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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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186/186

5-6-1 第五戦、夜のリバ朝礼



控え室の時計は、夜を指していた。


朝ではない。


会場の外は、もう暗い。

裏通路の白い照明は冷たく、床には黒いケーブルカバーが何本も走っている。

壁の向こうからは、観客のざわめきが低い波みたいに響いていた。


それでも、Reverse Crownの控え室には、いつもの言葉が必要だった。


夜でも。

本番前でも。

ここだけは、朝になる。


黒い衣装がハンガーから外されている。

逆さの王冠のマークが、胸元で照明を拾う。

サングラスがテーブルの上に三つ並ぶ。

マイクが三本。

水。

タオル。

スマホ。

曲順のメモ。


BEEFのワークキャップには、小さな肉マークが付いていた。

その横には、最近やけに自然になってきた逆さクラウンの小物もある。


BEEFはDJ機材のケースを開け、ケーブルを一本ずつ確認していた。


雑に見える手つき。

でも、端子を見る時だけ妙に丁寧だった。


wataは、スマホの画面を消した。


画面が黒くなる。

そこに、サングラスをかける前の自分の顔がぼんやり映る。


少し硬い。


でも、悪くない。


硬いなら硬いまま行けばいい。

気にしすぎるなら、その気にしすぎごと持って行けばいい。


Reverse Crownは、そういう三人だった。


気にする。

考える。

勝ちたいくせに、誰かを置いていくことも気にする。

盛り上げたいくせに、受け取れない人がいるんじゃないかと気にする。

楽しくしたいくせに、その楽しさが雑になっていないか気にする。


面倒くさい。


でも、そこが武器だった。


EGUIは水を一口飲み、喉を動かさないように息を整えている。


強く言えば届く。


ずっとそう思ってきた。


でも、今日の一曲目は、そういう入り方ではない。


殴る曲ではない。

引っ張り上げる曲でもない。

置いていく曲でもない。


そばへ向かう曲。


EGUIは、マイクを握る手の力を少しだけ抜いた。


mcRCは、鏡の前で袖口を整えていた。


黒い袖。

手首。

指先。

マイクを持つ手。


何度も見てきたはずなのに、今日は少しだけ違って見えた。


第5戦。


ここまで来ると、もう序盤の探り合いではない。


第1戦、第2戦では、客席もまだチームを測っていた。

第3戦では、MIRROR LINEという壁を見た。

第4戦では、負けた後のReverse Crownがどう立つのかを見られた。


そして今日。


もう、見られ方が違う。


黒衣装。

逆さの王冠。

サングラス。

3MC。

DJ BEEF。


最初は覚えやすい記号だった。


今は、違う。


「リバクラは来るかもしれない」

「第4戦で空気を変えた」

「BEEF込みで何かが起きる」

「決勝に絡むならここだ」


そんな言葉が、外にある。


けれど、控え室の中にあるのは、もっと単純なものだった。


やるか。

やらないか。


wataが椅子の背に手を置いて、首を回した。


「重いな」


mcRCが鏡越しに見る。


「重いな」


EGUIも短く言った。


「重い」


BEEFは、ケーブルを巻いたまま顔を上げずに言う。


「重いなら、軽く持つな」


wataが少し笑った。


「言い方よ」


「事実だろ」


EGUIが頷いた。


「まあ、そうだな」


少しだけ、空気が緩む。


でも、緩みきらない。


それでいい。


mcRCは、テーブルの上のサングラスを見た。


「今日も先攻や」


wataが息を吐く。


「またか」


EGUIが言う。


「先に出る方が好きだろ」


wataは少し肩をすくめる。


「好きやけどな。毎回、胃には来る」


BEEFがぼそっと言った。


「胃でラップすんな」


wataが即座に返す。


「お前は肉でDJすんな」


「してねえ」


「肉マークつけてるやん」


BEEFは無言でキャップのつばを触った。


wataが笑う。


「そこは触るんかい」


EGUIも小さく笑った。


