5-4-6 微差
MIRROR LINEの三曲が終わったあと、会場はしばらく鳴り続けていた。
歓声。
拍手。
どよめき。
笑い声。
感嘆の声。
その全部が混ざって、二万五千人の客席に波のように残っている。
Reverse Crownの三曲も、確かに届いていた。
RIVALで、火をつけた。
PRESSUREで、言葉の重さを背負った。
GIVE & GLOWで、温度を渡した。
それは間違いなかった。
客席にも届いた。
初見にも届いた。
リバクルーだけではない人たちも、声を返した。
笑った。
頷いた。
手を叩いた。
それでも。
MIRROR LINEの後攻三曲は、強かった。
うまかった。
慣れていた。
ステージ全体を、四人でひとつの線にしていた。
リバクラが熱と温度で開いた会場を、MIRROR LINEはそのまま受け取り、迷わせずに最後まで運んだ。
客席のあちこちで、まだ言葉が落ちていた。
「リバクラ、よかった」
「めちゃくちゃ良かった」
「でもミラーライン、やっぱすごい」
「三曲の繋ぎ、えぐかった」
「DJ込みで一つだったな」
「リバクラは熱い。ミラーラインは上手い」
「いや、リバクラも上手かったよ」
「上手かった。でも、ミラーラインは完成されてた」
「これ、どっち勝つんだろ」
「分からん」
「分からんけど、MIRROR LINE強い」
ステージ袖では、リバクラの三人が並んでいた。
mcRCは、客席を見ている。
wataは、口元に手を当てたまま、何かを言いかけてやめた。
EGUIは、静かだった。
BEEFは、腕を組んでステージを見ていた。
いや。
見ている、というより、睨んでいた。
MIRROR LINEのDJがブースから手を離した瞬間も、BEEFの目だけはそこに残っていた。
あの大柄なDJ。
派手ではない。
暴れない。
でも、四人の足場を作り続けていた。
それが、BEEFには分かっていた。
分かってしまった。
だから、余計に腹が立った。
誰も、すぐには言葉を出さなかった。
司会者が、ステージ中央へ戻ってくる。
照明が少し明るくなる。
大型スクリーンには、第三試合のカードが改めて映った。
Reverse Crown
vs
MIRROR LINE
その文字だけで、また会場が沸いた。
司会者がマイクを上げる。
「第三試合、Reverse Crown対MIRROR LINE。両チーム、三曲ずつのパフォーマンスが終了しました」
拍手が起きる。
リバクラへ。
MIRROR LINEへ。
どちらか一方ではない。
両方へ向けた拍手だった。
司会者は、少し待ってから続けた。
「まず最初にお伝えします。この本戦の採点は、単純な絶対評価ではありません」
客席のざわめきが少し落ち着く。
「ここに立っているチームは、全て事前選考を突破した本戦出場チームです。つまり、そもそもの水準が高い。全員が高いレベルで戦っています」
大型スクリーンに、評価枠が表示される。
審査員評価 5点
観客評価 5点
変化・チャレンジ評価 2点
合計 12点
司会者は、ゆっくり言った。
「審査員評価は、技術完成度、構成力、表現力、独自性、ステージ支配力などを総合して見ます」
画面の文字が切り替わる。
「観客評価は、演奏中の反応、拍手、歓声、フックの返り、会場の熱、初見客を含めた巻き込みを見ます」
さらに切り替わる。
「変化・チャレンジ評価は、前回からの変化、その試合に合わせた構成、新しい見せ方、挑戦が成立していたかを見ます」
司会者は、ここで一度、客席を見渡した。
「ですので、これは“良いか悪いか”ではありません。どちらも高い。どちらも本戦にふさわしい。その上で、今回のこの試合において、どちらがより評価基準に対して上回ったか。その比較です」
その説明に、客席が静かになる。
分かっている。
分かっているけれど、結果を待つ時間は重い。
リバクラの三人も、その言葉を聞いていた。
絶対評価ではない。
それは救いでもあり、残酷でもあった。
悪かったわけではない。
届かなかったわけでもない。
ただ、同じ場で比べた時に、相手が少し上だった。
その可能性が、もう全員の中にあった。
BEEFだけが、小さく舌打ちした。
