2-76、小柄同士の極限バトル! 末永小笹vs岡島玲菜
ワアアアアアアアアアアア! ワアアアアアアアアアアア!
「ふぅー、三回戦だぁ。・・・・・・新井先輩、次の相手は、だれでしたっけ?」
「大分県の選手だねー。本当は」
「本当は? あれ? 何かありましたっけ?」
「一回戦で大分の子、スネをぶつけたみたいだよー。それがヒビ入ってたらしくて、棄権だって。だから、田村君は三回戦、不戦勝だねー。だいじょぶだいじょぶー」
「え! 不戦勝なんすか、俺? まぁ、一戦分のスタミナが残せるんじゃ、ありがたいっすねぇー」
「そうだねそうだねー。明日の最終日までに、田村君は腰と足首をよくケアしないとねー」
「・・・・・・そっすね。あー、不戦勝ねぇ。肩すかし食らった気分ですよー」
何と、田村の相手となるはずだった大分県の豊後佐伯城南高校の選手が棄権。これで田村は、明日の最終日へ自動的に駒を進めることになった。
そして、田村と新井が談笑している最中、Hコートに向けて大きな声援が沸き上がった。そこでは、注目の一戦が始まろうとしていた。
「田村君の相手・・・・・・ケガだね。不戦勝かぁ、もうけたね!」
「Aコート、田村の明日の相手は恐らく福岡天満学園の須藤だ。そこが山場だろうな」
「前ちゃん、陽ちゃん! Hコートを見ろ! 小笹ちゃんが、いよいよ・・・・・・」
「「 え!? 」」
かぽっ びっ びびーっ ぎゅっ びっ
小笹は青側でメンホーをつけ、数回軽やかにジャンプしてスタンバイ。
「(くすっ。さぁ、やっと面白い相手が来たねぇッ! ワタシを馬鹿にした代償は、払ってもらうからねぇーっ! 覚悟ぉッ!)」
かぽん ぎゅっ びっ びびーっ びっ ぎゅっ
赤側でゆっくりとメンホーをつけ、腕をぐるぐる回して元気よく待つのは、あの相手。
「(待ってたっちゃ、末永小笹! おめの組手は、おらがここで封じてやるっちゃ!)」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「赤、宮城県! 東北商大高校、岡島選手!」
「あいよっ!」
「青、栃木県! 海月女学院高校、末永選手!」
「はぁーいっ!」
「「「「「 玲菜先輩ファイトーーーーーッ! 必勝ーっ! 勝ってけれーっ! 」」」」」
「「「「「 岡島先輩! 岡島先輩! 東北商大、ファイトーーーーーっ! 」」」」」
「「「「「 んなぁびでっご、相手になんねぇべ! 蹴散らせ岡島ーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ウオオオオオオオオオオッ
~~~選手!~~~
宮城陣営からたくさんの声がHコートへ飛ぶ。それを気にせず小笹は、きりっと目を見開いて開始線まで駆け込んだ。相手の岡島も、ぺろっと舌を出して一気にダッシュし開始線へ。
「(こぉの東北ムスメめ! ワタシの組手で、驚かせてやるからぁッ! あははっ!)」
「(ふふふ! くらげのくせして、こなまいきだべ! おらの組手で、ぶったまげろっ!)」
キラン! キラリン!
空手をやらず普通にしていれば、きっとアイドルオーディションにも通りそうな顔立ちの二人だが、その二人が目を合わせた空間には、すさまじい闘気がぐにゃりと渦巻いた。
お互い、最大限に闘気と集中力を高めているようだ。
「勝負、始め!」
「はぁぁああーーーーーーーーーーーーーっ!」
タタッ タタッ ・・・・・・ドシュンッ!
「(え!)」
シュバシインッ! シュンッ・・・ シュバアッ シュバシインッ! シュババシィッ!
ザシュウンッ! シュンッ・・・・・・ ザシュザシュザシュンッ! ザシュウッ!
