準備します
春も終盤、五月に入り少しずつ汗ばんできた頃にソレはやってきた。
「もうそろそろ中間かー」
そう言うえりに対して四人は確かに、と目配せする。
「勉強してんの」
「してなーい」
いつものように涼とえりは軽口を言い合う。
「駄目ですよちゃんと日頃から予習復習はしないと」
「あらそんなことしなくても授業を聞いてるだけでじゅうぶんだと思うのだけれど」
「極端だなあ」
ふふっと笑いながら要も考えてみる。
中間考査、入学してから初めての大きなテストだ。日頃から勉学に勤しんでいた要は順位を楽しみにしていた。だがそういう生徒ばかりではないのも事実、ということでお馴染みのメンバーで勉強会を開くことになった。……のはいいのだが開催場所は要の家、ということになってしまった。場所をどうするか、という議題に対して要の家が圧倒的に抜きん出て選ばれてしまったのだ。
「ぜったい要の家っしょ!」
「異論ないわ」
「たのしそう」
「私も要ちゃんの家が……」
なんて言われたら断れるはずが無い。
じゃあ週末ね、なんて返しながらどうしよう、と考えが頭をぐるぐると回っていく。部屋自体はシンプルなものなので後から可愛い雑貨を散りばめればどうとでもなりそうだが問題は私服だ。まさかこんなに早く必要になるとは思いもしなかった。クローゼットには勿論男用の服しかない。一人では抱えきれない問題に直面してしまったので流石に親に相談する事にした。
「ねえ母さん私服のことなんだけど……」
「あら!ついに私服も女の子の服を着ることにしたのね〜」
なんて呑気に言っているが決して僕の趣味ではないし必要にかられたとはいえ真意でもない。
「週末勉強会するの!だから用意してほしくて……」
「それならもう買ってあるからクローゼット入れ替えといてあげるわよ」
「なんでそんな用意周到なの……」
「愛息子のためだもの」
さらりと躱す母に感謝とも軽蔑ともいえない気持ち綯い交ぜになりながらとりあえずの問題が解決した事にはほっとして胸を撫で下ろす。
そして女装している事は別として友達と勉強会する事自体が楽しみなので少し浮かれた気分になる。入学から慌ただしく過ぎていった日々を思い返すと随分色々な事があった気がする。濃密だったとも言えるが。
そして次は雑貨を買いに駅前に出掛ける。
「あれ?要じゃーん」
そう言いながら近付いてきたのはえりだ。
「えりも買い物?」
「うん、服見てた」
丁度いい女子の目線で家具や雑貨を選んでもらおう、と思い咄嗟に誘い文句が口を出る。
「良かったら一緒に回らない?今模様替えしてて……」
「えー!たのしそう!いいよ!」
「やった」
それじゃあしゅっぱーつ!と彼女は元気よく腕組みしながらずんずんと歩いていく。家具屋に着くと曲線が可愛いテーブルやマカロンのようなクッションを提案され二つ返事で購入して送ってもらう。
「要の部屋知らないけどあれならどんな部屋でも合うと思うんだよね〜」
「悩んでたから助かるよ」
「わかる!模様替えするとわかんなくなるよね」
「そ、そうそう!」
そういう意味ではないのだが男の部屋だからとは言えるはずもなく、あははと同意する。次は雑貨だ女子高生の間で有名だという場所に連れてきてもらう……なるほどこれは人気が出そうだ。くすみピンクにふりふりのベッドがでかでかと飾ってありそれに付属するものもいくつかディスプレイされている。
「やっぱ定番はディフューザーと造花かな!これでけっこーかわるしかわゆいよ」
「それ買う!」
どちらも置けば確実に”女の子”の部屋になるものばかりだった。迷った末カーテンも買うことにした。
「けっこー買ったね?」
「う、うんあんまり部屋拘ってなくて……」
「そか!てかまじで要とのショッピング楽しかったーまたあそぼーね?」
「もちろん!」
少し解散するのが寂しくなるくらい今日は付き合わせてしまった。なにかお礼をしたいなと思いえりのほうを見るとバチッと目が合う。少し気まずくなり目をそらすと「なんで逸らすの?」と言いながらえりはほっぺにちゅっとキスを落とす。驚きと恥ずかしさで固まっていると、
「今日のお礼!」
と言いながら彼女は駅に走って行ってしまった。お礼ってどういう意味だろう。そう考えながら頬を触り「熱……」と呟く。
買ってきた雑貨を飾り付けつつクローゼットも確認した。何となくフリルが多い気がするが気の所為だと思おう。そして要は参考書やノートの確認をして、眠りについた。




