10. 2日目 実験室
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「なるほど。それぞれの目的別に実験室が与えられているのか…。うん?ここは魔法生物学に関する実験室か?確かクラウス先生の専門がこれだったか」
「おや?ライリー・エルヴィスか。何か用か?」
魔法生物学実験室というプレートが提げられた扉の前に立っていると、クラウスが部屋から出てきた。何やら用事があって出てきたように見えるが、丁度いい。少し中を拝見させてもらうとするか。
「えぇ、研究に興味がありまして。差し支えなければ先生の研究の見学をさせていただきたいのですが?」
「……」
クラウスが薄目を少し見開き、驚いた表情でこちらを見つめてくる。何かおかしな事でも言ったか?それとも私の顔に何かついているのか…いや、それなら最初の言葉の時点で反応を見せるはず…。
「どうされました?」
「い、いや…。どうか不敬と思わないで欲しいんだが、君は他の王族の方々とは一風変わっているようだな」
あまりに無言の時間が長すぎて、つい聞いてしまったがそんな事か。
「変わっているとは?」
「先程の授業内でも説明したが、この院の規則を破れば処罰される。しかし…表向きは伝えていないが王族は対象外というのが教員の共通認識だ。だから『公爵家でも処罰される』とは言ったが『王族でも処罰される』とは明言していない。それを王族の方々も解っているからこそ、教員に対して敬語を使う方など…アリア王女を除けばいらっしゃらなかったからな」
「なるほど。まぁ確かに私は兄上達とは違うかもしれません。ですが…それは一個人としてであり、王族としての私は兄上達よりも質が悪いかと思いますよ?」
世間話はこれぐらいにして、そろそろ見学の話に移りたいのだが。
「そ、そうなのか。私には分からないが…それよりも実験室の見学だったか。まぁ、構わないだろう。今は私一人だけだしな」
今は…ということは共同研究者でもいる訳か。取り敢えず、院内での研究レベルがどれ位かを確かめるには十分とまでは言えないが、多少の参考にはなるだろう。
「ありがとうございます」
クラウスに扉を開けてもらい、室内へと入ると檻に閉じ込められた多種多様な生物達の姿が目に入る。流石は貴族院と言うべきか、設備はそこそこ整っているようだな。それに研究対象の扱いも見た限りではきちんとしている。
「ここに居る生物達で何種類ほどでしょうか?かなり多岐にわたる研究をなされているようですが」
「この実験室では二十三種類の魔法生物を飼育している。だが、彼らの他にも私達が取り扱っているものはいるぞ。ここの部屋は主に闇魔法に関連するものを集めている」
魔法生物の中でも闇魔法の系統種は少ないと聞いていたが、想像していたよりも多いようだな。
「これら全てクラウス先生が単独で捕獲したものですか?」
「え…あぁ、いや。確かに捕獲したのも含まれているが過半数はオークションから買い付けている。それが最も安全で速いからな」
「オークション…ですか?」
(人身売買と同様のものか?)
「そうか、君は知らないのだな。オークションは狩人組合が研究用の魔法生物のみを対象として開催しているものだ。だが環境保護のため、捕獲する生物の数は制限が掛けられていて年に数回、小規模でしか行われないが…」
残念そうな表情から察するに、本当に小規模なもののようだな。だが…オークションか、そのようなものがあるのが知れたのは良かった。
「それは直近でいつ頃開催されるのですか?機会があれば拝見しに行こうかと思うのですが」
「君がオークションに!?」
「―――私は駄目だと?」
そこまで驚かれるとは思ってもいなかったな。王族だからか?
「い、いえ―――いやそうではない」
おっと威圧しすぎたか。クラウスの口調が敬語に戻ってしまったな。
「では、何故?」
「はぁ、単純に金銭面での問題が生じるからだ。私達のような研究者は大抵所属している機関から予算を提示されて、その金額内でしか買い付けを行うことが出来ない。しかし、君は違う。ライリー・エルヴィス、君は王族だ。私達が競り落とそうとしている商品に君が莫大な金額を提示してきたら誰も勝てない。国庫の一部を使える君と、私の様なしがない研究員とでは財力が違いすぎる。だから、君が来るとなると商品が買えない恐れが出てくる。それで、思わず声を上げてしまったんだ」
なるほど。それは確かにその通りではあるが、クラウスは見誤っているな。
「先生の心配は分かりますが、別にオークションを破綻させようと考えているわけではありません。ただ純粋にオークションに興味があるだけです。まぁ…競り落としたい商品が現れた時はどう行動するか私も解りませんが。さて、それで?いつ頃開催される予定ですか?」
「―――来週だ。そのオークションでの出品リストが先程届いたようで、共同研究している者達とどの商品を買うか相談しに行こうとしていたんだ」
(だから、部屋から出てきたのか)
「私にもそのリスト見せていただいても?」
興味がある商品が無ければ、わざわざオークションに足を運ぶ必要はない。そのことをクラウスも解っているだろうから。
「構わない。では、部屋に案内しよう」
話が早くて助かる。




