4-2-4 帰り道の三人
4-2-4 帰り道の三人
三人は、駅へ向かって歩いていた。
さっきまでReShiNaが演奏していた歩道から、少し離れた通り。
街はもう、いつもの夜に戻っていた。
コンビニの白い看板。
駅へ流れていく人の足音。
スマホを見ながら歩く会社員。
自転車のライト。
信号の電子音。
どこかの店先から漏れる笑い声。
さっきまでそこにあった、澄んだ声も、バスクラリネットの低音も、フルートの風も、もう街には残っていない。
けれど、三人の中には残っていた。
桜の花びらの下。
毛布の中の雨。
黒髪の三人。
アコギを抱えていた一番年下らしい女性。
バスクラを構えていた一番年上らしい女性。
フルートを持って、空ばかり見ていた真ん中の女性。
そして、曲が終わったあとに残った、あの妙な静けさ。
wataが、しばらく黙って歩いたあと、急に言った。
「……いや、ちょっと待って」
mcRCが横を見る。
「何を?」
「俺の中で会議が始まってる」
EGUIが低く言った。
「議題は?」
wataは胸の前に手を置いた。
「なぜ俺は、あのタイトルだけでダメージを受けたのか」
mcRCが吹き出した。
「INFJな」
「そう。あれ、タイトル発表の時点で、もう一回サビ来たくらい疲れた」
EGUIは、前を見たまま少しだけ笑った。
「分かる」
wataが驚いたようにEGUIを見る。
「お前も?」
EGUIは頷く。
「俺も食らった」
wataは一瞬、茶化そうとした。
けれど、EGUIの横顔を見てやめた。
EGUIは、いつものように静かだった。
けれど、ただ静かなだけではなかった。
何かを飲み込んで、まだその味を確かめている顔だった。
mcRCもそれに気づいて、少しだけ声を落とした。
「残ってるな」
EGUIは答えた。
「残ってる」
その一言で、三人の歩く速度が少しだけ遅くなった。
駅前へ向かう人の流れから、三人だけが少し外れた。
wataは、わざと少し軽く言った。
「いや、しかしさ。正直、俺らの専門外やん」
mcRCが頷いた。
「そうやな」
EGUIも言った。
「ジャンルとしては違う」
wataは指を立てた。
「ケルトかな、とか、アイリッシュっぽいとか、自然音楽っぽいとか、フォーク寄りかな、とか、そのくらいしか言えへん」
mcRCは笑った。
「ざっくりやな」
「しゃあないやろ。俺ら、そこ専門ではないねん。ラップやねん。キック、スネア、808、フック、バース、言葉の置き方、そっちやん」
EGUIが頷く。
「技術的に偉そうに語るのは違う」
「そう」
wataは真面目な顔で頷いた。
「でも、いいか悪いかで言ったら」
三人の声が、ほとんど同時に重なった。
「すこぶるいい」
「景色が強い」
「胸に残る」
三人とも、言葉が違った。
数秒、沈黙。
次の瞬間、wataが笑った。
「全員バラバラやんけ」
mcRCも笑った。
「でも、それだけ良いところが多かったってことやろ」
EGUIは少しだけ口元を緩めた。
「一言で終わらなかった」
wataはEGUIを見る。
「今の、ええな」
「何が」
「一言で終わらなかった、って。お前がそれ言うのがええ」
EGUIは少し目を逸らした。
「俺でも、一言で片づけられん時はある」
wataは少しだけ嬉しそうに笑った。
「今日のお前、ちゃんと食ってるな」
「食らってる」
EGUIは否定しなかった。
mcRCは駅前の光を見ながら言った。
「俺は最初の曲でやられたな」
wataが頷く。
「美しきものは花びらにあらず」
「うん」
mcRCは少し目を細めた。
「桜の歌に聞こえるのに、ずっと下を見てるんよ。花びらじゃなくて、散ったあとの地面。土。芽。見えへん命」
EGUIが言った。
「花じゃなくて、根の方やな」
「そう」
mcRCは頷いた。
「しかも、それを怒鳴ってない。表だけ見るな、って言ってるんやけど、説教じゃない。気づいたら地面を見てる」
wataは、さっき自分が思わず言った言葉を思い出した。
見た目から耳に戻してるんやな。
花を見る話じゃなくて、見方を変える話や。
言葉にしていた時は勢いだった。
でも、今になって、じわじわ戻ってくる。
「あれさ」
wataが言った。
「俺ら、CALL ME OUTで歌ってる話でもあるよな」
mcRCはすぐ頷いた。
「包装紙理論な」
EGUIも言った。
「No lookism。でも、no excuse」