バシュッ パパァンッ! ザザアアアッ・・・・・・
「(な、なにこれぇっ! 痛ったぁ! な、なによぉッ、この突きと蹴り!)」
「す、末永ちゃんーっ!」
相手の岡島は開始と同時に床を蹴り、小笹に猛ラッシュ。しかも、その高速の突きと蹴りは恐ろしい切れ味を持っている技だった。
小笹のメンホーを掠めた部分には、岡島の拳サポーターが摩擦熱で溶け、赤い線がうっすらと付いていた。あまりにも恐ろしい技の切れ味に、小笹の目付きが一気に変わる。
「(こっ、この東北ムスメ・・・・・・っ! 思ったよりやるみたいねぇッ!)」
このカミソリのような切れ味を持つ岡島を相手に、小笹はこのあとどう戦うのか。
「(どぉだ、くらげ! おらの技で、いっとぉけぇずに、ぶっくらしてやるっちゃ!)」
「(・・・・・・このぉッ! こんな程度でワタシを上回ったと思わないでよぉッ?)」
「(こなまいきな! くらげ! 覚悟しろっちゃ!)」
フワッ・・・・・・ シュッバァァァァッ! ・・・・・・ヒュウゥゥゥ
「(はっ! この東北ムスメ・・・・・・。技が全部刃物みたいだ・・・・・・。ひゅうっ、あぶないっ!)」
岡島はふわっと緩やかに前足を上げ、遠間から一気に軸足と腰の回転による体重移動を使い、ものすごい速さで足刀蹴りを小笹の顎めがけて蹴り込んできた。
避けるのが一瞬遅かったら、確実に決められていたであろうタイミング。
岡島の足刀蹴りはまさに刃のごとき切れ味。小笹の右頬には、切り裂かれた空気がふわっと当たる。
「(このおらが・・・・・・一撃で終わるわけねぇべ! なぁ、くらげ!)」
「はああぁぁーーーーーっ!」
クイッ! シュウンッ! パカアアアァッ!
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「止め! 赤、上段蹴り、一本っ!」
「「「「「 岡島先輩ーーーーっ! ナイス一本でーーーすっ! 」」」」」
「(痛ったぁっ! な、何よ今のぉッ? ・・・・・・ワタシの後頭部。そうか、掛け蹴りか!)」
抜けていった足刀蹴りは足先がぴたりと止まり、引き戻すようにして小笹の後頭部へ踵が鎌のように振りか掛かった。足刀蹴りから、戻しの掛け蹴りで小笹から一本を取り、先制点は岡島へと入った。
「あ、あの宮城の岡島さん、末永さんに先制で蹴りを決めるなんて! がんばれーっ、末永さん!」
「前原。さっきから分析してるんだが、あの選手は技の精度もすごいが、足先から全ての力を技に乗せるのが非常にうまい! だから、ひとつひとつの技に、全身の力が加わって、ものすごい切れ味を生み出しているんだ」
「陽二、さっきの足刀と掛け蹴りだって、ものすげぇ遠間から一気にスライドして動いたぞ! でも、あの一瞬で、足刀が抜けてすぐさま掛け蹴りに変化させる反応もすげぇ!」
後頭部をメンホー越しにさすりながら、しまったという表情で開始線に立つ小笹。
相手の岡島は自信満々の笑顔で、右拳をぎゅっと握って、赤の開始線に立っている。
「続けて、始め!」
「ツアアアァァァーーーーァイッ!」
シュルゥ シュルルン シュルン シュルシュルシュル シュルウン・・・・・・
小笹の独特な円を描くような足捌きと滑らかなで変則的なステップ。
そして、前拳を下げて後拳を上げ、身体を真横に向けた個性的な構え。
岡島の左右に動く小笹は、滑らかに柔らかく間合いを計って少しずつ詰めていく。
「(んだこの、くらげ!? そっだら構えから、なじょすっけな? はぁ、かがって来ぉや!)」
「(ワタシのあたま蹴ったお返し、さぁ、今からあげるからねぇッ! くすっ)」
シュルン シュルルン シュルン シュルルルン
グッ ダシュッ!
「ツゥアアアアアーーーーーイッ!」
ヒュバシインッ! ヒュンヒュンヒュンッ! ヒュウンッ バシイインッ!
