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ラップ付き小説 ReversCrown 元気ないやつこっちおいで  作者: egubi
sound session編

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5-2-4 ROLL CALL



最後のキックが落ちた。


逆さまの王冠が、スクリーンの奥で白く光り、それからゆっくり暗くなる。


一万一千人の客席が、一瞬だけ静かになった。


完全な沈黙ではない。


これだけの人数がいれば、沈黙にも質量がある。

息を吸う音。

スマホを構え直す音。

椅子に身体が触れる音。

拍手が始まる前の、あの薄い揺れ。


そのあと、拍手が来た。


先攻チームの時とは違う拍手だった。


先攻チームへの拍手は、完成度への拍手だった。

一曲目で入口を作り、二曲目で背景を見せ、三曲目で会場を上げ切る。

大会の初戦として、きれいに整えられた強いステージ。


だが、今の拍手は少し違う。


「うまかった」よりも先に、何かを見た拍手だった。


Reverse Crown。

mcRC。

wata。

EGUI。

逆さの王冠。

下から来た三人。

上から見下ろさないという姿勢。


まだ全部は伝わっていない。


けれど、さっきまでの「後攻チーム」ではなくなった。


誰が立っているのか。

何をしに来たのか。

なぜその名前なのか。


その入口だけは、確かに開いた。


先攻チームの熱は、まだ会場に残っている。


それを消す必要はない。

奪う必要もない。

同じ上手さで殴り返す必要もない。


先攻の洗練された余韻を、背景に残したまま。

リバクラは、自分たちの名前と顔と理由を立てた。


上手さではなく、輪郭。


音ではなく、存在。


ステージ中央で、mcRCはマイクを下ろさずに立っていた。


wataが横で小さく息を吐く。


「一曲目から、だいぶ名乗ったな」


EGUIが淡々と返す。


「名乗らんと始まらんやろ」


「それはそうやけど」


wataは客席を見渡して、少しだけ笑った。


「一万一千人の前で“俺らは下から来た”って言うの、まあまあ腹くくってるよな」


mcRCが言う。


「いまさら?」


「いまさら緊張が来た」


EGUIが短く言う。


「遅い」


wataが振り向く。


「遅いとか言うな。今来た緊張もあるやろ」


その時、後ろから低い声が落ちた。


「喋りすぎると冷える」


BEEFだった。


ターンテーブルの前で、黒いキャップの下から三人を見ている。


wataがすぐに返す。


「出た。冷却警察」


BEEFは表情を変えない。


「冷やしてんのはお前だ」


「いや、今ちょっと温まったやろ」


「温まったら次に行け」


「厳しい」


会場に笑いが広がる。


BEEFの名前が、客席のあちこちで揺れた。


mcRCは、その反応を受けて、少しだけ後ろを振り返った。


「そうやな。ちゃんと紹介しとこう」


wataが頷く。


「大事やな」


EGUIも短く言う。


「仲間やからな」


BEEFが、わずかに眉を動かす。


「勝手に重くするな」


wataが即座に拾う。


「重くしてへん。紹介や」


mcRCは客席へ向き直った。


「後ろで音を切って、壊して、つなぎ直してるやつ」


BEEFは少しだけ顔をしかめた。


wataが続ける。


「便利なDJではありません」


EGUIが続ける。


「歌いません」


wataが重ねる。


「ラップもしません」


mcRCが締める。


「でも、今日のReverse Crownの音を、ライブで生きる形に作り直す仲間です」


一拍。


「DJ BEEF」


照明が、ステージ後方を軽く照らす。


BEEFは、ほとんど動かない。


軽く片手を上げるだけ。


それでも、会場が湧いた。


wataが笑いをこらえる。


「今、絶対“よく仲間にできたな”って空気あったぞ」


BEEFが低く言う。


「できてない」


wataが振り向く。


「おい」


mcRCが笑う。


「今ここにおるやん」


BEEFはターンテーブルに視線を戻す。


「仕事でいる」


EGUIが言う。


「仕事でも、いるなら仲間やろ」


BEEFは返事をしない。


wataがmcRCとEGUIに向かって言う。


