2-46、意地を見せろ!神長道太郎!
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
ウオオオオオオオオオオオオオオオ ウオオオオオオオオオオオオオオオ
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
他のコートも激戦が繰り広げられているようだ。あちこちの陣営から歓声が沸き上がり、溜め息が漏れ、驚嘆の声が噴火したかのように響いている。
柏沼メンバーが試合をしている隣のBコートやCコートも、第二試合まで進んでいる。
いったいどこの学校が勝ち上がっているのかなど、あちこちを見回す余裕は今の前原にはなかった。
「勝負! 始め!」
「どああああああーっ!」
豪快な神長の気合いが響き、床を踏む重い振動と音が響き渡る。
中堅戦は、体格では神長が相手よりもかなり上回っている。パワー勝負や正面衝突なら、間違いなく神長に分があるだろう。
「(やっぱりな。・・・・・・来る気配が、ない!)」
相手は両拳をすうっと構えて、やや背伸びするかのような腰高で、膝下のみで小刻みにリズムを取っている。雰囲気からして、またもや待ち拳型の選手のようだ。
「どああああああーっ! でああっ!」
シュッ・・・・・・ ドッガアアアアッ!
「(・・・・・・っ!)」
中段前蹴り一閃。
神長の重い足先が、相手のみぞおちへ。
相手はそれを両手でなんとか受けたが、体重差により、数歩後ろへ身体が押し動かされた。
「どあああああありゃーっ!」
シュッ・・・・・・ ドカァッ! シュパパパァン!
ガッ パンパパァン
「神長せんぱーい! いいですよぉ! いけるいけるーっ!」
「道太郎ファイトーッ! 押し込め押し込めーっ!」
栃木陣営から、神長の耳へ声援が届く。
神長はさらに前蹴りからのワンツーによるコンビネーション攻撃を放つ。
田村や前原の試合と違い、相手はいきなり返し技を仕掛けていない。いや、神長の回転力がさらに上がり、タイミングが掴めないのかもしれない。蹴りや突きを受け捌くのみで、手は出してこない。
「(カウンターは打ってきていないが、受けながらもずっと俺を見てる! 狙ってやがるんだきっと。どこで、俺に返すのかを!)」
「(でぇれー速攻じゃ! じゃけん、パターンがわかりやしーわぁ)」
キュッ キュキュッ タタァン タアアンタタァン
「はああぁちゃあああああっ!」
「(うおっ! せ、攻めてくるか!)」
フウッ・・・・・・
ヒュウンッ! ヒュウンッ! ズババババァンッ!
「(くっ! 鞭のようなワンツーだ。こいつは、突きが撓やかすぎる!)」
両手で鞭でも振るったかのような、相手のワンツー。
神長は、手首から肘までの小手部分でその攻撃をきれいに受け捌く。
「(カウンターだけじゃないもんな! 油断はできないぞ!)」
「どああああああーっ!」
ススススッ・・・ ダァンッ! ドギュンッ!
相手の攻撃が終わった隙を狙い、神長は一気に間合いを詰めて中段逆突きで飛び込んだ。
タイミング、スピード共に申し分ない突きだ。
スッ・・・・・・ ギュルッ!
「(なにぃ!)」
左脇腹に神長の逆突きが触れようとした刹那、相手はぐっと腰を横に切って、その突きを流した。
「はああぁちゃあっ!」
スパアアァァァァンッ!
「止め! 赤、上段突き、有効!」
「「「「「 ナイス上段じゃぁーーーっ! ぶちくらわせぇ稲葉ぁーっ! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「(くうっ! ・・・・・・後の先の返しか! や、やられた!)」
「やはり、おかやま白陽、受けや返しは抜群に上手い! あの道太郎の中段突きを、腰を捻っただけで躱すなんて。しかも、上段突きも正確に返す。あの一連の動作は、元々がああいう組手スタイルじゃなきゃ、咄嗟に出ない技だよ」
「菜美、アタシ思ったんだけど、道太郎の相手は攻め技も強い! 攻めが強いからカウンターがさらに活きる。これは、ガンガン攻め込んできた大阪のやつらよりも、やりにくいし強敵だよぉ!」
「この中堅戦、黒星になるのはダメだね。道太郎に、なんとか勝ってもらわなきゃ」
ワアアアアアア! ワアアアアア!
「続けて、始め!」
「(迷ってられん! 俺は、勝つ! 取り返すっ!)」
「どおおああああああーっ!」
キュンッ! ドンッ! ドガアアアッ!
速攻の前蹴りで果敢に攻める神長。しかし、正直な攻撃はこの相手にはやはり通じない。簡単にガードし、防ぐ。とにかく、おかやま白陽の選手は防御力が高い。
神長の蹴りもかなりのスピードだが、名門の強豪だけあってこういうスピード感には慣れているのだろう。
「(蹴ってダメなら、こいつだぁ!)」
ヒュラッ・・・・・・ ギュウウンンンッ
水平に、まるで銀色の刀が振り回されたかのように、神長の肩口から高速の影が飛ぶ。
神長得意の、美しい軌道を描いた背刀打ちだ。
・・・・・・シュパパパァン!