wataは笑った。
「お前がそのフレーズ言うと、妙に堅いな」
「歌ってるからな」
「そうなんよ」
wataは少し熱を帯びた声になった。
「俺ら言ってるやん。中身が大事なんは当然。でも包装紙ぐちゃぐちゃで“中身を見ろ”は違うって。顔がどうとかじゃない。でも、清潔感とか、姿勢とか、服とか、話の聞き方とか、声量とか、生活感とか、相手に届く前に見えてるものを雑にすんなって」
mcRCが頷いた。
「それが、今日ちょっと返ってきたな」
EGUIが静かに言った。
「外側だけで見るな。でも、外側をなかったことにもするな」
「そう」
wataは頷いた。
「ReShiNaの三人、見た目も正直強かったやん」
mcRCは即答した。
「強かった」
EGUIも頷く。
「綺麗だった」
wataはEGUIを見た。
「そこ普通に言うんや」
EGUIは前を見たまま言った。
「事実やろ」
mcRCも言う。
「三人とも黒髪ロングで、見た目に統一感がある。でも、ただ揃えてる感じじゃなくて、音の世界観と合ってた」
wataは少し笑う。
「そら、可愛いとか綺麗とか言われるわ」
EGUIが言う。
「でも、そこで止めるなってことやろ」
wataは頷いた。
「そう。可愛い。綺麗。それはそう。けど、それだけで帰ったら、たぶんあの曲を聴いたことにならん」
mcRCが静かに言った。
「声も、楽器も、立ち方も、怖がり方も、全部音に出てた」
「怖がり方な」
wataはその言葉を繰り返した。
mcRCは少し考えるように言った。
「三人とも、人前に出てるのに、簡単に見られたくなさそうだった」
EGUIが頷く。
「女として見られたいわけではなさそうだった。でも、見てほしくないわけでもない」
wataは、小さく息を吐いた。
「音を見てほしいんやろな」
「たぶん」
mcRCは言った。
「でも、音だけ見ろって言うには、三人とも存在感がありすぎる」
三人は少しだけ黙った。
駅前へ向かう通りの端で、居酒屋から出てきた集団が笑っている。
その笑い声が、少し遠く感じた。
存在感。
確かにあった。
顔の話だけではない。
楽器を持った時の空気。
歌う前の呼吸。
目線の逃がし方。
言葉を受けた時の小さな反応。
風に髪が揺れた時の、音との混ざり方。
全部が音楽の一部みたいに見えた。
wataが、少しふざけた調子で言った。
「つまり、俺らも筋トレするしかない」
mcRCがすぐに横を見る。
「そこに戻るんか」
EGUIが真顔で言った。
「戻る」
wataが驚いた顔をする。
「お前まで?」
「身体も楽器やろ」
その一言で、少しだけ空気が変わった。
身体も楽器。
さっきのReShiNaを見たあとだと、それはただの筋トレ論ではなかった。
歌う体。
吹く体。
支える体。
立つ体。
見られる体。
緊張する体。
それでも音を出す体。
全部、音楽に出る。
mcRCは頷いた。
「声も、息も、姿勢も、体力も、全部出るな」
wataは少し悔しそうに笑った。
「芸術論の着地点がささみなの、嫌やけどな」
EGUIは淡々と言った。
「味付けを工夫しろ」
「そういう話ちゃうねん」
mcRCが笑った。
「でも、間違ってはない」
wataは肩をすくめた。
「間違ってないのが腹立つ」
三人は少し笑った。
笑ってから、また自然にReShiNaの話へ戻っていく。
戻したのは、mcRCだった。
「renaさんの声、すごかったな」
wataはすぐ頷いた。
「高い声って、やっぱ表現の幅が違うな」
EGUIが言う。
「俺らとは届く場所が違う」
「そう」
wataは指を立てた。
「俺ら男声って、太さとか押し出しとか、低さの説得力はある。でも、あそこまで上に抜ける声は出せへんやん」
mcRCが頷く。
「出せんな」
「で、女性の高い声って、綺麗にもできるし、可愛くもできるし、痛くもできる。高さがあるって、それだけで表現のバリエーションが増える」
EGUIが言った。
「同じ言葉でも、置く高さで意味が変わる」
wataは嬉しそうに頷いた。
「それ。それが芸術センスに繋がるんよな。ただ高い声が出るってだけじゃなくて、その高さをどこで使うか」
mcRCは、renaの歌っている姿を思い出した。
アコースティックギターを抱えて立っていた。
三人の中で一番年下に見えた。
少し不安そうだった。
でも、歌い出すと、街のざわめきの上に薄い水の膜を張るような声だった。
