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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
俺たちがリバースクラウンだ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/60

1-2-1 ORDER STREET

この作品にはイメージ楽曲があります。

ページ下部のリンクから聴けます。

読後の余韻に合わせてどうぞ。

駅前から少し離れた広場は、夕方になると、街の音が少しだけ丸くなる。


昼間はただの通り道だった場所。

ベンチがあって、植え込みがあって、白いタイルの地面が広がっていて、端の方にはイベント用の電源ボックスがある。


普段なら、誰もそこを目的地にはしない。


人は流れる。


駅へ向かう人。

駅から出てくる人。

コンビニに寄る人。

スマホを見ながら歩く人。

誰かと待ち合わせしている人。

今日という一日を早く終わらせたい人。


その中に、今日は少しだけ違う空気が混じっていた。


まだ開始時間の四十分前。


けれど、広場の端には、もう何人かが立っていた。


一人で来たらしい男が、スマホを何度も確認している。

高校生くらいの二人組が、遠巻きに看板を見ている。

仕事帰りらしいスーツ姿の女性が、紙袋を足元に置いて、イヤホンを片方だけ外している。

少し離れたベンチには、コンビニのカフェラテを持った男が座っていた。


全員が、まだ互いに話しかけてはいない。


でも、目線だけは同じ場所に集まっていた。


白線で囲まれた、広場の一角。


そこに、今日のストリートパフォーマンス用の小さなスペースがある。


「……いる」


wataが、車から機材ケースを下ろしながら言った。


「人が、いる」


mcRCは、その声に振り向いた。


「そら、来るって言ってくれてたやろ」


「いや、ネットの“行きます”は、現実では五割消えるって有名やん」


「どこの統計だよ」


EGUIがスピーカーケースを片手で持ちながら言った。


「wata調べ」


「信頼度低いな」


「でも体感は合ってる」


wataは少し照れたように笑って、広場の方を見た。


「……ほんまに来てくれたんやな」


その言葉だけは、茶化していなかった。


mcRCも、少し黙って広場を見た。


配信では、たしかに盛り上がった。


「今度ストリートやります」と言ったら、コメント欄はかなり騒いだ。


行く。

近い。

行けない。

配信して。

生でORDER聴きたい。

許可取ってるのえらい。

ゴミ袋持ってく。


でも、画面の中の熱は、現実の移動には簡単に負ける。


当日になれば、仕事が長引く。

疲れる。

雨が降る。

気分が落ちる。

面倒になる。

一人で行くのが怖くなる。


人が何かに来るというのは、それだけでもう、かなり大きい行動だった。


「来た人、ちゃんと見よう」


mcRCが言った。


wataが頷いた。


「それはそう」


EGUIが短く言う。


「来た時点で、もう参加してる」


その言い方が、EGUIらしかった。


派手に褒めない。

でも、価値だけは見落とさない。


三人は機材を運び始めた。


小型スピーカー。

マイクスタンド。

マイク三本。

ケーブル。

折りたたみテーブル。

予備の電池。

養生テープ。

簡単な看板。

水。

タオル。

そして、なぜかプロテインバー。


wataがプロテインバーの箱を見て言った。


「これ誰が持ってきたん」


mcRCが答える。


「俺」


「ライブ前に配るん?」


「配らん。俺ら用」


EGUIが箱を見た。


「何味」


「チョコ」


EGUIは少しだけ顔をしかめた。


「甘い」


wataが笑う。


「まだ食ってないのに文句言うな」


「チョコ味は大体甘い」


「それはそう」


三人がそうやって機材を置いていると、最初に声をかけてきたのは、ベンチに座っていた男だった。


「あの……」


三人が同時に振り向く。


男は、少し慌てたように立ち上がった。


「すいません、リバクラの……」


wataがすぐ笑った。