「これ、照れてる?」


BEEFが即座に返す。


「違う」


「早いな」


「違うからな」


会場が笑う。


真面目に名乗ったあと、空気が少し緩んだ。


それが必要だった。


Reverse Crownの一曲目は、名前と姿勢を置いた。

けれど、そのまま硬いまま進めば、初見は構える。


次に必要なのは、距離を近づけることだった。


ただし、一万一千人の客席と細かく会話することはできない。


だから、ステージ上で会話する。


三人とBEEFが、同じ場にいることを見せる。

そのやり取りで、客席の肩を少し下ろす。


BEEFは、薄くクラップを鳴らし始めた。


パン。


パン。


パン。


まだ曲ではない。


会話の下に、次の入口を敷く音。


止めない。

でも、急がない。


wataがその音に気づく。


「これ、もう次行けってこと?」


BEEFは答える。


「話すなら、この上で話せ」


「俺らの会話にもビートを敷く男」


EGUIが真顔で言う。


「ありがたい」


wataが見る。


「お前、こういう時だけ素直やな」


EGUIは返す。


「助かるものは助かる」


BEEFが言う。


「なら短くしろ」


wataが両手を少し上げる。


「はいはい、校長」


BEEFの手が止まりかけた。


「誰が校長だ」


会場が笑う。


mcRCが顔をしかめる。


「学校にすな」


wataが乗る。


「さっき袖で夜のリバ朝礼してたやん」


EGUIが言う。


「確認は大事」


wataが、今度は三人の間を見るように言う。


「でも夜の朝礼って、だいぶ矛盾してるからな」


mcRCが返す。


「リバクラでは成立します」


「リバクラスクール?」


mcRCが即答する。


「違う」


EGUIが続ける。


「学校ではない」


wataが笑う。


「じゃあ、リバクラ小学校?」


mcRCとBEEFが同時に言った。


「それはいや」


一瞬、三人がBEEFを見る。


wataが指を差す。


「お前も嫌なんや」


BEEFは顔をそらす。


「小学校は違う」


EGUIが真面目に頷く。


「違うな」


wataが肩を震わせる。


「そこは全員一致なんや」


会場に笑いが広がる。


mcRCは笑いすぎないように、マイクを握り直した。


「学校ではないです」


もう一度、会場が笑う。


「でも、確認はします」


wataが続ける。


「さっき袖でやったやつを、今度は曲にします」


EGUIが言う。


「名前を呼ぶ」


mcRCが言う。


「役割を呼ぶ」


wataが言う。


「呼ばれたら、身体が動く」


EGUIが短く置く。


「それが今日の二曲目です」


BEEFがクラップを一段だけ太くする。


パン。


パン。


パン。


一万一千人の客席に、手を置く場所ができる。


まだ全員が叩いているわけではない。


でも、音の場所は見えた。


ここで、BEEFがさっきのReverse Crownの断片を軽く刻んだ。


mcRC

wata

EGUI


三つの名前が、音の奥で短く跳ねる。


さっき置いた名前を、そのまま次の曲の入口へ運ぶ。


mcRCが小さく頷いた。


「いくぞ」


wataがマイクを握り直す。


「役割、見せよか」


EGUIが前を見る。


「呼ばれたなら立つ」


BEEFが、最後に短くスクラッチを入れた。


シャッ。


笑いが、リズムに変わる。


曲が始まる寸前の空気。


mcRCがマイクを前へ出した。


「ROLL CALL」


BEEFが、その言葉を刻む。


Roll call

Roll call


クラップが入る。


三人が横に並ぶ。


最初に出るのは、曲の中の役割そのものだった。


≫ mcRC

≫ wata

≫ EGUI

≫ 3MC, roll call


低く、短く、名前だけを置く。


それから、三人の役割が一気に立ち上がる。


≫ mcRC make the scene

≫ wata show technique

≫ EGUI go straight

≫ 3MC, roll call


ここで、さっきの一曲目で見えた三人の輪郭が、もう一段はっきりした。


mcRCは場を作る。

wataは技術を見せる。

EGUIはまっすぐ通す。


説明ではない。


名乗りの続きだった。


[本文上は音楽タグなしで進行]


