたのか。
どれだけかかったのか。
どれだけ残ったのか。
何が重かったのか。
何が次も使えるのか。
何がもう一度やったら壊れるのか。
mcRCは、売上表を机の中央に置いた。
「まず、チケット」
wataが資料を覗き込む。
「完売」
「うん。完売」
EGUIが短く言う。
「勝ち」
wataがすぐ乗る。
「勝ち」
mcRCも頷く。
「勝ち」
次に、物販売上。
「物販も、想定より上」
wataの目が少し開く。
「おお」
EGUIが言う。
「READYタオルが強かったな」
「あと赤ペン」
wataが笑った。
「CALL ME OUTの赤ペン、まじで売れたん?」
mcRCは資料を見ながら頷く。
「売れた」
wataは両手で顔を覆った。
「俺ら、赤ペン売るラッパーになったんか」
EGUIが真顔で言う。
「実用性がある」
「そういう問題?」
「ある」
mcRCは笑いをこらえながら、次の資料を見る。
「予習盤も動いた。数は多くないけど、来場前に聴いてくれた人がかなりいた」
wataは少し頷いた。
「だからREADYとか、返り早かったんやな」
EGUIが言う。
「知らない曲ばかりじゃ、客席も受け取りにくい」
「うん」
mcRCはその言葉をメモした。
予習盤は意味あり。
次に、新川からの報告。
トラブル時の対応。
客席の反応。
退館時の導線。
物販列の解消。
スタッフ側の評価。
次回への改善点。
その中に、短い一文があった。
予定外対応時、出演者側が客席の不安を抑え、場を維持した。以後の現場でも連携価値あり。
wataがそれを読んで、少し黙った。
「固い文章なのに、なんか嬉しいな」
mcRCは頷いた。
「うん」
EGUIが言った。
「新川さんらしい」
その一文だけで、昨日のTHAT’S LIVEの意味が少し変わる。
あれは、ただの即興ではなかった。
トラブルを隠すために歌ったわけではない。
自分たちだけが目立つために戻ったわけでもない。
客席の体験を落とさないために、予定外を価値に変えた。
その裏で、イベント側は必死に次の流れを組み直していた。
表ではリバクラが歌い、裏ではスタッフが走っていた。
その両方があって、昨日の夜は崩れなかった。
wataは、資料を指で軽く叩いた。
「これ、地味にでかいよな」
mcRCが見る。
「新川さんの評価?」
「うん。俺らだけじゃ、ライブできんってことやん」
EGUIが頷く。
「昨日、それを見た」
少し沈黙。
mcRCは、次の資料を出した。
経費表。
wataの顔が分かりやすく曇った。
「出た。怖いやつ」
「怖くない」
「怖い数字は、怖くない顔で来るんよ」
EGUIが資料を見る。
「会場費」
「スタッフ費」
「物販原価」
「配送費」
「制作費」
「予習盤関連費」
「広告・告知費」
wataが、だんだん姿勢を正していく。
「なんか……ちゃんと金かかってるな」
mcRCは頷いた。
「ちゃんとかかってる」
「当たり前やけど」
「当たり前」
EGUIが短く聞いた。
「黒字か」
部屋が少し止まった。
wataも、mcRCを見る。
mcRCは、売上と経費の差額をもう一度確認した。
そして、ゆっくり言った。
「黒字」
一秒。
二秒。
wataが椅子から半分立ち上がった。
「うおおおおお!」
EGUIも、少しだけ肩の力を抜いた。
「でかいな」
mcRCも笑った。
「でかい」
wataは拳を握る。
「勝ちやん!」
EGUIが頷く。
「勝ち」
mcRCも頷いた。
「勝ち」
三人は、その言葉をしばらく味わった。
黒字。
それは、数字としての勝ちだった。
歌が届いた。
客席が返した。
物販も動いた。
箱代を払っても残った。
スタッフ費も払った。
必要な費用を引いても、ちゃんと残った。
自分たちのやってきたことが、一回、現実の形で成立した。
wataは笑いながら、椅子に座り直した。
「いや、これは喜んでいいやつやろ」
mcRCは頷いた。
「喜んでいい」
EGUIも言う。
「喜べ」
wataは胸を張った。
「でっかい勝ち」
