5-4-2RIVAL
大型スクリーンに、文字が出た。
第三試合。
先攻。
Reverse Crown。
二万五千人のざわめきが、一段だけ上がった。
ただの歓声ではなかった。
期待。
緊張。
興味。
そして少しの怖さ。
相手は、MIRROR LINE。
名前だけで、客席のあちこちに噂が走るチームだった。
高身長ロン毛の迷彩服。
低身長坊主のTシャツとハーフパンツ。
派手な金髪スーツ。
大柄なDJ。
見た目はデコボコ。
でも、ステージに立つと一本になる。
そんな相手を前にして、先に立つのはリバクラだった。
ステージ袖の奥で、mcRCは息を吐いた。
隣でwataが、首を軽く回している。
EGUIは、ただ前を見ていた。
BEEFは、三人の少し前にいた。
黒いキャップ。
そこには、逆さのクラウンマークがついている。
もう、ただの外部DJではなかった。
客席の一部が、それに気づいていた。
「BEEF、帽子」
「逆さクラウンついてる」
「すっかりチームやん」
「いや、暴れ牛がマークつけてるの、熱いな」
「でも丸くなってはないだろ」
「一回戦で普通に暴れてたしな」
「暴れた上でチームなんだろ」
「それが一番怖い」
DJブースの奥に、先にBEEFが出た。
まだ三人は出てこない。
それだけで、客席が反応した。
「BEEF来た!」
「先にDJ!」
「音確認から見せるやつだ」
BEEFは客席に手を振らなかった。
名前を叫ばれても、軽く顎を動かしただけだった。
それで十分だった。
DJブースに立つ。
ヘッドホンを片耳に当てる。
フェーダーに触れる。
軽くスクラッチ。
短い。
まだ曲ではない。
でも、空気の表面を爪で引っかくような音が、会場の上を走った。
二万五千人が、その音を聞いた。
次に、低音が一度だけ落ちる。
床が少し震えた。
「うわ」
「重い」
「BEEF、今日もいる」
「これ、ミラーラインのDJと比べられるやつだろ」
「もう比べてる」
「早い早い」
ステージの照明が、一度消えた。
完全な暗転ではない。
黒の中に、薄い赤と白が残る。
スクリーンには、逆さの王冠。
その下に、Reverse Crownの文字。
そして司会者の声が、会場に通った。
「Sound Session本戦、第三試合」
声は落ち着いていた。
けれど、会場の熱を拾うように、少しずつ強くなる。
「先攻、Reverse Crown」
客席が跳ねた。
「リバクラ!」
「来た!」
「逆さの王冠!」
「先攻か!」
「行け!」
司会者は続けた。
「一回戦で、自分たちの名を刻み」
スクリーンに、過去の短い映像が一瞬だけ走る。
黒い衣装。
サングラス。
逆さの王冠。
自分たちの名前を掲げた曲。
「あ、あれだ」
「Reverse Crownの曲」
「だから覚えてるんだよ」
「名前そのままのやつ」
「逆さの王冠、印象残る」
「見た目も強いしな」
司会者の声が続く。
「二回戦では、夏を三つの角度から鳴らし、会場を揺らした三人」
今度は、夏の照明が流れる。
準備の夏。
波の夏。
置いていかれる休日の夏。
客席の何人かが、前回を思い出して笑った。
「Holiday、まだ刺さってる」
「休み返して」
「WAVEも忘れられん」
「言うな」
そして、司会者は少しだけ間を置いた。
「今日、彼らが向かうのは、優勝候補の一角、MIRROR LINE」
その名前で、会場が低く鳴った。
歓声ではない。
理解の音だった。
「このカード、きつい」
「でも見たい」
「RIVALやるかな」
「公表曲にあったよな」
「どんな曲か知らんけど、ここでRIVALなら熱い」
「やったら正面から行きすぎ」
「でもリバクラならやりそう」
「やるしかねえだろ」
その言葉が、客席のどこかから出た。
やるしかねえ。
ステージ袖で、wataが笑った。
「言われてるで」
mcRCも笑った。
「やるしかないな」
