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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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154/186

5-3-1 二回戦、夏の客席



二回戦の日、会場の空気は一回戦とは明らかに違っていた。


まず、人の数が違う。


一回戦第一試合の動員は、一万一千人。

それでも十分に大きかった。

歓声は床を震わせたし、ライトが落ちた瞬間の暗さには、人数以上の圧があった。


けれど、今日はさらに増えていた。


一万六千人。


追加開放された席まで埋まり、客席の奥が前回よりも遠く見える。

声の層が分厚い。

拍手の返りが遅れて聞こえる。

一つの会場というより、いくつもの温度の違う島が、同じ暗がりの中に浮かんでいるみたいだった。


席は予約制だから、同じファン層がきれいに固まっているわけではない。


リバクルーもいる。

BEEF勢もいる。

ReShiNa勢もいる。

ReShiNaガチ恋勢もいる。

今日の対戦相手を目当てに来た人もいる。

他チームのファンもいる。

公式切り抜きから来た一般勢もいる。


それらが、あちこちにまばらに混ざっている。


黒い逆さクラウンの小物が、明るいタオルの隣にある。

肉マークの黒キャップが、柔らかい色のワンピースの後ろに見える。

楽器モチーフのチャームをつけた人が、今日の相手チームのラバーバンドをつけた友人と並んでいる。


一回戦よりも、会場そのものが複雑になっていた。


「増えてるな」


ステージ袖で、wataが小さく言った。


mcRCは客席を見たまま頷く。


「増えてる」


EGUIも視線を上げた。


「見られてるな」


BEEFは後ろで、短く言った。


「だから浮くな」


wataが振り返る。


「まだ何もしてへん」


「今、少し浮いた」


「俺の足元まで管理すな」


mcRCは笑いかけて、すぐ客席へ目を戻した。


確かに、見られている。


一回戦の評判がよかったらしい。


公式切り抜き。

ROLL CALLの反応。

KEEP MOVINGの短いフレーズ。

BEEFの裏話投稿。

黒い衣装の逆さクラウン。


それらが、少しずつ人を呼んだ。


ただし、今日ここにいる全員が、Reverse Crownを好きなわけではない。


むしろ、まだ知らない人の方が多い。

名前だけ聞いた人。

切り抜きだけ見た人。

BEEFを見に来た人。

ReShiNa関連で興味を持った人。

今日の対戦相手のファン。


色々な視線がある。


その中に、五人組がいた。


Kate。

Miwa。

Nina。

Sara。

Yui。


今日もサングラスをしている。


ただし、前回よりは工夫しているつもりだった。


大きめの黒。

細いフレーム。

薄い色つき。

丸い形。

少しスポーティーなもの。


全員同じではない。


でも、五人そろってサングラスをしているので、結局まとまりとして目立つ。


しかも、端には小さく逆さクラウンのマークが入っている。


本人たちは、本気で目立っていないつもりだった。


Miwaが、膝の上のタオルを整えながら言った。


「今日は大丈夫」


Ninaが横を見る。


「何が?」


「目立ってない」


Ninaは、数秒黙った。


「……それ、本気で言ってる?」


「え? だって、前回みたいに全員同じじゃないし」


Yuiが淡々と補足する。


「種類を分けた五人サングラスです」


Miwaが固まる。


「言い方」


Saraが少し笑った。


「顔は隠れていますよ。たぶん」


Kateが言う。


「ただ、五人で並ぶと、どうしても“何かの集団”には見えますね」


Ninaがサングラスを少し上げる。


「しかもリバクラマーク入り」


Miwaは真剣に言った。


「でも、ファンに見えるだけですよね?」


Saraが首をかしげる。


「それはそうですね」


Yuiが言う。


「現時点では、リバクラの熱心なファンに見える可能性が高いです」


Miwaはほっとした。


「なら大丈夫」


Ninaが小さく笑う。


「大丈夫の基準がゆるい」


Kateは、膝の上のタオルを見た。


「今日は、声量を気をつけましょう」