mcRCも、少しだけ声に力を込めた。
「でっかい勝ち」
EGUIも、控えめに続けた。
「でっかい勝ち」
三人は笑った。
その笑いは、昨日のステージ上の笑いとは違った。
客席に向けた笑顔ではない。
コメント欄に見せるリアクションでもない。
三人だけの、疲れきった、でも確かに嬉しい笑いだった。
ただ。
mcRCは、もう一枚の紙を出した。
wataがすぐに顔をしかめる。
「なに、その顔」
mcRCは言った。
「ただし」
wataは天井を見た。
「出た」
EGUIは何も言わずに資料を受け取る。
mcRCは、紙の端をペンで軽く叩いた。
「これを九ヶ月で割ると、全然割に合わん」
wataは、さっきまでの喜びの姿勢のまま固まった。
「急に現実」
「現実やからな」
mcRCは続けた。
「今回のライブ単体では黒字。これは間違いない」
「うん」
「でも、九ヶ月分の準備を入れると話が変わる」
EGUIが資料を見る。
「準備期間、曲数、物販、予習盤、告知、配信」
mcRCは頷いた。
「箱代、制作費、物販原価、リハ、配信、音源化、予習盤、告知。全部入れたら、今回は黒字ではある」
少し間を置く。
「でも、“仕事としての利益”で見ると、まだかなり薄い」
部屋の空気が落ちた。
重くなったわけではない。
足が床についた。
wataは、資料をじっと見る。
「黒字なのに、黒字って感じがせんな」
mcRCは頷いた。
「黒字は黒字」
「うん」
「でも、これで生活できるかって言われたら、まだ無理」
EGUIが言う。
「活動としては成立した。仕事としては薄い」
mcRCは、少し笑った。
「それが一番近い」
wataは、両手で顔をこすった。
「夢あるようで、夢ないな」
mcRCは首を横に振った。
「夢はある」
wataが顔を上げる。
mcRCは、資料を机に置いた。
「でも、夢を続けるには、数字を見る必要がある」
その声は冷たくなかった。
むしろ、静かに熱かった。
wataはその声を聞いて黙った。
EGUIも、資料から目を上げる。
mcRCは続けた。
「昨日のライブは勝ちやった」
「うん」
「でも、昨日の勝ちを、次も同じやり方で取りに行ったら、たぶん俺らが削れる」
誰もすぐには返さなかった。
三人とも、それは分かっていた。
体はまだ重い。
喉も完全には戻っていない。
昨日の夜、ステージで出した熱は、まだ身体のどこかに残っている。
でも、昼の生活は止まらない。
仕事はある。
日常はある。
家のこともある。
食事も睡眠もある。
そして、もうひとつ。
曲を作る燃料。
wataが、ぽつりと言った。
「歌いたいこと、かなり歌ったよな」
mcRCは頷いた。
「うん」
EGUIも言う。
「出した」
wataは天井を見る。
「怒りも、感謝も、家も、仕事も、飯も、準備も、恋愛も、声も、席も、手も、勝ちも」
並べると、多すぎた。
でも、どれも嘘ではなかった。
全部、三人の中にあったものだった。
コメントから受け取ったものもある。
自分たちの過去から掘り起こしたものもある。
職場で見たものもある。
生活で感じたものもある。
誰かに言いたかったこともある。
自分自身に言いたかったこともある。
それらを歌にした。
そして、多くは届いた。
届いてしまった。
wataが小さく言う。
「届くとさ」
mcRCが見る。
「少し、成仏するよな」
その言い方に、EGUIが少しだけ眉を動かした。
「成仏」
「いや、言い方変やけど」
wataは自分の胸を指で叩いた。
「ずっと腹の中で燃えてたやつが、曲になって、客席に返って、泣いてもらって、笑ってもらってさ」
少し間。
「少し、楽になる」
mcRCは黙って頷いた。
EGUIも、水のボトルをゆっくり置いた。
「楽になるのは、悪いことじゃない」
wataは頷く。
「分かってる」
「でも、次に同じ熱で作れるかは別やな」
EGUIの言葉に、wataは少し笑った。
「先生、今日は刺すな」
EGUIは静かに返す。
「事実やろ」
mcRCは、机の上の歌詞メモを見た。
昨日まで、作らなければならない曲があった。