「はい、リバクラの者です」


「者ってなんや」


mcRCが突っ込む。


男は少し笑って、それで少し緊張がほどけたようだった。


「配信、見てました。ORDERの回」


「ああ、ありがとう」


mcRCが言うと、男は目線を下げて、でも嬉しそうに続けた。


「本当にやるんですね」


「やるよ」


EGUIが短く言った。


「言ったからな」


その答えに、男は少し驚いたような顔をした。


たぶん、冗談みたいな告知だと思っていたのかもしれない。


“やれたらやる”くらいの。


でも、EGUIの声は違った。


やる。


その一語だけで、今日ここに来た意味が、少しだけ確かなものになる。


「手伝いますか?」


男が言った。


mcRCは一瞬迷った。


許可制の場所。

機材。

安全。

通行人。


本来なら、観客を準備に巻き込むべきではない。


でも、その言葉を雑に切るのも違う。


「ありがとう」


mcRCは言った。


「でもケーブルとかはこっちでやる。危ないから」


男は少し残念そうに頷いた。


その時、wataが箱を持ち上げた。


「じゃあこれ、そこ置いてくれる?」


「え、いいんですか?」


「プロテインバー係、任命」


「なんですかそれ」


EGUIが真顔で言う。


「重要職」


「ほんとですか?」


「知らん」


男が吹き出した。


それを見て、周囲の数人も笑った。


その笑いで、広場の空気が一段近くなる。


まだライブは始まっていない。


でも、もう“ただ待っている人たち”ではなくなっていた。


準備している三人と、それを見ている人たち。


その間に、小さな会話が生まれ始めていた。


高校生の二人組が、少しずつ近づいてきた。


「あの、写真撮っていいですか?」


mcRCはすぐ答えた。


「機材準備中の写真なら、周りの人が写らんようにしてくれたら」


wataが横から言う。


「俺がめっちゃかっこいい角度なら可」


EGUIが言った。


「機材持って汗かいてるだけやぞ」


「それがいいんやろ。働く男のリアル」


女子高生の一人が笑った。


「じゃあ、働く男のリアルで」


「採用された」


wataが少しポーズを取る。


EGUIがスピーカーケースを置きながら言う。


「サボるな」


「今、広報活動」


「便利な言葉に逃げるな」


mcRCは、そんな二人を見ながら、白線の内側を確認した。


通行導線。

スピーカーの向き。

近隣店舗への音の抜け方。

観客が集まった時の立ち位置。

ベンチ利用者の邪魔にならないか。

自転車が通るルート。


場を見る。


誰よりも先に、場を見る。


それは癖だった。


目の前の一人だけを見ればいいわけではない。


ライブは、自分たちとファンだけのものではない。


この場所を普段使っている人がいる。

通り過ぎる人がいる。

店がある。

警備がある。

行政の許可がある。


そこまで含めて場だった。


「RC、顔が現場監督」


wataが言った。


「言い方」


「いや、マジで。安全確認してる時の顔」


EGUIが頷く。


「必要やろ」


「必要やけど、ラッパーの顔ではない」


mcRCは苦笑した。


「ラップも現場やろ」


wataが一瞬黙って、それから笑った。


「それ、ちょっといいな」


「採用?」


「いつか」


その会話を聞いていたリスナーが、小さく呟いた。


「ラップも現場……」


別の人が言う。


「メモってる人いる」


「もう考察班?」


「早い早い」


wataがその声を拾う。


「考察班、まだ始めんでいいです」


EGUIが言う。


「でも始まる時は勝手に始まる」


「それは怖い」


mcRCは笑いながら、マイクを一本立てた。


その時、通りがかった年配の男性が看板を見る。


「リバース……クラウン?」


mcRCが振り向く。


「はい。今日ここで少しラップやらせてもらいます」


「ラップか」


男性は少し眉を上げた。


その表情に、wataが少し身構える。


苦手な顔だった。


“うるさいんじゃないか”

“若いのが騒ぐんじゃないか”

“迷惑じゃないか”


