1-2-3 「決めろ」
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読後の余韻に合わせてどうぞ
てか聞きながら読んでみて、飛ぶぞ
配信開始の三十分前。
部屋の中は、いつもより少しだけ静かだった。
黒い布。
小さなライト。
折りたたみテーブル。
マイク三本。
ノートパソコン。
シェイカー。
水。
ケーブル。
歌詞カード。
そして、机の真ん中に一枚だけ置かれた紙。
タイトル。
決めろ
wataは、その紙を見ながら、腕を組んでいた。
「……タイトル、やっぱ強いな」
mcRCはライトの角度を直しながら言った。
「強いけど、間違ってはないやろ」
EGUIは椅子に座ったまま、歌詞カードを見ている。
「弱くしたら違う」
「まあな」
wataは小さく頷いた。
「“準備しよう”とかやと、急に自己啓発セミナーやしな」
mcRCが笑う。
「それは嫌やな」
EGUIが顔を上げる。
「“決めろ”でいい」
その言い方が、もう答えだった。
短い。
太い。
逃げない。
EGUIの言葉は、こういう時に強い。
wataはスマホで配信画面の待機人数を見た。
「待機、もういる」
「どれくらい?」
「前回より多い」
mcRCの手が一瞬止まった。
「……まじか」
「まじ」
wataは画面を見せる。
開始前なのに、コメントが流れている。
待機
決めろ待ち
ケイくん来てる?
ストリート行けなかったから楽しみ
オーダー回収回!
タイトル強すぎ
風呂場の天才入ってる?
今日は正座してる
リバ点呼ある?
mcRCは、そのコメントを見て少し笑った。
「リバ点呼、配信でもやるんか」
wataが言う。
「もう文化化してる」
EGUIが短く言う。
「やればええやん」
mcRCは椅子に座った。
「配信で起立って言うの、まあまあ変やけどな」
wataがすぐ返す。
「最初から変やろ」
「否定できない」
三人は、少し笑った。
でも、笑いながらも、部屋の空気は軽くなりすぎなかった。
今日やる曲は、ただの新曲ではない。
オーダーから生まれた初めての曲。
ケイの一言から始まり、ストリートにいた人たちの声が重なり、三人が持ち帰って、それぞれの景色で作った曲。
“はいあなた”が怖い。
急に当てられるのが嫌。
決めたらかっこいいのに、何も出てこない。
あとからなら、いくらでも言える。
その話が、曲になった。
mcRCは、歌詞カードに目を落とした。
[Verse 1 / mcRC]
朝のミラー前。
寝癖。
靴。
姿勢。
駅のホーム。
コンビニ。
信号待ち。
どこで見られてもいいように、日々を整える。
派手にしろという話ではない。
自分の価値を、外に出せる状態にしておく。
それが、mcRCの景色だった。
wataのバースは、やっぱりwataらしかった。
正解待ち。
完璧なタイミング。
quietにtry。
small step。
accumulation。
考えすぎて止まる人間を、言葉のリズムで少しずつ前に押す。
EGUIのバースは、最初に読んだ時、mcRCもwataも少し黙った。
好きなことを持っていけ。
得意じゃなくてもいい。
好きからでいい。
その熱が最後に武器になる。
EGUIは、ときどきこういうことを言う。
一番荒っぽく見えるのに、一番人を許す。
ただし、甘くはしない。
「隠れんな。でも焦んな」
そこがEGUIだった。
wataが、歌詞カードを指で叩く。
「今日、最初に説明しすぎんほうがいいよな」
mcRCが頷く。
「うん」
「先に聞いてもらったほうがいい」
EGUIも同意した。
「言い訳みたいになる」
「そう」
mcRCは、配信開始ボタンに手を置く前に、一度だけ深く息を吸った。
「じゃあ、始めよか」
wataが肩を回す。
「行こう」
EGUIがマイクを引き寄せる。
「決めるぞ」
wataが笑った。
「今それ言う?」
EGUIは真顔で返す。
「タイトルやからな」
その一言で、mcRCは少し肩の力が抜けた。
配信開始。
画面が切り替わる。
コメントが一気に走る。
きた!!