単独ライブに必要な曲。
返すための曲。
ここまでのリバクラを証明する曲。
客席を連れていく曲。
締める曲。
でも、今日からは違う。
次に何を歌うのか。
それは、まだ決まっていない。
mcRCは言った。
「歌にしたかったことを、かなり歌えた気がする」
wataも頷く。
「分かる」
「だからこそ、次に何を歌うのか、ちゃんと考えたい」
EGUIが静かに言う。
「次の理由がいる」
その一言で、部屋の温度が決まった。
次の理由。
曲を作ることはできる。
配信もできる。
またライブもできる。
たぶん、単独ライブの次を目指すこともできる。
でも、理由がないまま走ると、言葉が薄くなる。
wataが資料を見ながら、ふと思いついたように言った。
「でもさ」
mcRCが見る。
「同じセットリストでもう一回やったら?」
EGUIも顔を上げる。
wataは指を折りながら話す。
「今回作った曲、もうあるやん。物販もある。構成もある。演出もある。告知素材もある。予習盤も形はできた」
mcRCは頷く。
「うん」
「なら、同じセットで別の場所でもう一回やったら、今度は準備費が薄まるんちゃう?」
EGUIが言う。
「ツアーか」
wataは少しだけ笑った。
「言ってみただけ」
mcRCは資料を見たまま言った。
「そこからが、本当の黒字感かもしれん」
wataが小さく息を吸う。
EGUIは、すぐに釘を刺した。
「ただし、やるかどうかは別だ」
mcRCは頷く。
「そう。今すぐ決めたら危ない」
wataは、少し笑った。
「昨日の熱、強すぎるしな」
「うん」
mcRCは資料を閉じずに、指で押さえた。
「ツアーなのか、もう一回単独なのか、別の形なのか。それは次に考える」
EGUIが言う。
「少なくとも、今のまま毎回新曲だらけでやるのは無理だ」
mcRCは頷いた。
「そこだけは、はっきりしてる」
wataは椅子の背にもたれた。
「割に合ってないから、今からやな」
その言葉に、mcRCは少し笑った。
「うん」
EGUIも頷く。
「今からや」
wataは、もう一度言った。
「でっかい勝ちやった。でも、今から」
mcRCが続ける。
「黒字にはなった。でも、今から」
EGUIが短く言う。
「続け方は、まだ決まってない」
三人は、それぞれの資料を見た。
表の成功は、はっきりしていた。
チケット完売。
物販成功。
単独ライブ成功。
トラブルを伝説化。
リバクルー大満足。
新川から評価爆増。
黒字。
誰が見ても、成功だった。
でも、その裏には課題があった。
準備負担が重すぎる。
昼との両立が限界。
新曲を作り続ける精神的燃料が薄くなっている。
本当の継続モデルがまだない。
この二つは、どちらかが嘘なのではない。
どちらも本当だった。
成功した。
でも、このままでは続けられない。
その矛盾を、三人は机の上で見ていた。
wataが、小さく呟く。
「これ、どうするんやろな」
mcRCはすぐに答えなかった。
EGUIも黙っている。
いつもなら、ここで誰かが案を出す。
wataが軽く言う。
mcRCが整理する。
EGUIが絞る。
でも、今日は誰もすぐには答えを出さなかった。
出してはいけない気がした。
昨日の熱で決めるには、問いが大きすぎる。
mcRCは、ゆっくり言った。
「今日は、答え出さんでいいと思う」
wataが見る。
「いいん?」
「うん」
EGUIも頷いた。
「問いのまま置いた方がいい」
wataは、少しだけ驚いた顔をした。
「EGUIが問いを置くって言うの、珍しいな」
EGUIは、静かに返した。
「答えを急ぐと、言葉が雑になる」
その言葉に、mcRCは小さく頷いた。
「そう」
wataは、しばらく黙ってから、机の上の紙を見た。
「じゃあ、問いは何?」
mcRCはペンを持った。
ホワイトボードに向かう。
昨日まで、そこには単独ライブの準備項目が書かれていた。
ヒト。
コト。
モノ。
カネ。
その文字は、まだ薄く残っている。
mcRCは、その下に新しく書いた。
どう続ける?