EGUIが短く言う。
「やるだけや」
BEEFは振り返らない。
でも、右手だけを少し上げた。
合図だった。
三人は、ステージへ出た。
黒。
逆さの王冠。
サングラス。
mcRCは、前髪が少し目にかかるまま、客席を見た。
二万五千人。
前回より、明らかに多い。
でも、足は止まらなかった。
wataは、いつもより少し軽い足取りで歩いた。
怖いのに。
重いのに。
その重さを、逆に楽しむみたいに。
EGUIは、無駄に手を振らない。
でも、客席の正面で一度だけ顎を上げた。
その動きだけで、前の方の客席が反応した。
「EGUI!」
「wata!」
「mcRC!」
「BEEF!」
声が混ざる。
リバクルーだけではない。
前回見た人。
今日初めて見る人。
ミラーライン目当てで来た人。
たまたまこのカードに当たった人。
全員が、ステージを見ていた。
BEEFが、音を止めた。
一瞬の無音。
そして、軽いスクラッチ。
短いテープストップ。
会場の心拍を止めるような、ほんの短い沈黙。
次の瞬間、重いドロップが落ちた。
身体が先に反応する低音。
照明が赤く跳ねる。
スクリーンに、曲名が出た。
RIVAL
客席が爆発した。
「来た!」
「RIVAL!」
「やっぱり!」
「ここでやるの熱い!」
「ミラーライン相手にRIVAL!」
「正面!」
「逃げてない!」
三人は、その歓声を受けても、すぐには喋らなかった。
客と会話しない。
大会のステージで、先攻一曲目。
ここは掴む場所だった。
BEEFが、もう一度音を削る。
短く、鋭く。
そしてフックが来た。
三人の声が、同時に前へ出る。
≫ Rival, rival 好きじゃない
≫ でも俺を止められない
≫ Rival, rival 苦いくらい
≫ 俺を映してくる tonight
会場が一気に揺れた。
「好きじゃない、から入るのか!」
「相手へのリスペクトじゃなくて、もっと生々しいやつだ」
「でも俺を止められない、強い」
「ミラーラインに向けてるようで、違うかも」
「違うけど、このカードで聴くと刺さる」
フックは続く。
≫ 逃げたい日もあるけど
≫ 逃げたままじゃ終われない
≫ Rival, rival 越えていけ
≫ 俺は俺を上げていけ
「俺は俺を上げていけ!」
「これ、勝ち負けより自分を上げる曲か」
「いや、でも勝負の場でこれ言うの熱い」
「調子乗ってるのに、ちゃんと地に足ある」
「リバクラ、今日ちょっと強気じゃない?」
「強気でいいだろ、先攻だぞ」
mcRCが前へ出る。
照明が少し絞られ、ステージの奥に白いライトが落ちた。
その白は、駐車場の灯りに見えた。
mcRCの声は、派手に煽らない。
でも、景色を置く。
観客を一気に、自分の仕事終わりの夜へ連れていく。
≫ 仕事終わり 駐車場の light
≫ エンジン切っても残る midnight
≫ あいつと合わない それだけで
≫ 帰り道まで少し重くて
客席のあちこちで、小さな反応が起きた。
大歓声ではない。
「あー」という声。
分かる、という息。
「いる」
「いるよな、そういう相手」
「好き嫌いじゃないんだよな」
「苦手、が一番近い」
mcRCは、そこを逃さない。
≫ 好きか嫌いか そこじゃない
≫ たぶん正しく言えば苦手
≫ 近づきすぎりゃ心が削れる
≫ 離れすぎても仕事は残ってる
「うわ」
「これ仕事の相手だ」
「恋愛でも友達でもなく、逃げきれない人間関係」
「大人のRIVALだ」
「敵じゃないけど、しんどいやつ」
「これ、めっちゃ現実」
リバクラは、ミラーラインを敵として煽っているわけではなかった。
それが逆に強かった。
相手が強い。
似ている。
優勝候補。
その状況で、ただ「ぶっ倒す」とは言わない。
自分の生活の中にいる、苦手な相手。
合わない相手。
自分を削る相手。
そこから逃げずに、自分を上げていく。
