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天地創生という名の  作者: 神村大也
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第9話 魂の声

グレートタウンから出て、虫かごの隅の方にある小屋に着いた。


小屋の外で畑仕事をしている2mはあるガタイのいい大男から声をかけられた。


『珍しい。お客さんだ。』


びっくりしたように農作業をやめてシンにどうぞと言わんばかりに手招きをして家に入っていった。


シンは少し遅れて中に入る。


中に気の強そうな女が驚いたようにシンを見て声をかける。


『いらっしゃい。珍しいね。私はエマ。こっちはダルクだよ。』


ダルクは照れくさそうに頭を下げている。


シンはファーゴから聞いた話をすると、エマが思い出すのを嫌がるかのように口を開いた。


『そうだよ。


あのときアタシはファーゴに追放の刑を受けて、化け物どもに食べられると覚悟を決めていたんだ。


そんな時、この人がアタシをかばうために飛び出してきたのさ。


バカかいこいつは、と思ったんだけどアタシを抱きかかえて盾になろうとなる必死の表情を見ると、アタシも生きなきゃって思った瞬間、迫ってきた化け物どもの舌が引き返していったんだよ。


それから地上にいても襲われないようになったんだよ。不思議だねぇ。


ダルク、あんたも何かしゃべりなよ。』


ダルクは照れくさそうに話し始めた。


『そ、そうなんです。


そ、それからこの小屋を建てて、そ、外で野菜を作り地下で穴モグラの巣を作って産んだ卵を頂いています。


こ、この土地と共存しながら生活をしています。』


エマはダルクの話す姿にイライラしながら言った。


『もっとシャッキとしなよ、ダルク。


だらしないけど、この人の野菜はうまいよ。あんたも食べて行くかい。』


『そうか。頂こう。』


シンがそう答えるとエマはにっこりして腕まくりをした。


『うまい野菜と卵で最高の料理を振る舞うよ。ちょっと待ってな。』


その後3人で食事を食べながら、この街の話を聞いた。



この街は化け物の餌場である。


極悪非道として人間界から落ちてきたヒトは、ここでは化け物に怯えながら生きている。


地下で生きるヒトの世界は人間界の縮図である。


ずるがしこい者、力が強い者が地下1階2階で栄華を極めている。


その他の者はジメジメした地下で奴隷労働者として質素な生活をしている。


怯えながら生活する者、ずるがしこい者、傲慢な者、卑屈になる者。


その魂があの出入り口から追放された時、更なる恐怖や絶望に気持ちを支配されると化け物にとってたまらないごちそうになるようだ。


ダルクやエマは、覚悟を決めた時から化け物には美味しくない食べ物に映っているのか、一切手出しをしてこない。


この土地と共存すればするほど興味のない存在となったようだ。


一通り話終えた後、エマはうたた寝を始めた。


しばらくするとダルクが意を決するようにシンに声をかける。


『し、シンさん。お願いがあります。


エマを一緒にルシファーズタウンまで連れて行ってくれませんか。


ここでの生活は楽しくて充実しています。


で、でも、エマは見てのとおり綺麗な女で、こ、こんなところで生活するような女じゃないんです。


お、お願いします。』


エマがパッと目を開き、キッとした目でダルクを睨みつけていった。


『アンタ何言ってんだい。アンタはどうするんだい!!アンタを置いてここを出るわけないだろ。』


『い、いいから行け!お、俺は穴モグラの世話があるし・・・。』


最初は大きな声で答えたダルクだったが、だんだんと尻すぼみとなり沈黙が続いた。


『馬鹿かいアンタは!!


