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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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5-5-10 まだ決まってない夜



—店までの道—


店は、スタジオから少し歩いたところにあった。


大通りから一本入った路地。


夜の看板が、濡れたアスファルトにぼんやり映っている。


機材ケースの車輪が、小さくがたがた鳴った。

renaのアコギケースが、肩の上で少し揺れる。

shihoのバスクラリネットケースは大きくて、歩幅を合わせないと壁や人に当たりそうになる。

natsuのフルートケースだけは細く、本人も軽そうに持っている。


「楽器、でかいな……」


wataが後ろを見ながら言った。


shihoは少し息を整えながら微笑む。


「バスクラリネットは、かわいくない大きさです」


EGUIがすぐ言った。


「いや、存在感あっていいと思うけどな」


shihoは少しだけ目を細めた。


「ありがとうございます」


natsuが横からぽつりと言う。


「shiho、森を持って歩いてる」


Yuiが足を止めかけた。


「森の携行……」


言葉にしようとして、少し詰まる。


natsuが言う。


「重い森」


Yuiはメモ帳を開き、数秒考えた。


「状態:森、重量あり」


natsuが覗き込む。


「好き」


Yuiは短く頷いた。


「ありがとうございます」


BEEFがその横を歩きながら言った。


「何の記録だよ」


Saraがすぐに返す。


「移動中の状態確認です」


「森の重量いらねえだろ」


「本人が重そうなので、必要です」


shihoが思わず笑った。


「ありがとうございます。たしかに、少し重いです」


mcRCは、そのやり取りを見ながら少しだけ笑った。


さっきまでの練習の緊張が、夜道の中で少しずつほどけていく。


それでも、全員の中に、まだ熱はあった。


勝った熱ではない。


次に行くための熱。


Kateが先頭でスマホを確認していた。


「この先です。個室っぽい席を取れました」


wataが即座に言う。


「神」


Kateは振り返らずに答えた。


「神ではありません。予約です」


Ninaが笑う。


「Kateさん、神対応の自覚ない」


Miwaが小さく言う。


「飯は感情です」


BEEFがぼそっと返す。


「まだ言ってる」


Saraが横から言った。


「今日は正しいです」


「お前まで言うな」


Yuiがまたメモ帳を開きかける。


BEEFが見る。


「書くな」


Yuiは静かに閉じた。


「今のは記録しません」


natsuがぽつり。


「書かないBEEF」


Yuiの手が止まる。


「……それは少し書きたいです」


BEEFが低く言う。


「やめろ」


natsuが小さく笑った。


「好き」


Yuiは、書かずに小さく頷いた。


—ご飯屋—


選ばれたのは、駅から少し離れた店だった。


外から見ると普通の居酒屋だが、奥に小さな個室がある。


木目のテーブル。

低めの照明。

壁に貼られた手書きのおすすめ。

湯気の立つ味噌汁。

焼き魚の匂い。

唐揚げの油の音。


勝った直後の騒がしさを、少しだけ落ち着かせてくれる場所だった。


全員が席に着くまで、少し時間がかかった。


BEEFは機材ケースを壁際へ寄せようとした。

Saraが「通路確保」と言って位置を直した。

wataが「また制御されてる」と笑った。

BEEFが「うるせえ」と返した。


renaはアコギケースを壁に立てかけた。

shihoはバスクラリネットのケースを足元に置き、椅子の脚に当たらないよう少しずらした。

natsuはフルートケースを膝に置いたまま、テーブルの木目を見ていた。


Miwaは、まだ少し泣いた後の顔だった。

Ninaは通知を見ないようにスマホを裏返して置いている。

Kateは注文をまとめようとして、ふと自分で笑った。


「……すみません、仕事みたいになってますね」


mcRCが笑う。


「いや、ほんま助かる。俺ら今、注文すら迷う」


EGUIも頷く。


「頭がまだステージに残ってる」


wataが言う。


「俺は腹だけ現実に帰ってきた」


BEEFがぼそっと言う。


「普段からだろ」


「やかましいわ」


Kateは小さく咳払いをして、注文を整理した。


「温かいもの、米、タンパク質、野菜。あと、喉に刺激が強すぎないもの」


wataが手を上げる。


「炭水化物、多めで」


EGUIも言う。


「味噌汁ほしい」


BEEFが言う。


「肉」


Saraがすぐ返す。


「野菜も」


「またかよ」


「何度でも言います」


Ninaが笑いながら店員を呼んだ。


料理が来るまでの間、しばらく誰も大きな話をしなかった。


疲れている。


でも、沈んでいるわけではない。


勝った熱が、ゆっくり胃のあたりまで降りてくるような時間だった。


最初に味噌汁が来た。


EGUIがひと口飲んで、目を閉じた。


「戻る」


mcRCも飲む。


「ああ、これは戻る」


Miwaが小さく言った。


「飯は感情です」


今回は誰も否定しなかった。


BEEFが焼き鳥を取る。


Saraが皿を少し中央へ戻す。


「配分してください」


「焼き鳥にも配分あるのかよ」


「あります」


wataが笑った。


「BEEF、完全に管理下」


BEEFは焼き鳥を食べながら言った。


「うまいから許す」


Saraは頷いた。


「許可確認」


「するな」


少しずつ、空気がほどけていった。


しばらく食べたあと、wataがふと言った。


「てか、次で五試合目やんな」


EGUIが箸を止める。


「そうだな」


mcRCが指で数える。


「第1、第2、第3、第4……次が第5」


wataが続けた。


「あと二試合か」


BEEFが焼き鳥を食べながら言う。


「気ィ抜くなよ」


wataが眉を上げる。


「抜いてへんわ」


EGUIも頷く。


「どっちにしても毎回ガチだ」


その時、Kateがスマホから顔を上げた。


「……ちょっと、確認します」


Ninaが見る。


「何を?」


Kateは少し黙った。


さっきまでの柔らかい顔が消え、段取りの顔になる。


「勝敗表です」


mcRCが箸を止める。


「勝敗表?」


Kateはスマホを操作しながら、眉を寄せた。


「これ、場合によっては」


一拍。


「五試合目の結果次第で、予選が終わりますね」


全員が止まった。


wataが最初に言う。


「……どゆこと?」


Miwaも目を丸くする。


「あと二試合じゃないんですか?」


Kateは、スマホをテーブルに置いて、全員に見えるようにした。


「ルール上、全チームが必ず六試合を最後まで行うわけではありません」


EGUIが少し身を乗り出す。


「上位二つが確定したら終わるってやつか」


Kateは頷く。


「はい。Sound Session本戦は七チーム総当たりベースの予選リーグです。ただ、第5戦終了時点で上位二入りの可能性が消えたチームはそこで終了。上位二が確定した時点で、予選は終了して決勝へ進みます」


BEEFが眉を寄せる。


「つまり?」


Kateは、指で表を示した。


「現時点で上位にいるのは、MIRROR LINEとReverse Crownです。MIRROR LINEは無敗。リバクラは一敗ですが、今日の勝ちでかなり位置が固まりました」