mcRCは、その笑いを見てから、少しだけ息を吸った。


「やるか」


wataが頷く。


「やる」


EGUIも言う。


「やる」


BEEFは、短く言った。


「落とすなよ」


wataがすぐ返す。


「それ、こっちのセリフや」


BEEFは少しだけ口角を上げた。


「じゃあ、お互い様だな」


mcRCは、控え室の中央に立った。


三人とBEEFが、自然に集まる。


夜だ。


でも、始める言葉は同じだった。


mcRCが、静かに言う。


「リバ朝礼」


wataが背筋を伸ばす。


EGUIも立つ。


BEEFは、一拍遅れて立った。


wataが横目で見る。


「BEEFも立つんや」


BEEFが低く返す。


「うるせえ」


mcRCが言う。


「起立」


全員、もう立っている。


それでも、言葉が必要だった。


「礼」


四人が、少しだけ頭を下げる。


深すぎない。

かしこまりすぎない。

でも、雑ではない。


頭を上げた時、空気が一本通った。


mcRCが息を吸う。


「点呼」


まず、自分の胸に軽く拳を当てた。


「mcRC」


一拍。


「見る。聞く。行く」


それだけだった。


次に、wata。


「wata」


言葉を出す前に、指がわずかに動いた。


拍を取る癖。


けれど、すぐに止めた。


BEEFがそれを見ている。


wataは、少しだけ鼻で笑ってから言った。


「走る。噛まん。逃げん」


BEEFが短く言う。


「噛むなよ」


「そこ拾うな」


EGUIが少し笑った。


次に、EGUI。


「EGUI」


声は低い。


でも、固すぎない。


「通す」


それだけ言って、少し間を置いた。


「ちゃんと」


mcRCが頷く。


wataも短く言う。


「いい」


最後に、BEEF。


BEEFは、少しだけ面倒そうに息を吐いた。


「BEEF」


一拍。


「音、出す」


wataが即座に言う。


「雑!」


EGUIが笑う。


「点呼でそれは雑だろ」


BEEFは二人を見ずに続けた。


「止める時は止める。落とす時は落とす。戻す時は戻す」


mcRCが頷いた。


「頼む」


BEEFは、そこでようやくmcRCを見る。


「合図、遅れんな」


mcRCは笑った。


「努力する」


wataが言う。


「努力なんや」


「努力や」


EGUIが静かに言った。


「十分だ」


控え室の外で、スタッフの声が聞こえた。


「Reverse Crownさん、三分前です」


空気が変わった。


wataがサングラスを取る。


EGUIもマイクを確認する。


mcRCは、テーブルの上に置かれたサングラスを手に取った。


BEEFはキャップを深くかぶり直す。


白い照明が、控え室の壁を少し冷たく見せた。


mcRCがサングラスをかける。


wataもかける。


EGUIもかける。


レンズに控え室の光が小さく走る。


BEEFは機材ケースを持ち上げた。


扉が開く。


外の音が、急に大きくなった。


会場のざわめき。

スタッフの足音。

無線の短い声。

ステージ袖へ続く黒い通路。


四人は歩き出した。


ステージ袖は、熱かった。


先に終えたチームの余韻が、まだ空気に残っている。

スタッフがケーブルを巻き、照明スタッフが短い指示を飛ばしている。

大型スクリーンには、次の対戦カードが表示される直前の映像が流れていた。


客席は、もう落ち着いていない。


第5戦。


この試合の意味を、会場は分かっている。


勝てば、決勝進出へ大きく近づく。

他チームの結果次第では、その場で見えるものがある。


逆に、負ければ。


決勝への道は、一気に狭くなる。


誰かの結果を待つことになる。

自力で掴みに行く熱が、違う形に変わってしまう。


それを、司会も、解説も、客席も知っている。


だからこそ、会場の熱は明るいだけではなかった。


期待。

不安。

面白がり。

祈り。

勝負を見たい目。

変化を見届けたい目。


その全部が混じっていた。


司会者の声が、会場いっぱいに響いた。


「さあ、Sound Session本戦、第5戦!」


歓声が跳ねる。


大型スクリーンに、白い文字が走る。


SOUND SESSION MAIN LEAGUE

ROUND 5