「……比べんのかよ」
wataが横を見る。
BEEFは、前を向いたままだった。
「そりゃ大会だから比べるだろ」と言える空気ではなかった。
BEEFは、分かっていないわけではない。
ただ、飲み込めていない。
一人で現場を壊して、作り直して、伝説の男と言われてきた。
そのBEEFにとって、負けるということは、たぶん一番慣れていないことだった。
しかも今回は、ソロではない。
リバクラのDJとして立った。
だから、余計に分からない。
自分が負けたのか。
三人が負けたのか。
チームで負けるとは、どういうことなのか。
その整理が、まだ追いついていない。
司会者が結果発表へ移る。
「まず、審査員評価」
大型スクリーンに数字が出る。
Reverse Crown
4.6 / 5.0
MIRROR LINE
4.8 / 5.0
会場がざわつく。
「高っ」
「どっちも高い」
「でもミラーライン上か」
「0.2差」
「微差だけど、完成度はやっぱりか」
司会者が説明する。
「Reverse Crownは、RIVAL、PRESSURE、GIVE & GLOWの三曲で、敵意、責任、与え合う温度へと流れを作りました。三人の役割も明確で、DJ BEEFを含めた構成にも挑戦がありました」
客席から拍手が起きる。
リバクラへ向けた拍手。
それは温かかった。
「一方MIRROR LINEは、三MC一DJの一体感、曲間処理、フロウと構成の安定、三曲全体の完成度でわずかに上回りました。特に、ステージ全体をひとつの流れとして制御する力が高く評価されています」
MIRROR LINEのファンが声を上げる。
だが、その声は相手を下げるものではなかった。
強いものを強いと言う声だった。
wataが小さく息を吐いた。
「まあ……そこはな」
mcRCは頷いた。
「うん」
EGUIは、何も言わない。
BEEFだけが、低く言った。
「わずかって何だよ」
三人が、BEEFを見る。
BEEFは画面を睨んでいる。
「わずかなら、勝ちじゃねぇのかよ」
言ってから、自分でもおかしいと分かったように、唇を噛んだ。
勝ちではない。
わずかでも、負けは負けだ。
そんなことは、BEEFにも分かっている。
でも、分かることと、納得することは違った。
司会者が続ける。
「次に、観客評価」
数字が出る。
Reverse Crown
4.5 / 5.0
MIRROR LINE
4.7 / 5.0
客席がさらにざわつく。
「観客もミラーラインか」
「でもリバクラも4.5」
「高いよ」
「高いけど、負けてる」
「ここがきついな」
司会者の声が、丁寧に会場へ届く。
「Reverse Crownは、RIVALのフック、PRESSUREの言葉の重さ、GIVE & GLOWのクラップと温度で、客席に明確な反応を起こしました。初見客を巻き込む力も伸びています」
拍手。
今度は、少し大きい。
リバクラに向けられた拍手だった。
mcRCは、その拍手を受けて、一度だけ頭を下げた。
「ただし、MIRROR LINEは三曲を通して、初見客にも返しやすい構成、フックの設計、会場全体を迷わせず乗せる誘導力でわずかに上回りました」
会場が、低く唸る。
誰かが小さく言った。
「そこか」
「観客を連れていく力」
「リバクラも届いたけど、ミラーラインは会場全体を運んだ」
「微差だけど、分かる」
「悔しいな」
その「悔しいな」は、客席から出た声だった。
リバクラだけではない。
リバクラを見ていた人たちも、悔しがっていた。
それが、余計に胸に来る。
BEEFの手が、ぐっと握られる。
「会場全体を、って」
声が低い。
「俺が落としたのか」
mcRCが、すぐに首を振る。
「違う」
wataも言う。
「違うわ」
EGUIも短く言う。
「そこじゃない」
BEEFは、三人を見ない。
「じゃあ何だよ」
誰も、すぐには答えられない。
答えが分からないわけではない。
でも、今のBEEFに、きれいな理屈を渡しても届かない。
BEEFは今、腹を立てている。
相手にではない。
採点にでもない。
たぶん、自分に。
そして、チームで負けたという事実に。
司会者が、最後の評価へ進む。
「最後に、変化・チャレンジ評価」
