第十三話 美華のお母さんのことについて
「白谷涼くんの彼女ですわ」
「・・・は?」
私は思わずそう声を出していた。
「聞こえませんでしたか?アハ、そりゃあ、あの母親の子供ですものね」
「私の、お母さんのことを・・・知っているんですか?」
「ええ、そりゃあ知っていますわよ。・・・あら?もしかして・・・円城寺さんは綾小路流のことをご存知ないのですか?」
舞姫の瞳には嘲笑の色が浮かんでいる。
「あぁ、そういえばそうでしたわ。円城寺流の方々は、あの母親がいなくなってから、華道家同士の交流の場にいらしてませんものね〜」
さも今思い出したかのように、舞姫は語る。
「そうだ。円城寺さん、おばあさまはお元気で?最後にお会いしたのは、今から十六年前のことですので・・・あまり記憶がないのですが、確か、大変苦労していらっしゃられるのではないですか?」
私の・・・おばあちゃんのことも知ってるの?
「あなたの母親がいなくなられてから、様々な教室を掛け持ちして、なんとかお金を稼いでいるらしいですわね。それに、円城寺さんが我が綾小路流のことを知らないのも頷けますわ。だって、もう落ちぶれた家が、“華の集い”に参加できるはずが、ありませんものね」
さっきから、ペラペラと私の知らない円城寺流のことを話してくる。
「我が、綾小路家は落ちぶれていませんもの。どこかの流派と違って栄華を極めておりますわ」
「綾小路さん」
るーさんが冷ややかな視線を舞姫に向けていた。
「少しお静かにお願いできませんか?あ、もしかして、栄華を極めている家は、他人の家の事情をペラペラと喋るような、とても品性のカケラもない行動をなさるのですね。・・・なるほど、つまり・・・栄華とは品性がなくとも極められるような、家なのですね?」
それってつまり・・・綾小路家は下品ということ。しかも、舞姫が誇りに思っていることすら貶している・・・。るーさん、流石にそれは言い過ぎじゃない・・・?
「みーさん、私、言いすぎてないよ?」
ドキッとした。心を読まれたのかと思った。
ちらっと舞姫のことを見ると、眉を八の字にしていた。
「私、帰りますわ。それでは、ごきげんよう」
そう言って、綾小路舞姫は帰って行った。
「舞姫ちゃんが、美華のもとへ来たのかい?」
家に帰ると、おばあちゃんが花を生けていた。綾小路舞姫に話しかけられたと言うと、おばあちゃんは驚いて花を落としてしまった。
「うん、来たよ」
「・・・何か言ってたかい?」
「なんか・・・はなのつどい、とか言ってた気がする」
「“華の集い”か・・・。美華には、教えていなかったねぇ」
「私って、いつか・・・円城寺流を継ぐんだよね」
「そうさ」
「じゃあ、知りたい。・・・私、もうなめられるのは嫌だ」
私がそう言うと、おばあちゃんは目を見開き、そして慈愛に満ちた表情をした。
「美華も、良い方向に変わったねぇ。それもこれも、全て白谷くんと付き合うようになったからかもしれないね」
「・・・そうかな」
「そうさ。美華、白谷くんと付き合って良かったと思っているかい?」
「うん、思ってる」
私が即答すると、おばあちゃんは満足そうに笑った。
「じゃあ、教えようかね」
「いいの?」
「あぁ、教えるさ」
そう言って、おばあちゃんは生けている途中だった花を見た。
「美華のお母さんのことについて」