Ninaが横から補足する。


「他チームは勝敗が入り組んでます。ODD NODEも強かったけど、今日で一敗追加。ほかも潰し合いが出ています」


Kateが続ける。


「次、リバクラが勝つこと。それから、他チームの勝敗次第では、他チームが残りを勝ってもリバクラに届かない状態になります」


Miwaが口元を押さえた。


「それって」


Kateが頷く。


「第5戦で、決勝進出が確定する可能性があります」


部屋の空気が変わった。


さっきまでの唐揚げの笑いが、少し遠くなる。


wataが、静かに言った。


「まじか」


EGUIも低く言う。


「次、勝てば……可能性があるのか」


mcRCは、テーブルの上の水を見ていた。


第5戦。


来週。


今日、勝ったばかりなのに。


もう次が来る。


しかも、ただの次ではない。


勝てば、予選突破が見える。

場合によっては、そこで決勝が決まる。


MIRROR LINEと、もう一度。


BEEFが、箸を置いた。


「どっちにしても、毎回ガチだろ」


その声は低かった。


でも、妙に落ち着いていた。


wataが頷く。


「せやな」


EGUIも言う。


「相手が誰でも、やることは変わらない」


mcRCは、ゆっくり顔を上げた。


「でも、次は重いな」


Kateは頷く。


「重いです」


Ninaがスマホを裏返したまま言う。


「SNSも、次戦はかなり注目されると思います。今日の勝ちで、さらに見られます」


Saraが続ける。


「体調管理、移動、曲準備、練習時間、情報整理。全部、今までよりシビアになります」


Yuiは小さな付箋を一枚出した。


そこに短く書く。


次戦:重い


natsuがそれを見る。


「風も、重い」


Yuiのペンが止まる。


「風の重量は測定できません」


natsuは言う。


「でも、肩に乗る」


Yuiは数秒止まった。


付箋の下に、もう一行足す。


肩に乗る風:未分類


それから、小さく言った。


「好き」


natsuは頷いた。


「うん」


wataは、白米を一口食べてから言った。


「ご飯食べて、さっさと復習するわ」


EGUIが頷く。


「それは必要だな」


BEEFがぼそっと言う。


「復讐って聞こえた」


wataが箸を向ける。


「聞こえてへんやろ」


「目が復讐だった」


「黙れ」


Miwaが笑いながら言う。


「復讐はだめです」


Saraが淡々と言う。


「復讐は予定表に入れません。復習は入れます」


Yuiが付箋をもう一枚出す。


復讐:不可

復習:必要


natsuがぽつり。


「怒り、調理して」


Yuiが止まる。


「怒りは食材ではありません」


natsuは首を傾げる。


「でも、焦げる」


Yuiは少し考えた。


付箋に書く。


怒り:加熱注意


wataが笑う。


「俺の怒り、調理されるんか」


BEEFが言う。


「焦がすなよ」


EGUIが箸を置いて言った。


「燃やしすぎたら、残るのは灰だからな」


wataが苦笑する。


「急に真面目に回収すんな」


EGUIは少し笑った。


「復習の話だ」


mcRCは、リバックラインの五人を見た。


Kate。

Miwa。

Nina。

Sara。

Yui。


「まじでリバックラインおらんかったら、詰んでたな」


wataが即答する。


「100%な」


EGUIも頷く。


「間違いない」


BEEFは少し間を置いてから、低く言った。


「まあ、詰んでたな」


Saraが一瞬BEEFを見る。


BEEFは視線を逸らして、味噌汁を飲んだ。


Miwaが、また泣きそうになる。


「やめてください、そういうの」


Ninaが笑う。


「いや、これは泣く流れ」


Kateは少し困ったように笑った。


「私たちは、できる範囲でやっているだけです」


mcRCは首を横に振った。


「それがでかいんです」


EGUIも言う。


「今日、終わった後すぐスタジオ行けたのも、Kateさんが動いてくれたからだしな」


wataが続ける。


「Ninaさんが反応拾ってくれる。SaraさんがBEEF止める。Yuiちゃんが状態を変な付箋にする。Miwaさんが泣く」


Miwaが顔を上げる。


「最後だけ役目ですか?」


BEEFが言う。


「泣き担当」


Miwaは真剣に言った。


「客席感情担当です」


Ninaが吹き出した。


「強い」


Saraが頷く。


「実際、RCさんの練習では有効でした」


