2-77、まさに銃撃戦! 川田真波vs藤崎さつき
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「さーて、やっとアタシの三回戦だ! 相手は、あのマシンガントークの大阪女か。こんなとこで躓いてらんないかんね! よおっし!」
かぽっ ぎゅうっ びっ びびーっ びっ ぱんぱんっ!
メンホーをしっかりと装着し、道着と帯の細かな乱れも整えて川田は準備完了。
Eコートのボードが交換され、「川田真波」と「柏沼高校」の表示に変わった。呼び出し係が立ち上がり、間もなく主審の合図がある。
たぁんっ たたたぁんっ ぱんぱんっ! ぎゅっ
「等星も認める川田真波、か。さぁ、ウチとオモロイ試合しよーや! 楽しみにしとるでぇ!」
コート中央を挟んで、川田の対面には、床を踏みならし、メンホーを叩いて再び床の感覚を確かめる選手がいる。
「(西大阪愛栄・・・・・・。全国屈指の超名門。でも、アタシはそんなの気にしないからっ!)」
「(なにわ樫原ツブした柏沼高校。そこの女子エースやろ、川田真波? どないなやつや)」
森畑や前原たちも、川田の三回戦を今か今かと待つ。
小笹も、母に渡されたタオルで顔を拭きながら、Eコートへ目を向けていた。
「ふうっ。川田センパイ、出陣かぁ。くすっ。勝ち上がってよねぇーッ!」
「赤、栃木県! 県立柏沼高校、川田選手!」
「はあいっ!」
「青、大阪府! 西大阪愛栄高校、藤崎選手!」
「しゃーっ!」
~~~選手!~~~
「「「「「 川田先輩ファイトですーーーーーっ! 川田先輩ーっ! 」」」」」
「真波ファイトォーーーーっ! 一気に勝ち上がれーーーっ!」
オオオオオオオオオオオオッ ワアアアアアアアアアアアアアアア
「「「「「 さつきぃーーーっ! 一気にいったれ! 一気にやったれぇーーーっ! 」」」」」
「「「「「 藤崎主将ぉーーーーーーっ! 必勝やぁーーーーっ! 」」」」」
「「「「「 さつき油断するんやないでぇーっ! でも、さつきのがレベル上やーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
無数の声援を背中に受け、両者が一気に開始線まで駆け込んだ。
「勝負、始め!」
「たあああああぁぁーっ!」
タアンッ タタァン ススッ タタタァンッ タタタァンッ
「うっしゃあーーーーっ!」
キュキュッ シュタシュタッ シュタタッ シュタンシュタンシュタン
高速で小刻みにステップを踏み、前拳や踏み込みのフェイントで牽制しながら間合いを探り合う両者。
相手の藤崎は右手右足が前のサウスポースタイル。川田とは、相撲や柔道で言うところの「けんか四つ」のような見た目になった。
「(この人、左構えなのか。でも、サウスポーだからって、アタシは苦手意識ないけどね!)」
「とぉあああーーっ!」
タタタァンッ! シュバババババババババババババッ!
「(あっぶな! なんやねん! いきなりアイサツも無しに来るんかいな!)」
トトトォンッ バチバチバチバチバチッ!
「(バックステップしながら、全部アタシの突きを弾いてる。防御力も高いのか!)」
「(いただいたもんは・・・・・・おかえしせなあかんやろぉっ!)」
「しゃーーーーーーっ!」
キュキュッ! グギュゥ シュタタァンッ! ヒュバババババババババババッ!
「(あ! 高速の連突き! これは、もらっちゃダメだーっ!)」
ダッ タタァンタタタタァンッ! ババババババチュンッ!
「(ほーっ! ウチと同じような防ぎ方するんやなー。でもぉ・・・・・・これはできんやろ?)」
「っしゃぁーーーーーーーーーーーーーっ!」
グウッ・・・・・・ ダァァァンッ! ダァン! ダァァァァンッ!
