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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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160/186

5-3-7 出口前、サングラスとマスクと女子会議



会場の出口へ向かう通路は、まだ熱を持っていた。


二回戦が終わったばかりの観客たちが、少しずつ席を立ち、タオルを肩にかけ、グッズ袋を抱え、スマホで感想を打ち込みながら流れていく。


「SUNNY DRIVEも強かったよな」


「観客評価は勝ってたし」


「でもリバクラ、三曲の組み方がえぐい」


「Holiday、俺の休み返してほしい」


「WAVEのあれ、忘れられん」


「何とは言わんけどな」


「言ってるようなもんだろ」


そんな声が、通路のあちこちで跳ねていた。


リバックラインの五人は、人の流れの端を選んで歩いていた。


全員、サングラス。


しかも、よく見ると逆さクラウンの小さなマークが入っている。


本人たちは変装のつもりだった。


ただし、結果としては、かなり統一感のある五人組だった。


Miwaが、タオルを胸の前で握りしめたまま言う。


「出口の方、行きましょう」


Ninaが頷く。


「うん。そりゃ待つでしょ」


Kateが、周囲の流れを見ながら言った。


「出演者導線に入るわけではありません。でも、同じチームです。出てくるタイミングに合わせて、近くで待つのは自然です」


Saraがスマホを確認する。


「打ち上げの店、まだ最終人数は動かせます」


Yuiが淡々と言う。


「人数変動可能、確認済み」


Miwaが、少しだけほっとした顔になる。


「よかった」


Ninaが横から覗く。


「Miwaちゃん、泣いてない?」


「泣いてません」


Yuiが静かに言う。


「涙腺、勝利後待機中」


「待機してません」


Kateが微笑む。


「声量だけ気をつけましょう」


Miwaは、自分で口元を押さえた。


「はい」


五人は、人の流れに沿って出口側へ進んだ。


ステージの低音は遠ざかり、代わりに靴音、スタッフの案内、グッズ袋の擦れる音、観客の熱の残りが混ざっていく。


その途中。


少し先の壁際に、楽器ケースを持った三人組がいた。


アコギケース。


大きめのバスクラケース。


細長いフルートケース。


三人ともマスクをしている。


顔の半分が隠れていて、ぱっと見ただけでは確信できない。


でも、雰囲気がある。


アコギケースを持つ人は、声を出していなくても柔らかい水のような空気をまとっている。


バスクラケースを持つ人は、混雑の中でも静かな森みたいに落ち着いている。


フルートケースを持つ人は、荷物が一番小さいせいか、少し涼しい顔をしている。


Ninaが、最初に気づいた。


「あ」


Kateも足を止める。


Saraが小さく息を吸う。


Miwaは、ほぼ反射でタオルを握った。


Yuiが静かに言う。


「該当可能性、高」


Ninaが横目で見る。


「言い方」


その声に、楽器ケースの三人もこちらを向いた。


アコギケースの女性が、少しだけ目を丸くする。


バスクラケースの女性が、静かに瞬きをする。


フルートケースの女性は、サングラス五人組を見て、ほんの少し首を傾けた。


Miwaが、勢いを抑えながら一歩前に出る。


「あの……」


声が小さい。


でも、震えている。


「もしかして……ReShiNaさん、ですか?」


一瞬、三人の間に沈黙が落ちた。


アコギケースの女性が、マスク越しに少し迷ったように笑う。


「えっと……」


バスクラケースの女性が、五人のサングラスと逆さクラウンのマークを見る。


フルートケースの女性が、ぽつりと言った。


「サングラス五人」


Ninaが即座に言う。


「変装です」


フルートケースの女性は、真顔で返す。


「目立ってた」


Miwaが小さく崩れた。


「やっぱり……」


その時、バスクラケースの女性が少しだけ顔を上げた。


「……その声」