それを一曲目に持ってくる。
客席が、少しずつ理解し始めた。
「ミラーラインだけに向けてない」
「でも、ミラーライン相手だから意味が増えてる」
「そういう使い方か」
「曲名RIVALで、思ったより大人」
「でも熱い」
mcRCは続ける。
≫ コンビニ前でスマホ握る
≫ 「ちょい聞いて」って友に送る
≫ 愚痴のつもりが笑いになって
≫ 重たい夜が少し軽くなる
前の方の客が笑った。
「ちょい聞いて、分かる」
「愚痴が笑いになるやつ」
「リバックラインの誰か聞いてそう」
「それは知らんだろ」
「想像だよ」
「でも分かる」
mcRCの声が少しだけ強くなる。
≫ あいつのおかげなんて言いたくない
≫ でも気づいたことは嘘じゃない
≫ 人との距離 守るライン
≫ 俺の中に増えてく sign
「あいつのおかげなんて言いたくない、いいな」
「認めたくないけど、学んでる」
「嫌いで終わらせないの、リバクラっぽい」
「でも綺麗ごとじゃない」
BEEFが、ここで音を止めた。
テープが切れるように、会場の熱が一瞬だけ止まる。
短い沈黙。
mcRCが、低く置く。
≫ 嫌いで終われば楽かもな
≫ でもそれじゃ俺も止まるから
客席が息を吸った。
そのあと、三人の声が短く入る。
≫ だから越える
重いドロップ。
会場が跳ねた。
「うわ!」
「だから越える!」
「ここ好き!」
「BEEFの止め方えぐい!」
「止めてから落とすの強すぎ」
wataが前へ出る。
照明が細かく点滅する。
音が少し忙しくなる。
mcRCが置いた景色を、wataが言葉で切り刻む。
≫ 言った 違った また変わった
≫ 聞いた答えが前と変化
≫ 確認したら「お前が変だ」
≫ 待て待て logic が全部変だ
客席から笑いと悲鳴が混ざる。
「いる!」
「これもいる!」
「言ったこと変えるやつ!」
「logicが全部変だ、好き」
「wata節きた」
wataは、調子に乗っていた。
というより、乗っていくことで、怖さを踏み越えていた。
ミラーラインが強いことは分かっている。
会場が大きいことも分かっている。
先攻であることも分かっている。
でも、それを全部、足場にしていた。
逃げるより、踏む。
怯えるより、音にする。
wataの口がさらに回る。
≫ メールで返す 証拠を残す
≫ そしたら「直接言え」と刺す
≫ 直接言えば「メモにしろ」
≫ どっちに転んでも foggy road
「うわあああ」
「理不尽あるあるすぎる」
「メールで返せ、直接言え、メモにしろ!」
「どっちやねん!」
「wata今の畳み方気持ちいい」
「音が怒ってるのに笑える」
BEEFは、wataのリズムを邪魔しない。
前に出すぎない。
だが、裏で細かく切る。
wataが跳ねるたび、足元のビートがわずかに角度を変える。
観客は、それを身体で感じた。
「BEEF、今回めっちゃ支えてる」
「wataの言葉、落ちないようにしてる」
「ミラーラインのDJと比べられるって言われてたけど、普通に強い」
「BEEF、暴れ牛なのに今日は橋作ってる」
「橋っていうか、線路」
wataは、さらに畳む。
≫ 口頭 応答 行動 迷走
≫ 前日 現実 変質 連続
≫ 正論だけじゃ通じないなら
≫ 記録で守るしかない構造
「韻硬っ」
「でも意味分かる」
「記録で守るしかない構造、現実すぎ」
「これ社会人刺さるだろ」
「俺、明日からログ残すわ」
「急に実務」
そのコメントに、周りが笑う。
けれど、笑いながらも頷いている。
wataは、怒りをそのまま投げない。
手順に変える。
記録に変える。
ラップに変える。
それが見えた。
≫ 矛盾 理不尽 無理筋 不一致
≫ それでも崩さない俺の位置
≫ 怒りを rhyme に変換する
≫ wata の verse で状況を切る
客席が跳ねる。
「状況を切る!」
「wata、今日かなり調子いい」