三人は、その文字を見た。
短い。
でも、重い。
どう続ける?
同じセットをもう一回やるのか。
別の場所へ持っていくのか。
新曲を作るのか。
休むのか。
誰かに頼るのか。
三人だけで守るのか。
仕組みを作るのか。
今までのやり方を変えるのか。
問いは、一つに見えて、いくつも枝分かれしていた。
wataが、ホワイトボードを見ながら言う。
「答え、今日出たら怖いな」
mcRCは頷いた。
「怖い」
EGUIが言う。
「だから置く」
wataは少し笑った。
「問いを置いて帰るラッパー」
mcRCも笑う。
「たまにはええやろ」
EGUIが、ホワイトボードを見たまま言う。
「でも、置いただけで終わらせるなよ」
wataがすぐに返す。
「それはそう」
mcRCも頷く。
「置くけど、逃げない」
その言葉で、三人の間に少しだけ空気が戻った。
逃げない。
でも、急がない。
止まる。
でも、終わらない。
問いを持ったまま、次へ進む。
wataは、伏せていたスマホを手に取った。
「リバクルー、まだめちゃくちゃ投稿してる」
mcRCが聞く。
「何て?」
wataは少しスクロールして、ひとつ読んだ。
「“昨日のライブ、楽しかったのに、今日仕事行けた自分をちょっと褒めたい”」
EGUIが短く言う。
「SMALL WINやな」
mcRCは、少しだけ目を細めた。
「うん」
wataはまた読む。
「“リバクラーメン食べて寝た。朝起きた。勝ち”」
EGUIが言う。
「朝も飯食え」
wataが笑う。
「そこ?」
「大事やろ」
wataは続ける。
「“朝はリバクライスで出勤しました”」
mcRCが笑った。
「もう何でもありやん」
EGUIが言う。
「米はいい」
wataがすぐ見る。
「そこも乗るんや」
「朝は米でいい」
「栄養担当、米派」
mcRCも笑った。
笑いながら、少しだけ胸が温かくなった。
大きな勝ちは、もう昨日の会場に置いてきた。
今日からは、それぞれの小さな勝ちに分かれていく。
誰かは仕事へ行く。
誰かは学校へ行く。
誰かは洗濯をする。
誰かは昨日のチケットを机に置く。
誰かはラーメンの写真を見返す。
誰かは米を食べて出勤する。
誰かは、泣いたことを誰にも言わずに、普通の顔で一日を始める。
ライブは終わった。
でも、持って帰ったものは続いている。
wataが、ぽつりと言った。
「……ラーメン行こうぜ」
mcRCが顔を上げる。
「今?」
「今」
EGUIが水のボトルを閉める。
「飯か」
wataは頷いた。
「そんで、祝勝会しようぜ」
mcRCは、机の上の資料を見る。
売上表。
経費表。
報告書。
コメントまとめ。
どれも大事だった。
どれも見なければいけなかった。
でも、今この瞬間、三人に必要なのは、もう一枚の資料ではない気がした。
昨日の熱を、日常に戻すこと。
でっかい勝ちを、三人で食べられる大きさにすること。
mcRCは、少し笑った。
「メインがラーメンになる、それだと」
wataは即答する。
「ええやん。リバクラーメンやぞ」
EGUIが真顔で言う。
「流行ってるしな」
mcRCはEGUIを見る。
「乗るんや」
「飯は大事やろ」
wataが笑う。
「出た」
mcRCは、ホワイトボードをもう一度見た。
どう続ける?