Miwaが頷く。


「分かってます。自重します」


Ninaが言う。


「前回も言ってた」


「今回は本当に。大好きですうちわも出してないし」


Kateが静かに言った。


「それは出さないのが通常です」


Saraが続ける。


「物理的な掲出物はありません」


Yuiが少しだけ目を細める。


「ただし、心のうちわは確認できます」


Miwaが胸元を押さえた。


「見える?」


Ninaが言う。


「朧げに見える」


Saraが小さく笑う。


「気持ちは出ていますね」


Kateも我慢できずに笑った。


「大好きです、って書いてある感じはします」


Miwaはタオルで顔を隠した。


「出してません。心の中だけです」


Yuiが淡々と言う。


「心理掲出あり」


「やめて、その言い方」


五人は小さく笑った。


その少し離れた席に、清楚系の三人がいた。


三人ともマスクをしている。


変装のつもりなのか、人混み対策なのか。

たぶん、両方だった。


一人はアコギケースを足元に置いている。

一人はバスクラリネットの大きなケースを抱えている。

一人はフルートケースと、細長いケースを膝に乗せている。


全員、楽器を持っている。


その時点で、普通の客席では少し目立つ。


しかも、二人は妙に疲れていた。


おそらく、楽器のせいだ。


アコギケースの女性は、マスクの下で息を整えている。

バスクラケースの女性は、すでに肩を片方下げている。

フルートケースの女性だけが比較的軽そうに座っているが、それでも人混みと音圧を警戒している顔だった。


三人の手元には、耳栓がある。


アコギケースの女性が、小さく言った。


「今日、耳栓ある」


バスクラケースの女性が頷く。


「ある。勝ち」


フルートケースの女性も、耳栓の袋をつまんだ。


「今日は耳を守る」


「楽器も守る」


「酸素も守りたい」


アコギケースの女性が言うと、バスクラケースの女性が深く頷いた。


「マスクと人混みとバスクラで、酸素が少ない」


フルートケースの女性がぽつりと言う。


「ふたり、荷物で呼吸を削ってる」


「削ってない」


「削ってる。ケースが肺の前にいる」


アコギケースの女性は笑いかけて、マスクの中で少しむせた。


「笑わせないで」


三人の周りを、ReShiNa勢らしき人たちがちらちら見ている。


はっきり分かっているわけではない。

ただ、アコギ。

バスクラ。

フルート。


その組み合わせが、目に引っかかっている。


「え、あの楽器の組み合わせ……」


「いや、まさか」


「でも三人だよ」


「マスクしてるし分からん」


「アコギとバスクラとフルート持った女の子三人が、ヒップホップ大会に普通に来ることある?」


「あるかもしれない」


「ない寄りでは?」


「でも決めつけるな」


そんな視線が、ちらちらと飛んでくる。


三人は、気づいているのか、いないのか。

少なくとも、気づいていないふりをしていた。


フルートケースの女性が、そっと言う。


「見られてる」


バスクラケースの女性が、前を向いたまま返す。


「楽器が見られてる」


アコギケースの女性が言う。


「私たちじゃなくて?」


「楽器」


フルートケースの女性が頷く。


「楽器は嘘をつかない」


「それ、今言うと怖い」


その横を、今日の対戦相手のファンが明るいタオルを持って通っていく。


色が強い。


青。

黄色。

オレンジ。

白。


夏の色だった。


今日の相手チームは、そういうチームだった。


外向きで、明るい。

会場を一気に上げる。

難しいことを考える前に、手を上げさせる。

夏フェスのように、客席を大きく揺らす。


チーム名は、SUNNY DRIVE。


名前の通り、陽の側のチームだった。


ステージセットも、一回戦とは違う。


スクリーンには、青い空のようなグラデーション。

白い雲の線。

ステージ下には、オレンジのライト。

会場へ向けて、最初から「楽しむ準備」が作られている。


音楽としては、ヒップホップ。

けれど、かなりフェス寄りだった。


リバクラは、ステージ袖でそれを見ていた。


もう衣装は着ている。


黒を基調にしたステージ衣装。

胸元には逆さクラウン。

サングラスの横にも、同じ小さなマーク。


一回戦の時より、少しだけ馴染んでいる。


