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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第2部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 開幕   美ら海沖縄総体!  激闘! 熱闘! インターハイ!
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45/106

2-45、強敵!おかやま白陽高校!

   ~~~選手!~~~


「「「「「 ファイトぉーーーーーっ! 」」」」」


 前原は仲間四人に背中を押され、颯爽とコート内へ駆けこんだ。


「勝負! 始め!」

「さああああああーっ!」


   グンッ  タァンッ  タタン  タタン  タタン


 次鋒戦、開始。

 気合いばっちりで構え、相手に拳を向け、前原は右に回り込むようにしてステップを踏む。

 相手は前原と鏡写しのような右構え。

 お互いに間合いを取り合って牽制しながら、どんな組手スタイルなのかを窺っている。


「(ん・・・・・・?)」


   タンタンタン  タタァン タタァン タタァン・・・・・・

   ダンッ!  タンタンタン タタァン・・・・・・


 前原はステップのリズムを変えたり、時折強く踏み込んだりしてリズムを狂わせようとしてみたが、相手は動じず。駆け引きに乗らないが、仕掛けてくる感じもない。


「(まさか・・・・・・)」


   タンタンタン  タンタンタン  タタァン


 相手の気配に、前原は何かを感じ取った。

 観客席では同時に、森畑も何かを感じ取っていた。


「まさか・・・・・・前原の相手も!?」

「・・・・・・・・・・・・森畑。まさかの通りだ。・・・・・・おかやま白陽は・・・・・・元々、待ち拳型のスペシャリスト揃いのチーム・・・・・・。大将の岬も、な・・・・・・」

「二斗! 菜美がすぐ気づいたけどアタシも気づいた。間合いと気配で、あの次鋒も待ち拳型だって。でも、五人全員待ち拳型なんて、聞いたことないよ!」

「高校の空手は、大半が突っ込み型のスタイル。部活的というかスポーツ的というか。そう考えると、それを狙い撃つタイプってのは、ある意味で有効かもしれない。消極的にも見られるけど、攻めないわけじゃないし・・・・・・。現におかやま白陽は、攻めも強いしなぁ」

「でも菜美? アタシ、五人全員が待ち拳てのは見たことないんだ。このインターハイ、驚きの連続だよ本当に。前原、お願いだから、勝ってー!!」


 栃木陣営のみんなが祈る中、じっと試合を黙って見つめる人が。

 それは、黒川だった。


「前原先輩の相手も、待ち拳・・・・・・。俺も、カウンターを使えるようになれば・・・・・・」

「なぁに言ってんのよ敬太! カウンターって、難しい高等技術なんだよ? そんな簡単に使えるわけないでしょ! 中村先輩や森畑先輩くらいのレベルで使いこなせる技なんだから」

「でもさぁ、きょうこ? 俺もさ、得意技を一つ磨きたいんだ! じっくり、見なきゃなぁ。カウンター、カウンター、と・・・・・・」

「そーんな一朝一夕じゃできないっていうのにー。・・・・・・前原先輩、ファイトー!」


 阿部は「まいったね」と言った表情で黒川と試合を見つめる。

 二年生はこのインターハイが終わったらすぐ、一ヶ月後は昇段審査がある。黒帯になれる初段取得を目指し、黒川もいろいろと思うことがあるのだろう。


「(攻めてこない。どうする? 僕から攻めてみて様子を見るべきか・・・・・・)」

「前原ーーーっ! 迷うな! 考えるな! いけーっ! アタシの勘では、あんたはそいつより突きは速いと思う!」

「(川田さん。・・・・・・そうだな、このまま時間を無駄に使ってもダメだ。隙があれば、そこを一瞬で攻めるしかない!)」


   スススッ   ススススッ   スススーッ


 前原は、ステップをやめ、摺り足で相手に間合いを詰めた。

 ステップはどうしても、身体の動きがどこかに大きく出てしまう。待ち拳型の相手には相性が悪いと判断し、砂浜でコツを得たこの動きを使おうと思ったのだろう。


「(ステップ止めた! 摺り足じゃのぅ!)」

「(そろそろ射程距離だけど。相手は・・・・・・)」