Saraが、穏やかに瞬きをする。


「声?」


アコギケースの女性も、NinaとMiwaの方を見る。


「あ……もしかして、リバックラインの皆さん……ですか?」


今度は五人の方が固まった。


Miwaが、タオルを握る手に力を入れる。


「えっ、分かります?」


フルートケースの女性が短く言った。


「声」


Ninaが、目を丸くする。


「声で?」


バスクラケースの女性――shihoが静かに頷く。


「前にお話しした時の声と、似ていたので」


アコギケースの女性――renaが少し笑う。


「マスクしていると顔は分かりにくいですけど、声は残ります」


Yuiが淡々と言う。


「聴覚認識精度、高」


フルートケースの女性――natsuが、Yuiを見る。


「その言い方、覚えてる」


Yuiが軽く会釈した。


「ありがとうございます」


Ninaが吹き出しかける。


「覚えられ方」


Kateが、丁寧に頭を下げた。


「失礼しました。こちらからは、楽器をお持ちだったので、もしかしてと思って」


Saraも続ける。


「でも、マスクをされていたので、確認するのを少し迷いました」


renaが、柔らかく笑った。


「こちらもです。サングラスだったので、すぐには確信できなくて」


shihoが頷く。


「でも、五人でサングラスをかけていて、逆さクラウンのマークが見えて……」


natsuが言った。


「かなり分かりやすかった」


Miwaが両手で顔を覆った。


「変装とは」


Ninaが肩を揺らす。


「変装じゃなくて、チーム感出てたかも」


Kateが静かに言う。


「完全に一般客として溶け込むには、少し統一感がありすぎましたね」


Yuiが言う。


「変装方針、再検討」


Miwaが小声で返す。


「今しないで」


renaが、五人を見て微笑む。


「でも、相変わらず綺麗ですね。皆さん」


その一言で、リバックライン側の空気が一瞬止まった。


Ninaがすぐに手を振る。


「いやいやいや、それをReShiNaさんたちに言われるのは反則です」


Miwaも頷く。


「本当にそうです。三人とも、マスクしてても雰囲気で分かるくらい綺麗です」


shihoが少し困ったように笑う。


「それを、皆さんが言いますか」


natsuが真顔で言う。


「半端ないですよ」


Miwaが完全に固まる。


Ninaが、サングラスの奥で目を見開く。


Kateが、一瞬だけ返答に詰まる。


Saraが小さく息を吸う。


Yuiが淡々と答えた。


「相互高火力美人認定が発生」


Ninaが崩れた。


「Yuiちゃん、今それ言う?」


natsuはYuiを見て、少しだけ頷いた。


「高火力、合ってる」


Yuiも頷く。


「ありがとうございます」


renaが笑いをこらえながら言う。


「でも、本当に。前にお会いした時も思いましたけど、皆さん、並ぶと空気が変わります」


Kateが、少し照れたように視線を落とす。


「ありがとうございます」


Saraが丁寧に言う。


「ReShiNaさんたちの方こそ、ステージではない場所でも音があるみたいです」


shihoが、少しだけ肩の力を抜いた。


「それは……嬉しいですね」


natsuが短く言う。


「女性から言われると、受け取りやすい」


Ninaが笑う。


「男性から言われるのとは違いますよね」


renaが頷く。


「少し違います」


natsuが真顔で言う。


「圧がない」


Miwaが思わず笑う。


「圧」


shihoがnatsuを見る。


「でも、分かります」


八人は、自然に通路の端へ寄った。


周囲では、まだ観客が流れている。


通路の向こうでは、誰かが結果発表の点数を話していた。


「10.9対11.3だって」


「観客評価SUNNY DRIVE勝ってたの熱い」


「変化チャレンジで決まったな」


「夏への準備、波、置いてかれる現実ってやつ」


そんな声が流れていく。


Miwaが、ReShiNaの三人を見て、少しだけ遠慮がちに言った。


「あの……今日のリバクラ、見ました?」


renaが頷く。


「見ました」


shihoも頷く。