ヒュルンッ ドバシャアアァッ! ヒュルウンッ ベッシイイインッ!
ヒュンヒュンヒュンッ! クルンッ ドガアッ! クルン ベッチイイイッ!
「(んな! 痛ぇな、はぁ、この! くらげ・・・・・・おめも、負けず嫌いか! まげねっちゃ!)」
「はあああぁぁぁーーーーーーあっ!」
シュンッ・・・・・・ シュバシインッ! シュバアッ! シュバアアアアッッ!
シュンッ・・・・・・ ザシュウッ! ザシュウッ! ザシュウッ!
岡島の蹴りが刀なら、鞭のような柔らかさとしなやかさで一気に仕掛ける小笹の蹴りは、まるで鎖鎌。両者、触れれば空気ごと真っ二つにされそうなほどの技を出し合っている。
ズバアアッ! ヒュウウゥンッ・・・・・・
ヒュバァッ ゾヒュウゥンッ・・・・・・
「(この東北ムスメの突きや蹴り、耳に響く風切り音が・・・・・・尋常じゃないなぁッ)」
小笹のメンホーは、岡島の突きが何度も掠り、赤い線がいくつも浮かび上がっていた。
切れ味やスピードでは、相手の岡島が小笹をやや上回っているようだ。
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
対角のEコートでは、試合を待つ川田もHコートの様子を見ていた。
小笹が3対0でリードされて苦戦している様子を、歯痒そうに真剣な目で見つめている。
「なにやってんの小笹! でも、あれほどの小笹の技が決まらないなんて。あの宮城の子、強い! さすがに名門の主将クラスは、簡単にいかないのか。あの小笹でも・・・・・・」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「はあああぁぁぁーーーーーーあいっ!」
シュンッ・・・ ザシュザシュザシュンッ! バババババァッ! ザシュウッ!
「(くうっ・・・・・・。躱しても、身体に触れると痛いなぁ、この東北ムスメの技!)」
「(おらの技をもっても、はぁ、まだ3ポイント・・・・・・。くらげ、この、逃げんな!)」
シュンッ・・・ ダシュッ! ザシュザシュザシュンッ!
カミソリのような突きに、刀のような蹴り。
小笹はそれらの技を受けて防ぐたびに、表情を歪めている。ポイントこそ取られないが、技の威力と切れ味によって、かなりのプレッシャーがあるようだ。
「(こんっ・・・・・・のぉ! ワタシをなめるのもいい加減にしてよねぇッ!)」
「ツウゥアアアァーーーイッ!」
フゥウウンッ・・・・・・ シュバシイインッ! ドガアッ!
「(はぁ! ・・・・・・っく! な、なんだべ! この、くらげの技は! はぁ!)」
勢いに乗る岡島に対し、小笹はものすごい柔軟性を利用した技を脳天めがけて叩き落とした。
風車のように回転した右足の踵は、岡島の頭をめがけて振り下ろされたが、間一髪で岡島は交叉受けでその「踵落とし」を防いだ。
小笹が放ったこの技に、審判は一斉に反応。
「止め! 青、危険行為! 忠告! その技は危険だから、いけません!」
「はぁーーーいっ。くすっ。すいませぇんッ!」
「(くらげぇ! ワザとかや! ・・・・・・いい根性だ! はぁ、もうおら、あったま来たっちゃ!)」
危険行為でカテゴリー1の忠告を受けた小笹は舌をぺろっと出し、鋭い目を岡島へ向けていた。
「か、踵落としなんて・・・・・・。末永さん、わざとやったな? 今の・・・・・・」
「忠告覚悟で、だな。だが、何だかんだで相手の動きを一度は止めたぞ。あの宮城の子、おれが見た感じでは、攻撃力はものすごいが、防御力はこの大会の中ではそこまで抜きん出ている感じじゃない。まぁ、それでも、いまだにポイントを取られていないほどハイレベルだが・・・・・・」
中村は眼鏡をくいっと指で上げ、もう一方の手でこめかみの汗を拭った。
「続けて、始め!」
「(さぁーて、ワタシもそろそろ何とかしなきゃ、負けちゃうなぁ・・・・・・。この東北ムスメにだけは、負けたくないなぁッ! ・・・・・・あの突っ込みを何とかしなきゃなー・・・・・・)」
シュルン シュルン シュルンシュルンシュルン・・・・・・
「はあああぁぁぁーーーーーーあぁっ!」
シュンッ・・・ ザシュザシュンッ! ザザザッ ザシュザシュザシュンッ!
