30. 5日目 ルーナSide② 記憶
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「その少女は準男爵家の長女としてこの世に生を受けました。彼女の母親が妊娠のしづらい体質だったため兄弟はおらず、一人ぼっちで過ごす毎日。そして父親は後継者を女にすることを嫌がっていたため、女子しか産めなかった母親を蔑むようになり、その親の娘の事なぞ視界にも入れたくないとでも言わんばかりの態度だったようです。それならば養子でも迎え入れればいいものを、男は自分の高貴な血が流れていない者に家名を名乗らせるのは嫌だという馬鹿げた理由で、外に妾をつくる事を選びました。その時点での少女の年齢は七歳。幼いながらに両親の不仲は悟っており、自分に飛び火が来ないようにとただただ彼らとは屋敷内でおいても距離を取った生活をしていました」
―――よくあんな生活が出来ていたものですね。自衛本能の為すべき技とでも言うのでしょうか。
「元々政略結婚で繋がった二人でしたので、その関係が切れるのは簡単だったようですね。男が屋敷に帰ってこないようになり、女はその鬱憤を晴らすために自分の子供に強く当たるようになりました。女は家の位は低かったものの、幼少期からその美しい容姿のためか随分と甘やかされて育てられていたようで、自分が愛されていないという事実を受け入れられなかったみたいです。本来なら子爵家に嫁ぐ予定だったそうで……そんな事を娘が知っている筈もないのに。フフッ…彼女は当時の状況は全て娘のせいだと恨みつらみをそれは、それは毎日長々と少女に聴かせていましたね」
―――常識を持ち合わせていない人間は奇行に走るものです。
「言葉はいつしか暴力へと変わっていきました。幼い身で経験する類いのものでは決してないでしょう。殴る、蹴るは当たり前、貴族として育てられる筈だった少女はただのストレスのはけ口としか扱われなくなりました。そんな少女に対して淑女として育てられた母親の腕は細く、綺麗なもので争いごとなど知らないと言いたげですが、それは表向きの話。―――想像できますか?非力だからといって道具に頼りだしたあの時の女の顔を?ロウソク責めや鞭打ちは治るまでに時間がかかるのに、傷が完治する前に行為がされるものですから、少女の身体は消えない痕ばかりで」
―――堕ちるのに限度はない。一度、理性に巻き付いた鎖が外されれば、押さえつけられていた反動が人を突き動かす。
「その地獄の時間は二年以上続きました。その間に女の行動も随分と変わってきまして、暴力を与える度に必ず娘の傷が治ってから行為をするようになりました。理由としては外聞でしょう。周囲の目を気にするようになり、傷も服で隠せる範囲のみに限定されました。さて、そんな娘と女だけの時間に終止符が打たれました。奇しくも、それを為したのが少女の父親―――女の凶行の原因。男は久々に帰ってきたかと思うと、女に向かって一言こう伝えました。『この家と小娘は残しておいてやる。二度と俺にその顔を見せるな』」
―――愛される事が当たり前だった女にとって、この言葉はまさに青天の霹靂。
「では男に捨てられた女が男からの寵愛を諦めて娘と生家に戻り、再び幸せを手に入れる―――という話であればどれだけ少女は幸せだったでしょう。……『現実は小説よりも奇なり』、私の大嫌いな言葉です。…話を戻しますと、女は男に捨てられた事実から逃れるために、現実を見なくなりました。あの女はまだ齢十の娘を、悲劇の渦中にいる自分を救いに来た白馬の王子であるかのように接するようになったのです。少女に男物を着せ、髪型も変えさせ口調までも男のソレにするよう少女に教え込みました。自分よりも一際身長の低い娘の男装姿は、自分が幼少期に思いを寄せていた男性と何の運命か……神のいたずらか。フフッ…それはそれは酷似していたようで、女は男装姿の娘に愛の言葉を囁くようになりました。そんな彼女を気味悪がり、ほとんどの使用人が辞める始末。…ですが、幼き頃から虐げられてきた少女にとって暴力の無い日々は、何としてでも守らなければならないモノで、彼女は自身と女の身の回りの世話をするようになりました」
―――幸せの定義とは難しいものですね。
「女の妄想は次第に酷くなり、少女からの寵愛を欲するようになりました。もちろん、少女がその様な知識など持ち合わせている訳がなく、最初はただただ女にされるがまま。決して下半身は女に晒すことなく、上半身を裸にされ、身体を舐め回され、口づけを一片の隙もないよう体中に。それは唇にも。そして、それらの行為を少女が学び、女にもするようになった頃…きっと、少女の隠せない女の部分に気付いてしまったんでしょうね。あの人は少女が目を覚ますと、屋敷の何処にもいなくて行方不明となりました。そして残された少女は、唯一屋敷に残ってくれていた執事の勧めで王宮に働きに出ました。これが十一歳の時。貴女様がまだ七才でいらっしゃった頃です」
―――不思議ですね。思い出したくもない事を話していた割には、頭痛が治まっています。貴女様がお近くにいるからでしょうか?
「つまらないお話でしょう?どこにでもいる非運な少女のお話。貴女様が気にされるモノではありません。ですから―――どうか、ねぇ……泣かないで」




