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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 大嵐の大激闘! 拳士の闘志に限界なし!
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78/106

2-78、元気ムスメたちの激闘!

「(はぁ、はぁ・・・・・・。まったく困った相手だなぁ! ポイント取れないや・・・・・・)」

「(楽しいなぁ! けど、ポイントが動かへん・・・・・・。さて、と。そろそろ・・・・・・)」


   グッ・・・・・・  シュタンッ


「(え! か、構えを逆に? なんでここで、そんな・・・・・・)」


 なんとここで、藤崎は左構えからオーソドックスな右構えへとチェンジ。今までの距離感と変わり、川田は少し戸惑っている。


「しゃぁーーーーーーーーーーーーーっ!」


   ヒュバババババババババババッ!  ヒュバババババババババババッ!


「(うっ・・・・・・。く! いきなり突っ込んできた! まーた、うるさい攻撃だなぁ!)」


 突きを捌ききる川田。しかし、藤崎はさらに攻撃の回転力を上げる。


「(え!)」


   タタタァンッ!  シュンッ ブンッ!  ドンッッ!   かくん ・・・・・・とすんっ


「「「「「 か、川田先輩ーーーーーっ! 」」」」」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


 右の上段刻み突きが、川田が構えている左の前拳から滑り込むように打ち込まれた。その突きは川田の左頬からメンホーの顎先までを一気に捉え、強烈に深く入ったのだ。


「止め! 青、忠告! 当てないように!」


 強く当てたと判断した主審は、藤崎へ忠告。川田はその突きを打ち込まれた瞬間、膝からがくんと真下に、まるでイスに腰掛けるかのように落ちてしまった。


「(な・・・・・・何されたのアタシ? てか、膝に力が・・・・・・。あと、目が回る!)」

「か、川田さーーーんっ! 川田さーーーんっ!」

「陽ちゃん! まずい!」

「ああ! 脳しんとうだ! 川田、目は開いてるが焦点が定まっていない。さっきの突きか!」

「真波ーーーぃっ! ファイトーーーーーっ! 焦らないで! ゆっくり立ってーっ」


   ふらあっ・・・・・・  ゆらん ゆらん  ふらあっ・・・・・・


 森畑たちの声に反応したのか、それとも、自分の意志か。とにかく、川田は何とかゆっくり立ち上がり、テンカウントルールの対象にはならなかった。しかしまだ、ふらふらと危なっかしい感じだ。


「(アタシに何した藤崎さつき!? てか、さっき、また右拳右足が前だったような・・・・・・)」

「(立ちよったな? 当然や。立てる程度にコントロールして打ち込んだんやからな。ウチの本当の組手スタイルの謎解きは、ここからやで? さぁ、続きやろーや!)」


 主審が川田の様子を確認し、監査審と何か話している。そして、ゆっくりとまた主審線に戻る。監査審と続行可能の確認をしたようだ。


「続けて、始め!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアー  ワアアアアアアアアアアアアアアアー


「しゃぁーーーーーーーーーーーーーっ!」


   キュキュキュッ! シュタタッ  シュタタァンッ


「(左拳が、前。オーソドックスな右構え、だよね? ん? アタシ、見間違えたかな?)」


 普通に構える川田に対し、オーソドックスな構えで向かってくる藤崎。


「くっ・・・・・・。・・・・・・とああああぁーーいっ!」


   ダシュッ!  シュバババババババババババババババッ!


 川田は前拳から飛び込み、その勢いに乗って連突きを仕掛けてゆく。藤崎は、その連突きをジグザグに退がって打ち落とした。その動きを追いかけながら、さらに突き込む川田。

 中村は「脳しんとうのダメージがないのか!?」と心配そうだが、川田の足はまだしっかり動いている。


   ザザッ!


「(ふっ。川田真波、そろそろ足止めて、ゆっくりしぃやーっ!)」

「(! ま、また、いつの間にかサウスポーに!)」


 川田の右の突きを捌いて斜め前に跳んだ藤崎は、今度は右拳が前のサウスポースタイルに変わっていた。


   シュッ   ズドオンッッ!