こんばんは!
待ってた!
リバクラ!
決めろ!
ストリート組です!
ケイくんいる!?
今日初見です
ORDERから来た
リバ点呼!
wataが画面を見て、すぐ手を振る。
「はい、こんばんはー」
EGUIも軽く手を上げる。
mcRCはマイクの前で笑った。
「来てくれてありがとう」
コメントがさらに流れる。
声聞こえてる
今日画質いい
EGUIさん眠そう
wataさん今日髪セットしてる
mcRCさん緊張してる?
wataが拾った。
「EGUI眠そうって来てます」
EGUIが画面を見る。
「眠くない」
wata。
「不機嫌?」
EGUI。
「普通」
wata。
「普通が怖い」
mcRCが笑う。
「はい、いつも通りです」
少しコメントが笑いで流れる。
普通が怖いw
今日も通常運転
でも緊張してる?
新曲回だもんね
オーダー入りまーす回!
mcRCは、少しだけ姿勢を正した。
「今日は、この前のストリートで受け取ったオーダーから作った曲をやります」
コメントが止まらない。
きた
ついに
ケイくんのやつ!
はいあなた回!
風呂場の天才!
決めろ!
wataが笑う。
「風呂場の天才、強すぎるな」
EGUIが言う。
「タイトルにはしてない」
「そらそうやろ」
mcRCは画面を見て、言った。
「この前、みんなからいろんな言葉もらいました」
「急に当てられるのが嫌」
「仕事で意見聞かれて止まる」
「授業で読まされるのが嫌」
「好きな人の前で何も出ない」
「あとからなら言える」
「準備してない自分が見えるのが怖い」
コメントが静かに流れる。
わかる
もう刺さる
あの日いた
ケイくんの話から広がったやつ
自分もあれ言った
会議の人です
高校生の人いる?
mcRCは続けた。
「でも、これって、みんなの声ではあるけど」
少し間を置く。
「残念ながら、俺らの声でもありました」
wataが頷く。
「めっちゃあるからな」
EGUIも言う。
「ないやつの方が怖い」
mcRCは画面に向かって言った。
「だからこれは、誰かの悩み相談に答えた曲じゃないです」
「俺らにも刺さったから、俺らの曲として作りました」
コメント。
それがいい
受注曲じゃないんだ
俺らの曲でもある、いい
もう泣きそう
早く聴きたい
wataがマイクを持った。
「説明、これ以上すると真面目すぎて俺が死ぬので」
EGUI。
「死ぬな」
wata。
「じゃあ生きます」
mcRCが笑って、それから言った。
「聴いてください」
「タイトルは――」
三人が、少しだけ目を合わせる。
「決めろ」
ビートが鳴った。
最初は、少し軽い。
でも、芯に重さがある。
派手に爆発する曲ではない。
体が勝手に前に出るような、足元から温度が上がるビート。
Hookから入る。
「決めろ 決めろ ここぞで決めろ」
コメント欄が、一瞬止まった。
歌詞を聞こうとしている。
「隠れたままじゃ 誰も知らねえよ」
すぐに、流れ始める。
うわ
もう刺さる
隠れたままじゃ誰も知らない
これだ
タイトル強い
ここぞで決めろ
「見せろ 見せろ 最高を見せろ」
wataの声が重なる。
「磨いた自分を この場で打てよ」
EGUIが低く入る。
「迷いも弱さも 抱えたまま行けよ」
コメントが跳ねる。
抱えたまま行けよ、好き
弱さ否定しないのいい
これ根性論じゃない
でも甘くない
かっこいい
Verse 1。
mcRC。
朝のミラー前。
寝癖と目つき。
駅のホーム。
コンビニ。
信号待ち。
どこで見られてもいいようにstand by。
それは、ストリートの準備を思い出させる描写でもあった。
看板を置く。
ケーブルを整える。
許可を取る。
服を整える。
声を整える。
場を整える。
mcRCは、見せるということを、派手に飾ることとしては書かなかった。
“雑にしないこと”として書いた。
「価値ってやつは胸ん中だけじゃ
光っていても 外じゃわからんまんま」
コメント欄が一気に流れる。
ここ好き
胸ん中だけじゃ外じゃわからん
それな
自分の価値を出すの怖い
mcRC景色えぐい
朝のミラー前、見える
mcRCは歌いながら、少しだけ前回のストリートを思い出していた。
ケイの顔。
「何も考えてないやつみたいに見えるじゃないですか」
あの言葉。
本当は、何も考えていないわけじゃない。
でも、見せられなければ、ないものとして扱われる。
それは悔しい。
だから、出せる状態にする。
「見られる前提で自分を磨きたい
来るべき一瞬 逃さず決める」
コメント。
見られる前提
ここ仕事にも恋愛にも刺さる
逃さず決める
mcRCの生活感やっぱ強い
これストリートの準備にも繋がってる?