スクリーンに数字が出る。
Reverse Crown
1.8 / 2.0
MIRROR LINE
1.7 / 2.0
客席が反応した。
「お」
「ここはリバクラ上!」
「変化は取った!」
「BEEF込みの構成か」
「GIVE & GLOWまで持っていったのも評価されたんだろ」
司会者も頷くように言った。
「Reverse Crownは、前戦からさらに構成の幅を広げ、相手に対する闘志だけでなく、責任、与え合う温度へ展開しました。先攻として、三曲の意味を明確に作った点が評価されています」
リバクラ側に拍手が飛ぶ。
wataが、少しだけ顔を上げた。
そこは、取れた。
そこだけは、取れた。
だが、司会者は続ける。
「MIRROR LINEもまた、基本形だけに留まらず、三曲の中で質感を変え、引き出しの多さを見せました。こちらも非常に高い評価です」
つまり。
どちらも高い。
どちらも評価されている。
けれど、点は出る。
スクリーンの表示が、合計へ変わる。
Reverse Crown
4.6 + 4.5 + 1.8
合計 10.9 / 12.0
MIRROR LINE
4.8 + 4.7 + 1.7
合計 11.2 / 12.0
わずか、0.3点差。
会場が、大きく揺れた。
「うわ……!」
「微差!」
「0.3!」
「でもミラーライン!」
「リバクラ惜しい!」
「惜しいけど、負けた……!」
司会者が、息を吸う。
「第三試合、勝者」
一瞬、会場が静まる。
「MIRROR LINE!」
歓声が爆発した。
ミラーラインのファンが立ち上がる。
拍手が広がる。
口笛が鳴る。
「ミラーライン!」
「強い!」
「やっぱ強い!」
「おめでとう!」
ステージ上のMIRROR LINEの四人は、派手に騒ぎすぎなかった。
大柄なDJは、軽く右手を上げた。
高身長ロン毛は、静かに頭を下げた。
坊主は、短く拳を握った。
金髪スーツは、少し下品な笑みを浮かべ、また腰の前あたりを直した。
「そこで直すな!」
「勝ったあとも直した!」
「なんの位置!」
「知らん!」
客席に笑いが起きる。
その笑いまで含めて、MIRROR LINEだった。
金髪は、マイクを持った。
短く言う。
「Reverse Crown、強かった」
客席が一瞬、静かになる。
金髪は続けた。
「先攻であれだけ熱を置かれたら、普通はきつい。RIVALも、PRESSUREも、GIVE & GLOWも、ちゃんと届いてた」
リバクラの三人が、ステージ袖でその言葉を聞く。
「でも」
金髪は、少し笑う。
「後攻で出た以上、受けて返すのが俺らの仕事なんで」
客席が沸いた。
「かっけえ!」
「ミラーライン!」
「ベテラン!」
金髪は、それ以上長く喋らなかった。
ロン毛がマイクを取る。
「いい火でした」
短い。
けれど、リバクラのRIVALに対する返事のようだった。
坊主も一言だけ言う。
「wata、音、面白かった」
客席が少しざわついた。
「名指し!」
「坊主がwataに言った!」
「テクニシャン同士!」
wataは、袖で目を見開いた。
それから、少しだけ笑った。
悔しい顔のまま。
「……それは、嬉しいやんけ」
BEEFが、低く言う。
「喜ぶな」
wataはすぐ返す。
「悔しいわ!!」
その声が、思ったより強かった。
wata自身も少し驚いたように口を閉じる。
でも、すぐに目が戻る。
「嬉しいけど、悔しいわ!!」
mcRCが、少しだけ笑った。
笑ったけれど、目は悔しそうだった。
EGUIも、静かに頷いた。
最後に、MIRROR LINEのDJがマイクを持った。
ほとんど喋らなそうな男が、ゆっくり言う。
「BEEF」
会場がざわつく。
BEEFは、袖で目だけを上げた。
DJは言った。
「またやろう」
それだけだった。
客席が一気に沸いた。
「うお!」
「DJ同士!」
「BEEF指名!」
「またやろう、かっけえ!」
BEEFは、動かなかった。
いや、動けなかった。
その言葉が、妙に刺さった。
またやろう。
勝った側が言うには、あまりに落ち着いた言葉だった。
余裕がある。
憎んでいない。
見下してもいない。
ただ、次も音でやろうと言っている。