強く押してこない。
けれど、消えない。
透明なのに、軽くない。
「renaさんは、声で景色を洗う感じがした」
wataが見る。
「洗う?」
「うん。濁った場所に、水を通すみたいな。優しいけど、ただ柔らかいだけじゃない。少し冷たい。触ったら目が覚める水」
EGUIが頷いた。
「分かる」
wataがEGUIを見る。
「分かるんかい」
「分かる時は分かる」
mcRCは続けた。
「“美しきものは花びらにあらず”って、かなり強いタイトルやん。でも、renaさんの声で歌うと、責められてる感じじゃなくて、連れていかれる感じになる」
wataが腕を組む。
「怒鳴らずに、見えてない場所へ連れていく人やな」
EGUIが言った。
「理想が高い声やった」
wataは少し考えてから頷いた。
「それも分かる。優しいけど、妥協してない感じ」
mcRCは言った。
「renaさんは、声とアコギで曲の正面を作る人やな。最初に水を通して、景色を見えるようにする」
wataは指を折る。
「澄んだ声。高い場所。透明感。けど、表だけで終わらせない」
EGUIが静かに言った。
「水やな」
wataは少し笑った。
「はい、renaさんは水。これは採用」
mcRCが笑う。
「本人には言わんけどな」
「言わん。初対面で“あなたは水です”は怖い」
EGUIが短く言う。
「怖いな」
次に三人の中に浮かんだのは、shihoだった。
黒髪のロング。
一番年上に見えた。
表情は硬かった。
落ち着いているようにも見えたし、守っているようにも見えた。
でも、バスクラリネットが鳴った瞬間、その硬さの奥から、まったく別のものが出てきた。
wataが言った。
「で、shihoさんよ」
mcRCが頷く。
「あのバスクラは大きい」
「大きい。めちゃくちゃ大きい」
wataは、さっきより少し熱を持った声になった。
「さっきの高い声の話と繋がるんやけどさ。女性の声って、高いところへ行ける強さがある。でも、男声みたいな低い下支えは出しにくいやん」
EGUIが頷く。
「そこをバスクラが持っていた」
「そう!」
wataは思わず声を上げて、すぐに周りを見て声を落とした。
「そこ。renaさんの声も、shihoさんの声も、上に抜ける良さがある。でも、そのままだと届きにくい低い場所がある。そこをshihoさんのバスクラが補ってる」
mcRCが言う。
「ただの伴奏じゃなかったな」
EGUIが静かに言った。
「女性の声では届きにくい低い場所を、楽器が歌っていた」
wataは一瞬黙った。
それから、深く頷いた。
「それ、それやわ。めっちゃしっくり来た」
mcRCも頷く。
「低音担当のもう一人の歌手みたいだった」
「そう!」
wataは手を叩きかけて、途中で止めた。
「それ。声で歌ってないだけで、バスクラが歌ってる。低い場所の歌手」
EGUIが続ける。
「下があるから、上が広くなる」
mcRCも言った。
「renaさんの声が上に抜ける。shihoさんのバスクラが下に地面を作る。だから景色が浮きっぱなしにならない」
wataは強く頷く。
「そうなんよ。高い声の綺麗さだけじゃなくて、低い場所があるから立体になる」
EGUIが言う。
「沈ませるだけではなく、立つ場所を作っていた」
wataは、shihoの表情を思い出した。
硬かった。
簡単に触られたくなさそうだった。
でも、音は深く出ていた。
閉じているのに、鳴らしている。
守っているのに、誰かの胸の下まで届く音を出している。
その矛盾が、妙に残っていた。
「shihoさんは、地面の人やな」
mcRCが言った。
「うん」
EGUIも頷く。
「硬く見える。でも、音の奥では揺れている」
wataは少しだけ息を吐いた。
「それ、分かるわ」
mcRCは続けた。
「たぶん、低音で支えてるのに、自分自身も揺れてるんよな」
EGUIが言う。
「支える人ほど、揺れを隠す」
その言葉に、wataは少し黙った。
「……お前、今日ほんま食らってるな」
EGUIは少しだけ苦笑した。
「食らってると言ったやろ」
三人はまた歩いた。
改札は近い。
でも、まだ行かない。
wataが、少しだけ表情を変えた。
「で、natsuさんよ」
三人は、ほとんど同時に少し笑った。
仕方なかった。
あのフルート。
あの首のかしげ方。
INFJを天気だと思う感じ。