Hookに戻る。
今度は、コメントも少しリズムを覚え始めている。
決めろ!
決めろ!
ここぞで決めろ!
wataがVerse 2に入る。
「正直ビビるし 人目も気になる」
その一行で、コメントが沸いた。
わかる
それ
ビビるよ
そこ言ってくれるのいい
wataのバースは、速すぎない。
でも、内側のリズムが細かい。
quietにtry。
small step。
rewrite。
perfectは来ない。
今日できることから外さない。
「“タイミング待ち”って言葉は便利
でもその待ち時間で 芯が減っていく daily」
コメントが一気に流れる。
痛い
タイミング待ち、便利すぎる
芯が減っていくdailyえぐ
これ俺
完璧待ちしてた
wataさん今回意味も強い
wataは、歌いながらも少しだけ笑っていた。
コメントを見ているわけではない。
でも、刺さっているのは分かる。
韻だけじゃない。
言葉が、ちゃんと相手の中で引っかかっている。
「地味な反復が最後に make it happen」
地味な反復!
ここ好き
勉強も筋トレもこれ
練習してないと出ない
決める前に仕込めってことか
wataのバースが終わる頃、配信のコメント欄は、もう“曲を聞く場所”から“自分の話を重ねる場所”になっていた。
会議前に準備する
明日からメモ作る
好きなこと一個持っとく
風呂場の天才卒業したい
でも風呂場では天才でいたい
EGUIのVerse 3。
空気が変わる。
「まあまあ肩の力 抜いていこうぜ」
コメントが少し笑う。
急に優しい
EGUIさん!?
抜いていこうぜ、意外
でも声は強い
EGUIは、深刻にしすぎなかった。
歌でもいい。
踊りでもいい。
笑いでも絵でも物語でもいい。
得意じゃなくても、好きからでいい。
その熱が最後、武器になればいい。
「得意じゃなくても 好きからでいい
その熱が最後 武器になりゃいい」
コメントが爆発した。
ここ!!!!
好きからでいい
得意じゃなくてもいいの泣く
EGUIさんの優しさ
これ学生に刺さる
趣味勢泣いてる
物語でもいい、ありがとう
mcRCは、歌っていないのに少し鳥肌が立った。
EGUIのこのラインは、ストリート後の片付けで言っていた言葉から来ている。
得意かどうかは後でいい。
好きなもん持ってるやつが最後に決める。
それが、曲の中でちゃんと立っていた。
「人に見せるって 媚びることじゃない
自分の火をちゃんと外に持ち出すことじゃない?」
コメントの速度がさらに上がる。
うわあああ
見せる=媚びるじゃない
火を外に持ち出す
ここ好き
EGUIさん今日やばい
直球なのに深い
そして、3MC Relay。
三人の言葉が、短く切り替わる。
隠れた価値。
磨いた中身。
見られる前提。
地味な反復。
正解待ちより今日。
震えたままでも前へ。
コメントが追いつかない。
速い
3MC Relayかっこいい
ここライブで聴きたい
全員角度違うのにテーマ同じ
これがリバクラか
かっこいいのに説教じゃない
泣きながら手上げたい
Last Hook。
「決めろ 決めろ この場で決めろ
仕込んだ分だけ 最後に見せろ」
mcRCは画面の向こうを見ていた。
本当には見えない。
でも、いる。
ケイ。
ストリートで「会議で振られる」と言った女性。
授業で当てられるのが嫌だと言った高校生。
好きな人の前で何も言えないと言った子。
風呂場の天才たち。
そして、自分たち。
「隠れた価値なら まだ半端モン
表に出してこそ 本当の本能」
コメントが爆発した。
隠れた価値ならまだ半端モン!!!