「はい」


natsuは短く言う。


「耳が疲れた」


renaがすぐに言う。


「natsu」


natsuは首を振る。


「でも、見た」


shihoが補足する。


「音量は、私たちには少し大きかったです。でも、面白かったです」


Ninaが目を輝かせる。


「ですよね!?」


Kateが小声で言う。


「Ninaさん、声量」


「あ、はい」


しばらく、妙な沈黙が落ちた。


どちらも、話したい。


でも、いきなり全部出すには少しだけ恥ずかしい。


互いに、前に話したことはある。


けれど、今日は客席で、しかも大会直後で、マスクとサングラス越しの再会だった。


その空気を破ったのは、natsuだった。


「もう、やめません?」


Miwaがきょとんとする。


「え?」


natsuは、フルートケースを軽く持ち直す。


「探り合い」


renaが小さく笑う。


「たしかに」


shihoも、少し表情を緩めた。


「お互い、話したいですよね」


Ninaが一瞬で頷いた。


「話したいです」


Kateが、諦めたように笑う。


「では、少しだけ」


Saraも頷く。


「人の流れの邪魔にならない場所で」


Yuiが、壁際を指す。


「退避可能位置、右側」


natsuが言う。


「やっぱりおもしろい」


八人は、通路の端へ寄った。


外ではまだ歓声の残りが揺れている。


でも、ここだけ少し女子会の空気になった。


Ninaが、最初に切り出す。


「あの曲……本人たちの声なんですかね」


renaが首を傾げる。


「本人たちの声、というと?」


Saraが静かに補足する。


「もちろん想像です。完全に実話だと言うつもりはなくて」


Kateが続ける。


「でも、かなりリアルに書いているように見えるんです。ゼロから創作したというより、自分たちが感じたものをかなり濃く加工している感じがあって」


Yuiが淡々と言う。


「体験由来成分、高めの創作」


natsuが即座に言った。


「好き」


Yuiが軽く会釈した。


「ありがとうございます」


Ninaが笑う。


「この二人、通じるの早い」


shihoが少し考えながら言った。


「リリックは、完全な日記ではないと思います。でも、その人が見ているものは出ますよね」


renaも頷く。


「嘘だけでは、ああいう歌にはならないと思います」


Saraが静かに言う。


「ありのままを、そのまま垂れ流すのではなく、役割に合わせて落とし込んでいる」


Kateが頷く。


「mcRCさんは景色に。wataさんは音と言葉に。EGUIさんは意味に」


Yuiが言う。


「魂の素材を、担当領域に変換して出力」


natsuがまた言う。


「好き」


Ninaが笑う。


「Yuiちゃん、今日はnatsuさんに刺さってる」


Miwaが、少しだけ顔を赤くしながら口を開いた。


「じゃあ、あれも……かなりリアルなんですかね」


Ninaがニヤニヤする。


「あれ?」


Miwaはタオルを握る。


「WAVEの……コンビニ前のカップルを見て、彼女が彼氏の腕に手を回していて、それを見て……その……俺の腕も空いてるぞって思うやつです」


renaが目を細めて、少し笑う。


shihoが口元を押さえる。


natsuが短く言う。


「空いてる」


Miwaが崩れた。


「言わないでください」


Ninaが肩を震わせる。


「でも、そこ大事なんだ」


Miwaは頷く。


「大事です」


Saraが落ち着いて言う。


「本人そのものかは分かりません。でも、あの羨ましさは、かなり実感がありましたね」


Kateも頷く。


「しかも、奪いたいではないんです。羨ましい。自分もそこにいたい。でも押しつけない」


renaが柔らかく言う。


「見てほしいけど、見てとは言えない感じですね」


shihoが続ける。


「たくさんの人に見られていても、ひとりに選ばれたい気持ちは別なのかもしれません」


Miwaが、はっとしたように顔を上げた。


「そうなんです」


NinaがMiwaを見る。


「何が?」


Miwaは少しだけ真面目な声になる。