新品の硬さが抜けて、身体に沿ってきた。


wataが肩を回した。


「今日も派手やな」


mcRCが言う。


「もう慣れたやろ」


「慣れたけど、鏡見ると一瞬びびる」


EGUIが自分の袖を見た。


「動きやすい」


wataが笑う。


「EGUI、それ毎回言うな」


「大事やろ」


「大事やけど」


BEEFは、後ろで黒いキャップを深くかぶり直していた。


衣装のポケット位置は、前回より少し調整されている。


BEEFが一度だけ、ポケットに手を当てる。


「引っかからない」


wataが振り向く。


「お、改善された?」


BEEFは短く言った。


「された」


mcRCが笑う。


「Miwaさん喜ぶな」


BEEFは何も言わない。


ただ、少しだけ袖を確認した。


その仕草だけで、ちゃんと感謝しているのが分かる。


wataは、それを見てにやっとする。


「BEEF、あとでちゃんと言えよ」


「何を」


「ポケット良くなってました、ありがとうございます」


BEEFは黙った。


EGUIが言う。


「言った方がいい」


BEEFはさらに黙る。


mcRCが笑いをこらえる。


「今、言うか迷ってるやろ」


「うるさい」


いつもの空気だった。


けれど、会場はいつもではない。


一万六千人。


前回よりも多い。

前回よりも混ざっている。

前回よりも期待されている。


そして、今日の相手は強い。


SUNNY DRIVEの一曲目が始まる。


タイトルは、HOT OPENING。


ステージのライトが、一気に明るくなる。


前奏から、クラップが大きい。

キックは軽く跳ねる。

スネアは乾いていて、空の下で鳴るように抜ける。


フックは英語と日本語が混ざり、初見でもすぐに乗れる。


「Say hot!」


客席が返す。


「Hot!」


「Say drive!」


「Drive!」


一曲目から、会場の上げ方がうまい。


強引ではない。

明るい。

迷わせない。

手を上げる場所が分かりやすい。


SUNNY DRIVEのフロントは、笑顔を崩さない。


汗まで演出にしている。


ライトを浴びて、腕を上げて、客席へ大きく振る。


それだけで、あちこちの席から手が上がった。


リバクルーの一部も、自然に身体が動く。

一般勢も分かりやすく乗れる。

BEEF勢は腕組みのままだが、足先だけリズムを取っている。

ReShiNa勢の一部は音量に少し驚きつつも、前回よりは構えている。


三人の楽器持ちの女の子たちは、耳栓をつけていた。


アコギケースの女性が、小さく親指を立てる。


「耳栓、勝ち」


バスクラケースの女性も小さく頷く。


「生きてる」


フルートケースの女性は、ステージを見ながら言う。


「太陽が近い」


一曲目は、完全に会場を開いた。


リバクラのステージ袖で、wataが小さく言う。


「上げるのうま」


EGUIが頷く。


「うまい」


mcRCも目を離さない。


「分かりやすいな」


BEEFが短く言う。


「強い」


その一言に、三人は黙った。


強い。


それで十分だった。


二曲目は、COLOR RUSH。


スクリーンの色が、青からオレンジ、黄色、白へと一気に変わる。


曲調はさらに軽い。


一曲目よりも、客席の身体を横に揺らす。

コールよりも、クラップと足のリズムを作るタイプだった。


「Clap two!」


パン、パン。


「Step right!」


客席のあちこちで、肩が揺れる。


「Color up!」


照明が弾ける。


タオルを回す曲ではない。

旗を振る曲でもない。


でも、会場全体が色の中に入っていく。


SUNNY DRIVEは、明るさを押しつけるのではなく、色を変えるように会場を動かした。


一曲目で開き、二曲目で染める。


その流れがうまかった。


Miwaは、サングラス越しにそれを見て、思わず言った。


「演出、うまい……」


Ninaが頷く。


「色の切り替え、分かりやすいね」


Yuiが淡々と見る。


「視認性が高いです。遠い席でも変化が分かります」


Kateも言う。


「初見でも迷いにくいですね」


Saraは少しだけ考え込む。


「二曲目で温度を維持しながら、疲れさせすぎない構成ですね」


Miwaが悔しそうにタオルを握った。


「うちも負けてられない」