司会者が続ける。


「ここからは、決勝進出のラインが見え始める重要局面!」


スクリーンに、現在の勝敗表が一瞬映る。


MIRROR LINE。

Reverse Crown。

その下に続くチーム名。


ざわめきが起きる。


「リバクラ、ここ取ったらでかいぞ」


「負けたらきついな」


「今日、先攻?」


「ここで決めに行くか?」


「BEEF、また何かやるんかな」


司会者の声がさらに上がる。


「第4戦で鮮やかな巻き返しを見せ、いまや優勝候補の一角に名を連ねたこのチーム!」


客席が、一気に反応した。


「リバクラ!」


「来た!」


「Reverse Crown!」


「BEEFいる!」


「今日勝て!」


「決めろ!」


司会者が続ける。


「対するは、根強いファンを抱えるテクニカルな個性派ユニット!」


相手チーム名がスクリーンに出る。


相手側のファンからも大きな声が上がった。


「負けんな!」


「こっちの音見せろ!」


「飲まれるな!」


「クセで持ってけ!」


簡単な相手ではない。


この大会に残っている時点で、弱いチームなどいない。


相手には相手の音がある。

相手には相手の客がいる。

相手には相手の勝つ理由がある。


司会者が、そこで一拍置いた。


「この重要な第5戦――」


照明が一段落ちる。


客席の声が、少しだけ前へ傾く。


「先攻は!」


一拍。


司会者が叫んだ。


「Reverse Crown!」


照明が落ちた。


会場が暗くなる。


その暗闇の中で、先に音が来た。


どん。


低音が床を叩いた。


でも、それは攻め込む音ではなかった。


床を割るような重さではない。

相手を飲み込むための圧でもない。


少し深く、少し丸い。


低音が足元に置かれて、そこから身体が自然に揺れる。


どん。


もう一発。


BEEFが、まだ姿をほとんど見せないままDJブースへ入る。


黒いワークキャップ。

小さな肉マーク。

逆さクラウンの小物。

顔は暗くて見えにくい。


けれど、ターンテーブルに置いた手だけが、照明を拾った。


スクラッチではない。


まず、会場の肩の力を抜くように、クラップを置く。


ぱん。


少し間。


ぱん。


キック。


どん。


クラップ。


ぱん。


どん、ぱん。


どん、ぱん。


激しくない。


でも、弱くない。


ポップスに近い聞きやすさがある。

けれど、芯はヒップホップのまま残っている。

押し切るラップではなく、余裕とノリで横に来る音。


客席の揺れ方が変わった。


拳を振り上げる前に、肩が揺れる。

叫ぶ前に、口元が緩む。

身体が先に、少しだけ前へ出る。


「お、なんか違う」


「今日、入りやわらかい?」


「でもビートは太い」


「押してこないのに乗れる」


「これ、聴きやすいやつだ」


BEEFは煽らない。


声も出さない。


でも、音だけで言っている。


急がなくていい。


でも、行くぞ。


三人が、来るぞ。


ステージ袖から、三つの影が見えた。


客席の声がさらに膨らむ。


「mcRC!」


「wata!」


「EGUI!」


「リバクラ!」


黒衣装の三人が、光の中へ出る。


mcRCは、客席を見ながら中央へ歩く。


wataは、少し跳ねるように足を運ぶ。

でも、がつがつ前に出る感じではない。

ノリを先に置いて、その上に言葉を乗せるような歩き方だった。


EGUIは、低く構えている。

マイクを握る手に、余計な力が入っていない。


三人が横に並んだ瞬間、スクリーンに逆さの王冠が映る。


会場の声がまた上がった。


リバクラタオルが揺れる。

赤ペンを持ったファンがいる。

飯は感情のタオルもある。

BEEFの肉マークを手描きで掲げたやつもいる。

ReShiNaのタオルを持った男たちもいる。


音楽側も、ガチ恋側も、今日は同じステージを見ていた。


BEEFが、音を一度だけ切った。


すっ。


無音。


でも、緊張で締め上げる無音ではなかった。


会場の呼吸をそろえるための無音。


次の瞬間、三人の声が重なった。


「先攻リバクラだああ!」


会場が跳ねた。


「うおおお!」


「来た!」


「先攻リバクラ!」


「ぶちかませ!」


「行けええ!」


BEEFがそこで、クラップを倍に刻む。


ぱん、ぱん。