ここ回収された!
EGUIのやつ?
強すぎ
未承認の価値を表に出せってことか
半端モン言い方えぐいけど刺さる
これタイトル回収やばい
最後。
「来たその一瞬で 全部を獲れよ」
曲が終わった。
数秒、三人とも黙った。
コメント欄だけが流れ続ける。
888888888
やばい
泣いた
かっこいい
これ俺の曲だ
ケイくんいる?
最高
決めろ、良すぎ
ORDERからこれ来るの熱い
初オーダー成功じゃん
風呂場の天才、救われた
明日ちょっと準備する
これライブでやって
もう一回聴きたい
wataが、ようやく息を吐いた。
「……はい」
少し笑う。
「決めろ、でした」
コメント。
ありがとう
最高
めっちゃよかった
これ音源化して
ケイくん!!
ケイくん見てる!?
その時、コメント欄にひとつ流れた。
ケイです。見てます。
ほんとに曲になってて、ちょっと手震えてます。
三人の目が同時に画面へ向いた。
wataがすぐ言う。
「ケイくん!」
EGUIが短く言う。
「来たか」
mcRCは少し声を落とした。
「ケイくん、来てくれてありがとう」
コメント欄が沸く。
ケイくん!
主人公!
よかったね!
あの日いた人です
ケイくんの話から始まったやつ
でもみんなの曲になってる
続けて、ケイのコメント。
自分の話なのに、自分だけの話じゃなくなってて、それが嬉しいです。
「分からないなら、どこが分からないか言う」って、次やってみます。
EGUIが少しだけ頷いた。
「それでいい」
wataが笑う。
「決めてるやん、もう」
mcRCは言った。
「うん」
「もう一個、準備できたな」
コメント欄には、他の人たちも次々に書き込んでいた。
会議の人です。私も見てました。
「タイミング待ちで芯が減る」刺さりました。
明日の会議、先に一個だけ意見メモしていきます。
高校生です。教科書読むのはまだ嫌だけど、好きなこと一個持っとくって言葉、覚えます。
好きな人の前で死んでた人です。死んでません。
でも今度は一個話題用意していきます。
wataが最後のコメントを読んで吹き出した。
「死んでた人、生きてました」
EGUI。
「よかった」
mcRCも笑った。
「いや、ほんまによかった」
コメント欄がまた笑いで流れる。
でも、空気は温かかった。
mcRCは、画面を見る。
「ありがとう」
「ほんまに」
「この曲、作れてよかったです」
wataが頷く。
「初オーダー、かなり良かったな」
EGUIが言う。
「ちゃんと返せた」
mcRCは少し考えてから言った。
「ここから少し、歌詞の話してもいい?」
コメントがすぐ反応する。
聞きたい
聞きたい!
解説待ってた
考察班出番
ここどういう意味?
