25. 5日目 喧嘩
お時間頂いたおかげで、少しですが書き溜め?ができました。
また日数を空けての投稿があると思いますが、何卒宜しくお願い致します。
それではお楽しみ下さい。
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「う、う~ん。ふぅ…おはよう。レイラ」
いつの間にかベッドから出ていた彼女は部屋に備え付けてある机の上に行儀悪く座って、窓の外を眺めていた。片膝を抱えながらもこちらを見つめてくる翡翠の瞳。それに朝の光が彼女の美しい黒の毛並みを照らしていて……とても綺麗だ。
「…起きたか」
「早起きなんだな。どのくらい前から起きていたんだ?」
背中を気にしながらゆっくりと上半身を起こして、彼女の瞳を真っすぐに見つめながら彼女との会話を続ける。
「お腹が空いただろう。おいで、朝ごはんを食べよう」
「お前、料理出来るのか?オウジョのくせに」
むっ…。これは心外だな。確かに身の回りの世話は侍女や側仕えの者達がやってくれるが、最低限の事はこなせるようルーナに教えを乞いたこともあるんだ。そんじょそこらの貴族と一緒にしないでもらいたい。だが、そんなことよりも。
「―――また『お前』と言ったな。レイラ、慣れない言葉を言わせているのは解っているが、気を付けるようにしてくれ。君はもう、ただの獣人族ではないんだ」
「―――“ただの”獣人族じゃない?なんだよ“ただの”って……。お前がボクを奴隷にしたんだろ!!!ボクは望んでなんていなかった!ヒトコトでもお前に頼んだか!?『どうか奴隷にして下さい』って!言ったか?ボクが、お前に!!!ボクをこの身分にしたのは、他ならぬお前だろぉ!!!」
(まずい…今のは明らかな失言だ)
「違う!レイラ、私が言いたかったのは―――」
「もういい!ダマレ。そして二度とボクに近寄るな」
「レッ―――」
レイラは勢いよく窓を開け、そこから獣人族だからこそ可能な身のこなしで軽々と窓の外で着地を決め、敷地外に続く正門の方へと駆け出した。
「やってしまった……。あ~どうすればいいんだ?あの様子だと今すぐ会いに行ったところで門前払いする雰囲気だったよな」
すぐに窓辺に駆け寄ったが、もうあんな場所にまで逃げている。流石は獣人族といったところか。子供とはいえ、その脚力は人間の数倍……。あの速さだと今すぐ此処を出たとしても追いつく事は難しそうだな。
「ハァ~。いろいろな事をしてくれる子だよ、まったく……って落ち着いている場合ではないじゃないか!?あの子の魔力回復を制限したままだ!このままでは魔力不足で命の危険に繋がる!っあぁぁぁーじゃじゃ馬娘!………仕方ない、闇魔法―――亡者の空言。……ルーナか、私だ。あぁ、すまないが今はそんな話をしている時間はないんだ。今すぐに私の別邸に来てくれ。―――ただし、兄上や姉上達には悟られないようにだ」
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「はぁはぁ…どうされたのですか!?ライリー様!」
「すまないな、ルーナ。緊急事態だ」
急いで駆けつけてくれたルーナを風魔法で涼ませながら、事情を説明する。
「奴隷を所有されたぁ!?―――あなたは王族なのですよ!ハァ~、本当に貴女様は私の想像を遥か斜め上にあたる行動をして下さいますね、ライリー様?王族が奴隷を…だなんて。ましてや、その奴隷に逃げられるとは―――。世の中が魔力量だけでどうにかなる事はないと証明して下さいましたね。ありがとうございます」
「うっ…いつになく厳しいじゃないか。私だってヘマはするさ。それに元々の魔力量では兄上達の方が上だったじゃないか……」
「今は貴女様が一番多いんです…。そんな現実逃避の発言をなされていないで、その奴隷をどうするおつもりなのかを教えてください。私はソレを見てはいないのです。捜せと申されても特徴を伝えていただかなければ、捜すものも捜せません」
これはこれは、かなりお怒りみたいだな。まぁ私のせいが十割を占めているから仕方が無いか…。
「奴隷の名はレイラ。白狼族の娘で、黒の毛並みだ。服装は寝間着のままで水色のワンピース。靴は室内から逃げ出したから履いてないはずだ。まぁ、どこかで服を調達したら服装での判別は難しくなるが。あとは私が彼女にかけた魔法を起動させれば首輪が肌に浮かび上がるはずだが……それを目印に捜すのは彼女のためにも避けてやりたい。そのせいで時間がかかったとしても…」
「……この事が他の継承者達に知られれば、貴女様の立場が悪くなると解っていてもですか?」
ふぅと彼女は溜息をつくと、椅子から立ち上がって私の目の前に立つ。その眼差しは主に向けていいようなモノではなく、怒気が込められている。
(あぁ、解っているさ。君がそこまで憤っている理由を……そして、それを私は理解していなければならないのも)
「奴隷に割かれている魔力量はどれぐらいですか?」
口を開いた彼女から出た言葉は先程よりも鋭く、いつもの穏やかな雰囲気を纏ってはいない。
「一割にも満たない。微々たるものだよ」
「であれば、もし他の王族の方々に奴隷を捕らえられたとしても、まだ貴女様の魔力量が優っているのですね?」
「あぁ、そうなるな」
「一先ずの安心ですね。ライリー様の魔力量が他の方々よりも下回るなんてことが起これば、即刻その身に危険が降りかかるでしょうから」
まぁ、確かに兄上達がこの事を知れば私に刺客でも差し向けるだろう。
「だが急がないという手はない。とにかくあの子を捜し出さないと不味い。ルーナは探知系統の魔法が使えるのか?」
「えっ、えぇ。使えますが……」
先程までの表情とは一変して、表情が暗いな。
「アレを使わないとダメなの?えぇ~嫌なんですけど……」
しかもブツブツとなにやら呟き出したし、どうしたんだ?
「ルーナ?大丈夫か?」
「はっ…!駄目じゃない私…いくら嫌とは言え、自分の主人に尽くせることは実行しなければ…!!!―――失礼致しました。私の魔法で奴隷を捜し出せばよいのですね?」
「あぁ、可能ならばそれが一番手っ取り早い。私はその系統は全く扱えないからな…ルーナは使えるようで助かる」
「……それではライリー様。用意して頂きたい物がございます」
「うん?…準備が必要なのか?すまない、探知系統には疎くてな、何が要るんだ?」
ただ魔法を発動すればいい訳ではないのか。探知系統は奥が深いな。
「……でございます」
「何だって?もう一度言ってくれないか?」
「奴隷の……です」
「レイラの…何だ?」
「ですから!奴隷の服が必要なんです!!!奴隷が着ていたもので、まだ洗っていないものはありますか!!!」
「―――うわっ!レ、レイラの服が必要なのか?昨日着ていたものがまだ部屋にあるはずだが……。えぇと……ルーナ、急ぎたいのは山々なんだが一つ訊かせてくれ。君は―――」
「嫌です。うるさいです。いいから早くここに持ってきて下さい」
―――すごい睨んできているな。解った。たぶん後で服が必要な理由は判明するだろうから、ここは大人しく指示に従おう。
「少し待っていてくれ。すぐに取りに行く」
「………」
私の一言が余計な詮索だったのは理解したから頼む。そんな羞恥で真っ赤に染めた顔でこちらを睨みつけないでくれ。変に背中がゾクゾクして仕方がない。