「(おらの突きは、カミソリよりも切れるっちゃ! くらげ! おめを、はぁ、ずったらずったに切り刻んでバンバンジーにでも入れでやっぺさ!)」
「(くっ・・・・・・。この突き、退がったらダメだねきっとぉ! このぉーーーっ!)」
「ツアアアァーーーイッ!」
シュルンッ ドパァン! ドドンドパァン! ドゴォンッ!
「(んだ、この! ・・・・・・上等だっちゃ!)」
ザシュッ! ドパァン! ベキインッ!
ドパァンッ! ザシュンッ! バキインッ!
カミソリのような岡島の突きに対し、小笹は鍛錬によって鍛え上げた握力で拳を固く握って、強烈な突きをぶつけた。
右、左、また右と、赤と青の拳サポーターが衝突し、拳の骨まで軋みそうなほどの炸裂音が響く。
・・・・・・ザシュウッ ドパァアンッ! グギインッ!
「(痛ぁっ! ・・・・・・んだ、今の! ・・・・・・おらの右拳が。・・・・・・つうっ!)」
トトォンッ・・・・・・ トォントォンッ
岡島は右拳を慌てて引き戻し、片手で手首を支えながら、遠くに間合いを切った。
「(くすっ。あははっ! ・・・・・・ちゃぁんと握ってんですかぁーッ? 拳、もう、いかれちゃったんじゃないのぉーっ? あははははっ!)」
小笹は何度も右拳をぐっと握ったり、ぱっと開いたり。右手首を支えながら脂汗を垂らす岡島へ、目を吊り上げた笑顔でゆっくりと間を詰める。
「こ、小笹ちゃん・・・・・・。あの殺気立った笑顔は、何か、やったな?」
「相手の人、なんか、手首かどこか傷めたのかな? 末永ちゃんは平気そうだけど、怖いよあの笑顔が」
長谷川と阿部も、末永さんの笑顔になにか恐ろしさも感じているようだ。
「か、神長君。末永さんはもしかして、さっき、わざと突きをぶつけてたんじゃ!」
「あぁ。とんでもない防ぎ方だが、巻き藁やサンチンガーミィなどで鍛えた握力で突き込んだら、いくら拳サポーター越しでも、握りの甘い方が一気に砕かれちまうわな!」
「うぇぇ! 考えたくもねーな。でも、確かに、相手は痛そうにしてんぞ!」
井上は自分の拳を見つめながら、眉間にしわを寄せた。
「「「「「 玲菜ーーーーっ! どしたっちゃーっ! ファイトーーーーーっ! 」」」」」
(ずきんっ! ずきんっ! ずきんっ!)
「(うぐ・・・・・・。こら、やっだな。おらの右拳、くらげ、おめが砕いたんか、このぉ!)」
「(あははっ! 鍛え方が足りないんじゃないのぉ? 東北商大の女子主将のクセにぃ!)」
シュルッ シュルッ シュルルッ・・・・・・
獲物へ食って掛かりそうな鋭い目と、笑って緩んだ三日月のような口元が合わさり、不気味な殺気が増した小笹は岡島へさらに近づく。
ダシュッ! パチンッ・・・・・・
一気に射程圏内に入った瞬間、小笹は岡島の右手首付近へ軽い回し蹴りを放った。
(ずきいんっ!)
「(うぐっ! ・・・・・・あ!)」
シュルウンッ シュパッ パカアアアァンッ!