隠れた価値ならまだ半端モン聞きたい
mcRCのVerseのミラー前って何?
wataのタイミング待ち刺さった
EGUIの好きからでいい、聞きたい
wataが笑う。
「考察班、早い」
EGUIが言う。
「始まったな」
mcRCは少し笑って、歌詞カードを持った。
「まず、この曲は“当てられるの嫌だよね”だけの曲にはしたくなかった」
「それだけやと、怖かったね、で終わるから」
「そうじゃなくて、なんで怖いのか」
「その奥に何があるのか」
「そこを見たかった」
コメント。
うん
準備してない自分が見える
そこ刺さった
怖いの奥を見るのリバクラっぽい
mcRCは続ける。
「俺のVerseは、朝のミラー前から始めてる」
「これは、人前に立つ直前の話じゃなくて」
「もっと手前」
「勝負って、当日だけじゃない」
「朝、靴を履くところから、姿勢から、声から」
「日々の自分を雑にしないことが、決める準備になると思った」
wataが頷く。
「RCっぽいよな」
「場に出る前に、景色を整える」
EGUIが言う。
「雑に見せて、中身見ろは違う」
mcRCはその言葉に頷いた。
「そう」
「中身が大事なのは当然」
「でも、入口を閉じたまま“中身を見てくれ”は、ちょっと違う」
コメントが速くなる。
入口を閉じたまま中身を見てくれは違う
見た目だけじゃないけど外に出す必要ある
mcRC思想だ
景色作る人だ
「他の曲とも意味が繋がってない?これ」
「こんなコメントも来てるぞ」
wataはがいう。
mcRCは少し笑った。
「そこまで考えて聞いてくれるの、すごいな」
「でも、繋がると思う」
「外だけじゃfake、中だけじゃlate」
「届かないなら、まだ未完成」
コメントが沸く。
うわ
回収きた
リバクラ曲つながるの好き
そういうとこ!
wataが自分の歌詞カードを見る。
「俺のとこは、“正解待ち”ですね」
「完璧な準備ができてから行こうとすると、たぶん一生行かない」
「でも、何も準備せずに突っ込めって話でもない」
「small step」
「quietにtry」
「地味な反復」
「一回ずつ、自分の中に使えるものを増やしとく」
コメント。
wataさんの説明わかりやすい
韻だけじゃない
正解待ち、ほんと便利な言い訳
small stepいい
これ勉強にも使える
EGUIが言う。
「正解待ってる時間で、芯が減る」
wataが頷く。
「それ」
「動いて失敗するのも怖いけど、止まり続けるのも削れる」
mcRCが言う。
「止まるって、安全に見えて、少しずつ自分を削る時あるよな」
コメント。
わかる
それ
動かない方が楽だけど苦しい
準備して動く、か
EGUIの番になる。
EGUIは、歌詞カードを見ない。
「俺は、好きなもん持っていけって話」
wataが笑う。
「短っ」
EGUIは構わず続ける。
「得意かどうかって、後からでいいと思ってる」
「最初から得意なことだけやろうとすると、何も残らん」
「好きなもんは、下手でも持っていける」
「その熱があれば、準備できる」
「準備できたら、いつか決められる」
コメントが静かに流れる。
EGUIさん……
好きなもんは下手でも持っていける
泣く
それでいいんだ
趣味勢救われる
物語でもいいって言ってくれてありがとう
EGUIは少しだけ目を伏せた。
「あと」
「見せるって、媚びることじゃない」
「自分の火を外に持ち出すことやと思う」
コメントが跳ねる。
ここ大好き
媚びることじゃない
火を外に持ち出す
EGUI名言多すぎ
Straightすぎる
wataが言う。
「今日のEGUI、優しいな」
EGUI。
「普通」
wata。
「普通が優しい日あるんや」
EGUI。
「うるさい」
mcRCが笑う。
コメントも笑う。
その後、質問がいくつか流れた。
「隠れた価値ならまだ半端モン」って、きつくないですか?