「(ぐっ・・・・・・! は、速い!)」
「止め! 赤、上段突き、有効!」
銀色の刃は、儚くも、弾丸のような相手のカウンターに打ち落とされた。神長の十八番とも言える背刀打ち、不発に終わった。
「か、神長君! 焦らないでーっ! 慎重に行こう!」
「道太郎ーっ! 待ち拳に正面からの背刀は、やべぇよ!」
「焦るなーっ! まだまだ、落ち着いていこう! だいじょうぶだ神長ぁ!」
「円を描くような軌道の背刀と、直線の突きじゃ、相性が悪かったねぇ。でも、まぁ、おかげで神長は相手を崩すヒントを得たみたいだけどねぇ」
前原、井上、中村が慌てて神長に声を飛ばす中、田村はにやっと笑って何か見抜いたようだ。
「続けて、始め!」
「はああぁちゃあああああっ!」
「(ぬああっ! こ、こんどは先制か!)」
ヒュラッ シュバアンッ! シュバアンッ!
バチンッ パアンッ
相手の高速ワンツーが神長に襲いかかる。鞭のように撓る拳が、左右から神長を襲う。
しかし、それを冷静に掌で弾き返す神長の防御力もかなりのレベルだ。
「(喰らうか、そんなもん! おかえしだぁっ!)」
ドキュンッ! シュバアッ!
「(遅いんじゃ!)」
チュドンッ! バアアンッ!
「(くっそぉ・・・・・・! う、うまいっ・・・・・・)」
「止め! 赤、中段突き、有効!」
ワアアアアアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアアアアアア
「ああぁーっ! 神長せんぱいぃーっ・・・・・・」
「真衣、わたしらももっと声出さなきゃ! 3対0は、やばいよ!」
「うちやま、声をだすよ! いくよ!」
「「「 神長せんぱぁぁぁぁぁぁいっ! ファイトでーーーーーーーす! 」」」
「くっそぉ、待ち拳ばかりのチームがここまで厄介だとは! アタシもコレは予想してなかった流れだ! 田村と前原で白星を得られなかったんだから、道太郎は勝たないと!」
「道太郎・・・・・・がんばってよ! もう、星は落とせない。がんばれーーーっ!」
「・・・・・・・・・・・・おかやま白陽の稲葉も、待ち拳型メイン・・・・・・。しかし、攻めの突きもすごい伸びだ・・・・・・。強い!」
「二斗! あんたも道太郎を応援してよ! 日新学院の人数で、柏沼応援してよ!」
「・・・・・・・・・・・・オレが? ・・・・・・日新全体が?」
「そうよ! アタシらの何倍の人数いんのよ! 同じ栃木県がピンチなんだ! やってってば!」
「む・・・・・・。・・・・・・そうだな。今は、仲間だ・・・・・・。日新学院! 柏沼高校へ声援を送るぞ!」
「「「「「 柏沼ぁぁっ! ファイ! ファイ! ファイ! 」」」」」
ものすごい声量で、日新学院から神長へ声援が届く。このエネルギーがどんどん神長へと降り注ぐ。
ポイントは現在、3対0。ここからどう神長は攻めるのか。
「続けて、始め!」
「どああああああーっ!」
キュッ キュキュキュッ ササッ ダァンッ! ダダッダァン!
軽快なステップから、重厚感のある構えで踏み込む神長。相手は変わらず、カウンターで迎え撃つ体勢だ。
「か、神長君! まさか、そのまま突っ込む気なのかな!」
「道太郎ーっ! 相手、狙ってるぞぉ! おぉーいっ! カウンターやられるぞ!」
「ど、どうしたんだ神長は! 確実に相手はカウンターを狙っているし、もう、わかりきっている感じなのに!」
「まぁまぁ。前原も井上も中村もさぁ、まずは落ち着こうかねぇー。たぶん俺が思う感じだと、神長はさっきの背刀打ちの不発で、何か閃いたんだよ。ケガの功名ってやつかもねぇ」
「な、なに? 田村、どういうことだ」
「まぁまぁ、見てればきっと、わかるかもねぇー」
ワアアアアアアーッ ワアアアアアアーッ
「か、川田せんぱい! 神長せんぱい、突っ込んで行くみたいですけど!」
「道太郎ー! 3ポイント差をどうすんの!? アタシなら蹴りを狙うけど、あの相手には蹴りもそう簡単に決まりそうもないし・・・・・・」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ!
「どああああああーっ!」
シュパアッ・・・・・・ ヒュラッ
「(こげーな速さの突きぃ、返せぇ言うてるもんじゃけぇ!)」
パァンッ シュバ・・・・・・
「(・・・・・・!!!)」
相手は神長が繰り出した単純な上段突きに合わせて、中段逆突きを返そうと腰を落とし、迎撃のフォームに入った。
しかし、相手は寸前で突きを止め、慌てた様子で姿勢を戻そうとしている。
神長は、いつの間にか上段突きをそのまま下げて掌で相手のカウンター軌道を先にカバーしていた。
「(もう、遅いぞぉっ! これしか、ないだろぉーっ!)」
ヒュルン ヒュルウンッ・・・・・・
「(こ、こげーなこたー狙っとたぁんならぁっ?)」
グウイッ グイイッ バッタァァァァンッ!