Miwaは胸を張った。


「ほら」


wataが笑う。


「すまん。正式には客席感情担当や」


Yuiは付箋を一枚出して、少し考えてから書いた。


Miwa:客席感情担当

涙量:参考値


Miwaが見る。


「参考値?」


Yuiは頷く。


「評価基準にはしません」


「なんでですの」


Ninaが肩を震わせた。


「Miwaちゃん、それ言い方が強い」


mcRCは、あらためて五人を見る。


「ほんま、感謝してもしきれん」


一瞬、テーブルが静かになった。


Miwaは完全に泣いた。


Ninaは視線を少し落とした。

Saraは水のグラスを持ったまま止まった。

Yuiは付箋を貼る場所に迷って、手を止めた。

Kateは何かを言おうとして、少しだけ黙った。


その沈黙を破ったのは、wataだった。


「なんかほしい?」


Kateが目を上げる。


「はい?」


wataは真面目な顔で言う。


「いや、感謝してもしきれんやん。なんかほしいもんある?」


EGUIも頷く。


「できる範囲ならな」


mcRCも言う。


「無理なやつは無理やけど」


BEEFがぼそっと言う。


「金はねえぞ」


wataが睨む。


「現実を言うな」


Kateは、少しだけ咳払いした。


「では」


全員がKateを見る。


Kateは、仕事の顔を作ろうとして、でも少しだけ口元が緩んだ。


「そろそろ、リバクラブを正式に開始してもいいですか?」


wataは、すぐに「ああ」と頷いた。


「リバクラブな。前から言ってたやつ」


EGUIも思い出したように言う。


「ファンクラブ案か」


mcRCが苦笑する。


「あれ、まだ検討中やと思ってたけど」


Ninaが目を輝かせる。


「正式名称、リバクラブです」


Miwaが手を上げる。


「会員番号1から5は、私たちで独占です」


Saraが補足する。


「仮称ではありましたが、運用案はあります」


Yuiが短く言う。


「会員番号管理、可能」


BEEFが嫌そうに言う。


「もう作ってんじゃねえか」


Kateは、きっぱり言った。


「明日には告知可能です」


全員が止まった。


wataが叫ぶ。


「いつのまに!?」


EGUIも目を丸くする。


「明日?」


mcRCが思わず身を乗り出す。


「え、そんな早いん?」


Kateは、少しだけ得意そうにスマホを持ち上げた。


「もともと、リバックラインとしての手伝いの報酬に近い話でしたので、すぐ整えられるようにしてあります」


Ninaが続ける。


「ロゴ案、説明文、初回告知文、会員番号ルール、仮の限定ページ導線まであります」


Saraが言う。


「権利確認が必要な範囲と、まだ出してはいけない範囲も分けています」


Yuiが付箋を出す。


リバクラブ:明日告知可能


wataが頭を抱えた。


「いつのまに!?」


Miwaが胸を張る。


「今がチャンスです」


Ninaが頷く。


「知名度アップ中です」


Saraも淡々と。


「入口を作るなら、今です」


KateがmcRCを見る。


「もういいですよね」


mcRCは、口を開けたまま少し固まった。


「いや、いいけど……運営、ほぼお任せになるで。ほんまにいいの?」


Kateは即答した。


「任せてください」


Ninaも笑顔で言う。


「好きにやります」


Miwaが力強く頷く。


「趣味でやります」


Saraが淡々と続ける。


「必要な線引きはこちらで整えます」


Yuiが短く言う。


「運用可能」


mcRCが、逆に戸惑った。


「あれ……裏方は?」


Kateが涼しい顔で言う。


「それは、うまいことします」


wataが吹き出す。


「うまいこと!」


EGUIも笑う。


「一番信用できるやつだな」


BEEFがぼそっと言う。


「こええ」


mcRCは、少しだけ息を吐いてから頷いた。


「分かった。じゃあ、やろう。リバクラブ、スタートで」


Miwaがまた泣きそうになる。


Ninaが小さくガッツポーズした。


Saraはスマホを開く。


Yuiは付箋を出す。


リバクラブ:正式始動


natsuが覗き込む。


「明日、扉」


Yuiは少し考えた。


明日:扉


そして、小さく言った。


「好き」


その時、Ninaが笑いながら言った。


「ファンイベントなどの協力はお願いしますね、部長」


mcRCが即座に言う。


「部長言うなし」


wataが笑った。


「また出た」


EGUIも小さく笑う。