mcRCは、そのコメントを拾った。
「これ、いい質問やな」
EGUIが画面を見る。
wataも少し真面目な顔になる。
mcRCは言った。
「きついと思う」
「でも、わざときつくしてる」
コメントが静かになる。
「価値って、あるだけで尊い」
「それはそう」
「でも、届かせたいなら、外に出さないといけない」
「自分の中にあるだけでは、守れるけど、届かない」
wataが続ける。
「未承認の価値って、見つかって初めて誰かを救えることがあるんよな」
「自分だけが知ってる価値も大事」
「でも、それを表に立たせた時に、初めて“必要だった”って言われることがある」
EGUIが短く言った。
「隠してる限り、誰も使えん」
少し強い。
でも、芯だった。
コメントがゆっくり流れる。
なるほど
きついけど必要
自分の中にあるだけでは届かない
未承認の価値……
リバクラっぽい
痛いけど分かる
mcRCは頷いた。
「だから、この曲は」
「お前には価値があるよ、だけでは終わらない」
「価値があるなら、出せるようにしよう」
「そのために準備しよう」
「ここぞで決めよう」
「そういう曲です」
コメント。
まとめが強い
甘くない応援歌
準備の歌だ
これが聞きたかった
明日やるわ
wataが少し照れたように笑う。
「明日やるわ、いいな」
EGUI。
「それが一番」
mcRC。
「曲聞いて終わりじゃなくて、何か一個変わったら嬉しい」
コメントの中に、またケイの名前が流れた。
ケイです。
明日の朝、会議前に一個だけメモ作っていきます。
もし振られたら、「考え途中ですけど」って言って一個出してみます。
三人が黙った。
wataが、少しだけ目を細める。
「……もう決めてるやん」
EGUIが頷く。
「それでいい」
mcRCは、声を落として言った。
「ケイくん、それできたら、また教えて」
コメント欄が温かくなる。
ケイくん頑張れ
でも無理すんな
一個でいい
準備してる時点で勝ち
風呂場の天才、現場へ
wataが笑った。
「風呂場の天才、現場へ。サブタイトルみたいやな」
EGUI。
「採用するな」
「しない」
配信は、そのまましばらく続いた。
曲の話。
ストリートの話。
オーダー文化の話。
リバ点呼の話。
そして、なぜかまたプロテインの話。
wataが言う。
「プロテインバー、前回減ってなかったやつ、今日食べました」
コメント。
甘かった?
EGUIさん食べた?
チョコ味?
風呂場で食べた?
EGUIが嫌そうに言う。
「風呂場で食うな」
mcRCが笑う。
「そこだけ現実的」
wata。
「チョコ味はやっぱり強い」
EGUI。
「甘い」
wata。
「まだ言う」
mcRC。
「でも今日の曲、甘すぎなかったやろ」
wataが笑う。
「うまいこと言うたつもり?」
EGUIが言う。
「今のは微妙」
コメント。
微妙判定w
甘すぎない応援歌
プロテインから曲に戻すな
リバクラこういうとこ好き
配信終了の時間が近づく。
mcRCは画面を見る。
「今日はありがとう」
「初オーダー曲、ちゃんと届けられたなら嬉しいです」
wataが言う。
「次もオーダー拾うかは分からんけど」
EGUI。
「刺さったら拾う」
mcRC。
「そう」
「刺さったら、逃がさない」
コメント。
刺さったら逃がさない
オーダー文化最高
次も楽しみ
決めろ音源化して
配信ありがとう
リバクラ最高
三人は手を上げた。
「Reverse Crownでした」
配信終了。
画面が暗くなる。
部屋が、急に静かになる。
三人は数秒、何も言わなかった。
さっきまでコメントが流れていた空気が、急に消える。
この落差には、まだ慣れない。
wataが椅子にもたれた。
「……おつかれ」
EGUIが低く返す。
「おつかれ」
mcRCも息を吐いた。
「おつかれ」
しばらく、誰も動かなかった。
wataがスマホを開く。
「数字見る?」
mcRCが少し顔をしかめる。
「見るの怖いな」
EGUI。