「調子乗ってる」
「いい意味で」
「調子乗っていい場面」
「相手ミラーラインだぞ、縮こまったら終わり」
wataが、BEEFの方へ一瞬だけ視線を投げる。
BEEFは、ほんの少しだけフェーダーを引いた。
また、短い停止。
wataの声だけが残る。
≫ 残せ。守れ。上がれ。
そして、ドロップ。
「うお!」
「残せ守れ上がれ!」
「三語で持ってった!」
「BEEFの止め、また来た!」
「これライブで強いな」
フックに戻る。
三人の声が重なる。
≫ Rival, rival 好きじゃない
≫ でも俺を止められない
≫ Rival, rival 苦いくらい
≫ 俺を映してくる tonight
今度は、客席の一部が声を重ねた。
完璧ではない。
初見も多い。
でも、Rival, rivalの響きは分かりやすい。
二万五千人の中で、返せる人が増えていく。
「Rival, rival!」
「好きじゃない!」
「でも俺を止められない!」
「フック強い!」
「初見でも乗れる」
EGUIが前へ出る。
照明が、赤から白へ変わる。
広がるのではなく、一本の線のように落ちる。
EGUIは、その光の中に立った。
声は大きすぎない。
でも、通る。
≫ 超えられない壁はない
≫ そう思わなきゃ進めない
≫ 試練が来たってことは
≫ 俺の順番が来たってこと
客席が一瞬、静かになった。
「あ、EGUI来た」
「まっすぐ」
「試練が来たってことは、俺の順番」
「それ、いいな」
「ミラーライン相手にそれ言うの強い」
EGUIは、綺麗ごとだけで押さない。
そこが強かった。
≫ 喧嘩は同じ高さで起きる
≫ なら俺が上に行けばいい
≫ そう言い聞かせて歩くけど
≫ 正直そんな綺麗じゃない
「正直そんな綺麗じゃない!」
「そこ言うのがいい」
「自分だけ上に行けばいいって、簡単じゃないもんな」
「本音隠さない」
「EGUI、直球だけど雑じゃない」
そして、黒い本音も出す。
≫ 嫌いな奴に負けたくない
≫ ギャフンと言わせたい夜もある
≫ でもその火で俺まで燃えたら
≫ 結局そいつに奪われてる
客席のどこかで、誰かが低く言った。
「分かる」
その一言は、大きくなかった。
でも、近くの何人かが頷いた。
「ギャフンと言わせたい夜、ある」
「ある」
「でもそれに支配されたら負け」
「曲名RIVALだけど、敵に飲まれない曲なんだ」
「そうだな」
EGUIは、最後へ向かっていく。
≫ 倒すんじゃない 越えるんだ
≫ 怒りじゃなくて力にするんだ
≫ 俺の心を支配させない
≫ それがたぶん本当の勝ちだ
会場が、ぐっと前へ出た。
拍手が起こりかける。
でも、まだ曲は終わらない。
EGUIが続ける。
≫ 負けてられねぇ でも壊れねぇ
≫ 黒い本音も捨てなくていい
≫ 抱えたままで上に行く
≫ 俺は俺を取り戻す
「黒い本音も捨てなくていい!」
「これやばい」
「怒りを否定しないのいい」
「でも壊れない」
「リバクラ、やっぱ人間臭い」
「人間臭いけど、沈んでない」
「むしろ上がってる」
三人が中央へ寄る。
BEEFの音が、ほんの少しだけ低くなる。
橋へ入る前の沈み。
でも、沈みすぎない。
三人が順に声を置く。
≫ 苦手なあいつで知った距離
≫ 友に話して戻る呼吸
mcRCの景色。
≫ ぶれる言葉に残す記録
≫ 矛盾の中でも守る自分
wataの手順。
≫ 嫌いな相手に映る弱さ
≫ それでも俺は俺を離さない
EGUIの意味。
その三つが、ひとつになる。
≫ Rival, rival 飲まれるな
≫ Rival, rival 止まるな
≫ Rival, rival 越えていけ
≫ 俺は俺を上げていけ
客席が、今度は明確に返した。
「Rival, rival!」
「飲まれるな!」
「止まるな!」
「越えていけ!」
完全なコールアンドレスポンスではない。
でも、会場が反応している。