妖精と言われても、たぶんよく分かっていない感じ。
でも、笛で返事をする感じ。
mcRCが言った。
「妖精やろ」
EGUIがすぐ返す。
「言うな」
wataは笑う。
「本人には言わんって」
「言うな」
「分かってる」
mcRCはまだ笑っていた。
「でも、風と会話してたやん」
EGUIは少し黙った。
それから、静かに言った。
「それは否定できん」
wataが指を差す。
「ほら」
EGUIは少し眉を寄せた。
「否定できんものはできん」
「そういうとこ好きやで」
「黙れ」
mcRCは笑った。
wataは少しだけ真面目な顔に戻った。
「俺がDJみたいって思ったのは、natsuさんのことなんよ」
mcRCが見る。
「フルートが?」
「そう」
wataは頷いた。
「natsuさんは歌わない。でも、フルートで歌ってた」
EGUIが言う。
「歌詞はない。でも、旋律で返事していた」
「そう。それで、曲の中で会話する。空気を変える。重くなりすぎるところで風を入れる。たぶん、曲と曲の間もつなげる人やろ、あれ」
mcRCは思い出した。
一曲目から二曲目へ移る時。
空気が沈みすぎないように、どこかでnatsuの音が余韻を運んでいた。
目立つように喋るわけではない。
でも、気づけば次の場所へ風が吹いている。
「たしかに、曲の余韻を次に運びそうやな」
「そう」
wataは言った。
「DJって歌わないやん。でも場を回す。曲と曲をつなぐ。空気を切り替える。次に行く道を作る。natsuさんのフルート、あれに近い」
EGUIが静かに言った。
「声ではなく、旋律で場を回す人」
wataは嬉しそうに頷いた。
「それ。ReShiNaのDJ的存在。歌わないけど、フルートで歌って、曲と曲の間まで持っていく」
mcRCは少し考えてから言った。
「renaさんが声の入口。shihoさんが低音の地面。natsuさんが風でつなぐ」
EGUIが頷く。
「三人とも役割が違う」
wataは言った。
「しかも、一人でも抜けたら音の形が変わる」
mcRCはnatsuの姿を思い出していた。
空を見ていた。
風の話をしていた。
人を見ていないようで、聴いている人はちゃんと見ていた。
「natsuさんは、ふわふわしてるようで、聴いてる人と聴いてない人を分かってたな」
EGUIが頷く。
「言葉ではなく、感覚で見ている」
wataは少し笑う。
「そこがまた妖精っぽいんよ」
EGUIが低く言う。
「言うな」
「本人には言わん」
「言うな」
「分かってるって」
mcRCが笑った。
「努力します、やろ」
wataは少し間を空けた。
「努力します」
EGUIが即座に言う。
「言うな」
三人は笑った。
でも、その笑いは雑ではなかった。
natsuはただ不思議な子ではない。
歌わないのに、フルートで歌っていた。
曲中で会話し、余韻を運び、場をつないでいた。
本当に、ReShiNaの中で特殊な役割を持っている人だった。
wataが、少しだけ真面目に言った。
「三人とも、かなりバランスええな」
mcRCが頷く。
「上の声。下の低音。間を吹く風」
EGUIが言う。
「だから景色が立体になる」
wataは腕を組んだ。
「専門外やけど、これは分かる。あの三人、ただ並んでるんじゃない。ちゃんと補い合ってる」
mcRCが言った。
「それぞれの苦手なところを、別の人が埋めてる感じやな」
EGUIが頷く。
「高い声だけでは届かない下を、バスクラが持つ。低音だけでは沈むところを、フルートが逃がす。広がりすぎる景色を、renaさんの声が戻す」
wataは少し黙ってから言った。
「……うわ、強いな」
mcRCも頷いた。
「強い」
EGUIも言った。
「強い」
三人はそのまま少し歩いた。
駅前の明かりが近づいている。
けれど、三人の会話はまだ終わらない。
終われなかった。
wataが、少し低い声で言った。
「INFJの曲、俺まだ残ってるわ」
mcRCが頷く。
「俺も」
EGUIも言った。
「残ってる」
wataは少し笑った。
「タイトルで笑ったのに?」
EGUIは少しだけ黙った。
「笑ったけど、笑いで逃がしただけやと思う」
その言葉に、mcRCとwataは茶化さなかった。
EGUIは続けた。
「外は晴れてるのに、自分だけ雨。あれ、分かりたくないけど分かる」
wataが小さく頷く。
「分かる」
mcRCも言った。
「分かるな」