「(うぁ・・・・・・っ! ふぅ・・・・・・ふうぅっ・・・・・・)」


 副審は旗を横にバサバサと振っている。ポイントには至らず、試合は止まることなく続く。

 藤崎の重く強烈な中段追い突きが、川田の右脇腹へ入っていた。それは、あばら骨の所ではない。ボディプロテクターをうまく外した、肝臓に衝撃が響く位置だった。


「(けほっ・・・・・・。わ、脇腹っ! ううぅ・・・・・・。気持ち悪い・・・・・・)」

「(どぉやぁ? ・・・・・・そろそろ、もう、動けないんちゃう? もうひとつっ!)」


   シュバッ  ドグウッッ・・・・・・ッ!

   ババッ!  バサバサ  バサバサ・・・・・・


「(うっ・・・・・・く。・・・・・・こ、こいつの狙いは・・・・・・もしかして、これか!? アタシの動きと呼吸を・・・・・・)」


 またもや、川田の右脇腹へ短く重い中段逆突きが一発食い込んだ。

 打たれた川田は、メンホー越しにものすごく苦悶の表情。そして、顔色も悪くなっていった。

 藤崎はあえて残心を甘くしていることで、審判はそれによってポイントを取らない。だが、確実に川田は弱り、みるみるうちに失速。


「(き、気持ち悪いよぉ・・・・・・。た、助けてぇ・・・・・・。は、吐き気が・・・・・・)」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「「「「「 さつきーっ! 相手止まったで! 仕留めぇや! 」」」」」

「「「「「 藤崎主将ぉーーーーーーっ! いてまえーーーーーーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「最悪な展開だ! あのマシンガントークの大阪女、こんなえげつない組手やんのかよぉ!」

「い、井上君! 川田さんが、ものすごく苦しそうだよ! どうしたんだろう!」

「悠樹、ここ! 右脇腹のここやられると、みぞおち以上に重く苦しく鈍痛と吐き気に襲われるんだよ! 肝臓だ。肝臓! ボクシングの、リバーブローってのと一緒だ!」

「ど、どうするんだ川田は! あんなに弱って。あの強敵相手に、ここから・・・・・・」

「真波ーーーーっ! 取り返せーっ! まだ、だいじだよ! 真波ーーーぃっ!」

「森畑。川田は今、地獄の苦しみだきっと! 藤崎さつきの恐ろしさは、これ。左右どちらの構えも使えるんだあいつは。いつの間にか構えが入れ替わり、距離感が狂う。そして、それに迷っていると、地味だが恐ろしい悶絶攻撃。本当に、やっかいな相手だ。私でも、あいつとは当たりたくないからな」

「コートの中では、誰も助けてくれない。川田が何とかするしかないんだ。でも、あと四十秒であの藤崎さつき相手に、どうするんだ、川田は・・・・・・。等星でも、選抜大会や強化遠征などで藤崎さつきにあの手法でやられたやつは多いんだ。ここからが、本当にやばいよ」


 崎岡も諸岡も、渋い表情だ。藤崎の組手の恐ろしさは、さらにここかららしい。


「(はっ・・・・・・はっ・・・・・・はっ。・・・・・・くっそぉっ! 気持ち悪いし、頭も痛いよ・・・・・・。苦しい。すごく苦しい・・・・・・。こいつ、こんな選手だったとは・・・・・・)」

「(もう、翼をもがれた鳥ちゃんやな、川田真波! ウチの本領は、こっからや!)」

「しゃぁーーーーーーーーーーーーーっ」


   シュタタァンッ  ヒュバシイッ!  ヒュバシイッ!


「(うあああぁ・・・・・・っ!)」


 強烈な突きが二発、左右から川田の上段を襲う。しかし、それはあまりにも強烈すぎるフェイントだった。思わず川田は、両掌で上段を受ける反応をしてしまったのだ。


「(ふふっ。上段を無意識に守ったなぁ? じゃ、もろーたでぇーっ!)」


   シュンッ・・・・・・  


「しゃぁーーーーーーーーーーーーーいっ!」


   ドッシュウンッ!