   ピリッ   ピリッ   パチッ


 お互いの集中力と闘気が、静電気のように爆ぜる。


「「 (!!!) 」」

「とあああああああーーーっ!」

「うんぬりゃあああしゃ!」


   ドドバンッ!  ドシュンッ!  シュバアンッ!   ドバシャアッ!

   バッ  バッ  バッ


「止め! 赤、中段突き、有効!」

「「「「「 あああぁぁーーーーっ・・・・・・ 」」」」」


 それはまさに一瞬だった。

 前原が「いける!」と思って繰り出した中段逆突きと同時に、相手もそれに合わせて飛び込んで中段逆突きの相打ちとなった。

 副審三人は、赤旗を斜め下に三本。

 相手の突きがほんのコンマ一秒にも満たない感じで、先に前原へ入っていたようだ。


「(く・・・・・・っ。感覚では、僕のが速かったと感じたのに)」

「「「「「 ナイス中段じゃーーっ! ナイスじゃけぇ寺小路! 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアーッ!  ワアアアアアアアアアアアアーッ!


「きわどいなぁ。いまの、前原センパイのが入ってたと思ったんだけどなぁッ・・・・・・」

「イメージかもしれないね。おかやま白陽は、全体的にカウンターが上手い学校として全国の審判は見慣れてる。私ら等星も、おかやま白陽の返し技には一目置いているしな」

「諸岡・・・・・・。今のは小笹が言うように、アタシも前原のが速く入ったように見えた。でも、印象として返し技に定評があるから向こうへ上がりやすいのかぁ。ならば、相打ちは印象的に不利だね!?」

「川田。あの次鋒の前原ってやつに声が届くなら言ってやった方がいい。まぁ、男子メンバーが気づいていれば大丈夫だが、おかやま白陽と初めて当たるあいつらじゃ、そこまでの余裕がないかもしれないからな」

「わかった! サンキュ、諸岡! ・・・・・・おぉーい、前原ぁっ! 相打ちはダメだよぉ! 確実に、手堅く取った方がいいーっ!」


 川田の声が、渦を巻くようにして前原の耳へと吸い込まれていった。


「続けて、始め!」


   スススーッ   スススーッ   ススススッ・・・


「(相打ちはダメか。・・・・・・どうしよう。距離をとって隙を作らせるか?)」

「とあああああああーーーっ!」


   ダンッ  シュバアンッ!   ドガアッ


「(ぬ・・・・・・っ!)」


 前原は摺り足から間合いを詰め、前足での中段前蹴りを相手のみぞおちめがけて放った。

 ガードしながら、相手はその衝撃で表情を変えたが、未だに冷静な感じを崩さないようだ。


「うんぬうりゃああっ!」

「とあああああああーーーっ!」


   ドンッ!   バシイイイイッ!   バシイイイイッ!


「とあああああああーーーっ!」

「うぬおああありゃしゃ!」


   シュバババッ!  バチィン!  バチィン!


「(くっ・・・・・・。だめか!)」

「(無駄じゃ! 何が来ょーても、返すだけじゃ!)」


 前蹴りからすぐに上段突きへ繋いだ前原だが、相手もそれに合わせて相打ちで返す。

 さらに前原はそこから中段逆突きで潜り込んだが、相手もその突きに合わせて、中段突きを返す。

 相打ちが重なり続け、主審も有効打ではないとして手を横に振る。副審も旗を横にバサバサ振る。

 相打ちによって、なかなか試合のポイントが動かない。


「とあああああああーーーっ!」


   シュバアンッ!  ドカァッ!   シュバアンッ!  ドカァッ!


「(やっちもねー(くだらない)蹴りじゃ! こげーなもん、無駄じゃけぇ!)」


 前原が放った渾身の中段前蹴り二発も簡単にブロックされる。

 おかやま白陽は待ち拳型ゆえか、みな、受け技のレベルも高い。


「(この駆け引きなら・・・・・・どうかなっ!)」


   シュバアンッ!


「(また、そげーな前蹴り! 無駄じゃ!)」


   サッ・・・・・・


 相手は前原の前蹴りを打ち払おうと、前拳を下げてきた。

 その時、前原の瞳がきらりと光る。


   クルウンッ  フワアッ・・・・・・


「(何じゃ? う、上に切り返し!)」

「とあああああああーーーっ!」


   シュバアッ  バアッシイイインッ!

   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