答えはまだ出ない。
出さなくていい。
ただ、問いを置いたまま、腹は減る。
人間はそういうものだ。
でっかいライブをしても、黒字になっても、トラブルを伝説にしても、次の章への問いを抱えても、腹は減る。
それが日常だった。
mcRCはファイルを閉じた。
「行くか」
wataが立ち上がる。
「祝勝会や」
EGUIも立つ。
「ラーメンやけどな」
mcRCが笑って言った。
「行こう。俺たちの日常へ」
その言葉に、wataが少しだけ止まった。
「……それ、なんかええな」
EGUIが言う。
「曲にするなよ」
wataが笑う。
「今はせん」
mcRCも笑った。
「今はな」
三人は部屋を片づけた。
資料をファイルに入れる。
ペンを戻す。
水のボトルを捨てる。
机を拭く。
椅子を戻す。
ホワイトボードの文字は消さなかった。
どう続ける?
その問いだけを残して、三人はリバクラボラトリーを出た。
外は、夕方から夜へ変わるところだった。
昨日のライブの夜とは違う光。
歓声もない。
拍手もない。
低音もない。
照明もない。
あるのは、駅前の人通り。
自転車のベル。
コンビニの灯り。
少し湿った風。
どこかの店から漂ってくるスープの匂い。
wataが鼻を動かした。
「もうラーメンの匂いする」
EGUIが言う。
「単純やな」
「褒めてる?」
「違う」
mcRCは二人のやり取りを聞きながら、少し後ろを歩いた。
昨日の会場が、遠い。
でも、消えたわけじゃない。
あの声も、あの涙も、あの笑いも、あのトラブルも、あの黒字も、あの問いも、全部持ったまま、三人はラーメン屋へ向かっている。
それが妙におかしかった。
そして、妙に正しかった。
駅前の小さなラーメン屋。
カウンターだけの店。
券売機の光。
湯気。
スープの匂い。
水を注ぐ音。
深夜にはまだ少し早い時間の、静かな客の気配。
三人は食券を買った。
wataは醤油。
EGUIは味噌。
mcRCは塩。
wataが食券を見ながら言う。
「バラバラやな」
EGUIが返す。
「好みやろ」
mcRCが笑う。
「リバクラーメン、統一感なし」
wataが言う。
「三味一体や」
EGUIが首をかしげる。
「うまいこと言ったつもりか」
「言ったつもり」
「微妙」
「厳しい」
ラーメンが来る。
三人は、しばらく黙って食べた。
麺をすする。
スープを飲む。
息を吐く。
それだけで、少しずつ身体が戻ってくる。
wataが、ぽつりと言った。
「今日さ」
mcRCが見る。
「うん」
「俺、さっきまででっかい勝ちの話してたやん」
「うん」
「でも今、ラーメンうまいって思ってる」
EGUIが短く言う。
「正常や」
wataは笑った。
「なんかさ、それがいいなって」
mcRCは、レンゲを置いた。
「うん」
wataは麺を少し持ち上げたまま言う。
「満員とか、黒字とか、トレンドとか、めちゃくちゃでかいやん。嬉しいけど、でかすぎる」
少し間。
「でも、ラーメンうまいは分かる」
EGUIが頷いた。
「持てる大きさやな」
mcRCは、その言葉を受け取った。
「SMALL WINやな」
wataは笑った。
「リバクラーメンもSMALL WINか」
「たぶん」
EGUIが言う。
「食って寝て、明日起きる。それも勝ちやろ」
wataは箸を止めた。
「EGUI、今日ずっと先生やな」
「日本語の話だからな」
「飯の話でもあるやろ」
「飯も大事や」
mcRCは笑った。
昨日、会場であれだけ大きな声を聞いた。
今日、机の上であれだけ大きな数字を見た。
そして今、三人は小さな店でラーメンを食べている。
それでよかった。
大きな勝ちを、大きなまま抱え続けると、たぶん疲れる。
だから、こうやって日常に戻す必要がある。
祝勝会。
ラーメン屋のカウンターで、三人だけの祝勝会。
派手ではない。
花束もない。
シャンパンもない。
乾杯のグラスもない。
でも、湯気がある。
箸がある。
三人がいる。
wataが、ラーメンをすすったあとに言った。
「成功したな」
mcRCが頷く。
「成功した」
EGUIも言う。
「勝ちや」
少し歩くような沈黙があって、wataが続けた。
「でも、このままでは続けられない」
mcRCは頷いた。
「うん」
EGUIが言う。
「だから、ここからや」
三人は、それ以上、答えを出さなかった。
ツアーなのか。
再演なのか。
新しい単独なのか。
休むのか。
誰かに頼るのか。
仕組みを作るのか。
それは、まだ問いのままでいい。
今日必要なのは、答えではなかった。