そう言われる前の顔。


でも、mcRCは穏やかに続けた。


「許可を取って、時間と音量守ってやります。通行の邪魔にならないようにしますので」


男性は少しだけ表情を緩めた。


「そうか。ならいい」


そして、少し間を置いて言った。


「若い人が何かやるのは、悪いことじゃない」


そう言って、ゆっくり歩いていった。


wataが小声で言う。


「今の、助かったな」


mcRCは頷く。


「最初の印象で変わるからな」


EGUIが言う。


「騒ぐ前に、ちゃんとしてるって見せる」


「そう」


mcRCは看板の位置を少し直した。


看板には、手書きに近いフォントでこう書いてある。


Reverse Crown STREET LIVE

ORDER / NO FAKE / ATTACK

許可取得済み・短時間パフォーマンス

通行の妨げにならないようご協力ください


wataが看板を見て言った。


「真面目すぎん?」


EGUIが即答する。


「ええやろ」


「もうちょい遊び心ほしくない?」


「注意事項に遊び心入れすぎると読まん」


mcRCが笑った。


「後で俺らが遊ぶから、看板は真面目でいい」


「それはそう」


開始二十分前。


人は少しずつ増えていた。


最初から来ていた人たちが、互いに話し始めている。


「あ、もしかして配信で“水派”ってコメントしてた人ですか?」


「え、なんでわかるんですか」


「プロフ画像見たことある」


「怖っ」


「いや、いい意味で」


「いい意味の怖っって何」


別の場所では。


「初めて来たんですけど、どんな感じですか?」


「明るいけど、急に刺してきます」


「怖いですね」


「でも基本おもろいです」


「情緒どうなってるんですか」


「リバクラです」


「説明になってない」


また少し離れたところでは、仕事帰りの女性がスーツの男性と話していた。


「配信では見てたけど、現地は初めて」


「自分もです。ちょっと緊張しますね」


「わかります。ライブっていうか、集まりに来た感じ」


「それ、わかる」


mcRCは、その会話を耳に拾っていた。


集まり。


そう。


まだ“ライブ”と言うには小さいかもしれない。


でも、ただの路上演奏でもない。


何かが集まっている。


人が、曲を聞きに来ているだけじゃない。


自分の生活の欠片を持ってきている。


仕事帰りの疲れ。

学校の退屈。

家に帰る前の寄り道。

誰かに会う緊張。

ひとりで来た不安。


それらが、広場の空気に混ざっていた。


「RC」


EGUIが呼ぶ。


「時間」


スマホを見る。


開始十分前。


wataが軽く肩を回した。


「やばい。ちょっと緊張してきた」


「今さら?」


「いや、配信はさ、失敗しても最悪ミュートできるやん」


mcRCが笑う。


「できんやろ」


「気持ちの話」


EGUIがマイクチェックをしながら言う。


「現地は目がある」


「そう、それ」


wataは客席を見た。


「しかも近い」


本当に近かった。


ステージの高さはない。


目線がほぼ同じ。


前列の人の表情が見える。


手の震えも、笑いも、緊張も、全部見える。


mcRCは言った。


「だからいいんやろ」


wataは少し黙った。


それから、にっと笑った。


「まあな」


「逃げ場ない方が、刺さる時ある」


EGUIが短く言う。


「嘘つけんからな」


その言葉で、三人の空気が少し締まった。


ただ盛り上げるだけじゃない。


今日は初ストリート。


ここで、リバクラが“画面の中の三人”から、“現実の街に立つ三人”になる。


その重さは、三人とも分かっていた。


開始五分前。


mcRCが一歩前に出た。


「じゃあ、始める前に」


ざわつきが止まる。


「リバクラ朝礼やります」


客席から声が上がった。


「きた!」


「リバ点呼!」


「本当にやるんだ!」


通行人が不思議そうに立ち止まる。


wataがマイクを持つ。


「初見さん、びっくりしないでください」