 数発蹴っていた前蹴りは、布石だった。

 前原は四発目の中段前蹴りを途中から切り返し、その膝先はくるりと円を描いて相手の上段へ。

 軌道を切り返してからの上段回し蹴りを狙っていたのだ。


   ざわざわざわざわ  がやがやがやがや


「(・・・・・・え・・・・・・っ!?)」

「「「「「 は、入ってない! 」」」」」

「(ふぅ。掌が、はしりよる(ピリピリする)けぇ! ちーと、甘かったのぉ!)」


 しかし何と、この蹴りを相手は掌で受け止めていた。

 響き渡った炸裂音は、相手の掌と前原の足甲が激しくぶつかった音だった。


「(そ、そんな!)」

「おい、前原! 気ぃ抜くなぁ! 主審は、やめをかけてないぞぉーっ!」


 田村の声に前原ははっとした。

 その時、相手はそのまま前に重心をかけて踏み込み、前原の蹴り足ごと思いっきり体当たりをするように吹っ飛ばしたのだ。


「(うわああっ!)」


   ドンッ  ごろごろごろ  どしゃ


「うんぬああああっ!」


   ドドンッ!  ドンッ!  ドドドンッ!


 吹っ飛んだ前原を追いかけて、相手は床を思いきり踏み切って突っ込んできた。

 片膝をついて床に転がった前原からは、それがまるで暴走列車が迫るかのような勢いに見えた。


「(ま、まずいーっ!)」

「うぬおおおあっ!」


   ギュンッ   サッ  ドカアアアッ!

   バッ   バババッ   バババッ


「・・・・・・止め!」

「「「「「 あああぁぁーーーーっ! 」」」」」


 さすがは名門。さすがは強豪。絶妙なタイミングで前原の真上から、鋭く素速い突きが降ってきた。

 何とか前原は身体を捻ってみたが、脇腹を掠めるかどうかの位置に相手の突きが入ってしまった。

 副審は、赤旗を真上に出したり、横に振ったり、三者三様で様々だが・・・・・・。


「・・・・・・不十分! とりませんっ!」

「「「「「 おおおぉぉーーーっ・・・・・・ 」」」」」


 どこからともなく、栃木陣営から安堵の声が漏れる。

 相手の突きは入ってはいたが、前原が身体を捻ったことで、主審は不十分との判定でポイントは1対0から動かず。


「あっぶなかったなぁ前原! アタシは、今の、だめかと思ったよぉ!」

「一本取られててもおかしくない技だったね。私も、ダメかと思った!」

「あの前原先輩が、攻めきれないなんて。おかやま白陽、強いですね・・・・・・」


 川田、森畑、阿部の三人は大きく息を吐き、力が抜けた感じだ。


「自分、ここから見てても、やばい相手だって思います」

「長谷川! もっとアタシらも声出さなきゃダメだ! おかやま白陽はなにわ樫原とかよりは静かだけど、それはアタシら柏沼高校に対して余裕なんだよきっと! 一年、二年、声だそう!!」

「はい!」

「了解っす!」

「わかりました!」

「「 はい! 」」


 川田の一声に、黒川、長谷川、阿部、大南と内山は声を揃えて前原へエールを送る。


「「「「「 ファイトーーーーーっ! 前原せんぱーーーいっ! 」」」」」

「「「「「 柏沼高校ファイトーーーーーーーっ! 取り返しましょうーーーっ! 」」」」」


   ワアアアアアアーッ オオオオオオオオオーッ

   ワアアアアアアーッ  ワアアアアアアーッ


「続けて、始め! あとしばらく」

「(時間もあまりないぞ! なんとか、1ポイントは追いつかないと!)」


   ササッ  スススーッ  ススススッ


「(そ、そうだ! あれだ! あの技なら!)」


   タタァン  タタァン  タンタンタン


 摺り足から、再びステップにシフトチェンジした前原は、相手を中心として、右へ回ったり左へ戻ったり。そして、横や斜めに動いて、相手の目を追わせないようにした。


「(何じゃこいつ? そげーなことしても、来ょーりゃ打ち返すだけじゃ!)」

「とあああああああーーーっ!」


   キュンッ   キュキュンッ   シュバァ  スパアアァァァァンッ!


「(・・・・・・!)」

「(ぼっけぇー(すごく)惜しかったのぉ!)」


 高速にジグザグステップで踏み込み、的を絞らせないようにして前原が斜め下から放ったのは、右の裏拳打ちだった。しかし、相手は手の甲で顎の下をガードし、その技は届いていなかった。


「(な、なんて防御力だ!)」


   ~~~ ピー ピピーッ ~~~