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「止め! 青、上段蹴り、一本っ!」
軽めの回し蹴りは、それでも岡島の右腕全体を痺れさせるほどの激痛を走らせるには十分だった。
岡島の動きが一瞬鈍ったところへ、容赦なく小笹はコンパクトな上段裏回し蹴りを叩き込んだ。
「やったーっ! 末永ちゃん、ナイス一本!」
「阿部せんぱい! こざささん、やりましたね!」
二年生も一年生も、大喜び。
だが、前原や中村、そして森畑は、防具越しでも拳を破壊するほどの小笹の技の重さに驚いていた。
「前原さぁ、小笹はこれを狙ってたんだろうか? でも、拳サポーター越しに突きをぶつけても、あんなに拳ごと傷めるもんなの?」
「うーん。どうなんだろうね・・・・・・」
「森畑。相手のあのカミソリのような威力は、拳をガッチリと握りこんでいないのかもしれん。緩めて、鞭のようにしならせることができる上に、足先から全身の力を乗せた結果、あの切れ味だとするならば・・・・・・」
「陽ちゃんが察するように、握りの甘い方の拳が砕けてしまう、ってわけか・・・・・・」
現在の点差は同点の3対3。ポイントが追いついた小笹は、岡島へ対しこの後どのように仕掛けるのだろうか。
「続けて、始め!」
「ツアアアァーーーイッ!」
シュンッ・・・・・・ ドドォンッ! ドゴアッ! ずざざっ・・・・・・
「(く、くらげのくせに、はぁ、んだってや重てぇ突きなんだべ! やんなっちまぁ!!)」
鉄槌で叩くようなワンツーを放った小笹。岡島は左掌で上段を防ぎ、左足を脇腹の高さまで上げて、中段をギリギリ防いだ。
だが、その小笹の突きの威力で、岡島は後ろへ大きく身体ごと吹き飛ばされた。まるで大きなハンマーで打たれたかの如く。
「ツアアアアアアアァーーーイッ!」
シュンッ・・・・・・ ダダアアァッ ドォンッ! ドドドォンッ! ドドォンッ!
ギュンッ! ダシュッ! ズドオオンッ!
「止め! 青、中段突き、有効っ!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「小笹ーーーっ! ナイス中段! いい突きだったよ! その調子ーっ!」
これまでの小笹にしては珍しい、オーソドックスな飛び込みからの中段逆突き。
連突きで相手を吹き飛ばし、追い詰め、間合いが詰まったところで一気に腰を下げて飛び込んだ。
「(けほっ・・・・・・。いずいっちゃ、くらげ! この、おらが右手使えねぇとわかったらあっ、んだってや調子こんで、はぁ、かがって来るんだ! おだづなよぉっ、くらげ!)」
(ずきん! ずきん! ずきん! ずきん!)
「続けて、始め!」
「はあああぁぁぁーーーーーーあっ!」
シュバアッ! ザシュウッ! ヒュウウゥンッ・・・・・・
「(こっ、こぉの! ま、まーだ左手だけでも、こんな突き打ってくるのかぁー・・・・・・)」
どんっ ぐいいいっ・・・・・・
岡島が放った速攻の左上段刻み突き。それを小笹は首をひょいと横にして躱したが、相手はそのまま身体をあずけるようにして密着。そして、抜けた突きを素速く引き戻し、小笹の首元に腕を押し込んだ。
「(わぁ! ちょっとぉッ! 強引すぎるでしょーよぉッ、東北ムスメーっ! やめてよぉッ!)」
「(んだっちゃ関係ねぇべや! おらは、右手が砕けようとも、はぁ、他のとごは使えんだこの!)」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「「 小笹ーーーっ! 油断しちゃだめーっ! 相手、狙ってるよーっ! 」」
栃木陣営とEコートから、森畑と川田が同時に叫んだ。
「はああああぁっ!」
グイッ! ダンッ! グイイイイッ! ブンッ! ・・・・・・パアァンッ!
「(うわわわっ! な、なによぉ東北ムスメ! こ、こんなパワーあんのぉ? ええぇ!?)」
片腕で一気に振り回される小笹。そして、重心を崩したところへ岡島の高速の足払いが襲った。
・・・・・・ダダァァンッ! どしゃっ・・・・・・
「(いったぁーいっ・・・・・・。と、東北ムスメぇー。やったなぁッ! おしり打っちゃったじゃないかぁッ・・・・・)」
「はあああぁぁぁぁーーーーいっ!」
シュバアッ ドスウウウンッ!