≫ Roll call, roll call

≫ 名前呼ばれたら hands up

≫ Roll call, roll call

≫ まだ終わってない stand up


前方のリバクルーは、すぐに手を上げた。


早い。


知っている反応だった。


だが、会場全体はまだ揃わない。


当然だった。


ここはホームではない。


一万一千人の中には、初見がいる。

先攻チームのファンがいる。

BEEF勢がいる。

大会そのものを見に来た客がいる。


だから、揃いきらない。


それでいい。


この曲は、最初から揃っている客席にだけ向けた曲ではない。


揃っていない会場を、少しずつ同じ合図へ寄せる曲だった。


≫ Roll call, roll call

≫ だるさ脱ぎ捨てて wake up

≫ Roll call, roll call

≫ 俺の番なら straight up


手が、少しずつ増えていく。


まだ迷っている人もいる。

様子を見ている人もいる。

リズムだけ取っている人もいる。


それも、参加の前段階だった。


BEEFは、その揃いきらない拍を聞いている。


急がせない。


クラップを少し太くして、手を置く場所を作る。


mcRCが一歩前へ出た。


≫ mcRC on the scene

≫ 夜のコンビニ 白い beam

≫ 缶コーヒー片手に still tired

≫ でも名前ひとつで fire


Reverse Crownで置いた大きな名前を、mcRCは一気に生活へ降ろした。


王冠。

上から。

下から。


その大きな構えのあとに来るのは、夜のコンビニだった。


白い光。

缶コーヒー。

仕事終わりの疲れ。


特別な場所ではない。


でも、多くの人が知っている場所だった。


≫ 駅前ロータリー タクシーの列

≫ 街灯の下 影が揺れる

≫ 仕事終わりのシャツに疲れ

≫ でもこの声で空気が変わる


mcRCの役割は、場を作ること。


ただし、派手な景色だけではない。


普通の夜を、ステージに引き上げる。


「自分の番かもしれない」と思える入口を置く。


≫ 「来いよ」じゃない

≫ 「お前の番だぞ」

≫ その呼び方で 心臓が鳴る

≫ Scene Maker mcRC

≫ 退屈な夜すら movie


命令ではない。


押しつけでもない。


番が来たと知らせる声。


mcRCは手を上げた。


≫ Call my name

≫ mcRC in the scene

≫ Call my name

≫ 夜が動き出す

≫ 生活感から火をつける

≫ 呼ばれたなら scene を作る


BEEFが音を薄く抜く。


mcRCが名前を置く。


「mcRC」


返事は揃いきらない。


しかし、確かに返る。


その遅れを、BEEFはミスにしない。


クラップをわずかに後ろへ寄せ、遅れた声ごと次の拍に乗せる。


wataは横目で気づいた。


でも、言わない。


曲中だ。


流れを止めない。


≫ Roll call, roll call

≫ 名前呼ばれたら hands up

≫ Roll call, roll call

≫ まだ終わってない stand up

≫ Roll call, roll call

≫ だるさ脱ぎ捨てて wake up

≫ Roll call, roll call

≫ 俺の番なら straight up


手が増える。


前方だけではない。


中段にも、後方にも、少しずつ波が広がる。


wataが前へ出た。


≫ wata on the mic

≫ 今日もテクニック見せる time

≫ 地下通路 跳ね返る kick

≫ 靴音刻んで 入る technique


韻が来る。


空気が締まる。


しかし、wataは詰めすぎない。


相手が強かった。

BEEFに速いと言われた。

初見が多い。


その全部を、wataは身体で分かっている。


走る。


でも、置いていかない。


≫ check, step, neck, next

≫ 一歩ごと詰めてく text

≫ call me wata 待ったなし

≫ 絡まる beat も ばらして走る


BEEFが一瞬だけスクラッチを入れる。


wataは、その隙間に乗る。


≫ call から roll

≫ roll から soul

≫ soul から flow

≫ 全部 control


言葉が跳ねる。


細かい。


でも、手拍子の場所が消えない。


BEEFが切っている。


同時に、支えている。


≫ 固める 高める

≫ 定める 重ねる

≫ 迷いの糸なら 韻でほどける

≫ 詰める 詰める

≫ 詰める 詰める

≫ でも意味は捨てない 芯まで決める


wataの技術が、自己紹介になる。


ただ速いだけではない。

ただ硬いだけではない。


韻は、役割を示すためにある。


≫ Call my name

≫ wata show technique

≫ Call my name

≫ まだまだ足りない

≫ Call, roll, soul, control

≫ Check, step, next, explode

≫ 呼ばれたなら畳み掛ける