「その話、久しぶりだな」


リバクラの三人にとっては、新鮮な話ではない。


前に一度、聞いている。


リバックラインがどうやってmcRCを見つけたか。

なぜ「部長」だと気づいたか。

上に噛み付く、下に優しい、横に迷子。


それはもう、軽く身内ネタになっていた。


けれど、ReShiNaの三人だけは違った。


renaが首を傾げる。


「部長?」


shihoも少し目を瞬かせる。


「部長、ですか?」


natsuが言う。


「会社の風?」


BEEFは焼き鳥を持ったまま、少しだけ眉を寄せた。


「元部長ってのは聞いた」


そして、リバックラインの顔を見る。


「でも、なんでそこまで擦られてんだ」


wataが口元を押さえた。


「BEEF、そこは初耳か」


EGUIが頷く。


「語録までは知らないだろうな」


mcRCが嫌な顔をする。


「語録とか言うな」


Ninaが悪い顔で笑う。


「あ、ReShiNaさんは知らなかったっけ?」


mcRCが慌てて止める。


「おい待て。ハンドルネームKよ」


Kateが静かに顔を上げた。


「ここでKを出しますか」


mcRCが言う。


「出すならKまでや。いきなり部長とか言うな」


Ninaが笑いをこらえる。


「KはKateさんのKです」


ReShiNaの三人は、まだ分かっていない。


当然だった。


その配信を見ていない。


renaが遠慮がちに聞く。


「K……というのは?」


Kateは、小さく咳払いした。


「以前、名前を出さずに関わったことがありまして。その時の仮名です」


shihoが納得しかけて、すぐに首を傾げる。


「それと部長が、どう繋がるんですか?」


wataが口元を押さえた。


「そらそうなるわ」


mcRCは、完全に観念したように味噌汁を置いた。


Ninaが嬉しそうに説明する。


「mcRCさんは、私たちの元上司なんです」


renaが目を丸くする。


「え」


shihoも静かに驚いた。


「元上司……?」


natsuが言う。


「上の人」


Saraが淡々と補足する。


「部署上の役職としては、部長でした」


renaがさらに驚く。


「え」


shihoが、少しだけ言葉を探す。


「社会人として、かなりしっかり働かれていたんですね……」


natsuが、眩しそうに目を細めた。


「まぶしい」


mcRCが言う。


「どういうことやねん」


wataが笑いながら言う。


「元部長がラッパーしてる状況、冷静に考えたら意味分からんよな」


EGUIが頷く。


「名刺持ってた人が、今マイク持ってるわけだからな」


BEEFがぼそっと言う。


「会社辞めて逆さクラウン被った部長」


mcRCが睨む。


「雑にまとめんな」


Miwaが、笑いながら言う。


「初めて見つけた時の私たちの感情は、筆舌に尽くし難いものでしたね」


Ninaが大きく頷く。


「仕事の上司がラッパー」


Saraが淡々と続ける。


「それだけで小説が一本書けます」


Yuiが付箋に書く。


案件:元上司がラッパー


natsuが覗き込む。


「タイトル、強い」


Yuiは少し考える。


仮題:部長、マイクを持つ


mcRCが即座に言う。


「やめろ」


wataがテーブルに突っ伏す。


「腹痛い……」


リバクラ側は笑っている。


知っている話だからこそ、安心して擦れる。


だが、ReShiNaの三人はまだ情報処理中だった。


renaは、mcRCを見る目を少し変えている。


「RCさん、部長だったんですか」


mcRCは、照れとも諦めともつかない顔で言った。


「昔な。昔の話」


shihoが静かに聞く。


「どんな部長だったんですか?」


mcRCが即座に言う。


「聞かんでいいです」


Ninaが即座に言う。


「上に噛み付く」


Miwaが続ける。


「下に優しい」


Saraが淡々と言う。


「横に迷子です」


BEEFが焼き鳥を止めた。


「横に迷子?」


wataが吹き出す。


「そこ初耳か!」


BEEFが顔をしかめる。


「元部長は聞いた。でも、横に迷子は聞いてねえ」


EGUIが笑う。


「そこが一番おいしいのにな」


mcRCが睨む。


「おいしくない」


Yuiは付箋に書いた。


部長:上に噛み付く/下に優しい/横に迷子


natsuが覗き込む。


「横、迷う」


Yuiが少し考える。


「横方向の距離感に課題あり」


natsuは首を横に振った。