それが、BEEFにはたまらなく腹立たしかった。
「……また、じゃねぇよ」
低い声だった。
wataが横を見る。
BEEFは、MIRROR LINEのDJを睨んだまま言った。
「今、負けたんだろうが」
その声は、マイクには乗っていない。
でも、リバクラの三人には聞こえた。
BEEFの中で、何かがうまく整っていない。
伝説の男。
ライブDJ。
再構築の怪物。
そう呼ばれてきた男が、今、チームとして負けた。
それが、彼の中でまだ形になっていなかった。
司会者が、改めてリバクラ側へ視線を向ける。
「Reverse Crownにも、大きな拍手を!」
会場全体から拍手が起きた。
勝者への拍手ではない。
でも、確かにリバクラへの拍手だった。
「リバクラ!」
「よかったぞ!」
「惜しかった!」
「次ある!」
「負けんな!」
「RIVAL最高だった!」
「GIVE & GLOWよかった!」
「BEEFもよかった!」
その声が、ステージ袖まで届く。
mcRCは、深く頭を下げた。
ステージ袖の暗がりなのに、客席へ向けて。
wataも、少し遅れて頭を下げる。
EGUIは、最後まで客席を見てから、ゆっくり頭を下げた。
BEEFは、頭を下げなかった。
下げられなかった。
ただ、DJブースの方を見ていた。
MIRROR LINEのDJも、こちらを見ていた。
ほんの一瞬。
視線が合う。
BEEFは、目を逸らさなかった。
ステージ袖に戻ると、音が少し遠くなる。
歓声が、壁越しの音になる。
mcRCは、壁に背中を預けた。
wataは、タオルで顔を拭いた。
EGUIは、手元のマイクを見ていた。
BEEFは、歩きながらキャップを外した。
逆さのクラウンマークが、一瞬だけ手元で揺れる。
そして、壁の近くで止まった。
「くそ」
低く、吐いた。
誰も、すぐには止めない。
BEEFは続ける。
「なんで負けてんだよ」
wataが顔を上げる。
「BEEF」
「なんで負けてんだよ」
今度は少し強かった。
BEEFは、三人を責めているわけではない。
でも、言葉だけ聞けば、そう聞こえかねない。
mcRCが静かに言う。
「BEEF」
BEEFは、mcRCを見た。
目が乱れている。
怒りと悔しさと、理解できないものが混ざっている。
「お前ら、よかっただろ」
mcRCは、少し間を置いて頷く。
「出せたと思う」
「wataも飛んでた」
wataは、答えない。
「EGUIも通してた」
EGUIも、黙っている。
「俺も落としてねぇ」
BEEFの声が震える。
「落としてねぇだろ」
その言葉は、自分に言っているようだった。
mcRCは、ゆっくり言った。
「落としてない」
wataも言う。
「落としてない」
EGUIが短く言う。
「落ちてない」
BEEFは、歯を食いしばった。
「じゃあ、なんでだよ」
誰もすぐには答えない。
答えはある。
完成度。
チームとしての積み上げ。
三曲を迷わせず運ぶ力。
DJ込みの一体感。
会場全体を乗せる誘導力。
でも、今その答えをそのまま並べれば、BEEFをさらに刺すだけだった。
BEEFは、まだそこまで整っていない。
伝説と呼ばれた男は、負けをきれいに処理する経験が少なかった。
それは、弱さだった。
たぶん、リバクラの三人よりも、ある意味で幼い部分だった。
ソロで暴れてきた。
自分の技で黙らせてきた。
壊して、組み直して、客席をひっくり返してきた。
でも、チームで負けるというのは、そういう勝負ではなかった。
BEEFは、壁を軽く叩いた。
大きな音ではない。
でも、十分に乱れていた。
「くそ」
wataが、ようやく口を開いた。
「……いや、強いわ」
mcRCが頷く。
「強かった」
EGUIも言う。
「うん」
BEEFが、少し苛立ったように振り向く。
「そこじゃねぇだろ」
三人が見る。
BEEFは、息を荒くしたまま言った。
「強かったで終わんな」
wataの目が、少し変わる。
BEEFは続けた。
「讃えんのはいい。相手は強かった。そこは認めろ。俺も分かってる」
一瞬、言葉が止まる。
「でも、それで終わんな」
BEEFの声が、さらに低くなる。
「悔しがれ」
三人が黙る。
BEEFは、もう一度言った。