≫ この声で場を制圧する


BEEFが一拍空ける。


wataが名前を置く。


「wata」


今度は、返事が早い。


完全ではない。


でも、確実に増えている。


wataは笑わない。


ここで茶化さない。


表情だけで受け取り、そのままEGUIへ渡す。


照明が、まっすぐな白へ変わる。


≫ EGUI Straight Type

≫ 呼ばれたなら まっすぐ行く

≫ 言い訳なんか 置いて行く

≫ 眠い だるい 疲れた

≫ それでも俺は前を見る


EGUIの言葉は、難しくない。


だから逃げ場がない。


眠い。

だるい。

疲れた。


軽い言葉に見えて、毎日の中にいる人間には近い。


そこから「それでも前を見る」へ行く。


短い。


だが、真ん中を通る。


≫ 鏡の前 鋭い眼光

≫ 逃げ道探す自分に宣告

≫ やるのか やらないのか

≫ 答えはいつでも simple


EGUIは動かない。


大きく煽らない。

走り回らない。


ただ、言葉だけが前へ出る。


≫ 呼ばれたなら行く

≫ 俺の番なら立つ

≫ 怖くても行く

≫ まだ終われないから立つ


BEEFが音を抜く。


EGUIが名前を置く。


「EGUI」


返事が返る。


今度は、後方からも聞こえた。


EGUIは大きく反応しない。


ただ、少しだけ視線を客席へ上げる。


その一瞬で十分だった。


曲は、三人の場所を並べていく。


≫ コンビニの光から 夜を抜ける

≫ 缶コーヒーの苦さで 目を覚ます

≫ 地下の反響から 音を連ねる

≫ call, roll, soul 全部つなげる

≫ 鏡の前から ドアを開ける

≫ 行かない理由より 行く理由を選ぶ


三つの場所が、一つに並ぶ。


コンビニ前。

地下通路。

鏡の前。


どれも特別な場所ではない。


でも、そこで人は立つ。


名前を呼ばれて、少しだけ前へ出る。


BEEFが三人の名前を刻む。


mcRC

wata

EGUI

mcRC

wata

EGUI


その断片に合わせて、客席の手が上がる。


≫ mcRC

≫ make the scene

≫ wata

≫ show technique

≫ EGUI

≫ go straight

≫ 3MC

≫ roll call


ここで、会場の返事が明らかに大きくなった。


完璧ではない。


でも、さっきとは違う。


最初は知らない顔が多かった。


今は、呼んだ名前に返事がある。


それは勝敗とは別の手応えだった。


だが、勝敗に無関係ではない。


審査員席でも、その変化は見えていた。


初見の多い場で、名前を置いた。

役割を見せた。

BEEFを仲間として紹介した。

返事を作った。

曲の中で、会場の反応が変わった。


ただ盛り上がっただけではない。


入口が機能している。


≫ Roll call, roll call

≫ 名前呼ばれたら hands up

≫ Roll call, roll call

≫ まだ終わってない stand up

≫ Roll call, roll call

≫ 別々の夜から rise up

≫ Roll call, roll call

≫ 同じ合言葉で light up

≫ mcRC make the scene

≫ wata show technique

≫ EGUI go straight

≫ 3MC, roll call


会場の手が増える。


声も増える。


もう、ただ見ているだけの客席ではない。


名前を覚え、役割を覚え、BEEFの位置を覚え、返す場所を覚え始めている。


≫ コンビニ前から

≫ 地下通路から

≫ 鏡の前から

≫ ひとつの声へ

≫ mcRC

≫ wata

≫ EGUI

≫ Roll call

≫ 呼ばれたなら行く

≫ Roll call

≫ 俺の番なら立つ


BEEFが、最後にクラップを一度だけ残した。


パン。


三人の声が落ちる。


≫ Roll call, roll call

≫ まだ終わってない stand up


照明が落ちる。


拍手が来た。


Reverse Crownで見えた。

ROLL CALLで呼べた。


名前が置かれ、名前が返った。


そして、BEEFもただの後ろのDJではなく、このステージを作り替える仲間として見えた。


mcRCは、客席を見た。


次で、身体を軽くする。


名前を置いた。

役割を呼んだ。

BEEFを紹介した。


なら、次は考えすぎる前に動かす。


未承認の価値の承認は、まだしない。


でも、その前提はできてきた。


見てもらう。

名前を呼んでもらう。

手を上げてもらう。

BEEFの音ごと、このチームだと分かってもらう。


少しずつ、信頼の薄い膜ができていく。


BEEFが、もう次の音を探っていた。


止めない。


でも、雑には急がない。


話す場所は話す。

笑わせる場所は笑わせる。

呼ぶ場所は呼ぶ。

そのうえで、冷やさずに次へ運ぶ。


mcRCは、マイクを握り直した。


会場はもう、最初とは違う顔をしていた。

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