「迷子でいい」


Yuiは数秒止まって、付箋を見直す。


「……迷子でいいですね」


小さく言う。


「好き」


mcRCが頭を抱える。


「そこ好きにならんでええ」


BEEFが、まだ納得いかない顔で聞く。


「上に噛み付くってなんだよ」


Ninaが嬉しそうに語り始める。


「筋が通ってない上の判断には、ちゃんと言うんです」


Saraが補足する。


「ただし感情で暴れるのではなく、相手の責任範囲と現場の負担を整理してから噛み付きます」


wataがにやにやする。


「整理してから噛み付くの嫌やな」


BEEFがぼそっと言う。


「めんどくせえ部長だな」


mcRCが言う。


「やめろ」


Miwaは、目を潤ませながら続けた。


「でも下には本当に優しかったです」


Kateが頷く。


「甘やかすというより、見てくれる人でした」


Yuiが短く言う。


「困っている人を見落とさない人でした」


部屋が少しだけ静かになる。


その静けさを、wataが軽く崩した。


「で、横には迷子」


Ninaが吹き出す。


「そう。横から感謝されると処理落ちします」


Saraが淡々と。


「横から好意や感謝が来ると、受け取り方が急に下手になります」


EGUIが頷く。


「それは今もあるな」


mcRCが言う。


「お前まで言うな」


BEEFがmcRCを見る。


「お前、横が弱いのか」


mcRCが目を逸らす。


「うるさい」


BEEFが少しだけ笑った。


「なるほどな」


mcRCが嫌そうな顔をする。


「理解すんな」


Kateは、懐かしそうに少し笑った。


「でも、部長語録は今でも判断基準になっています」


BEEFが顔を上げる。


「語録?」


renaも反応する。


「語録があるんですか?」


wataが笑いながら言う。


「あるんよ」


EGUIも頷く。


「前に聞いたやつだな」


mcRCが嫌そうに箸を置く。


「もうええって」


Ninaが指を立てる。


「部長語録、七か条」


wataは素朴に疑問を持つ。


「あれ、、、前は五ヶ条じゃ?」


Ninaが二つ目の指を立てる。


「思い出しましたので増やしました」


mcRCがさらに嫌そうに言う。


「どんだけ言ってるの、俺」


BEEFが水を飲みかけて止まる。


「七か条?」


「一つ目。相手の立場で考える」


Kateが自然に続けた。


「相手が今どこにいて、何を背負っていて、何が見えていて、何が見えていないかを想像してから動く」


renaは、静かに聞いていた。


「それは……RCさんらしいです」


mcRCが困ったように笑う。


「いや、そんな大層な話ちゃう」


Saraが二つ目を言う。


「相手が求めることを想像する。自分がやりたいことではなく、相手が本当に必要としていることを考える」


wataがmcRCを見る。


「それ、歌詞にも出てるやつやな」


EGUIも頷く。


「相手がどこで受け取れるかを見る感じか」


BEEFは、黙って聞いていた。


元部長だったことは知っていた。


でも、その中身は知らなかった。


Ninaが三つ目を言う。


「距離感を大切にする」


Miwaが少し真面目に言う。


「近づけばいいわけじゃない。支えたいからといって踏み込みすぎない」


shihoが小さく頷いた。


「それは、とても大切ですね」


natsuがぽつり。


「近すぎる風、苦しい」


Yuiが付箋を出す。


近すぎる風:苦しい


natsuが見る。


「好き」


Yuiは頷いた。


「ありがとうございます」


Kateが四つ目を言う。


「本気で本音でぶつかる」


Saraが補足する。


「遠慮して黙るんじゃなく、必要なことは言う。ただし相手を潰すためじゃなく、前へ進むために」


BEEFがぼそっと言う。


「それは分かる」


wataがすぐ見る。


「BEEFが分かるって言うと重いな」


BEEFは黙って焼き鳥を食べた。


Ninaが五つ目を言う。


「伝わらなければ、伝わらない。だから伝える」


mcRCの表情が、少しだけ変わった。


この言葉は、彼の中にも残っている。


Kateが続ける。


「言ったから終わりじゃない。伝わってなければ、伝わる形に変えて伝える」


wataが、小さく息を吐いた。


「今日の話やん」


EGUIも頷く。


「まさに今やってることだな」


renaは、mcRCを見た。


「だから、歌詞も変えていいって話に繋がったんですね」


mcRCは、少しだけ目を逸らした。