「(かはっ・・・・・・。うー・・・・・・っ! うぅっ! く、苦しいよぉ・・・・・・)」

「止め! 青、中段突き、有効!」

「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ か、川田先輩ーーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 さつきナイス中段やでーーっ! 相手、もうヘロヘロやぁーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ


 ここにきて、さらに強烈な中段逆突きが川田のみぞおちを襲った。突きを決められ、川田はもう目から自然に涙が滴るほどに、苦しみと悔しさの混ざった表情になっていた。


「(これが、地味やけどウチの必勝パターンなんや! 苦しいやろ? どぉやぁ!)」

「ま、真波ぃーっ!」


 森畑も栃木陣営から叫ぶ。Hコートでは小笹、Aコートでは田村、Dコートでは二斗が心配そうに見つめていた。


「ホーホホホホ! ひどい有様ねぇん、田舎娘! 苦しそぉん。嫌だわぁ。ワタクシは、そぉんな組手は、美学に反してよぉん?」

「・・・・・・川田さんッ・・・・・・」


 同じEコートでも、ミランダや朝香が試合を見つめている。

 川田は息も絶え絶えになりながら、朝香のほうへと振り返った。そして、視線を栃木陣営にゆっくりと移してゆく。


「(はぁ・・・・・・はぁ。ぜーっ・・・・・・ぜーっ・・・・・・。朝香。崎岡・・・・・・っ)」

「藤崎さつき、やはりとんでもないやつだ。あの川田をあそこまで弱らせるとは。私や朋子でも、あの作戦にはまったら、一気にあの姿に堕とされかねない。・・・・・・しかし川田はこっちを見て、何をしているんだ? 集中しなきゃだめだろう!」

「(ふぅっ・・・・・・ふうっ・・・・・・。崎岡、あんたを見て、思い出したことがあるんだよ、アタシはさ・・・・・・)」


――――。

(はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・ふぅぅ・・・・・・ひゅぅ・・・・・・ひゅぅ)

(え! 崎岡、呼吸が! 主審! 主審てば!)

(崎岡選手、もう続けるのは危険と判断します。ドクターを呼びますが、いいですね?)

(危険か危険じゃないかは、私自身が判断する。心配いりません。続けます。開始の合図をっ!)

(しかしだ、君! これはスポーツ競技である以上、危険と判断したら止めねばならないのだ)

(武道家の負けは、心が折れたときが負けですから・・・・・・っ!―――)

――――。


「(あんたは・・・・・・アバラが折れてても戦い抜いたよね? ・・・・・・あんたにできてさ・・・・・・アタシにできないはずがない! ・・・・・・うぷ・・・・・・。こんなような苦しみの中で・・・・・・あんたはずっと戦ってたなんて・・・・・・。はっ・・・・・・はっ・・・・・・)」


   ザワザワザワザワ  ワアアアアアアアアッ!


「続けて、始め! ・・・・・・あとしばらく!」

「(さぁて、楽しい時間ももう終わりやなぁ! 苦しさから、ラクにしてあげるわぁ!)」

「しゃぁあーーーーーーーーーーーーーっ!」


   シュタタァンッ!  ヒュンヒュンヒュンッ!


 藤崎は、構えた前足を、新体操のリボンでも振るかのように柔らかく振り回し始めた。

 動けなくなった川田を、最後に大技で派手に散らせるつもりなのだろう。笑顔で前足を振り回す藤崎の顔がまた、不気味で恐ろしい。


「(うぷ・・・・・・。・・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・はっ。大きく一呼吸欲しい・・・・・・。アタシの身体、頑張ってよぉ・・・・・・。せめて、一呼吸・・・・・・)」


   ヒュウウゥンッ・・・  ベッシイイィィィィッ!  ・・・・・・どしゃっ  かぽんっ


「真波ーーーーっ! しっかりぃーーーーっ!」


 藤崎の蹴りは、容赦なく川田の右脇腹へ飛んでゆく。

 何とか反応し、両腕で蹴りを防いだ川田だが、力なく吹き飛ばされて、場外へ転がっていった。その勢いと衝撃で、川田のメンホーが緩んで、取れてしまった。


「止め! 赤、場外、忠告! ・・・・・・一分以内に装着して下さい」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  どよどよどよどよどよどよ