「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ 」」」」」
バッ! バッ! バッ!
「止め! 赤、上段突き、一本っ!」
まさに闘志と執念が溢れ出ている組手だ。岡島は左腕と左足を巧みに使い、全身のバネから生み出したパワーを乗せて小笹を足払いで転がし、顔面へ力強い突きを決めた。
これで点差は再び岡島がリードの6対4。手に汗握る攻防戦はまだまだ続く。
「(ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・。わがったか、このくらげ! おらは、おめより、強えっちゃ!)」
「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。すごい力だったぁ。なんて根性なのぉ、東北ムスメめぇ!)」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
開始線へ立つ小笹は、腰元や太腿をぱんぱんと叩き、背伸びをするような仕草をして手首をぐっとストレッチ。まだ、その様子からは、焦りは見受けられない。
「こざさーーーっ! ちばりぃよぉーーーっ! まだいけるさぁーーーっ!」
沖縄陣営からも、美鈴が大きな声で小笹にエールを送っている。
「続けて、始め!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ
「岡島の組手は、技の切れ味もすごいんだが、一番はあの執念。どれだけ追い詰めようとも、食らいついて離れない。去年、私ら等星が東北商大と当たったとき、朋子もあの執念に苦戦したほどだ。末永小笹、今のままで、岡島相手に残り時間で取り返せるのか?」
「有華。末永小笹は、序盤と違って突き技が増えてきている。きっと無意識に、岡島は変化技だけでは対応しきれない相手と判断したんだろうか? ・・・・・・どうなんだ森畑? あいつの組手は、ここから挽回できるような変化球が、まだあるのか?」
Hコートの試合に、腕組みをしながらうなる崎岡と諸岡。等星メンバーから見ても、岡島は生半可な相手ではないらしい。
「わからない。でも小笹は、私たちとは積んできた空手や格闘技術は違うと思う。だから、あと三十秒ほどで挽回できる策は、なにか持ってるはず。きっともう、わかってると思うんだ」
~~~ 三十秒前です! ~~~
「あとしばらく!」
「(うーん。さぁて、どぉしようかなーッ! 2ポイントで同点延長。3ポイントなら逆転勝利かぁー。三十秒前じゃぁ、もう時間もないなぁッ・・・・・・。うーん・・・・・・)」
「・・・・・・はああああぁぁぁーーーーーぃっ!」
ダシュッ シュンッ・・・・・・ ザシュウッ! ザシュウッ! シュバシインッ!
ガガガッ! ベチイッ!
「(ちょっとぉ! ワタシ、まだ考えてるってのにぃーッ! ・・・・・・このぉっ!)」
「ツアアアァーーーイッ!」
ペチイイィィンッ!
「(んなっ・・・・・・・! くらげめーっ!)」
「止め! 青、上段打ち、有効っ!」
これまた珍しい、小笹の上段裏拳打ち。迷っていた中で咄嗟に出た技だったのか、キレはあまりなかった。岡島の二連刻み突きと中段回し蹴りを受け止め、後の先のカウンター技として放ったものだった。
「ナイス上段だよ末永さんーーーっ! あと二十秒! まだいけるから落ち着いてーっ!」
「小笹ーーーっ! ここは手堅くいこうよーっ!」
「(くすっ。前原センパイも森畑センパイも、心配性ねぇッ。ワタシは、ここで焦って相手にやられるようなヘマはしないよぉッ!)」
にこっと笑う小笹は、岡島の闘気にひるまず、同等な闘気で迎え撃つ。
強者同士の熱戦は、残り時間あと僅かにして、さらに激化する。
「「「「「 東北商大ぃーーーっ! 全力必勝ーーーーーっ! ファイトだっちゃ! 」」」」」
「「「「「 玲菜ぁぁーーーっ! 抑えこめば勝てんべゃ! ファイトーっ! 」」」」」
「「「「「 れいなーっ! れいなーっ! 頑張ってけさぃね! れいなーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアー ワアアアアアアアアアアアアアアアー
「(みんなの声だ。おら、嬉しいなや、はぁ! ・・・・・・がんばっぺ! おら、くらげ相手に逃げるなんてぇこた、しねぇんだ! 東北商大の名さ泥塗ったら、ごしゃがれっちまぁ!) がんばっぺ!」
岡島は激痛の走る右手を震わせながら、ぎらりと目を光らせて小笹を睨みつけた。
東北商大高校の声援を受け、岡島は汗を滴らせながら、闘気をさらに増幅させ、歯を食いしばっている。
「続けて、始め!」
「ツアアアァーーーイッ!」
「はああああーーーーーっ!」
シュンッ・・・・・・ ダシュッ! ドッッパァンッ! シュバシインッ!