「……そうかもしれん」


Saraが六つ目を言う。


「声は聞く。でも責任は渡さない」


EGUIが、反応した。


「それ、いいな」


Kateが頷く。


「みんなの意見は聞く。でも最後の判断と責任は自分で持つ」


BEEFが低く言う。


「リーダーの話だな」


mcRCは何も言わなかった。


Miwaが七つ目を言う。


「人を雑に扱うな」


その言葉だけ、少し重かった。


Ninaが静かに続ける。


「これが一番芯です」


Saraが言う。


「相手の事情を見ない。仕事だから仕方ないで済ませる。責任を投げる。声を聞いたふりをする。そういうのを嫌っていました」


Yuiが短く言った。


「聞いたふりは、特に嫌っていました」


部屋が、また静かになった。


笑いの空気の中に、別の重さが流れ込む。


natsuがぽつりと言う。


「雑にすると、風が切れる」


Yuiが付箋を出して、少し止まる。


「風が切れる……」


natsuは言う。


「つながらない」


Yuiは書く。


雑に扱う:風が切れる


しばらく見てから、言った。


「好き」


mcRCが困ったように笑った。


「だから、そこ好きにならんでええって」


ReShiNaの三人は、初めて聞く話として受け取っていた。


renaは、静かに言った。


「でも、分かる気がします」


mcRCが見る。


renaは、少し考えながら言葉を選ぶ。


「RCさんの歌詞は、相手を雑にしない感じがします。悩んでいる人を、上から引っ張るんじゃなくて、横に立とうとする」


shihoも頷いた。


「だから、リバックラインの皆さんが気づいたんですね。声と、言葉の選び方と、困った時の反応で」


Ninaが嬉しそうに言う。


「そうです。部長だって気づいた理由、そこです」


Miwaが涙目で頷く。


「声だけなら、似てるで終わったかもしれません。でも、困った人への反応が、あまりにも部長でした」


Saraが言う。


「上に噛み付く時の角度も同じでした」


wataが笑う。


「角度あるんか」


Kateが言う。


「あります」


BEEFが、少しだけ腕を組んだ。


「なるほどな」


mcRCが見る。


「なんやねん」


BEEFは、あまり顔を変えずに言った。


「元部長って聞いた時は、ただの肩書きだと思ってた」


一拍。


「でも、語録まで残ってるなら、まあまあ本物じゃねえか」


mcRCは、少しだけ黙った。


wataがすぐ茶化す。


「BEEFに褒められたぞ、部長」


mcRCが即座に返す。


「部長言うなし」


EGUIが笑う。


「でも、BEEFには新鮮だったんだな」


BEEFは水を飲む。


「新鮮っつうか、情報が増えた」


Saraが小さく言う。


「BEEFさんらしい表現です」


BEEFが睨む。


「分析すんな」


Ninaは、さらに嬉しそうに言った。


「でも、ファンイベントなどの協力はお願いしますね、部長」


mcRCが低く言う。


「だから部長言うな」


Kateが、少しだけ真面目な顔に戻る。


「いえ、そこは実際にお願いします。ファンイベントは、本人たちの協力なしでは難しいです」


wataが言う。


「俺らは出るやろ」


EGUIも頷く。


「まあ、当然だな」


BEEFは焼き鳥を取った。


「俺は関係ねえ」


全員がBEEFを見る。


BEEFが止まる。


「なんだよ」


Ninaが当然のように言う。


「BEEFさんも呼びますよ」


BEEFが眉を寄せる。


「は?」


Miwaも頷く。


「仲間ですし」


EGUIが言う。


「ここで呼ばないはないだろ」


wataがにやにやする。


「ファンイベントにBEEF登場」


BEEFが即座に言う。


「出ねえ」


mcRCが笑う。


「出るやろ」


「なんでだよ」


「仲間やん」


BEEFは、少しだけ言葉に詰まった。


その一瞬を、Ninaが逃さない。


「はい、仲間認定入りました」


Saraが淡々と言う。


「出演候補に入れます」


Yuiが付箋を出す。


BEEF:ファンイベント出演候補


BEEFが睨む。


「消せ」


Yuiは、少し考えて言った。


「非公開処理にします」


「それ、消してねえだろ」


natsuがぽつり。


「裏にいるBEEF」


wataが腹を抱える。


「また裏にいる!」


BEEFは完全に不機嫌そうな顔をしたが、焼き鳥をもう一本取った。


Saraが見る。


「野菜も」