「だって、リバクラの周りって、綺麗な人、たくさんいるじゃないですか」


その言葉に、リバックライン側が一瞬で静かになった。


Kateが少しだけ眉を上げる。


Saraが、ゆっくりMiwaを見る。


Ninaが、自分たち五人を順に見た。


Yuiが淡々と口を開く。


「対象にリバックラインが含まれている可能性」


Miwaが慌てる。


「違っ、いや、違わないですけど」


natsuが、サングラス五人組を見て言った。


「含まれる」


Ninaが笑いをこらえる。


「natsuさん、判定が早い」


Miwaは赤くなりながら言う。


「こんなにたくさんの綺麗な人に囲まれてるのに、それでも“俺の腕空いてるぞ”って思うのかなって」


一瞬、全員が黙った。


今度の沈黙は、さっきとは違った。


観客一万六千人に見られているのに、という話ではない。


もっと近い。


リバクラの周りにいる、距離の近い女性たち。


支える人たち。


話せる人たち。


冗談を言える人たち。


それでもなお、空いている腕があるのか。


そういう話だった。


Kateが、ゆっくり言った。


「近くにいることと、そういう関係でいることは違います」


Saraも頷く。


「私たちはサポートです。チームです。だからこそ、境界線があります」


Ninaが少し笑う。


「そりゃ、皆さん半端ないですよって言われた後で言うのも変だけど」


Miwaが小さく言う。


「はい」


Ninaは続ける。


「綺麗な人が周りにいるから満たされる、って単純な話じゃないと思う」


renaが、静かに頷いた。


「誰かが近くにいることと、自分の腕に手を回してくれることは違いますね」


shihoが言う。


「それに、綺麗な人に囲まれているから寂しくない、とは限らないと思います」


natsuが短く言った。


「腕は、役割じゃ埋まらない」


Miwaが、少しだけ目を伏せた。


Yuiが淡々と続ける。


「業務的近接と情緒的接続は別カテゴリ」


Ninaが笑いそうになって、でも今回は頷いた。


「固いけど、合ってる」


Saraが、Miwaを見る。


「だから、贅沢とか、わがままとは違うと思います」


Kateが言う。


「私たちが近くにいることと、誰かを好きになることは、同じではありませんから」


Miwaが、小さく息を吐いた。


「……そっか」


renaが優しく言う。


「足りない、というより、違う場所なんだと思います」


shihoが続ける。


「拍手で満ちる場所、仲間で満ちる場所、恋で満ちる場所は違う」


natsuが言う。


「全部、別の器」


Yuiが頷く。


「器分類、妥当」


Ninaが笑った。


「今日の二人、ほんと相性いいですね」


Miwaは、少しだけ口元を緩めた。


「じゃあ、わがままではないんですね」


Kateが微笑む。


「少なくとも、歌の中ではそう見えました」


Saraが言う。


「羨ましいと言っているだけです。奪っていません」


Ninaが、Miwaを横からつつく。


「で、ちなみに」


Miwaが嫌な予感の顔をする。


「何ですか」


Ninaは、ReShiNaの三人の方を見る。


「mcRCさんのタイプは……?」


Miwaが、ほぼ跳ねた。


「えっ」


renaが目を丸くする。


shihoが少しだけ笑う。


natsuが真顔で言う。


「聞くんだ」


Kateが、眉間を押さえる。


「Ninaさん」


Ninaは悪びれない。


「いや、今の流れなら気になるじゃないですか」


Saraが穏やかに言う。


「本人不在で断定する話ではありません」


Yuiが言う。


「タイプ推定、情報不足」


natsuが首を傾げる。


「でも、考えるのは自由」


Yuiが頷く。


「想像なら可」


Miwaが、小さく言う。


「想像なら……」


KateがMiwaを見る。


「乗らない」


Miwaは姿勢を正した。


「乗ってません」


Ninaが笑う。


「でも、mcRCさんって、たぶん“ちゃんと見てくれる人”に弱そう」


renaが頷きかけて、少し考える。


「曲だけで言うなら、見つけてほしいけど、押しつけられたくはない人、でしょうか」