 メンホーは、ころころと転がり、ぽこんという音を立てて朝香のところで止まった。


「はっ・・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・。あ・・・・・・朝香・・・・・・」


   ぽすっ


「諦めないで・・・・・・。川田さん、まだ、試合は終わってない・・・・・・。ほら、深呼吸っ!」


 朝香はそう告げて、拾ったメンホーを川田に手渡した。それを受け取り、川田はふっと目を瞑り、三秒後にかっと見開いた。


   すうううぅぅぅ・・・・・・  こおおおぉぉぉ・・・・・・  はあああぁぁぁー・・・・・・っ


「「「「「 (な、なんやあの選手? サンチンでもやっとるん?) 」」」」」

「「「「「 (いま、聞こえたよねHコートから? 形みたいな息吹だよな?) 」」」」」

「「「「「 (何やっちゅうきい? 組手で息吹なんざ、普通やらんぜよ) 」」」」」


   がやがやがやがや  どよどよどよどよどよどよ


 観客席のところまでも聞こえるくらいに、川田はまるで三戦をやっているかのような呼吸を数回繰り返した。すると目に輝きが戻り、朝香に何かを話しかけてから、くるっと向きを変えてコートに戻る。

 そして、川田は輝いた目でメンホーをしっかりと着け直した。


「(目が、戻ってるやないか! 川田真波、そうこなくっちゃおもろないわぁ!)」

「(ふうぅー・・・・・・。よっくもやってくれたわねぇっ、大阪女! アタシはまだまだ、こっから取り返してやるんだから!)」


 主審が川田の方を確認し、副審の様子や藤崎の様子も確認し終えた。


「続けて、始め!」

「とぉああああぁーーーーーーいっ!」

「(くっ! おもろいやないか! ウチをここまで楽しませてくれるなんてなぁ!)」

「しゃぁーーーーーーーーーーーーーっ!」


 両者の気合いがぶつかり、空気が爆ぜて吹き飛ぶ。

 川田は、さっきまで乱れていた呼吸がほぼ回復。そして、闘気がさっきと比べものにならないほどに、膨れあがっていた。どうやら川田は苦しめられて、それでお怒りモードらしい。


「(こぉんのやろおぉっ! アタシをあそこまで苦しめた罪、ここで悔い改めな!)」


   シュンッ!  シュババババババババババッ!  シュババババババババババッ!


「たあああああああーいっ!」


   シュババババババババババババッ!  シュバババババババババババッ!


「(足が戻ったんかいな! こりゃ、やばいわ!)」


   タタンタタン タタタァンッ!  バチバチバチバチイッ バッチインッ!

   バチバチバチバチイッ バチバチバチバチイッ


 川田の猛連打を、藤崎はバックステップしながら打ち落とす。そして、ジグザグに躱したあと、再び、いつの間にか入れ替わっていた構えから、至近距離で突きを放つ。


「(食らえやぁーーっ!)」


   ゾヒュウウウンッ!


「(食らわないよーーっ!)」


   パパパパァン!   クルンッ  


「とああああぁーーいっ!」


   シュバシインッ! ドスウウンッ  (みしっ)


「(・・・・・・か・・・・・・かはぁ・・・・・・)」 

「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」

「「「「「 ナイス中段でーーーーーすっ! ナイス中段、川田先輩! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


 藤崎の突きを掌で払い、そのままくるりと背を向けて川田は藤崎の右脇腹めがけてものすごい中段後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 斜め下から掬い上げるような軌道で蹴り込み、ボディプロテクター越しでもすごい威力を見せた川田の蹴り。その衝撃は一気に、藤崎の右アバラまで突き抜けた。


「「「「「 さつきぃーーっ! しっかりしぃやぁーーっ! 愛栄の底力見せぇ! 」」」」」

「「「「「 藤崎主将ぉーーーーーーっ! ファイトーーーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!


 2対3でリードされていたが、今の後ろ回し蹴りで一気に4対3と川田が大逆転。

 しかし、時間はまだあと十四秒ある。まだまだ油断できない流れだ。


「続けて、始め!」

「(こんな熱い試合できんのは、等星相手以来かもしれへん! ・・・・・・うぐっ!? 何や? ウチも脇腹、傷めたんかいな? ・・・・・・関係あらへん! 残り時間、戦い抜くでぇ!)」

「(まだまだ、目が光ってる! 主将の意地ってやつか、藤崎さつき! おい大阪女。栃木の女も強いってのを、見せてやるっ! 勝つのは、アタシだ! ・・・・・・負けないからねぇ!)」