ぱん、ぱん。


mcRCがマイクを上げる。


「第5戦!」


客席が返す。


「第5戦!」


wataが続く。


「行けるか!」


「行ける!」


「行け!」


「ぶち抜け!」


EGUIが、短く言う。


「置いていかない」


客席が揺れる。


「行け!」


「リバクラ行け!」


「連れてけ!」


mcRCが、サングラス越しに客席を見る。


長く語らない。


今日の重さは、司会が言った。

ここで落とせないことは、スクリーンが見せた。

勝ちたい気持ちは、客席がもう叫んでいる。


だから、リバクラがここで説明する必要はなかった。


必要なのは、始めることだった。


mcRCが低く言う。


「先に行くぞ」


会場が返す。


「行け!」


BEEFの指が、ターンテーブルの上を滑る。


シャッ。


遠くから走ってくるようなシンセ。

夜道の信号みたいに点滅するハイハット。

キックは軽すぎない。

でも、前へ進む音。


疾走ではない。


歩き出して、気づいたら走っているようなテンポ。


wataが、一歩前へ出た。


まだ曲名は出ない。


でも、客席が少しだけざわつく。


「何来る?」


「初手なに?」


「この入り、知らん?」


「いや、聴いたことあるかも」


mcRCが、短く言った。


「待ってる声があるなら」


wataが続く。


「今から行く」


EGUIが、静かに置いた。


「ちゃんと、行く」


BEEFが、ビートを落とした。


どん。


光が走る。


三人が同時にマイクを上げた。


≫ I’m on my way

≫ いま行くよ

≫ Wait for me

≫ 泣かないでよ


会場が一気に反応した。


「これか!」


「ON MY WAY!」


「いま行くよ!」


「泣かないでよ、来た!」


BEEFのビートは走りすぎない。


向かう曲。


でも、焦っていない。


手を引っ張る曲ではない。


横に並んで、歩幅を合わせて、いつの間にか前へ出ている曲。


三人の声が重なる。


≫ I’m on my way

≫ もうすぐそこ

≫ Five more lights

≫ いま行くよ


客席の光が揺れる。


タオルが上がる。

手が上がる。

赤ペンを握ったまま、胸の前で固まっているファンもいる。

ReShiNaのタオルを持った男たちも、リバクラの音へ身体を預け始める。


一曲目は、走り出す曲だった。


けれど、ただ速く走る曲ではない。


誰かの声を聞いて、そこへ向かう曲。


そして、その向かい方が雑じゃない曲だった。


mcRCが先に景色を置く。


≫ 終業前の desk に残るメモ

≫ 内線 ring ring まだ呼ばれてるけど

≫ ポケットの phone が震えて stop

≫ 君の「もう無理」で変わる clock


客席が、すっと入っていく。


「仕事中の電話……」


「もう無理、で全部変わるやつ」


「内線鳴ってるのリアル」


「これ、行かなあかんやつや」


でも、単純に仕事を捨てる歌ではない。


そこが、すぐに伝わった。


≫ 責任あるから投げない my work

≫ でも君の涙も見過ごせない hurt

≫ 「ここ頼む」って渡す file

≫ 走る前に整える style


「投げてない」


「そこ大事」


「君が大事、でも仕事も雑にしない」


「比べ方がおかしいってことか」


「君と俺のための仕事でもあるんだよな」


客席のどこかで、笑いながら声が上がった。


「仕事とあたし、どっちが大事なのってやつ!」


隣の誰かがすぐ返す。


「君だろ! でも仕事も君との生活の一部なんよ!」


「そこ丁寧に扱ってるのいい」


「雑に逃げないのがリバクラ」


mcRCは、叫びすぎない。


説明しすぎない。


景色を置く。


終業前のデスク。

残ったメモ。

鳴る内線。

震えるスマホ。


仕事の責任もある。

でも、見過ごせない声もある。


その両方を、雑に捨てない。


≫ タイムカード前で止まる右手

≫ このまま残れば正しい? でも違うね

≫ 守りたいものが二つある夜

≫ だから雑に捨てずに向かうよ


客席の反応が、少し深くなる。


「守りたいものが二つある夜……」


「仕事か、人か」


「どっちか選ぶんじゃなくて、扱い方の話だ」


「これ、めっちゃ気にしすぎる人の歌やな」