「これはライブ前の儀式です」


EGUIが続ける。


「怪しくはない」


wataが即座に言う。


「怪しくないって言うと怪しい」


「じゃあ怪しい」


「認めるな」


笑いが広がる。


mcRCが手を上げた。


「起立」


前の方のリスナーが、嬉しそうに立つ。


後ろの人も立つ。


ベンチに座っていた人も、少し迷って立つ。


通行人の何人かは、何が起きているのか分からない顔をしている。


wataが言う。


「座ってても心で立ってたらOKです」


EGUIが言う。


「無理すんな」


mcRC。


「礼」


全員が頭を下げる。


「お願いします!」


声が広場に響いた。


その瞬間。


駅前のただの広場が、少しだけ“リバクラの場所”になった。


mcRCは顔を上げた。


「点呼します」


歓声。


「mcRC」


wataとEGUI、そして前列の何人かが声を揃えた。


「はい!」


「wata」


「はい!」


wataは自分で返事をして、少し照れる。


「自分で返事するの変やな」


「やれ」


EGUIが言う。


「EGUI」


「はい」


低い声。


なぜか拍手。


EGUIが少し目を細める。


「なんで俺だけ拍手」


wataが言う。


「出席確認に重みがあるから」


「意味わからん」


mcRCは笑いながら続けた。


「今日、初見の人」


思ったより手が上がった。


「おお」


wataが目を丸くする。


「結構いる」


mcRCが言う。


「ようこそ。今日からリバクルー仮入部です」


「仮なんだ」


誰かが笑う。


EGUIが言う。


「本入部は帰る時に決めろ」


wataがすぐ拾う。


「退会自由、ただし沼は深い」


また笑い。


mcRC。


「今日、仕事帰りの人」


手が上がる。


「学校帰りの人」


手が上がる。


「なんかよくわからんけど来た人」


ちらほら上がる。


wataが言う。


「それが一番強い」


EGUIが頷く。


「行動力ある」


mcRCは少し声を落とした。


「今日、疲れてる人」


手が上がる。


かなり多い。


笑いが起きるかと思った。


でも、起きなかった。


誰も、茶化さなかった。


mcRCは、その手を見た。


仕事帰りの男。

女子高生。

スーツの女性。

ひとりで来た青年。

ベンチに座っていた男。


それぞれの手。


それぞれの今日。


mcRCは頷いた。


「じゃあ、今日はその疲れごと来てくれてありがとう」


静かになる。


「全部置いてけ、とは言わん」


「持って帰らなあかんものもあるから」


少し笑いが起きる。


「でも、今日この時間だけ」


「その疲れが、ちょっとだけ違う形になるように」


「俺ら、やります」


wataがマイクを上げる。


「じゃあ声出せる人」


「声、貸して」


EGUIが短く言う。


「無理はすんな」


wataが続ける。


「でも出せるやつは出せ」


客席から声。


「うおおお!」


「よし」


mcRCが言う。


「Reverse Crown、始めます」


最初のビートが鳴った。


ORDER。


低音が、白いタイルの地面を震わせた。


通行人が振り向く。


近くのコンビニから出てきた人が、袋を持ったまま立ち止まる。


高校生たちがスマホを構える。


スーツの女性が、片方のイヤホンを完全に外す。


mcRCがマイクを握る。


「オーダーくれよ more and more」


その声が、広場に出た。


配信とは違う。


部屋の壁に返る声ではなく、街に抜けていく声。


風に混じって、歩く人の耳に引っかかる声。


wataが入る。


「王様気取り? no, that’s wrong」


軽く跳ねる。


言葉の粒が、ビートの上を転がる。


前列の数人が身体を揺らし始める。


EGUIが低く入る。


「気分は low?ならここ集合」


その一言で、仕事帰りの男が少し笑った。


「腹が減った? 夢が減った?