 爛々と光る目をした者同士、一歩も譲らない。試合時間は残り十秒。どちらに軍配が上がるのだろうか。


「地味でものすごくえげつない攻め方に見えるが、勝つためのすごく効果的な技術をいくつも使ってるな、藤崎さつき。・・・・・・川ちゃんと、ここまで真っ向からやる選手だったのか・・・・・・」


 神長が腕組みをして、眉をひそめながらつつっと冷や汗を垂らす。

 川田はもう残り時間がない中で必死に呼吸を整えながら、相手の技を防いだり、カウンターを返したり、緊迫の攻防を続けている。


「たああぁぁぁーーーいぃっ!」


   バシュンッ!  ズダダダダッ!  パパパパァン!


「っしゃぁーーーーーーーーーーーーーあっ!」


   キュンッ  ズドオッ!  ドォンッ!   ドガアッ!


「(はぁ・・・・・・はぁ。しぶといなぁ! アタシも逃げるわけにはいかないのよ!)」

「(やっぱ、ダメージ抜けとらんがな! そう簡単に、その苦しみがゼロになるわけないんやでぇ! 逆転するのは、ウチや! ・・・・・・く・・・・・・。ウチも脇腹、痛いけどな!)」


   ババアァァンッ!  パパパパァン! パパァンッ!

   クルッ!   シュバッ!


「(後ろ蹴り! し、しまった!)」


   ・・・・・・ドガアッ!


「(決まってへん! くっ、よく防いだなぁーっ!)」

「(このぉっ! ・・・・・・諦めろぉっ、大阪女ぁ! アタシが勝つんだーーっ!)」


 川田は間一髪のところで相手の後ろ蹴りをブロックし、すぐに背中めがけて右の逆突きで踏み込む。


「(とどめっ! これで、ラストだぁーっ!)」


   ダァンッ!  シュバアーッ・・・・・・


「(西大阪愛栄の・・・・・・藤崎さつきを・・・・・・ナメるんやないわぁぁぁーーーッ!)」


   キランッ!   ギュルンッ  ザザアッ   グギュウッ! (ずき! ずきっ!)


「(え・・・・・・っ! か、躱した! うっそでしょぉ! ・・・・・・ま、まずいっ)」


 藤崎は、背中へ飛んできた川田の突きに対し、全身を捻ってムチャクチャな姿勢で躱して逆突きをかいくぐるようにして潜り込んだ。そして、腰を落として左拳を思い切り引き絞る。


「っしゃあああぁーーーーーーーぃっ! ・・・・・・ぐっ・・・・・・」


   ギュバアンッ!  (ずきいっ! ビリリッ!)  ズッドォォォッ!