shihoが言う。


「騒がしいだけではなく、景色を一緒に見てくれる人」


natsuが短く言う。


「腕に来る人」


Miwaがタオルで顔を隠した。


「やめてください」


Ninaが笑いながら言う。


「natsuさん、直球すぎる」


natsuは真顔だった。


「でも、曲にあった」


Saraが頷く。


「あくまで想像ですけど、距離感を大事にする人の方が合いそうですね」


Kateが言う。


「あと、上から来ない人」


Yuiが淡々と続ける。


「横に来る人」


一瞬、リバックラインの五人が静かになった。


その言葉は、リバクラの根っこにある言葉でもあった。


renaが、柔らかく笑う。


「横に来る人。いいですね」


shihoが頷く。


「それなら、リバクラさんらしい」


natsuが言う。


「腕も横」


Miwaが完全に崩れた。


「natsuさん!」


通路のざわめきに、八人の笑い声が混ざる。


話題は、自然に次の問題へ移った。


Ninaが、少し声を落とす。


「で……」


Miwaが身構える。


Kateが目を閉じる。


Saraが、なぜか姿勢を正す。


natsuが先に言った。


「≫ で ん?」


全員が止まった。


Miwaがタオルで顔を隠す。


「言った」


Ninaが崩れた。


「本人より先に言った」


renaが笑いをこらえきれずに肩を揺らした。


shihoも、マスク越しに口元を押さえている。


Kateが少し困ったように笑う。


「避けて通れませんね」


Saraが真面目に頷く。


「避けて通れません」


Yuiが淡々と言う。


「圧倒的存在感」


natsuが頷く。


「圧倒的」


Miwaが顔を上げられない。


「やめてください」


Ninaが笑いながら言う。


「でも、あれそんなにまずいですか?」


Kateが意外そうに見る。


「Ninaさん?」


Ninaは肩をすくめる。


「いや、もちろん言い方を間違えたらダメですけど。曲としては普通に笑えたし、男の人ってそうなんだろうなって」


renaが頷く。


「私も、そこまで嫌ではなかったです」


shihoが少し考える。


「BEEFさんが切ったのもありますね。あと、wataさんが音で包んでいたので」


Saraが言う。


「雑に投げっぱなしではなかったです」


Yuiが続ける。


「衝動を音楽的処理により可聴範囲へ変換」


Ninaが吹き出す。


「処理って言うとまたBEEFさんが担当になる」


natsuが言う。


「BEEF処理担当」


Miwaが笑いながら首を振る。


「実務みたいに言わないでください」


shihoが、少し真面目に言う。


「でも、あの一音で会場全部そちらを向いたのは、すごかったです」


renaが続ける。


「一音だけで、何を見たのか分かるというか」


Ninaが言う。


「逆らえないんですね」


一瞬、女子八人の間に妙な沈黙が落ちた。


Miwaが小さく言う。


「そっか……逆らえないか……」


Kateが咳払いする。


「Miwaさん」


Miwaは慌てて手を振る。


「違います。一般論です」


Yuiが言う。


「一般論、二回目」


「記録しないで」


natsuが、少しだけ首を傾ける。


「アピールすれば、言うこと聞いてくれますかね」


その場が凍った。


それから、Ninaが吹き出した。


「natsuさん!?」


renaが真っ赤になった。


「natsu!」


shihoが口元を押さえて肩を震わせる。


Miwaは、タオルで顔を完全に隠した。


「それは……」


Kateが、なんとか冷静に言う。


「相手によります」


Saraが真顔で頷く。


「そして、使い方によります」


Yuiが淡々と言う。


「効力は個人差あり。乱用不可」


Ninaが壁に手をついた。


「もうだめ」


natsuは真顔だった。


「聞いただけ」


renaがまだ赤い。


「聞き方が直球すぎるの」


shihoが笑いながら言う。


「でも、男の人が“逆らえない”というなら、理論上は……」


Kateが静かに止める。