「(ぐぅあっ・・・・・・!)」
「おおおぁぁあああああーっ!」
シュバシイッ! ドォンッッ!
背刀打ちをそのまま当てずに振り抜き、相手の肩口から首元へ腕ごと差し込んだ神長。
そのあとはカキエーのように腕と肘をうまく使って、相手を捻り込むようにして自分の足下へ転がした。そして、間髪入れずに強烈な突きを相手の背面へ決めた。
「止め! 青、中段突き、一本!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアーッ! ウワアアアアアアアアアッ!
あえて背刀を決めずに、そこから崩し技に繋いだ神長。これが田村の言う、「ケガの功名」だったのか。
「(な、なんちゅーやつじゃ! あげーなとこから、俺を崩しよった・・・・・・)」
「(やってやったぞ! どうだ! 背刀はフェイントだ!)」
「続けて、始め! あとしばらく」
両者、目に力をさらに漲らせ、構え合う。
残り時間は三十秒を切った。
ここからの攻防はどちらかが決めた段階で、大きな転機となるだろう。
ササッ スススッ ササッ・・・・・・
神長は一本技を決めて流れを掴んだが、迂闊には攻めない。慎重に間合いを見ながら出入りを繰り返している。相手も同様に、その動きに合わせて拳を前後に振るう。
「相手、狙ってるね。もう時間も無いし、あとひとつ、何かを決めれば確実に試合を掴めると思うんだけど」
「菜美さぁ。道太郎はさっきの崩し技で流れは取り戻したけれどもさ、相手が待ち拳である以上、やはり、そう簡単には出られないみたいだね。道太郎、どう攻めるんだろう?」
「神長先輩ーっ! ファイトです! 慎重に行きましょぉーっ!」
ササッ・・・・・・ ササッ・・・・・・ スススッ
「(恭ちゃん、サンキュー。確かに、この相手にはそう簡単に踏み込むわけにはいかんな。だが、ここまできたなら、白星を取り返しておきたい!)」
「(・・・・・・む! 来ょーるか!)」
ササササッ スススーッ
動きが速くなり、一気に間合いを詰めてゆく神長。
「どおあああぁーーっ!」
ビュウンッ! ヒュラッ バシイイィッ!
深く踏み込み、伸ばされた指先は大きく円を描いて相手の側頭部へ。神長得意の背刀打ちだが、しかし、相手はこれをしっかりと見切って受け止めた。
「はああぁちゃぁーーーっ!」
ドギュンッ! ドンッ! バシイッ!
相手は間髪入れずに、後の先で神長の上段へ逆突きを放つ。
神長はこれを察知し、掌で強く突きを弾き飛ばした。そして大きく一歩下がり、後ろ足のバネを活かして一気に前へ出た。
ダダァッ! ダァンッ!
「どおああああああーっ!」
「ぬ!!! はああちゃぁっ!」
ドギュンッ! バシュンッ!
中段をカバーしながら、神長は素速い上段の刻み突きを繰り出した。
それに合わせて、相手も同時に突っ込む。中段と読んでいた神長だが、相手は上段の逆突きを繰り出してきた。
バカアァァァァンッ!
「(じょ、上段カウンターだとぉっ? また同じ所を突くだと!)」
「(ぐぅっ・・・・・・。お、重い突きじゃぁ・・・・・・)」
「・・・・・・止め!」
~~~ ピー ピピーッ ~~~
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
ものすごい炸裂音と共に、上段突きが交錯し、ほぼ同時に試合終了のブザーが鳴った。
主審は、試合終了前に止めの合図をしている。副審は、二人が同時に赤旗と青旗を出していた。
「さ、さっきの神長せんぱいの突き、入ったのかな?」
「うちやま、見えた? わたしは、入ったように思えたけど・・・・・・」
内山と大南は、眉をへの字に曲げてコートを見つめている。
その横で、小笹は腕組みをして微妙な表情で首を傾げていた。
「うーん。微妙だね。ワタシは、どっちを取られてもおかしくない当たり方と思ったけどぉ。でも、神長センパイのが、やや深く入ってた気もするなぁー」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「・・・・・・相打ち! とりません!」
「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ 」」」」」
「・・・・・・引き分け!」
なんと、最後の突きは神長にも相手にもポイントは入らず、相打ちの判定。
ものすごく惜しい感じだったが、主審は相打ちと判断。3対3の同点ポイントにより、中堅戦はまた引き分けとなった。
勝負の行方はさらに副将戦へと延ばされる。
強豪、おかやま白陽高校。この学校を相手に、副将戦や大将戦はどういう試合展開となるのだろうか。