なら俺らが火を入れるぞ」


歓声が上がる。


「夢が減ったー!」


誰かが叫んだ。


wataが笑いながら指差す。


「補充してけ!」


Hook。


「Order, order 遠慮はいらない

No border, no border 線なんかいらない」


三人の声が重なる。


最初は小さかった観客の手拍子が、少しずつ揃う。


通行人の何人かが、足を止める。


完全に立ち止まる人。

歩きながら見ている人。

スマホを向ける人。

少しだけ聞いてまた歩き出す人。


全部いる。


でも、確実に広がっている。


mcRCはVerseに入る。


仕事の朝。


改札。


階段。


缶コーヒー。


現場。


段取り。


締切。


汗。


生活の中のORDER。


ただの盛り上げ曲ではない。


仕事帰りに刺さるように作った言葉が、今、本当に仕事帰りの人の前で鳴っている。


それが、mcRCの胸に来た。


wataのVerseでは、空気が少し軽くなる。


海。


潮風。


サンダル。


波。


ノンアルでchill。


観客が笑う。


「今日はノンアルでchill here」のところで、前列の誰かが缶コーヒーを掲げた。


wataが吹きそうになりながら、ラップを続ける。


EGUIのVerseで、空気がまた深くなる。


部屋。


間接照明。


ひとりの時間。


泣きたい夜。


playlist。


「助けて」でも「腹減った」でもいい。


その一言で景色は変わっていい。


このラインで、少しだけ静かになる。


さっきまで笑っていた人が、真剣に聞いている。


ORDERは、そういう曲だった。


明るい。


でも、軽くない。


最後のHook。


「Order, order まだ足りないだろ?