「今その流れじゃねえだろ」


「いつでも必要です」


Ninaは止まらない。


「BEEFキャップも売りたいですね」


BEEFが顔をしかめる。


「俺の?」


Miwaが、物販担当の顔になった。


「肉マークのワークキャップ、絶対いいです」


BEEFが眉を寄せる。


「絶対ではねえ」


Miwaは止まらない。


「黒地に小さい肉マーク。あと逆さクラウンを横に小さく入れて、BEEFさん本人は嫌がるけどファンは分かるくらいの控えめデザイン」


Ninaが頷く。


「それ、日常使いしやすい」


Miwaが続ける。


「あと、BEEFステッカー。肉マークだけのやつと、ターンテーブルに肉マークが乗ってるやつ」


wataが笑う。


「肉が皿みたいに乗ってるやん」


Miwaはさらに続ける。


「BEEFタオルも欲しいです。黒地に白文字でBEEF、端に肉マーク」


BEEFが言う。


「いらねえ」


Miwaは聞いていない。


「あと、BEEFアクリルキーホルダー」


「いらねえ」


「ワークキャップ型のラバーキーホルダーもいいです」


「いらねえ」


「BEEF勢用の小さい缶バッジ」


「いらねえ」


「DJブースに貼れそうな耐水ステッカー」


BEEFが少しだけ止まる。


「……耐水?」


wataがすぐ指さす。


「反応した!」


BEEFが睨む。


「してねえ」


Saraが淡々と書き留める。


「耐水ステッカーは実用性あり」


Miwaが嬉しそうに頷く。


「ですよね!」


Ninaが悪ノリする。


「肉も売りましょう」


BEEFが固まる。


「肉?」


wataが吹き出す。


「物販で肉!?」


EGUIが笑う。


「冷蔵管理どうするんだよ」


Saraが即座に言う。


「食品販売は衛生管理、許認可、保存、配送、表示義務が必要です」


Miwaが真剣に頷く。


「大変です。肉は現実的ではないです」


BEEFが低く言う。


「現実的以前にやめろ」


Yuiが付箋を書く。


肉物販:高リスク


natsuが覗き込む。


「畜産?」


BEEFが低く言う。


「畜産はやめろ」


wataがテーブルを叩いた。


「腹痛い!」


mcRCも笑いをこらえきれなかった。


「BEEF、ファンクラブから畜産まで行くの早すぎるやろ」


BEEFは水を飲んだ。


「お前らが勝手に行ってんだよ」


Saraが静かに言う。


「BEEFキャップ、ステッカー、ラバーキーホルダーは現実的です。肉は不可です」


Ninaが頷く。


「じゃあBEEFキャップ検討」


BEEFが言う。


「検討すんな」


Yuiが付箋を出す。


BEEFキャップ:検討

耐水ステッカー:実用性あり

肉:不可

畜産:禁止


natsuが覗き込む。


「畜産、強い」


Yuiは付箋を見つめてから、小さく言った。


「好き」


BEEFが呻いた。


「好きじゃねえ」


笑いがしばらく止まらなかった。


そんなふうに笑いながら、EGUIがふとReShiNaの三人を見た。


「そういえば、ReShiNaさんってファンクラブあるんですか?」


ReShiNaの三人の動きが止まった。


renaは水を飲もうとして、コップを少し下ろした。


「……えーと」


shihoは、微笑みを作ろうとして失敗した。


「それは……」


natsuは、フルートケースの角を指でなぞっている。


分かりやすく、ごまかそうとしていた。


wataが目を細める。


「あるな」


renaが小さく首を横に振るような、縦に振るような、曖昧な動きをした。


「公式には、ないです」


shihoも静かに言う。


「私たちが運営しているものは、ありません」


Ninaが、にやっとした。


「非公式にはあります」


ReShiNaの三人が、一斉にNinaを見た。


renaが小さく言う。


「Ninaさん……」


shihoが、少しだけ困った顔をする。


「そこは、できれば……」


Miwaが目を丸くする。


「え、あるんですか?」


Saraが淡々と答える。


「あります」


Kateも頷く。


「確認しています」


Yuiが付箋を出す。


ReShiNa非公式ファン群:存在確認


renaが両手で顔を覆った。


「確認しないで……」


wataが笑いをこらえる。


「リバックライン、なんでも見てんな」


Ninaは、少し真面目な顔で言う。


「いや、これは大事なんです。ReShiNaさん経由でリバクラを見る人もいるので、流入の空気は把握しておかないと」