「見ろ」
「なんで」
「現実」
wataが笑う。
「EGUI、現実担当やめて」
それでも、三人は画面を覗き込んだ。
同時接続。
前回より増えている。
コメント数。
明らかに多い。
フォロワー。
配信開始前より増えている。
切り抜き。
もういくつか上がっている。
「早」
wataが言う。
「誰や、もう切ってんの」
mcRCは画面を見る。
トップに出ていた切り抜きは、EGUIのラインだった。
「見せるって、媚びることじゃない。自分の火を外に持ち出すことだ」
再生数は、まだ小さい。
でも、伸び始めている。
wataがEGUIを見る。
「名言男」
EGUIが嫌そうにする。
「やめろ」
mcRCは笑った。
でも、すぐに黙った。
増えている。
数字が。
見てくれる人が。
曲を待つ人が。
自分たちの言葉を、拾ってくれる人が。
嬉しい。
それは間違いない。
でも、怖い。
「……増えたな」
mcRCが言った。
wataが頷く。
「増えた」
EGUIも見る。
「うん」
mcRCは、スマホから目を離した。
「少しずつやけど」
「こうやって、俺らの値が認められたら嬉しいな」
wataが少し笑う。
「値って言い方、急にデータ感あるな」
「価値って言うと重いかなって」
「いや、値の方が理系っぽい」
EGUIが言う。
「でも分かる」
少し沈黙。
mcRCは続けた。
「たださ」
「増えると、落ちる時怖いんよな」
wataが「あー」と言った。
EGUIも小さく頷く。
mcRCは苦笑した。
「俺、素直に喜べねえんだよ」
wataが言う。
「分かる」
EGUI。
「分かる」
mcRCが二人を見る。
「全員かよ」
wataは椅子の上で膝を抱えるように座った。
「俺ら、性格違うはずなんやけどな」
EGUI。
「根っこ同じなんやろ」
mcRCが笑う。
「同族嫌悪持ちの、やらしい性格」
wataが吹き出した。
「言い方最悪やん」
EGUIが真顔で言う。
「でも合ってる」
「合ってるんかい」
少し笑いが戻る。
その笑いは、配信中の笑いとは違った。
疲れた後の笑い。
安心と不安が混ざった笑い。
wataが言う。
「でも、今日のは勝ちでいいやろ」
EGUIが頷く。
「勝ち」
mcRCは少し黙ってから言った。
「うん」
「小さい勝ち」
wataが笑う。
「また出た」
EGUI。
「でも勝ち」
mcRCも笑った。
「でも勝ち、やな」
wataは、歌詞カードを手に取った。
「決めろ、ライブでやったら盛り上がりそうやな」
EGUI。
「コールできる」
mcRC。
「リバ点呼からの決めろ、やばそう」
wata。
「点呼で“今日決めたい人”って聞く?」
EGUI。
「重い」
wata。
「じゃあ“今日ちょっと準備してきた人”」
mcRC。
「それいいな」
EGUI。
「準備してきたやつ、手上げろ」
wata。
「急に体育教師」
mcRCが笑う。
でも、すぐにメモを取った。
リバ点呼:今日準備してきた人
それは、また次の文化になるかもしれない。
リバクラは、曲を作って終わりじゃない。
曲が生まれると、その曲の周りに文化が生まれる。
ORDERからオーダー文化が生まれた。
ストリートからリバクルーと掃除が生まれた。
リバクラ朝礼からリバ点呼が生まれた。
決めろから、準備してきた人を呼ぶ文化が生まれるかもしれない。
mcRCは、少しだけ怖くなった。
文化は、育つ。
自分たちが思ったよりも速く。
wataが、スマホを見ながら言った。
「コメント、もう考察始まってる」
「どれ?」
wataは読み上げた。
「“決めろ”は、自己肯定じゃなくて、自己提示の曲」
mcRCが少し目を開く。
「……すごいな」
EGUI。
「合ってる」
wataは次を読む。
「“ORDERは欲しいと言う曲。決めろは出せるように準備する曲。つまり受け取る場所から、出す場所への変化”」
mcRCは黙った。
wataも少し黙る。
EGUIがぽつりと言う。