バチインッ! シュバアッ シュゴォォォッ・・・・・・ ザシュウッ!
「(このぉ、東北ムスメ! 右拳、痛くないのぉ? よぉくこんな動けるねぇッ)」
バチバチバチィ! パパァンッ! パァンッ! ザシュウッ! ザシュウッ!
「(おだづなや、くらげ! おらはこの程度じゃ・・・・・・止まらねぇっちゃ!)」
シュバアッ! ドオンッ シュンッ・・・・・・ シュバシインッ!
残り時間十秒足らず。二人の攻防はさらに激しくなる。
岡島は、激痛が走っているはずの右腕も動かして対応しているが、さすがに突きは片手のみだった。
「(このッ! しつっこいなぁーッ!)」
「ツアアアァーーーイッ!」
グウイッ・・・・・・ ドボオォッ!
「止め! 青、中段蹴り、技有りっ!」
「「「「「 やったぁぁぁぁぁ! ナイス中段ーーーーーっ! 」」」」」
岡島の刻み突きを、手刀と掌でぐるんと回して崩す小笹。
そこへ、引っ張り込むようにして至近距離からの中段回し蹴りを決めた。これで点差は6対7となり、ギリギリ小笹が逆転。
「(はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。もう諦めなってのッ! ワタシが逆転したんだから、もう、東北ムスメ、諦めてよぉッ! 静かに弁当でも食べてなよーっ!)」
「(ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・。ちゃっぢゃと取り返してやるっちゃ! くらげ! おめが、おらよりも強くてたまっかや! ・・・・・・東北商大の意地、最後まで見せてやんべ!)」
キラン! ギラリッ!
岡島の目がさらに鋭くなり、闘気がさらに増す。小笹はやや疲れた表情で、岡島の気迫に少し圧され気味。
「(あと二秒じゃんーッ・・・・・・。もう、いーでしょぉッ? はぁ、はぁ・・・・・・。お願いだから、もう、諦めてよぉーッ・・・・・・)」
「(ふぅ、ふぅ・・・・・・。くらげ! おらはまだ、諦めねぇど! はぁ、おらは、おめに勝って、もっと前さ進むんだや!!)」
目力だけで相手を倒せそうなほどの岡島の迫力に、小笹は圧されている。
「小笹、気ぃ抜くなぁーーーっ! まだ、相手の目は死んでないよぉっ!」
「続けて、始め!」
「ツアアー・・・・・・」
「(遅いっちゃ、くらげぇ!!)」
「(え! み、右拳ーッ? う、受けが・・・・・・間に合わないよぉッ!)」
ザシュウッ! ザシュンッ! ドパァンドドン! ・・・・・・ごろろろ どしゃ!
「(ふぅぅー・・・・・・ふぅっ! どぉだ、くらげぇ! これが、おらの、はぁ、最後の意地と根性だっちゃ! どぉだぁーーーっ!)」
(ずっきぃん! ずっきぃんっ! ビリリリッ! ピリッ!)