No border, no border ここじゃ関係ないぞ」


手拍子が大きくなる。


「お前の desire に火をつけに行くよ」


歓声。


「求められたら全部 answer

3MCで上がる――」


「ORDER!!」


前列が叫んだ。


三人が少し驚く。


でも、すぐに笑う。


曲が終わる。


拍手。


歓声。


まだ小さい。


でも、確かに熱い。


wataが息を吐く。


「……生ORDER、いいな」


EGUIが頷く。


「近い」


mcRCが客席を見る。


「ありがとう」


その声は、少しだけ低かった。


「今のがORDERです」


拍手。


「この曲は、俺らが上から何かをあげる曲じゃなくて」


「“何が欲しい?”って、こっちから聞きに行く曲です」


静かになる。


「欲しいって、言いにくいから」


「疲れたも」


「腹減ったも」


「助けてほしいも」


「見てほしいも」


「ほんまは、なかなか言えんから」


EGUIが続ける。


「言えんまま、終わるなよ」


wataがすぐに空気を戻す。


「まあ晩飯の注文は、近くのコンビニでお願いします」


笑い。


mcRCも笑う。


「そういう意味のORDERではない」


「でも飯は大事」


EGUIが言う。


「飯抜きで悩むと、だいたい悪化する」


客席から「わかる」という声。


wataが頷く。


「これ、今日一番実用的な話です」


また笑いが起きる。


その笑いの中で、通行人が少し増えた。


最初からいた人だけではない。


ORDERで足を止めた人が、そのまま残っている。


小学生くらいの子を連れた母親が、少し離れた場所で見ている。


年配の男性も、ベンチの近くに立っていた。


mcRCは、その人たちにも向けて言った。


「次、NO FAKEやります」


wataがマイクを回す。


「タイトルだけでだいたいわかるやろ」


EGUIが言う。


「嘘なし」


wata。


「説明が短すぎる」


EGUI。


「合ってる」


ビートが変わった。


ORDERの明るさから、少しだけ硬くなる。


NO FAKE。


まだ小説内では歌詞を全部出さない。


でも、曲の輪郭は見せる。


これは、リバクラが自分たちに向けても歌っている曲だった。


かっこつけたい。

よく見せたい。

でも、嘘の自分では続かない。


配信者としても、ラッパーとしても、社会人としても。


見せ方は大事。


でも、虚飾だけでは空洞になる。


mcRCは、景色を作る。


駅前のガラス。

疲れた顔。

整えた襟。

でも、隠せない目の奥。


wataは、韻を硬くする。


fake、face、phrase、place。

飾りと本音が、リズムの中で切り替わる。


EGUIは、真っ直ぐ言う。


「嘘で好かれても、あとで自分が死ぬだけだろ」


そのラインで、空気が少し沈む。


でも、沈んだ空気は悪くない。


誰かの胸に、ちゃんと落ちた音だった。


スーツの女性が、目線を落とした。


高校生の一人が、動画を止めて直接見た。


通行人だった男が、腕を組んだまま動かなくなった。


NO FAKEは、ORDERほど歓声を取る曲ではない。


でも、残る。


曲が終わった時、拍手は少し遅れて来た。


その遅れが、逆に本物だった。


wataが息を吸って言う。


「……今の、ちょっと空気重かった?」


客席から声。


「よかった!」


「刺さった!」


「かっこいい!」


別の声。


「ちょっと痛い!」


EGUIが言う。


「痛いなら届いた」


wataが笑う。


「治療行為みたいに言うな」


mcRCは頷いた。


「でも、痛い曲もいるよな」


少し静かになる。


「上がるだけじゃなくて」


「見ないようにしてたところを、ちょっと見る曲」


wataが付け足す。


「でも見すぎるとしんどいので、次は暴れます」


空気が一気に戻る。


「ATTACK!!」


歓声が上がる。


ここで、リバクラは一気にギアを変えた。


ATTACK。


これはライブで映える曲だった。


攻撃というより、外に出す曲。


胸の奥のfireを、外へ放つ曲。


さっきまで腕を組んでいた人も、少し身体を揺らす。


高校生たちは完全に乗っている。


wataが煽る。


「手、上がるか!」


手が上がる。


まだ遠慮がち。


「もっと!」


さらに上がる。


EGUIが叫ぶ。


「壁の向こうまで飛ばせ!」


歓声。


mcRCは、広場全体を見た。


最初は点だった人が、今は輪になっている。


まだ大きくはない。


でも、確かに輪だ。


ORDERで集まり、NO FAKEで刺さり、ATTACKで跳ねる。


三曲で、空気ができていく。


途中、wataが少し歌詞を飛ばしかけた。


でも、すぐに韻で戻した。


前列が笑う。


EGUIが横目で見る。


wataがラップしながら片手で「すまん」とやる。


