第十二話 白谷涼くんの彼女ですわ
『私も、みーさんも、変われる』
その言葉を聞いて、私は嬉しくなってしまった。
だって、こんな私でも、変われる。それはつまり、いつか涼さんにも恋をできる日が来るということだ。それが嬉しかった。
次の日の放課後、涼さんが私の元へやってきた。
「美華、今日生徒会があるんだ。だから・・・一緒に帰れない。ごめん」
「ううん、大丈夫。今日は、瑠璃と帰るよ」
「ごめんね、ありがと」
・・・ん?ちょっと待って。いつから私と涼さんは一緒に帰ることになっていたの?別に、一人でも帰れるのに。ていうか、ちょっと涼さんと帰るのを楽しみに待っていた私もいる気がする。
その話を瑠璃にしたら、瑠璃は目を見開いた後、優しく笑った。
「それは、みーさんも変わりつつあるってことだよ」
「そうかな」
「絶対そう」
瑠璃は、私の中学時代のことを話しても今のままでいてくれた。しかも、私に気を使わないようにしてくれた。涼さんの言う通りにして良かった。多分、このまま瑠璃に隠していたら、私は壊れていたかもしれない。
ふと瑠璃を見てみると、どこかソワソワしていた。今日はずっとこれだ。あ、確か・・・瑠璃は春野さんに恋をしていたような気がする。もしかして、春野さんと何かあったのだろうか。
「瑠璃、何かあった?」
「・・・いや、みーさんは私のことをるーさんって呼んでくれないんだなぁと思って」
「え?」
私がそう聞き返すと瑠璃は頬をぷくぅっと膨らませた。
「だって、みーさんが私のことをるーさんと呼ばない理由はなくなったよね?なのに、なんで呼んでくれないの?」
「でもー」
「でもじゃない!呼んでよ、みーさん」
「瑠璃が、私のことを美華って呼べば?」
「いやだよ。みーさんの事は、一生みーさんって呼ぶんだから」
「そんなに駄々こねないでよ。るーさん」
私は、ようやく「るーさん」と呼べた。
「え!?い、今、るーさんって、るーさんって、呼んだ!?」
「・・・うん」
私が頷くと、るーさんは嬉しそうに笑った。
「ありがと!みーさん」
「お礼を言わなきゃなのは、私だよ。るーさんのおかげで、私は過去を乗り越えられたんだから」
「私のおかげっていうか・・・白谷くんのおかげじゃない?」
「そうだね。るーさんと涼さんのおかげ」
そう言うと、るーさんは明るく笑った。
「みーさんも、変われてきてるんだね」
「るーさんも、だよ?」
「そう?」
「そうだよ」
るーさんは相手のことを第一に考えてしまうから、自分のことに少しだけ無頓着だ。るーさんも、変われている。だって、昔は強引に「るーさん」と呼ばせようとしなかったのに、今は少しだけ強引になった。それが、嬉しいと感じている私もいる。やっぱり、私も変われてきているのだろうか。
るーさんと雑談していると、空いている席に誰かが座ってきた。
「失礼致しますわ」
同じ制服を着た女子高校生は、ニタァっと笑ってきた。
「私、綾小路舞姫と申しますの。確か・・・円城寺美華さんと、竹宮瑠璃さん・・・でしたっけ?」
綾小路舞姫は、両手で頬杖をついた。
「そうですけど、何の用ですか?」
るーさんが喧嘩腰で舞姫に話しかけた。
「ふと、風の噂で聞いたのですが・・・円城寺美華さんって涼くんの彼女・・・ですって?」
「あ、はい・・・。そう・・・です」
私が頷くと、舞姫はニタァっと開いた口をさらに大きく広げた。
「アハ・・・」
舞姫はそう言うと、声を上げて笑い出した。
「アハハハハハッ!!」
周りが舞姫を見ているのが分かる。視線がものすごく痛い。
「失礼致しましたわ。つい・・・笑ってしまいましたの」
舞姫は涙を拭いながら、そう言った。
「どうして笑っていたのか、理由を聞いても?」
るーさんが相変わらずの喧嘩腰で尋ねる。
「だって・・・私が涼くんの彼女ですのに、あなたのような方が涼くんの彼女のわけないでしょう?」
「どういう意味?」
るーさんの喧嘩腰は、さらに強くなっていく。
「そのままの意味ですわ。だって、円城寺美華さんのお母様って・・・家を出て行ったような方なのでしょう?」
なんで、それを・・・。
「私の家には、とても優秀な探偵がおりますの。その者に頼んで調査させていただきました」
るーさんが、ふと私を見てきた。
「綾小路舞姫さん、でしたっけ?そんなにみーさんのことを調べるのはなぜですか?」
「簡単ですよ。だって私こそが涼くんの彼女なのですから」
・・・え?
「もう一度・・・言って、くれますか?」
「いいですわよ?減るものではございませんから。私、綾小路舞姫はー」
「白谷涼くんの彼女ですわ」