初見も、リバクルーも、ミラーライン目当ての客も。
RIVALという言葉に、引っかかっている。
BEEFが、最後の前に音を止めた。
テープストップ。
短い沈黙。
三人が、叫ぶ。
≫ 負けてられねぇ
その瞬間、重いドロップが落ちた。
最終フック。
三人の声が、さっきより前に出る。
≫ Rival, rival 好きじゃない
≫ でも俺を止められない
≫ Rival, rival 苦いくらい
≫ 俺を映してくる tonight
客席の声が増える。
「Rival, rival!」
「俺を止められない!」
二万五千人の中で、音がうねる。
三人は、完全に調子に乗っていた。
縮こまっていない。
ミラーラインに怯えていない。
むしろ、相手が強いからこそ、燃えていた。
やるしかねえ。
そういう顔だった。
≫ 逃げたい日もあるけど
≫ 逃げたままじゃ終われない
≫ Rival, rival 越えていけ
≫ 俺は俺を上げていけ
「俺は俺を上げていけ!」
「これ一曲目で正解だろ!」
「強い!」
「リバクラ、普通に食らいついてる!」
「いや、先攻でこれは相当持ってったぞ!」
最後のフックが続く。
≫ Rival, rival 敵じゃない
≫ でも友達とも呼べない
≫ Rival, rival この痛み
≫ 力に変えて go my way
「敵じゃない、友達とも呼べない!」
「そこがリアル!」
「単純なライバル曲じゃないのがいい」
「このカードでこれやるの、意味あるな」
三人は最後まで落とさない。
≫ Rival, rival 飲まれない
≫ Rival, rival 折れはしない
≫ Rival, rival 越えていけ
≫ 俺は俺を上げていけ
最後の音を、BEEFが軽く削った。
スクラッチ。
テープストップ。
短い無音。
そして、キックの残響だけが、会場の床に落ちた。
曲が終わった。
一瞬、空白。
次の瞬間、拍手と歓声が起きた。
「うおおお!」
「RIVAL!」
「リバクラ!」
「BEEF!」
「先攻でこれ!」
「やるじゃん!」
「ミラーライン相手に正面から行った!」
「いや、正面だけど、ただの勝負曲じゃなかった!」
「苦手な相手を力に変える曲!」
「大人のRIVAL!」
「仕事の人間関係刺さりすぎ!」
「wataの記録のとこ、明日からやるわ!」
「実務持って帰るな!」
客席の一角で、ミラーラインを知っている客が、腕を組んだまま頷いた。
「いいな」
隣の客が聞く。
「ミラーライン相手に通用してる?」
その客は、少し考えた。
「一曲目としては、かなりいい」
「勝てる?」
「それはまだ分からん」
「厳しい?」
「ミラーラインは、この後受けて返してくるから」
「でも、リバクラ弱くないな」
「弱くない。ちゃんと強い」
別の場所では、リバクルーが肩を震わせていた。
「よかった……」
「一曲目、持っていかれなかった」
「むしろ持ってった」
「やっぱRIVALやった」
「やると思った」
「でも思ったより深かった」
「好きじゃない、から入るのずるい」
「でも俺を止められない、最高」
ステージの上で、mcRCは客席を見た。
笑っていた。
怖くないわけではない。
相手の強さを知らないわけでもない。
でも、今は笑っていた。
wataは、肩で息をしながらBEEFの方を見た。
「今の、止め方えぐかったな」
声には出していない。
でも、表情で言っていた。
BEEFは、少しだけ顎を動かした。
EGUIは、客席を見ていた。
歓声の大きさではなく、顔を見ていた。
笑っている人。
頷いている人。
少し苦い顔をしている人。
明日、誰か苦手な相手に会うのかもしれない人。
RIVALは、届いていた。
先攻一曲目。
リバクラは、鏡の前で怯えなかった。
やるしかねえ。
そのまま、やった。
そして、二万五千人の会場に、最初の傷と熱を残した。




