12. 番外編 聖なる日に
この話は王位継承権争いが始まる前のものです。
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「わぁ!凄いですよ、ライリー様!王国中が活気づいています!」
「あぁ、そうだな。今日は初代国王が誕生された聖なる日だ。市井の者達が騒ぐのも仕方ないさ。だが、どうやら騒いでいるのは彼等だけではないようだ。―――そうだろルーナ?」
私の部屋は先日ルーナが掃除という名目で飾り付けを済ませ、今だっていつものティータイムでは出ないような初代国王ゆかりのお菓子を並ばせている。今いるテラスからは城下町がよく見える。彼女もきっと町がこの日のために彩られていくのを見て、感化されたのだろうな。
「は、はい。今日ぐらいはライリー様も息抜きをされてはどうかと…。いつも政務のお仕事と勉強でお忙しいですから。ですが……侍女の身でありながら、差し出がましいことを致しました。申し訳ございません!」
私が何も言わないから不安になったのか、急いでティーセット片づけ始める。そんな彼女の慌てている姿を見て私はプッと笑いをこぼし、手で彼女を制止する。
「ハハ、すまない。別にこれぐらい構わないさ。今日は無礼講。この冷徹な国をつくりあげた初代国王が、身分の低い者と仲良くするなどお許しになる筈がないが、良いのさ。私が許そう」
「ライリー様…」
「ん?どうした?早く頂こう。折角のお菓子が冷たくなってしまうぞ」
何故か動きを止めてしまったルーナに紅茶をカップに注ぐよう促す。ルーナが手作りしてくれたお菓子だしな、温かいうちに食べたいんだ。
「ダメですよ、ライリー様!流石に一侍女が王族の貴女様と同じ席につき、それどころか同じモノをいただくなんて!他の侍女や執事に見られでもしたら、私この職を辞めさせられてしまいます!」
「大丈夫さ、そのためにテラスにいるんだから。誰かが私の部屋に入ってこない限りここを見られることはない。そうだろ?あ~、それと今日は市井にお忍びに出るからその準備も頼むよ」
「はい!?それこそ、本当に私が怒られてしまいます!貴女様は自分が後に迫る王位継承権争いの渦中の人になるのですよ!その立場を自覚なさって下さいませ!」
まったくルーナは他の者達に比べて柔軟な思考を持っているから好きなんだが、やっぱり堅いところは堅いな。だが久しぶりに時間ができたんだから、この日を逃すことは出来ないな。
「なら命令だ。私の側仕えである以上、命令には従ってもらう。食べたら出掛けるぞ!」
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「やはり市井は良いな。王宮内での息苦しさがここでは感じられない。そうは思わないか、ルーナ?」
「ちょっ…ここで王宮内の事を口にしないで下さい!リラ様!」
「大丈夫さ、みんな目の前の酒やごちそうに夢中で私達の声なんて聞こえていないよ」
結局あの後はルーナが他の召使い達にバレないよう市民が着る服を調達してきて、今は私と城下町の中心広場にいる。ここは市井の者達が踊ったりもするようで、小規模なオーケストラが広場の隅で演奏している。皆は広場の中央で男女一組に思い思いに踊っている。王宮の社交会で見られる優雅な踊りとは異なる、粗雑な踊りにお忍びを始めた当初は驚かされたが今ではそれにも慣れ、彼らの生き生きとした笑顔に思わずこちらも笑みを浮かべる。
一応私が王女ライリー・エルヴィスだとバレないよう、コートのフードを目深に被り、ルーナの私を呼ぶときの名を偽名にさせている。単純に「イ」の音を抜かして、逆さまに読ませているだけだがな。私の名とかけ離れたものにすると、いざという時に反応が遅れる可能性もあるから仕方ない。そうルーナには説明したが納得はもちろんしていなかった。
「それよりもそろそろ向こうに行こう。あの子達も待っているだろうから。今日はいつもより長く居られるのだろう?」
「本当に行かれるのですか?私は反対ですよ…。いくらリラ様がお優しい方であろうと、あの様な者達にまでその優しさを分けてあげる必要は無いではありませんか……」
「またその話か―――。何度も教えたはずだ。私がやらなければ他に誰がやるというのだ?ふっ…そんな者が居ないのは君だって解っているはずだ。それでも私をとめるのか?」
この問答も何回目になることやら。ルーナは基本的に私に従順だが、王族らしからぬ行為をしようとする度に私に苦言を呈してくる。
「……」
「私は神ではない。ただ運命という人生の争いの中で…偶々他の者達に勝って、今私はこの立場に居るんだ。少しでも偶然という名の歯車が狂っていたら、私は今の私ではなかったかもしれない。それはあの子達も同じさ。あの子達はただ争いに負けてしまっただけなんだ。それを自分達の運命だなんて決めつけて、現状に抗おうとせず、自分の人生をあそこで終わらせようとしている。―――私はそれを許せないんだ」
「……許せない?」
「あぁ、私は彼等が許せない。だからこそ、こんな事をしているのさ。ん、私が善意でしているとでも思っていたのか?」
「はい。貴女様が施しをされるのはてっきり善意からくるものだとばかり…。その…許せないとはどういう意味なのでしょう?」
ルーナと知り合ってかなりの年月が経つが、意外にもまだ知られていないことがあったようだな。なら、まだまだ彼女には私がどういう人物であるのか知ってもらわないと困るな。これからも長い付き合いになるのだから。
「私が彼らを許せないのは、彼らが自分達のまだ知らぬ可能性を手放しているからさ。……人間と言うのはこの世で最も強欲な生き物だ。何かを手にしたいと一度考えだしたら、その結果を掴み取るためにあらゆる事をする。その過程の中で多くの者達が大小関わらず何かしらの才能を発揮するものだ。しかし、あの子達は自身の才能が開花する前に、その蕾を咲かせることなく枯れさせようとしている。私はそれが許せないのさ」
「お言葉ですが、才能は全ての人間が持つモノではありません。リラ様の言葉をお借りするなら、運命という争いの中で勝利した者にしか授けられない。選ばれた者にのみ与えられる力です。そんな力が彼らにあるとは…私には思えません」
路地を通って目的地に移動する間、私とルーナとの間で討論が繰り広げられる。初めは周囲の者達に聞こえないよう声量を抑えていた彼女だったが、どんどん熱が入っているように思える。
(確かにそう思われるのが普通だ)
ルーナの意見は一般大衆の声を代弁したとでも言っていいほどのものだ。その意見を完全に否定できるほど、私も自分の考えが正しいとは思っていない。しかし―――
「―――どうやら時間切れのようだよ、ルーナ。彼らには純粋に今日という日を楽しんでもらいたい。話は残念だけど終わりにしようか」
路地が開けた先に見える寂れた孤児院を前に、私はルーナへと振り返り、そう伝える。彼女はまだ言いたいことがあるようだが、もう終わりだ。孤児院の子達に楽しんでもらいたいからね。
「「「あっ!リラさんだ~~!!!」」」
どうやらお迎えも来たようだしね。
皆さんも良い日を!
メリークリスマス!!!