mcRCが頷く。


「たしかに」


shihoは、少し遠い目をした。


「以前よりは、できるだけそういうものも受け入れるように努力しているんです」


renaも小さく頷く。


「応援してくださること自体は、ありがたいので」


shihoは、言葉を選ぶように続けた。


「サインを求められるくらいなら、まだいいんです。まだ」


wataが小さく言う。


「まだ、が重い」


shihoは苦笑した。


「それに、触れてくるとか、無理に近づいてくるとか、そういうことも基本的にはないので。一定の線引きは、ちゃんとしてくださっていると思います」


renaが、少しだけ視線を落とす。


「でも、どうも……音楽よりも……」


そこから先が言いにくいのか、renaは黙った。


Ninaが、代わりに少し柔らかく言う。


「ReShiNaさんたち自身を、かなり見てる人たちがいるんです」


Miwaが小さく言う。


「アイドルみたいな……?」


shihoは、静かに息を吐いた。


「そうですね。たぶん、そういう見られ方に近いです」


個室が少し静かになる。


BEEFがぼそっと言う。


「怖え」


renaは顔を覆ったまま言う。


「触れてはこないんです。本当に。でも、視線の温度が……」


shihoが続けた。


「音楽を聴いてくださっている方々もいます。でも、私たちをこう……なんというか、対象として見ている方々もいて」


natsuがぽつりと言った。


「熱い目」


Yuiが付箋を出しかけて、止めた。


shihoは、少し困ったように笑った。


「はい。熱い目です」


Ninaが言葉を選んだ。


「音楽側と、ガチ恋側がいます」


Miwaが小さく言う。


「やっぱり……」


Saraが続ける。


「音楽側は、演奏や曲の話が中心です。ガチ恋側は、呼称や視線の温度が独特です」


shihoが静かに言った。


「なんなんですか、しほたんって」


wataが吹き出す。


「しほたん!?」


Miwaが苦しそうに笑う。


「しほたん……!」


shihoが静かに言う。


「繰り返さないでください」


renaが、小さく手を上げる。


「私は、れなたんです……」


Ninaが口元を押さえる。


「れなたん」


renaが消えそうな声で言う。


「言わないで……」


natsuが、特に恥ずかしがる様子もなく言った。


「私は、ふぇありーなつ」


全員が止まった。


wataが机を叩いた。


「ふぇありーなつ!?」


EGUIが顔を背けて笑う。


「強すぎるだろ」


natsuは、淡々と続けた。


「鱗粉が風に舞う」


Yuiの付箋が止まる。


「鱗粉は、妖精分類ですか。風分類ですか」


natsuは、少し考える。


「風に乗るから、移動」


Yuiは付箋に書く。


ふぇありーなつ:鱗粉移動型


しばらく見つめてから、言った。


「好き」


natsuは満足そうに頷いた。


「うん」


BEEFが低く言う。


「何を聞かされてんだ俺は」


Ninaは、笑いながらも少しだけ真面目に戻した。


「だから、リバクラブを作るなら、そこも線引きが必要です。ReShiNaさんのファンが流れてくるのはありがたいけど、距離感は最初に作った方がいい」


Kateが頷く。


「接触ルール、撮影可否、イベント時の導線、個人への過度な呼びかけ。明文化します」


Saraが続ける。


「それと、リバックライン側のスタッフも前に出過ぎない。守る側の距離も必要です」


Miwaは、ReShiNaの三人を見た。


「怖かったら、言ってくださいね」


renaが少し驚いた顔をした。


shihoも、目元を柔らかくした。


natsuは、フルートケースを軽く撫でる。


「帰り道、ある?」


Yuiが反応する。


「帰路確認は可能です」


natsuは首を横に振る。


「心の帰り道」


Yuiのペンが止まった。


しばらく止まった。


「……項目化できません」


natsuは、さらっと言う。


「しなくていい」


Yuiは、少しだけ俯いてから言った。


「好き」


natsuは、静かに笑った。


夜は、少しずつ更けていく。


第5戦。


次で決まるかもしれない。


でも、やることは変わらない。


毎回ガチで行く。


勝つために。

届かせるために。

今の自分たちが掴みかけているものを、偶然で終わらせないために。


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