残像が見えるほどの高速連突きをお互いに放ち、それを余裕で弾き落とす両者。
川田が攻撃を防ぎきったところに、藤崎はさらに追撃してゆく。足の指先にまで力を溜め、ものすごく低い姿勢から中段の追い突きを三連打。
「(な、何だーっ! こんな低いところから、逆突きじゃなく追い突きっ?)」
パシイィンッ
川田は思いっきり前拳の掌で追い突きを叩いた。藤崎はぐるんと回されるようにして、受けの威力に身体を動かされる。
「(・・・・・・ウチの姿勢を崩して、さぁ、チャンスや! ・・・・・・とか、思うてへん?)」
クルンッ シュバアアアァァッ! パッシィィンッ! ・・・・・・ぐらあぁっ
「(うそっ! な、何よこの技ーっ! 下段後ろ回し蹴り?)」
藤崎は回転の勢いを利用して床に手をつき、まるで床スレスレに円を描くような低空の後ろ回し蹴りを繰り出した。その蹴りは、川田の前足首をすぱっと刈り取るように、正確な足払いへ変化。
滅多に見ない変則的な足払い、「水面蹴り」だ。
「(ほいっ。一丁上がりやぁ!)」
「しゃぁーーーーーーーーーーーーーっ」
ヒュンッ ドグウウゥッ!
「(うっ・・・・・・。けほっ! な、なんて前蹴りっ・・・・・・)」
「止め! 青、中段蹴り、技有り!」
水面蹴りでぐらりと前のめりにされた川田。
藤崎はぱっと姿勢を立て直すと同時に、前のめりによろけた川田のみぞおちへ、重く強烈な中段前蹴りを見舞った。
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「「「「「 ええで、さつきーっ! 相手の足、止めたれぇーーーっ! 」」」」」
「「「「「 藤崎先輩、ナイス中段やぁーーーっ! 」」」」」
一気に湧く大阪陣営。強烈な蹴りを入れられてしまった川田は、苦しそうだ。
「(けほ。・・・・・・き、効くなぁーっ、こいつの蹴り! うぅー、苦しっ・・・・・・)」
「(どぉや? あんたはウチと同じタイプの選手やんな? なら、先にその足、止めさせてもらうで! あとは、ウチの描いたとおりの試合展開にさせてもらうわー)」
藤崎はにやっと笑い、開始線で川田の目をじっと見つめたまま。
「まずいぞ、川田・・・・・・。前蹴りが効いてる。足が止まってしまうぞ!」
「中村せんぱい。前蹴りで、なんで足が止まっちゃうんですか?」
「前蹴りに限ったことじゃないが、みぞおちに強烈な攻撃がタイミング良く入ると、一気に呼吸を乱されるんだ。呼吸を乱されるとリズムも乱される。そして、最悪の場合、何度も食らうと酸欠気味になって、高速の連打も移動もできなくなる。腹の奥底が、重く下がるような、気持ち悪いようなそんな感覚にな・・・・・・」
「しかも、川ちゃんが前のめりに倒れかかったところを蹴り込まれた。自動的にカウンター気味になっちまったなぁ!」
「カウンターは、通常よりも威力が上がっちゃう! まずいな、川田さん! ファイトーっ!」
両手でみぞおちを押さえ込みながら、必死に呼吸を整える川田。相手の藤崎は、まだ息を一つも乱していない。
「続けて、始め!」
「しゃぁーーーーーーーーーーーーーっ!」
ダダダダッ シュタタッ シュタタッ シュタタァンッ!
「(こんのやろーっ! アタシを一気に仕留めようっての? なめるなぁーっ!)」
「・・・・・・っつ! とああああぁーーいっ!」
シュタタッ シュバババッ! ババババババババッ! シュバババババババッ!
シュバババババババババババババッ! シュババババババババババババッ!
「(はあぁ!? なっ、なんやとぉーっ! あかん! 防げーっ!)」
パパパパァン パパパパァン! ズガガガガガガガッ! パパパパァン パァン!
開始線から一気に駆け出し、中段突きを繰り出そうとしていた藤崎。しかし、川田の目がぎらっと輝き、間合いに入った瞬間に猛烈な雨のごとき連突きを上下に振り分けて浴びせかけた。
慌てて藤崎は踏み込みを止め、両腕を折りたたんで川田の連突きを防ぐ。
シュババッ バチインッ! シュバアッ! ベチインッ!