EGUIは、言いづらそうに続けた。
「平気な顔してる時ほど、中でずっと会議してるやつもある」
wataは笑いかけて、でもやめた。
EGUIは本当に言っていた。
「俺、言い切る顔してるやろ」
wataは即答した。
「してる」
mcRCも頷く。
「してる」
EGUIは苦笑した。
「でも、言い切るまでが長い時がある。迷ってないように見えるだけで、内側ではずっと考えてる」
wataは小さく笑った。
「それでタイトルだけで腹立ったん?」
EGUIは頷く。
「当たってるからな」
その言い方で、三人は少し笑った。
笑える。
でも、痛い。
痛いけど、笑える。
INFJという曲は、そういう場所に刺さっていた。
mcRCが言った。
「あの曲、笑って入れたから聴けたな」
wataはすぐに頷いた。
「そう。毛布とか魔物の巣窟で笑えたから、平気? のところで逃げずに聴けた」
EGUIが言った。
「平気? は、聞き方を間違えると刃物やな」
wataは顔をしかめた。
「それ、まだ残ってる」
mcRCも頷く。
「俺も」
三人は少し黙った。
自分たちも、言葉を使う。
ステージで言葉を置く。
誰かの痛いところに触れる。
だからこそ、雑な言葉の怖さは分かっていたつもりだった。
でも、ReShiNaの曲で、別の角度から刺された。
wataが言った。
「俺ら、CALL ME OUTで外側の話したやん」
mcRCが頷く。
「うん」
「でも、今日思った。外側だけじゃないわ。声の高さも、楽器の役割も、立ち方も、怖がり方も、全部その人の包装紙で、同時に中身でもある」
EGUIが静かに言った。
「分けきれん」
mcRCは頷いた。
「分けきれんな」
wataは続ける。
「だから、外見だけで見るな。でも外見をなかったことにするな。音だけ見ろ。でも音だけが独立してるわけじゃない。全部つながってる」
EGUIが言った。
「面倒やな」
wataが苦笑する。
「面倒やねん。でも、そこが人間なんやろな」
mcRCは静かに言った。
「人が鳴らしてるからな」
その言葉で、三人はまた少し黙った。
人が鳴らしている。
だから、綺麗だけでは終わらない。
だから、可愛いだけでは終わらない。
だから、音だけでも終わらない。
全部が出る。
全部が届く。
届き方は、人によって違う。
wataが、空気を変えるように息を吐いた。
「また聴きたいな」
mcRCはすぐに頷いた。
「聴きたい」
EGUIも迷わず言った。
「聴きたい」
wataがEGUIを見る。
「今日は“悪くなかった”じゃないんや」
EGUIは少しだけ目を逸らした。
「それでは足りん」
mcRCが笑う。
「最大評価や」
wataも笑った。
「EGUIの“聴きたい”は星五より上やな」
EGUIは否定しなかった。
ただ、静かに言った。
「一回じゃ足りん」
mcRCが頷く。
「一回じゃ足りない。でも、一回で残った」
wataは改札の方を見た。
「次聴いたら、また違うと思う」
EGUIが言う。
「こっちの耳が変わったからな」
mcRCも頷いた。
「そうやな」
三人は改札へ向かった。
今日は、ただ偶然いい音楽を聴いた。
それだけのはずだった。
でも、その音楽は、三人の中にしっかり残っていた。
自分たちが歌ってきたCALL ME OUTの言葉を、少し違う角度から照らし返すくらいには。
外見も大事。
中身も大事。
でも、そこに立つ人が、どう鳴らすか。
どんな声で、どんな体で、どんな楽器で、どんな怖さを抱えて、それでも人前に出てくるのか。
それも全部、音楽だった。
ReShiNaは、それを三人に見せてしまった。
まだ名乗り合ってもいない、ただの帰り道に。
改札を抜ける直前、wataが小さく言った。
「なあ」
mcRCが振り返る。
「何?」
「次、もし会ったらさ」
EGUIが言う。
「妖精は言うな」
wataは真顔で頷いた。
「分かってる」
mcRCが笑う。
「ほんまか?」
「ほんま」
少し間が空いた。
「たぶん」
EGUIが即座に言った。
「言うな」
mcRCも笑いながら言う。
「言うな」
wataは両手を上げた。
「努力します」
三人の声は、人の流れに混ざっていった。
けれど、その夜の帰り道、三人の耳にはまだ、ReShiNaの音が残っていた。
水の声。
地面の低音。
風のフルート。
そして、自分たちがまだ知らない、次にまた聴きたい音。