「shihoさん」


shihoが、目をそらした。


「すみません」


Miwaが小さく言う。


「私たちはそんなんじゃないです。まだ」


一瞬。


全員がMiwaを見た。


Ninaが、ゆっくり言う。


「まだ?」


Miwaは固まる。


Kateが静かに繰り返す。


「まだ」


Saraが口元を押さえる。


Yuiが淡々と言う。


「将来可能性を含む副詞」


Miwaが両手で顔を覆った。


「違います!」


natsuが言う。


「まだ、なんだ」


shihoが笑いをこらえる。


「natsu、追撃しない」


renaは、もう笑っていた。


「でも、かわいいです」


Miwaが首を振る。


「かわいくないです。今のは違います」


Ninaが肩を揺らす。


「でも“まだ”って言った」


「言ってません」


Yuiが即答する。


「言いました」


「記録しないで」


Saraが、やわらかく笑って言った。


「大丈夫です。ここだけの女子トークです」


Kateが頷く。


「そうですね。ここだけです」


natsuが言う。


「でも、記憶には残る」


Miwaが崩れた。


「残さないでください」


shihoが、少しだけ穏やかに言う。


「でも、そういうふうに誰かを大事に思う気持ちは、悪いものではないと思います」


Miwaは、タオルを握ったまま少し黙った。


Ninaが隣で、軽く肩を寄せる。


「そうそう。まだでも、まだじゃなくても」


Kateが小さく笑う。


「言い方」


Saraが言う。


「応援は応援でいいんです。距離感を守っていれば」


Yuiが頷く。


「境界線遵守型好意」


natsuが言う。


「それ、強そう」


Yuiが返す。


「たぶん強いです」


renaが、五人を見て言った。


「リバクラさんたち、幸せですね」


Miwaが驚いて顔を上げる。


「え?」


renaは微笑む。


「こんなふうに、曲を聴いて、ちゃんと考えて、笑って、大事にしてくれる人たちがいるのは」


五人は、少しだけ黙った。


Ninaの表情から、笑いが少し引く。


Kateが静かに頭を下げる。


「ありがとうございます」


Saraも、穏やかに言う。


「でも、私たちだけではありません。今日の会場には、同じように受け取った人がたくさんいたと思います」


shihoが頷く。


「それは、見ていて分かりました」


natsuが言う。


「拍手が、遅れて深かった」


Yuiが少しだけ目を細める。


「遅延型共感反応」


Ninaが笑う。


「Yuiちゃん、いい場面でもそれ」


natsuが真面目に頷く。


「でも合ってる」


Miwaが、少しだけ涙目で笑った。


「なんか、今日、ずっと泣きそうです」


Kateが言う。


「泣いてもいいですが、出口前です」


Ninaが笑う。


「現実的」


Saraがスマホを見る。


「それで、今日の食事ですが」


Miwaが、はっとする。


「そうでした!」


NinaがReShiNaの三人を見る。


「このあと、もし大丈夫なら……ご飯、一緒にどうですか?」


renaが目を丸くする。


「私たちも、ですか?」


Kateが頷く。


「もちろん、ご迷惑でなければ。リバクラ側にも確認します」


Saraがスマホを操作する。


「今、連絡します」


natsuが、フルートケースを持ち直す。


「関係ないのに?」


Ninaが笑う。


「関係なくないです。今日ここで会ったし、めちゃくちゃ語ったし」


Miwaが力強く頷く。


「一緒に来てほしいです」


shihoが少し迷う。


「でも、楽器が……」


Yuiがすぐ言う。


「楽器置き場と移動手段、要確認」


Kateが頷く。


「そのあたりはこちらで調整できます」


Saraが、スマホを見ながら言った。


「送りますね」


彼女はリバクラのグループチャットを開いた。


文面を丁寧に打つ。


『ReShiNaさん三名と出口付近でお会いしました。もし皆さんがよければ、今日の食事にご一緒いただいても大丈夫でしょうか。楽器ケースありなので、移動と席の余裕も確認したいです。』