今日必要なのは、勝ったことをちゃんと喜ぶこと。
そして、その勝ちを日常に戻すことだった。
wataが最後の一口を食べて、丼に箸を置いた。
「ごちそうさまでした」
EGUIも続ける。
「ごちそうさま」
mcRCも、静かに言った。
「ごちそうさまでした」
店を出ると、夜の風が少しだけ涼しかった。
三人は駅へ向かって歩いた。
昨日よりも、ゆっくり。
ライブの後みたいに走らない。
配信前みたいに急がない。
曲を作る夜みたいに焦らない。
ただ、歩く。
問いを持ったまま。
日常へ戻る。
でも、戻った先で、もう一度考える。
どう続ける?
第二部は、その問いを残して終わる。
答えではなく、問いを抱えたまま。
成功した。
でも、このままでは続けられない。
じゃあ、どう続ける?
Reverse Crownは、その問いを持ったまま、次へ進む。
ここからだった。
mcRC「この小説の歌は実際に聴けるから、聴きながら読んでみてくれよな」
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、。とぶぞ。
small win
https://youtu.be/SwQWUrYHf-E?si=gROitAythWZkGliJ
リバ点呼
https://youtu.be/gxHNR1Utnso?si=GxhyaBuPoYXKMjt4
THAT’S LIVE
https://youtu.be/ujqsLz2TWQA?si=MmEQcLI5hnIdcJpq
green light
https://youtu.be/YR4ECQMRI9E?si=gXQ5EDmQWGXRzpYt
ESCORT
https://youtu.be/U-FlEKJfJ9U?si=m_t-jL5suG1I4umI
Reverse Crown/リバクラ
https://youtu.be/FI0rcVj1WUA?si=YTlhx_1Sq_TaV9Qe
DESTINATION
https://youtu.be/JTYqNX2aSEM?si=XiPvuQManbc7qZ__
UNSEEN HANDS
https://youtu.be/-7JI-GA7Jkg?si=1bDm7SNAOzQLAYts
THAT SEAT
https://youtu.be/RroRseSoJ_8?si=hIIpjx5z-IxxfnTJ
BBQ
https://youtu.be/EtMf8rkKn_0?si=fOf9lmgp2QZR2MKR
HOMEBASE
https://youtu.be/ARSsZ0r8CRc?si=2e8PbVXltjdbNr2Q
feel
https://youtu.be/PAmI_q-HbFU?si=FZuLbe2ZiBzmms51
keep moving
https://youtu.be/QWW73v7L1D0?si=7YEjlRgRRuQhve80
CALL ME OUT
https://youtu.be/Y161l0pX_wA?si=GZjh8_JyrDkMdkLv
READY
https://youtu.be/P2sNZMSjjdU?si=GsE110DD92sYEhr4
SHOWTIME!
https://youtu.be/RrqmZjsded4?si=kZt8W-O5sWGhMJaN
ATTACK
https://youtu.be/tRSOHKXvij8?si=xqiYugwdtS0mTWMu
SAY IT TO ME
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM
ORIGIN
https://youtu.be/v7r3_l4mYQM?si=l1vPLtDcNWjW9O6H
nofake
https://youtu.be/oV7c-3TJMgM?si=WDW85lU6iqQsmqZy
決めろ!はコチラ
https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=hvvTW3RMB2adTtwN
RUN IT
https://youtu.be/ptZZJdr_2hc?si=1Fw9cRYCdJAd1so4
ORDER
https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=BMBopJs6y9S6hLWM