~~~ ピー ピピーッ ~~~
ラスト二秒。速攻で小笹の懐まで飛び込んだ岡島は、なんと傷めた右拳を使って小笹の胸元へワンツーを叩き込んでいた。
予想外のことに反応が遅れた小笹は、受けが間に合わずに慌てて後ろに飛び退いたが、その突進力に吹き飛ばされ、場外まで転がった。
「(い、痛ぁっ。何度ワタシを転がす気なのよぉ、東北ムスメーっ!)」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
がやがやがやがや どよどよどよどよどよどよ
「・・・・・・残心不十分! とりませんっ!」
「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ 」」」」」
「(ほぉか・・・・・・。だめかぁー・・・・・・。はぁ、ポイント取れなかったっちゃ・・・・・・。おら、負げちったぁ・・・・・・)」
宮城陣営からはものすごい落胆の声が響いた。岡島が最後に叩き込んだワンツーの右拳は、入ってはいたものの、激痛からか残心までしっかりと取れておらず、主審は不十分と判定。
どちらが勝ってもおかしくない大激闘は、ここで試合終了となった。
「7対6。青の、勝ちっ!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ ワアアアアアアアアアアアアアアアー
お互いメンホーをはずし、汗だくになった顔。少し呼吸を整えて、一礼。
小笹もさすがに呼吸が乱れており、複雑な表情をしてメンホーを左脇に抱えていた。
ぺたり ぺたり ぺたり がしっ!
「え! と・・・・・・東北ムスメ・・・・・・」
「おめ、おらより上さ行ぐんだから、もっと笑えこのぉ! ・・・・・・おらは負げたっちゃ!」
「・・・・・・右拳、ワタシが打ち砕いたけど、痛くないの?」
「きゃははっ! ほっだらもん、気にしねぇべよ。言い訳さ、はぁ、おらはしねぇんだ! おめは、おらより強かった。はぁ、そんだけだ。拳がどうこう、関係ねえっちゃ!」
「ほ、ほんとは痛いクセにぃ! ま、あんたも強かったよ。相当な実力だったねッ! くすっ」
岡島は、小笹に「右手で」がっちりと握手。汗だくのまま、笑顔で小笹の手を握り、爽やかな表情をして再び一礼してコートから出て行った。小笹も、その岡島に対し、深々と一礼を返した。
「(あー、いだぐでもぅ、泣きそうだっちゃ! くらげのほでなすがー。あー、いでぇー)」
小笹が岡島を下し、僅差で三回戦を突破したことは館内の名門校関係者にも衝撃だったようだ。
あちこちで激闘が繰り広げられる中、Eコートでは朝香が広島県代表 県立紅葉原高校の弘田選手に9対0で完勝。ミランダも続いて、岡山県代表 おかやま白陽高校の宮本選手に9対1の圧勝。
同時に、Aコートでは田村が不戦勝での勝ち名乗りを受けていたところだった。
「青、棄権! 赤の、勝ち!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「ふいー、ほんとに不戦勝だぁ。こりゃ、思ってもいなかったねぇー」
ぺこりと軽く一礼し、コートから出る田村。
「そんじゃ、あとはゆっくり、川田や二斗の試合でも見てっかぁ。末永は東北商大の岡島相手に、何とか勝ったのかぁ! さて、川田はEコートだっけな・・・・・・」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
オオオオオオオオオオオオッ オオオオオオオオオオオオッ
「末永ちゃん、よくあの宮城の子に勝てたもんだ。おれは試合を見ていて、もしかすると一瞬の判断ミスが命取りになるんじゃないかと思ってたが、何とか乗り切ったな!」
「東北商大の岡島玲菜かぁ。女子なのに、すげぇ切れ味の技だったな! おい、敬太ぁ。お前あんなやつの弁当台無しにして、よくその場で瞬殺されなかったな? ははっ」
「もう、井上先輩ーっ・・・・・・。俺もほんと、青ざめたんですから、やめてくださいよー」
「陽ちゃんの弁当に救われたな。でも、陽ちゃん、本当に腹減ってないのか?」
「心配するな。末永ちゃんも言っていただろう? 一回くらい抜いても、おれは平気だ」
そう言いつつも、中村の腹は大きく鳴っていた。館内の歓声で誰も聞こえなかったようだが。
「みんな、弁当話題はそれくらいにして。ほら、Eコート、真波の出番だよ!」
森畑が指差す方向には、今まさに試合の呼び出しを待つ川田の姿があった。