送信。


八人が、なぜかスマホを見つめる。


Ninaが小声で言う。


「既読つくの待つの、緊張する」


Miwaが頷く。


「心臓に悪いです」


Yuiが淡々と言う。


「グルチャ待機圧」


natsuが言う。


「好き」


Kateが笑う。


「そこも好きなんですね」


すぐに既読がついた。


最初の返信は、wataだった。


『え、ReShiNaおるん? ご飯ええやん』


続いてEGUI。


『もちろん。楽器ケースあるなら広い席にしよう』


mcRC。


『来てくれるなら嬉しい。SUNNY DRIVEも強かったし、今日はちゃんと飯食おう』


少し遅れてBEEF。


『店、狭いなら変えろ』


Ninaが画面を見て吹き出した。


「BEEFさん、現実的」


Kateが即座に言う。


「でも正しいです」


Saraが頷く。


「店、変えます」


Miwaがスマホを胸に抱えるようにして言った。


「嬉しいって……」


Yuiが横から見る。


「mcRCさんの文面に反応」


Miwaが赤くなる。


「違います」


natsuが言う。


「違わない」


Miwaが完全に黙った。


renaが優しく笑う。


「では……お邪魔してもいいですか?」


shihoが少しだけ申し訳なさそうに言う。


「楽器があるので、荷物が大きくなりますが」


Kateがすぐに頷く。


「問題ありません。お店を調整します」


Saraはもう電話をかけ始めている。


「すみません、先ほど予約した者ですが、人数と荷物の件で相談です。楽器ケースが三つあります。はい、大きめのものもあります」


Ninaが小声で言う。


「Saraちゃん、早い」


Yuiが頷く。


「権利確認だけでなく席確認も強い」


natsuが言う。


「強い」


shihoが少し笑う。


「すごいですね」


Miwaが胸を張る。


「うちのSaraさん、すごいんです」


Saraが電話をしながら、片手で軽く制した。


「聞こえています」


Ninaが笑う。


renaが、アコギケースを持ち直す。


「なんだか、すごい日ですね」


Kateが静かに言う。


「そうですね。二回戦に勝って、こうして会えて」


shihoが頷く。


「曲の話をして、そのままご飯に行く」


natsuが短く言う。


「女子会から合同ご飯」


Yuiが言う。


「自然な流れ」


Miwaが、小さく笑った。


「自然ですか?」


Yuiは頷く。


「自然です」


NinaがMiwaの肩を軽く叩く。


「ほら、自然だって」


「Yuiちゃん基準で自然なの、少し不安です」


natsuが言う。


「でも好き」


Miwaが笑った。


「natsuさん、それ便利ですね」


「便利」


Saraが電話を終えて戻ってきた。


「席、変更できました。少し広めの個室寄りです。楽器ケースも置けます」


Kateが頷く。


「ありがとうございます」


Ninaが両手を軽く合わせる。


「じゃあ、行きましょう」


Miwaが出口の方を見る。


その先に、まだリバクラの三人とBEEFはいない。


でも、もう合流する流れはできた。


同じチームとして待つリバックライン。


偶然会って、今日の曲を一緒に笑って語ったReShiNa。


そして、これから出てくるReverse CrownとBEEF。


Miwaはタオルを握り直して、小さく言った。


「今日は、ご飯まで濃そうですね」


Ninaが笑う。


「今日“も”でしょ」


Kateが頷く。


「反省会という名の、ほぼ感想会になると思います」


Saraが静かに言う。


「ただし、食事はちゃんと取らせます」


Yuiが淡々と足す。


「飯は感情も戻す」


natsuが、ぱっとYuiを見る。


「好き」


Yuiが会釈する。


「ありがとうございます」


renaとshihoが、同時に小さく笑った。


八人は、人の流れの端を歩き出した。


サングラス五人。


マスクの楽器女子三人。


目立たないつもりで、たぶん少し目立っている。


でも、もう誰もそこまで気にしていなかった。


通路の向こうでは、まだ観客が言っている。


「リバクラ勝ったな」


「SUNNY DRIVEも強かった」


「夏、終わるな」


「休み、終わるな」


「でん、忘れられない」


「忘れろ」


Miwaは、タオルを握りしめたまま、小さく笑った。


忘れられるわけがなかった。


腕が空いていることも。


夏に置いていかれることも。


布団に負けることも。


そして、そんな弱さを笑って歌にした三人のことも。


全部、今日の会場に残っていた。


その残り熱を抱えたまま、八人は出口へ向かった。


このあと待っているのは、きっと反省会ではない。


笑いすぎる食事会だった。

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