「でもその気にしすぎが優しさになってる」


そうだった。


Reverse Crownの三人は、気にしすぎる。


だから遅れる。

だから迷う。

だから、かっこよく即断できない時がある。


でも、その気にしすぎが、誰かを雑に扱わない理由にもなっている。


自虐が、武器になる。


弱さが、入口になる。


BEEFは、mcRCの景色を崩さない。


キックを前に出しすぎず、でも足は止めさせない。


階段を降りるようなハイハット。

胸の内側で鳴るようなベース。

ポップに聴けるのに、低いところではちゃんとヒップホップが支えている。


mcRCが最後を置く。


≫ Exit door 開く音が clap

≫ 階段飛ばして heart が tap tap

≫ 間に合うかなんてまだ知らない

≫ でも行かない理由はもういらない


客席が上がる。


「行かない理由はいらない!」


「ここから向かう!」


「でも雑じゃない!」


「めっちゃ聴きやすいのに、ちゃんと刺さる!」


Hookが戻る。


≫ I’m on my way

≫ いま行くよ

≫ Wait for me

≫ 泣かないでよ


今度は、客席が少しだけ声を乗せた。


「I’m on my way!」


「いま行くよ!」


「Wait for me!」


大合唱ではない。


けれど、確かに返ってきていた。


wataが前へ出る。


Verseに入る直前、BEEFが音を細くした。


派手に抜いたわけではない。


けれど、床の鳴り方が変わった。


wataは、客席を見た。


サングラスの奥の目は見えない。


でも、顎の角度だけが少し違う。


そして、言葉を入れた。


≫ 改札前で check, key, ticket

≫ wallet, pocket, phone, wait a minute

≫ line 見返すたび mind が渋滞

≫ 大事な時ほど脳内がうるさい


客席が笑いながら頷く。


「脳内が渋滞!」


「分かる!」


「大事な時ほど考えすぎるやつ!」


「check, key, ticket 気持ちいい!」


wataは、いつものように詰める。


リズムの隙間に言葉を滑り込ませる。

英語と日本語を噛み合わせる。

軽い音の中に焦りを混ぜる。


でも、今日は急かしてこない。


ラップが前から引っ張るというより、隣で早口に考えながら一緒に歩いている。


だから、聞きやすい。


だから、余計に分かる。


大事な時ほど、頭の中がうるさい。

水を買うべきか。

電話するべきか。

謝るべきか。

何から支えるべきか。


気にしすぎて、絡まる。


でも、その絡まり方が、人を雑にしないための迷いに見える。


次のラインで、会場の空気が少し変わった。


≫ time と sign と red light

≫ right? wrong?


そこで。


wataは、止まった。


一拍。


数えない。


ただ、止まった。


右か。

左か。

正しいのか。

間違いなのか。

行くのか。

待つのか。

電話するのか。

謝るのか。

抱きしめるのか。

黙って隣に座るのか。


その全部が、一瞬、音の中で止まった。


BEEFは、何も足さない。


キックも入れない。


空いた場所を、空いたまま鳴らした。


客席が息を飲む。


そしてwataが、落とす。


≫ 迷って late night


会場の奥から声が漏れた。


「今の間……」


「迷ってるの見えた」


「wata、詰めなかった」


「right? wrong? のあと、こっちまで止まった」


「余裕あるのに、ちゃんと焦ってる」


「ノリいいのに、雑じゃない」


BEEFが、そこで低音を戻す。


どん。


wataの声が、もう一度走り出す。


≫ 五分遅れなら五分で変える

≫ 何を伝える? 何から支える?


走る。


でも、さっきの空白が残っている。


客席はもう、wataの速さだけを聴いていない。


その速さの中で、どこに迷いがあったのかを見ている。


第5戦の一曲目。


Reverse Crownは、ただ先攻で場を取ったわけではなかった。


激しく押し込むのではなく。


余裕とノリで、会場の歩幅を変え始めていた。

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