「(なんっやねん、川田真波! この連突き、えらいこっちゃ! しかも、速いくせに一発一発がごっついねん! 受けが、弾き飛びそうや・・・・・・)」
「(よし! あと少し! あと少しだ!)」
シュババッ! ・・・・・・バアアァンッ!
「(しもうた!)」
「(おかえしーーーーっ!)」
「とああああぁーーっ!」
ギュンッ ドゴオオォォッ!
「(うぷ・・・・・・っ! ひ、昼の弁当が出てまうやないかぁ! 何すんねん!)」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアー
「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」
「「「「「 ナイス中段でーーーーーすっ! 川田先輩ファイトです! 」」」」」
川田は連突きを重ねて、相手の防御を腕ごと弾き飛ばした。そして、がら空きになった藤崎のみぞおちに、先程のお返しとばかりに、体重の乗った重い中段前蹴りを叩き込んだ。
「(ふっ・・・・・・ふっ・・・・・・。はぁはぁ・・・・・・。ど、どぉよ! お返し物のお味は!)」
「(こ、こいつ、ウチと技量レベルは同等なん? おもろいわ! おもろいで!)」
「続けて、始め!」
「っしゃーーーーーーーーーっ!」
キュキュキュッ シュタッ ヒュバババババババババババッ!
「とああああぁーーーーいっ!」
タタタァンッ! シュバババババババババババババババッ!
ものすごい乱打戦。まるで音速戦闘機が機銃を撃ち合うかのように、両者の連打がコート内の空気を弾けさせ、空間ごと拳で打ち抜いてゆく。
ヒュウウゥーーーンッ・・・・・・ バッシイイッ!
「(食らってたまるかーっ! 甘いよこのぉ!)」
シュバアアァ・・・・・・ッ パパパパァン!
「(上等や! こんなスピード感には慣れとるんやで!)」
上段を躱し、中段を弾く。同じタイプの組手がぶつかるからこそのスピード感。
見ている前原たちも、ものすごくハラハラドキドキしている試合だ。
「おい、柏沼高校さぁ・・・・・・」
「ん?」
諸岡が、ふと、前原たちの後ろから呼びかけた。
「あの川田真波、ポテンシャルがすごいな。藤崎さつきは、ナショナルチーム候補生だぞ? それと真っ向から、見劣りしない技量とスピード感で戦ってる。私らは有華や朋子がいるから、まぁ驚きはしないが、一介の県立進学校にあのレベルの選手がいるのは、正直、すごいことだと思うぞ?」
「前原。森畑。これは私が等星の主将として思っていることだが、お前たちのレベルって、全国の強豪と比べても決して劣っていないんだ。私たちは私立校だから特待生制度やセレクション推薦などがあるが、県立校には特待生制度はないだろう? それで、これだけのメンバーが揃ったのは、誇っていいことだと思う」
「・・・・・・なんだか、等星からそんなこと言われる日が来るとは思わなかったよ。真波にも後で伝えといてあげようっと。ありがとう、諸岡。崎岡。そう言ってもらえて、嬉しいな!」
「だいたい、森畑もそうだろうけど、あの川田に名門校というプレッシャーなど皆無だしな。春季大会で、わざわざこの等星に宣戦布告してきたくらいだものなぁー」
「あはははは。そうだったね。あれは私と真波で、やっぱりどうしても等星に本気でやってほしくて、苦肉の策だったのよ。強い人、上手い人と全力勝負してこそ、でしょ?」
「でもほんと、川田さんはすごいよ! あれほどの試合を、難なくこなしてるんだもの!」
「がんばれ真波ーっ! 競り勝てーっ! 私ら、応援してるかんねぇーーーっ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアー
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアー
まったくお互いに均衡を破ることなく打ち合っている。
相手の藤崎のスタミナもとんでもないが、川田のスタミナもとんでもない。井上や中村は、川田のスタミナがいつの間にこれほど上がっていたかと驚いている。
川田真波と藤崎さつき。銃撃戦のような手数が信条の二人だが、どのような試合展開になってゆくのだろうか。