その瞬間、会場がまた笑った。


完璧ではない。


だから近い。


でも、雑ではない。


それが良かった。


ATTACKのFinal Hook。


「Turn it up, turn it up!」


客席が返す。


「Hey!」


「Hands up, hands up!」


「Hey!」


声が、広場に響く。


仕事帰りの人。

高校生。

通行人。

初見。

配信勢。

よくわからず止まった人。


全員が、同じ掛け声を出している。


mcRCは、一瞬だけ胸が詰まった。


これだ。


別々の生活が、同じ合言葉に集まる。


それが、リバクラのやりたいことだった。


曲が終わった瞬間。


拍手と歓声が広がった。


大歓声ではない。


会場を揺らすほどではない。


でも、駅前の広場としては、十分すぎる熱だった。


「もう一回!」


誰かが叫ぶ。


wataが笑う。


「それは嬉しいけど、時間があるんよ」


mcRCが頷く。


「そう。今日は許可時間があるので、ここで一旦終わります」


「えー!」


声が上がる。


EGUIがマイクを持った。


「えー、じゃない」


笑い。


「時間守らんと、次できん」


その言葉で、空気が少し落ち着く。


mcRCが続ける。


「ほんまに大事な話します」


ざわつきが止まる。


「今日、来てくれてありがとう」


「足を止めてくれた人もありがとう」


「でも、この場所は俺らだけの場所じゃないです」


「通る人がいる」


「近くの店がある」


「普段使ってる人がいる」


「だから、騒ぐ時は騒ぐ。でも迷惑はかけない」


wataが言う。


「ゴミは持って帰る」


EGUI。


「通路ふさがない」


wata。


「酔っ払いは節度」


EGUI。


「節度なくなったら、たたきつぶすかもしれん」


客席が爆笑する。


「怖い!」


「EGUIさんこわ!」


「節度持ちます!」


mcRCが笑いながら手を振る。


「冗談やけど、半分本気です」


wataが言う。


「半分本気が一番怖い」


EGUIが真顔で返す。


「人に迷惑かけるなってだけや」


その一言は、まっすぐだった。


mcRCが続ける。


「俺ら、こうやってまたやりたいです」


「だから今日、ここにいる全員で、この場を守って帰りたい」


「来た時よりも美しく」


客席から声。


「遠足!」


「先生!」


wataが笑う。


「はい、リバクラ遠足です」


EGUI。


「帰るまでがライブ」


mcRC。


「あと、家帰って飯食って寝るまでがライブ」


wata。


「急に生活指導」


笑いが広がる。


でも、みんな分かっていた。


これは説教ではない。


続けるための約束だった。


mcRCは最後に言った。


「今日、ここにいた人たち」


「リバクルーです」


一瞬、空気が止まる。


それから歓声。


「リバクルー!」


「やった!」


「仮入部じゃなかった!」


wataが言う。


「仮入部から本入部へ昇格です」


EGUI。


「退会不可」


mcRC。


「いや退会は自由」


「でも、また来たくなったら来てください」


少し静かになる。


mcRCは、広場の顔を見た。


さっきまで知らなかった顔。


配信では名前だけだった人。


通りすがりで止まった人。


今日、初めてリバクラを知った人。


その全員に向けて言った。


「今日はありがとう」


「Reverse Crownでした」


三人が頭を下げる。


客席から拍手。


「ありがとう!」


「またやって!」


「ORDER最高!」


「NO FAKE刺さった!」


「ATTACKやばい!」


拍手の中で、mcRCは少しだけ顔を上げた。


遠くで、さっきの年配の男性が小さく拍手していた。


高校生たちはまだ興奮している。


スーツの女性は、スマホに何かを打ち込んでいる。


ベンチの男は、プロテインバーの箱を持ったまま、なぜか少し誇らしげだった。


wataがマイクを下ろして、ぽつりと言う。


「……よかったな」


EGUIが頷く。


「よかった」


mcRCは、少しだけ笑った。


「うん」


でもその声は、ただ嬉しいだけではなかった。


始まった。


本当に、始まってしまった。


画面の中で言っていたことが、現実の街に出てきた。


ORDERは、もう配信の曲だけではない。


誰かがここで手を上げた。

誰かが声を出した。

誰かが足を止めた。

誰かが「明日頑張れそう」と言った。


それだけで、曲の意味は少し変わる。


自分たちだけの曲ではなくなる。


リバクラの曲は、こうやって外に出ていくのかもしれない。


mcRCは、マイクスタンドを外しながら、広場をもう一度見た。


夕方の光は、ほとんど夜に変わっていた。


駅へ向かう人の流れは続いている。


街は相変わらず忙しい。


