29. 5日目 看病
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頭痛に苦しめられるルーナの身体を支えながら、なんとか髪を洗って食事を取らせる。ただ、やはりと言うべきかあまり食欲が無いようでルーナは顔を顰めては蹲って頭を抑える。
彼女がここまで苦しんでいる姿を見るのは、彼女と王宮で過ごしていた間を含めても初めてだった。どうにかしてあげたいと思う一方で、どうすれば彼女の体調を改善できるのか。……人の嗅覚を緩和させる方法なんて。
「―――ライリー様」
「うん?なんだ、飲み物でも取ってくるかい?」
「そうではありません。もう…私は大丈夫ですよ。明日になれば魔法の効力も切れていますから、ライリー様はご就寝なされて下さい。ただでさえ、貴女様は早起きが苦手なんですから」
明らかに意地を張っているのが解る。君は私の専属侍女なんだ。そんな辛そうな表情をしている君を放っておけるはずがないだろう。
「………。ルーナ、確認したいんだが、全ての匂いに頭が痛くなってしまうのか?それとも多少は大丈夫なものはあるんだろうか?」
「そうですね…嗅ぎなれたモノですと、あまり頭痛はないかもしれないです。なぜそのような事を…?」
それなら、問題ないかもしれないな。たとえ今日だけだと言っても痛みが続くのは精神的にもキツイものがある。昔からルーナの世話になっているんだ。こんな時ぐらい、私が助けにならなくてどうする。
「ルーナ、寝室に行こう。君ももう疲れているだろう」
「は、はい。わかりました」
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「あ…あの、ライリー様、この状況は一体……」
「いや、なに。私の匂いであればルーナも慣れているだろうし大丈夫かと思ったんだ」
「それは先程の会話からしても想像はついていましたが……そうではなくて、ですね。あ、あの―――ここまで密着する必要ありますか!?こんな、二人で同じ寝台に寝るなんて…もう、頭じゃなくて心臓が張り裂けそうです」
だが、こうしないとルーナを抱けないし、ルーナも私の匂いに集中できないだろう?正面から抱いておけばルーナの顔は私の胸の位置にくるし、良い作戦だと思うんだがな。まぁ、この体勢だと息がし辛くなるから、嫌がるのも無理はないのか。
「呼吸がし辛いならもう少し腕の力を緩めるが、どうしたらいい?」
「べっ、べつにそ、そのままでも構いません!!!ただ、ライリー様が腕枕までして下さっているので、その腕が疲れないかと…」
「あぁ、それぐらいなら問題ないさ。ルーナは軽いし負担もないよ。…なんなら君は少し痩せすぎじゃないのか?」
「べつに…その様な事はありません。お食事は毎日きちんと頂いていますし、昔に比べたら十分すぎるくらいです」
昔か……。そういえばルーナが王宮に来る前の話は聞いたことがなかったな。
「頭痛を紛らわすためにも少し話さないか?まだルーナも寝付けないだろう」
「そう…ですね。今は痛みもそこまでではありませんし、一週間も経っていないとはいえ、こうしてライリー様と二人きりでお話するのは久々ですから」
ではお言葉に甘えて。
「それじゃあ少し体勢を変えようか。ちょっと待っててくれ」
話をする時は相手の目を見ながら―――基本的な事だな。
さて、今はルーナの頭が私の胸の位置にあるから少し離れてっと…。
「これでいい。これなら君の顔がよく見える。…もし頭痛が酷くなったら言ってくれ。先程の体勢にするから。いいね?」
「~~~っ。わ、わかりました。もう早くお話しましょう!」
「じゃあ、まずはルーナの話が聞きたいな。良い機会だし、君が王宮に来る前はどんな生活を送っていたのか教えてくれないかい?君は私が物心ついた時から専属侍女として働いていたから王宮での君は知っているけど、ぜひ昔の君のことも知りたい!」
「……つまらない話ですよ?」
「私の大切な人の話だ。つまらなくなんてないよ」
「『大切』……もうただでさえ距離が近くて耳まで紅潮しているのに、これ以上お言葉を頂いてしまったら……」
ルーナが口許に手を当てて何やらごにょごにょ言っているが聞き取れない。偶に彼女は独り言というか自分の思考に没頭している時があるな。まぁ大抵、一、二分もすれば収まるから……ほらな。
「それではライリー様、一つ昔話をしましょうか。これはどこにでもいる小さな少女のお話です」