Ninaが笑う。


「客席で会議しないで」


「でも、あれ見たらするでしょ」


「する」


五人は小声で笑った。


その近くで、ReShiNaガチ恋勢の一人が、楽器持ちの三人をちらちら見ている。


フルートケースの女性が、視線に気づいて、少しだけケースを抱え直す。


「見られてる」


アコギケースの女性が言う。


「また楽器?」


「たぶん」


バスクラケースの女性は、前を向いたまま言った。


「今はステージを見よう」


フルートケースの女性は頷く。


「うん」


そして、ステージを見る。


SUNNY DRIVEは強い。


二曲目で、会場の身体を完全に温めた。


リバクラ側の袖では、wataが腕を組んでいた。


「これは、同じ色勝負したら負けるな」


mcRCが頷く。


「やらん方がいい」


EGUIが言う。


「こっちはこっち」


BEEFが短く言う。


「そう」


三曲目。


SUNNY DRIVEは、さらに大きく来た。


タイトルは、SUMMER MAXIMUM。


完全に勝負曲だった。


音が太くなる。

ライトが強くなる。

スクリーンの空が夕方色に変わる。


先ほどまでの青い夏から、オレンジの熱へ。


フロント三人が、ステージ前へ出る。


一人目が煽る。

二人目が畳みかける。

三人目がフックを持ってくる。


明るいのに、少しだけ切ない。


夏が終わる前の、一番熱い瞬間を切り取ったような曲だった。


客席が大きく跳ねる。


リバクルーも、完全に無視はできない。

BEEF勢も、腕組みのまま何人かが頷いている。

一般勢はかなり乗っている。

SUNNY DRIVEのファンは、完全に火がついている。


「SUNNY!」


「DRIVE!」


「SUNNY!」


「DRIVE!」


一万六千人の会場に、明るいコールが響く。


曲の終盤、ステージ中央のフロントが叫んだ。


「夏、終わらせんな!」


客席が返す。


「終わらせんな!」


「もっと行けるか!」


「行ける!」


そのまま、ラストのフックへ。


音は最大まで上がり、照明は白く弾けた。


最後のキックが落ちる。


会場が大きく揺れた。


拍手。

歓声。

光。


SUNNY DRIVEは、三曲をやり切った。


先攻として、完璧に近い仕事だった。


明るく、分かりやすく、強い。


一回戦の先攻とはまた違う強さ。


構成の美しさではなく、会場を夏に連れていく力。


その圧があった。


ステージ袖で、wataが息を吐く。


「強いな」


EGUIが頷く。


「強い」


mcRCは客席を見た。


客席は温まっている。


かなり温まっている。


ただし、そこには少しだけ、置いていかれた人もいる。


タオルを持っていない人。

笑っているけれど少し遠くにいる人。

腕を上げるタイミングを逃した人。

盛り上がっている会場の中で、自分だけ少し遅れたような顔をした人。


夏の明るさに乗り切れない人。


mcRCは、それを見た。


BEEFも見ていた。


「いるな」


BEEFが言った。


mcRCは頷く。


「いる」


wataも、少しだけ客席の奥を見た。


「夏に入りきれてない人」


EGUIが静かに言う。


「連れていくか」


BEEFはターンテーブル側へ目を向けた。


「飲まれるな」


wataが短く笑う。


「夏に乗れ」


mcRCが息を吸った。


ステージの熱は、まだSUNNY DRIVEのものだった。


会場は明るい。

客席は温まっている。

相手は強い。


でも、そこに隙間がある。


リバクラが入るなら、そこだった。


完璧な夏じゃなくていい。


外に出たいけど出られない人。

波に乗りたいけど乗り切れない人。

休みに置いていかれそうな人。


その人たちまで、連れていく。


BEEFが、機材の前で小さく指を鳴らした。


「行ける」


wataが笑う。


「今回は信じろって言わんの?」


BEEFは振り向かない。


「もう分かるだろ」


EGUIが、短く言った。


「分かる」


mcRCは、マイクを握った。


黒い衣装の胸元で、逆さクラウンがライトを拾う。


次は、後攻。


Reverse Crownの番だった。

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