   ~~~ ピー ピピーッ ~~~


「(か・・・・・・はっ! うぇ・・・・・・っ! な、なんて突き・・・・・・。・・・・・・うぅっ・・・・・・)」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ

   がくっ・・・・・・  どさっ・・・・・・


 試合終了とほぼ同時に、藤崎は川田の右脇腹へものすごい中段逆突きを捻り込んでいた。

 突いた藤崎も、突かれた川田も、とてつもない表情で悶絶している。

 ふらついた川田は、その突きを叩き込まれてから、その場にがくりと膝をついてしまった。


「か、川田先輩ーーーーーーーっ! 森畑先輩! 川田先輩が!!!」

「真波っ!? だいじなの? 真波ーっ!」


    よろろ・・・・・・  す・・・・・っ  よろろ・・・・・・  ふらっ・・・・・・


「(う・・・・・・っく! ・・・・・・うげ。・・・・・・は、吐き気がやばっ・・・・・・)」


 かろうじて、川田はふらふらと立ち上がる。両膝を手で押さえながら、脂汗を垂らして満身創痍な感じで、藤崎を見つめていた。


「(・・・・・・ふうっ・・・・・・。さ、最後の突きは、浪速のど根性やで! 意地の一発や!)」


 両者はまるで、フルマラソンを全力で走り切った後のように、荒い呼吸で開始線に立っている。


「止め! ・・・・・・4対3。赤の、勝ちっ!」

「「「「「 えええぇーーっ? 藤崎主将の突き、入っとったやろーっ! 」」」」」

「「「「「 さつきの中段はぁーーっ? ブザーより早かったやろぉーっ! 」」」」」


   ウウワアアアアアアアアアーッ  ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!

   どよどよどよどよどよどよ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


「「「「「 (愛栄の藤崎が、三回戦で消えよった! 柏沼の川田って人が勝ったわ!) 」」」」」

「「「「「 (最後の突き、無効? 確かに際どい感じだったけどさ・・・・・・) 」」」」」

「「「「「 (ぜってぇあんな突き、もらいたくねーよ! すげぇ女子たちだなー) 」」」」」


 副審の一人は青に旗を出している。主審は、ブザーの方が早かったと判断。

 追いつかれたかと思った川田だったが、首の皮一枚繋がった感じでギリギリ勝利をもぎ取ったようだ。

 Eコートの試合を見ていた観客もこの試合を振り返り、どよめいている。

 前原たち柏沼メンバーも、生きた心地がしないくらい、見ていて痛々しく激しい試合だった。


「か、川田さん、大丈夫かなぁ。かなりダメージ負ってるよ!」

「ああ。あの藤崎さつき、あそこまで格闘的で実戦的な空手だとはおれも思わなかった。スポーツではなく、まるで、その、何というか、ケンカのような気迫と技だったな」

「陽二の言うように、ありゃぁケンカ空手だ! おい、真波ーっ! だいじなんかよぉー!?」


   ふらっ・・・・・・  すたり  すたり  すたり・・・・・・   がっし!


「・・・・・・川田真波・・・・・・。はぁはぁ・・・・・・。栃木の女も・・・・・・ど根性なんやねぇ・・・・・・」

「・・・・・・うぅ・・・・・・っく。・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ。・・・・・・アタシね、勝った気しない。正直、あんたの方が『勝負』は勝ってた。すごい戦法だったね・・・・・・。あー、気持ち悪っ・・・・・・」

「勝負は・・・・・・どうこう言うても、ウチは負け。・・・・・・負けは負けやぁ!」

「アタシは本当に、負けてた。いろんな面で。・・・・・・やりたくないけど、またいつか、勝負してくれない? ・・・・・・いい経験だった・・・・・・ありがとね・・・・・・。・・・・・・あー、やだぁ・・・・・・」

「はは・・・・・・。はははははっ! ・・・・・・気持ち悪いのは・・・・・・お互い様やで? ウチもな、あんたの蹴りで、腹がおかしゅーてかなわんわ! ・・・・・・ずっきんずっきんや! でも、何だかんだで、勝ったのは、あんたやで? 胸張ってぇな! ウチの突きに、ここまで根性出して耐えたんやで? ・・・・・・あんた、すごいわぁ! ・・・・・・等星が一目置くだけのこと、あるわなぁーっ! ・・・・・・あ、そんでな、あんたの連突きな・・・・・・」

「なぁにやってるんですか! 早く出なさい!」

「「 は、はい! すいませんっ! 」」


 ふらふらしながらも、川田は藤崎に礼を言って握手した。

 お互いコートの中央で、へろへろに弱りながら健闘を讃えあっていたが、どんどんと藤崎のトークが過熱。あまりにも話が長くなりそうだったので、見かねた主審が二人を強制的にコートから出した。

 これで何とか、川田も三回戦突破。最終日の四回戦は、どんな試合が待っているのだろうか。


「真波、今日のダメージが残らないといいな。なぁ、みんなもそう思うだろ?」

「そうね。大阪の藤崎さつきかぁ。真波をあそこまで苦しめるなんて、ただのおしゃべり女じゃなかったね」

「井上君も森畑さんも思ってると思うんだけどさ、明日は・・・・・・」

「そうだね。今日以上の強敵ってことだもんね!」

「あー。もう、真波、よくよくじゃねぇか! だいじなんかよぉー」


 井上は、満身創痍の川田の様子を遠くから見て、雨が降り出しそうな表情となっている。

 前原や森畑も、ふらふらの川田を見てとても心配そうだ。

 会場の熱気がますます上がる中、熱による汗とは違う何かが、柏沼メンバーの頬を伝っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一部のインターハイ予選では、等星女子の朝香朋子以外にはめっぽう強かった末永小笹や川田真波などの強キャラが、この第二部でここまで大苦戦するなんて、やはり全国大会のレベルの高さがわかります。…
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