「悔しがれ!」
それは、慰めではなかった。
説教でもなかった。
自分にも言っていた。
相手を讃えることと、悔しがることは、矛盾しない。
むしろ、強い相手だったからこそ、悔しがらなければならない。
BEEFはそれを、理屈ではなく、荒れた感情のまま吐き出していた。
wataが、タオルを握りしめた。
「悔しいわ!!」
今度は、はっきり言った。
「嬉しいとか、惜しいとか、そういうの全部あるけど、悔しいわ!!」
mcRCが、少し目を伏せる。
「悔しいな」
EGUIも、短く言った。
「悔しい」
BEEFは、ようやく少しだけ息を吐いた。
でも、落ち着いたわけではない。
ただ、三人が同じ言葉を出したことで、少しだけ空気の形が戻った。
結果は、理解している。
0.3点差。
微差。
審査員評価で負けた。
観客評価でも負けた。
変化・チャレンジではわずかに上回った。
つまり、挑戦は見られた。
だが、勝負の中心では、MIRROR LINEが上だった。
完成度。
ステージ支配力。
観客全体を連れていく力。
そこが、ほんの少し届かなかった。
理屈では、分かる。
納得できる。
不当ではない。
相手は強かった。
本当に強かった。
だからこそ、悔しかった。
mcRCは、タオルで顔を押さえた。
少しだけ、息を吐く。
「受け入れられてないわけじゃないんやけどな」
wataが、すぐに言う。
「それな」
EGUIも頷く。
「拍手はあった」
mcRCは続ける。
「でも、負けるとさ」
言葉が止まる。
少しだけ間が空く。
「まるで、俺らが認められてないみたいに感じる瞬間がある」
wataは、何も言わなかった。
EGUIも、何も言わなかった。
分かるからだった。
理屈では違う。
受け入れられていた。
評価も高かった。
点差も微差だった。
相手が強かった。
相対評価だった。
全部分かっている。
でも、心はそこまで綺麗に整理されない。
負けた瞬間、奥の方が落ちる。
自分たちの言葉が届かなかったように感じる。
自分たちの価値が足りなかったように感じる。
自分たちが大事にしているものごと、少し否定されたように感じる。
それが、本当は違うと分かっていても。
BEEFは、少しだけ黙った。
その言葉は、彼にも刺さっていた。
たぶん、BEEF自身も同じだった。
伝説と言われてきた自分が、チームに入った。
そのチームで負けた。
すると、自分が否定されたように感じる。
でも、それを素直に言えるほど、BEEFは器用ではない。
だから怒る。
だから乱れる。
だから、壁を叩く。
wataが、もう一度言った。
「くそ、悔しい」
mcRCも、低く言う。
「悔しい」
EGUIが言う。
「悔しいな」
BEEFは、少しだけ顔を背けた。
「……そうだろ」
声はまだ荒い。
でも、さっきより少しだけ落ちていた。
会場の方から、まだMIRROR LINEへの歓声が聞こえていた。
その歓声は、痛かった。
でも、嫌ではなかった。
正しい歓声だった。
MIRROR LINEは、確かに勝った。
勝つだけのものを見せた。
だから、拍手されるべきだった。
それを分かっている。
分かっているから、余計に悔しい。
mcRCは、もう一度小さく頭を下げた。
誰に向けてかは分からない。
客席へか。
MIRROR LINEへか。
自分たちの曲へか。
wataは、タオルを握りしめた。
EGUIは、マイクをスタッフへ返した。
BEEFは、最後に一度だけステージ側を見た。
「帰るぞ」
声は、まだ少し乱れていた。
三人は頷いた。
足は重い。
だが、止まってはいない。
第三試合。
Reverse Crownは、負けた。
10.9対11.2。
微差。
でも、負けた。
完成度で負けた。
観客評価で負けた。
チームとしての一体運用で、わずかに届かなかった。
ただし、届かなかったわけではない。
届いた上で、負けた。
それが一番悔しかった。
そして、その悔しさを抱えたまま、リバクラはステージ袖の奥へ歩いていった。
拍手は、まだ少しだけ聞こえていた。
MIRROR LINEを讃える拍手。
Reverse Crownを惜しむ拍手。
その両方が、同じ会場の中にあった。