でも、その中に、今日だけ少し違う熱が残っていた。


wataが横から言う。


「RC」


「ん?」


「顔がまた現場監督」


mcRCは笑った。


「うるさい」


EGUIがスピーカーの電源を落としながら言う。


「でも、次もやれるな」


その言葉に、三人は少し黙った。


次。


もう、次の話をしている。


それが嬉しかった。


wataが言う。


「次、もっと人来るかな」


EGUI。


「来るかもしれん」


mcRC。


「来るようにするんやろ」


wataが笑った。


「出た」


「Scene Maker」


EGUIが短く言う。


「でも今日、作ったやろ」


mcRCは広場を見た。


「まだ入口や」


wataが頷く。


「入口にしては、ええ入口」


EGUIも言う。


「うん」


ライブの時間は終わっていた。


けれど、完全には終わっていなかった。


音が消えたあとに残るものがある。


さっきのORDER。


客席から出た声。


拾えなかった言葉。


言おうとして、言えなかった顔。


mcRCは、ケーブルを巻きながら言った。


「今日、声くれた人、ありがとう」


まだ残っていた数人が、そちらを見る。


「全部をその場で曲にはできんけど」


mcRCは、少しだけ笑った。


「でも、聞こえてるから」


その言葉に、少し空気が静かになった。


wataが、マイクをケースに入れながら続ける。


「言えんかった人も、別に負けちゃうからな」


EGUIが水のボトルをまとめながら言う。


「声が出ない日もある」


wataが頷く。


「そうそう。ここ、学校ちゃうし」


mcRCが笑う。


「当てる場所でもないしな」


その言葉が、後ろの方に残っていた若い男に、少し遅れて届いた。


男は、帰りかけていた。


片手にバッグ。


もう片方の手には、さっき買ったらしいコンビニの袋。


でも、その足が止まった。



その時、後ろの方から、小さな声が聞こえた。


「あの……」


三人が振り向く。


さっき、ATTACKの時に少し後ろで見ていた若い男だった。


たぶん、学生か、社会人になりたてくらい。


目線が少し泳いでいる。


声をかけるか迷って、でも来た、という顔だった。


「今日、めっちゃよかったです」


mcRCが言う。


「ありがとう」


男は少し笑って、それから唐突に言った。


「なんか……俺、当てられるの苦手なんすよ」


wataが首を傾げる。


「当てられる?」


「学校とか、仕事とかで」


男は少し恥ずかしそうに笑った。


「はいあなた、みたいに急に振られるやつ」


EGUIがじっと見る。


男は続ける。


「決めたらかっこいいのは分かるんすけど」


「いざ来ると、何も出てこなくて」


「だから、そういう場面がほんと嫌で」


その言葉に、近くにいた数人が反応した。


「あー……わかる」


「それ嫌」


「会議で急に意見聞かれるやつ」


「授業で当てられるの無理だった」


「面接も近い」


「好きな人の前で急に話すのも無理」


声が、少しずつ周囲に広がる。


男は驚いたように周りを見た。


自分だけだと思っていたことが、そうではなかったと知る顔。


mcRCは、その顔を見た。


wataは、少し真面目になっていた。


EGUIは、男から目を逸らさなかった。


まだ、ここで答えを出す場面ではない。


まだ、曲にする場面でもない。


でも。


何かが、確かに置かれた。


ORDERの後に。


NO FAKEの後に。


ATTACKの後に。


今日この広場に、次の火種が置かれた。


mcRCは、男に向かってゆっくり頷いた。


「……それ、ちょっと聞かせて」


男は少し驚く。


wataが笑う。


「今すぐ曲にはならんけどな」


EGUIが言う。


「でも、逃がさん方がいい話やな」


その一言で、周りが少しざわついた。


「え、これ……?」


「オーダー?」


「まさか」


mcRCはまだ言わなかった。


まだ早い。


でも、胸の奥では、もう少しだけ鳴っていた。


決める瞬間。


準備していない自分。


見られる怖さ。


“はいあなた”の心臓の跳ね方。


これは、たぶん。


次に進む。


mcRCは、マイクを片付けながら、広場の夜を見た。


初ストリートは終わった。


でも、リバクラの一日は、まだ終わっていなかった。

この話にはイメージソングがあります。

聴く場合はこちら:

コピペしてブラウザに貼り付けて、、、かっこいいからさ、、、


https://youtu.be/AdAhmiHwxfM?si=JoR8txDx_Np_zSHv

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Image Song

この物語のために制作したイメージ楽曲です。

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