「「「「「 うぅわぁぁーーーーーっ・・・・・・ 」」」」」


   ざわざわざわざわざわざわざわざわ  ざわざわざわざわざわざわざわざわ


「止め! 1対0。赤の、勝ち!」

「「「「「 (最初の白星は次鋒戦だ! おかやま白陽が先制だ!) 」」」」」

「「「「「 (こりゃ、流れはおかやま白陽が勝つかぁ? 栃木のは旗色悪いぞ) 」」」」」

「「「「「 (鉄壁や、おかやま白陽! 柏沼高校も弱かぁないんやけどな) 」」」」」


   ざわざわざわざわざわざわざわざわ ざわざわざわざわざわざわざわざわ


「・・・・・・くっ! お、追いつけなかったぁ・・・・・・」


   ぺこり


 前原は相手に一礼して天を仰いだが、その頭の中は真っ白だった。

 今大会、初めての黒星。しかも1ポイント差が埋められずに、次鋒戦を取りこぼしたのがショックだったのだろう。


「ま、前原せんぱい、負けちゃった・・・・・・」

「相手の学校、このあとも強い人いるんでしょ? ど、どうしよう、うちやまー」


 大南と内山が、うるうるしながら半泣きで見つめ合っている。

 ここまでが順調に勝ち進んできたためか、みな感覚が麻痺しているようだが、これは県予選ではない。インターハイなのだ。楽に勝てるはずもないし、確実に勝ち上がれる保証など何もないのだ。

 どの出場校も、ハイレベルな戦いの中で頂点を目指している。白星も黒星もあって当然の世界の中にいることを、一年生二人は実感したのかもしれない。


「・・・・・・ご、ごめん、みんな・・・・・・」

「おつかれぇ。だーいじだ。気にすんなって。井上もいる、神長もいる、最後は中村がいるんだ。相手だって強ぇーんだからさ、気にしないでだーいじだって。まだ負けてないからねぇー」

「そうだぞ、前ちゃん! 内容的にも互角だったんだ。ポイント差は、その時の運さ! だはは!」

「道太郎が中堅で白星取り返してくれっから! だいじだ! 気持ち切り替えようぜ、悠樹!」

「前原! これは三回戦だ。正直、どこの強豪と当たっても、際どい戦いだ。まだまだ、おれたちはここからが勝負だ! 前を向けよ! 顔を上げるんだ!」

「・・・・・・そ、そうか。ごめん。・・・・・・予想以上に相手の防御力は高い。きっと、中堅の相手もそうだと思う。神長君、僕の分が重荷でごめん! 中堅戦、ファイト!」


   だんっ  だだんっ    がぽん  びっ  びびーっ


「ふうぅぅ・・・・・・」


 神長は床を数回踏みならし、メンホーをかぶってゆっくり深呼吸。

 そして、天井を見上げてから拳で数回、自分の胸を叩いた。


「しゃあっ! 中堅戦から流れ変える! いってくるぞっ!」


   ~~~選手!~~~


「「「「 ファイトォーーーーーっ! 」」」」


 前原たちは神長を力強く送り出し、心の中で強く祈って中堅戦が始まるのを見守った。

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