「考察班、怖いな」
wata。
「俺らより整理してない?」
mcRCは苦笑した。
「でも、嬉しい」
本当に嬉しかった。
曲が、自分たちの手を離れている。
聴いた人が、意味を見つけている。
言葉の裏に潜って、つなげて、掘っている。
それは、少し怖い。
でも、すごく嬉しい。
wataが言う。
「そのうち、俺らが何も考えてないところまで意味出されるで」
EGUI。
「それはそれでええやろ」
mcRC。
「曲が勝手に育つってことやしな」
wataは少し笑って、スマホを置いた。
「考察対象か、俺ら」
EGUI。
「面倒やな」
wata。
「嬉しそうやん」
EGUI。
「うるさい」
mcRCは、歌詞カードをもう一度見た。
決めろ。
この曲は、初めてオーダーから生まれた曲だった。
でも、ただの“返事”ではなかった。
ケイの話を拾った。
みんなの共感を拾った。
そして、自分たちの痛みも拾った。
だから、自分たちの曲になった。
mcRCは思う。
これなら、次も作れる。
誰かの声に寄りかかるのではなく、誰かの声と自分たちの痛みが重なったところを曲にする。
それが、オーダー文化の本当の形なのかもしれない。
wataが立ち上がった。
「腹減った」
EGUIが即答。
「飯食え」
mcRCが笑う。
「生活に戻るの早いな」
wata。
「いい曲作ったら腹減るんよ」
EGUI。
「それは分かる」
mcRC。
「何食う?」
wataは少し考えて言った。
「ラーメン」
EGUI。
「重い」
wata。
「決めろの後やぞ。決めたいやろ」
mcRCが笑う。
「飯で決めるな」
EGUI。
「でも行くか」
wata。
「行くんかい」
三人は笑いながら、片付けを始めた。
ライトを消す。
マイクを片付ける。
歌詞カードをまとめる。
シェイカーを洗う。
配信部屋が、少しずつただの部屋に戻っていく。
でも、机の上の紙だけは残っていた。
決めろ
mcRCは、それを手に取った。
折らずに、クリアファイルに入れる。
wataがそれを見て言う。
「大事にするやん」
mcRCは答えた。
「初オーダーやからな」
EGUIが言う。
「始まりの一個」
mcRCは頷いた。
「うん」
「始まりの一個」
部屋を出る前に、mcRCは一度だけ振り返った。
さっきまで、ここにコメントが流れていた。
ケイがいた。
会議の人がいた。
高校生がいた。
好きな人の前で死んでない人がいた。
風呂場の天才が大量にいた。
そして、その全員が、少しずつ自分の準備を始めようとしていた。
それだけで、今日は十分だった。
いや。
十分すぎた。
mcRCは小さく言った。
「次、もっとちゃんとやろう」
wataが振り返る。
「次もある前提やな」
EGUIが言う。
「あるやろ」
mcRCは笑った。
「あるようにする」
三人は部屋を出た。
廊下の灯りが、少しだけ白かった。
外に出れば、夜。
腹が減っている。
明日も生活がある。
でも、今日の曲はもう、誰かの中に置かれている。
“はいあなた”と振られた時。
会議で意見を求められた時。
好きな人の前で言葉が止まった時。
面接で自分のことを聞かれた時。
その瞬間に、誰かが少しだけ思い出すかもしれない。
決めろ。
怒鳴る声ではなく。
準備してきた自分を、外に出す合図として。
リバクラの第一オーダーは、配信で鳴った。
そして、そこから。
考察する人が生まれた。
次のオーダーを考える人が生まれた。
自分の明日の準備を始める人が生まれた。
小さな文化が、また一つ増えた。
Reverse Crownは、まだ小さい。
でも、もうただの三人ではない。
曲が、人の生活へ入っていく。
その始まりを、三人は確かに見た。
この話にはイメージソングがあります。
聴く場合はこちら:
コピペしてブラウザに貼り付けて、、、かっこいいからさ、、、
新曲、決めろ!
https://youtu.be/P_2d3hcx3Uw?si=H1nfE4uKhb_KBCHf