あの時のように化け物から守るから一緒にいこう。


なぜ、そう言えないんだい。


もし、もしそれで化け物に喰われてもアタシはそれでもいいんだよ。』


エマはダルクに感情のまま気持ちをぶつけた。


ダルクは奥歯を噛みしめ黙りこくってしまった。


シンがダルクに向かって静かに話した。


『ダルク。


お前のエマへの気持ちはよく分かる。


自分を犠牲にしてでも大事に思う女ならお前が守れ。


俺は明日この街をでる。


守りぬく覚悟があるなら一緒に着いてこい。』


翌日、シンはダルクとエマに旅立つことを告げた。


すると後ろから槍を持つダルクと剣を持つエマが現れた。


『お、俺たちも連れて行ってください。エマは俺が守る。あ、穴モグラは自由にしてやりました。』


エマはあきれ顔でいった。


『穴モグラの話はいいよ。しまらないねぇ。シンさん頼むよ。』


シンは口元を緩め外へ出た。



虫かごの出入口とグレートタウン入口の中間地点からシンが大声で叫んだ。


『ファーゴ。今からこの街を出る。早く支度して出てこい。』


グレートタウンの扉が開き、待ち構えていたかのようにファーゴの姿が見えた。


『そうか、兄弟。よく声を掛けてくれた。さあ迎えに来てくれ。』


シンは答える。


『お前がここまで来い。俺は声を掛けてくれと言われただけだ。』


ファーゴは真っ赤な顔をして叫んだ。


『何を言っていやがる。いいからここまで来い。


楽しむだけ楽しみやがって許さねーぞ。てめー。


それと、なんでそこにダルクとエマがいるんだよ。


俺が一番だろ。』


ファーゴが話終えた瞬間、シンは背を向け虫かごの出入口に向かって歩き始めた。


ダルクとエマもそれに従い歩き始めた。


『くっ、くそ。このチャンスを逃してたまるか。』


そう言い放つとファーゴは扉を飛び出した。


続いて大勢の街のヒトがシンを目指して飛び出していった。


同時に虫かごの上から無数の化け物の舌や手が飛んできた。


ゲイルがファーゴに話しかける。


『ファーゴ様、私も連れていってください。なんでもいたしますので。』


『ゲイルか。よし、わかった。今してくれ。』


先頭を走るファーゴがゲイルをトンと前に押した。


ゲイルはつまづきながら先頭になった。


化け物の手がゲイルを掴みあげた。


『ファーゴさまー。そんなー。』


ファーゴは当然と言わんばかりの表情でゲイルにいった。


『ルシファーズタウンで先に待っているからな。』


ゲイルのギャーという声と共に至るところで断末魔が聞こえる。


シンが虫かごの頭蓋骨のトンネルを通過しているところで、ファーゴはトンネル入り口数十メートルに近づくところだった。


上から容赦なく舌や手が飛んでくる。


ファーゴは自分を頼ろうとする周りの女を突き飛ばし、片っ端から自分の身代わりにしていく。


ファーゴは虫かごの出入り口となる化け物の頭蓋骨のトンネルへ飛び込んだ。


ファーゴは奇声と雄叫びを上げた。


『フォーー。やったぞ。逃げ切った。』


ファーゴは後ろを振り返り、街のヒトたちが化け物に襲われる地獄の状況を見て身震いした。


『さすが、俺。俺は勝者だ。ギャッハッハッ。』


シン達が出口に差し掛かる姿をみてファーゴは声を掛けた。


『待てシン。俺も行くぞ。』


シン達が出口を出て、しばらくしてファーゴも虫かごの出口を通りぬけようとした瞬間、突然シンとファーゴを遮るように出口の上から髪の長い女がのぞき込むように顔を出した。


その女の髪は長く口は大きく割けており、指の爪は大きくとがっている。


逆さのままファーゴに向けて言い放つ。


『お前だけは喰ってやらないと気が済まぬ。ここから出さぬ。』


ファーゴはびっくりして後ずさりして後ろへこけてしまった。


ファーゴは必死に叫ぶ。


『シーーン!!俺を助けろ!


お前は俺を助ける義務がある。


とびきりの女で遊ばせてやっただろう。このやろう。


早くこの化け物を切り捨てろ。早く俺を助けにこい!』


シンは振り返って言った。


『知らんな。


そいつはお前のお客さんのようだ。


お前の魂が呼び寄せたんだろう。よく話を聞いてやるんだな。』


『おっ、おっ、おい待て。待ってく、ギャー。』


女の化け物の声が聞こえる。


『これで憎しみが・・・。


あら?この豚おいしい。


この極悪非道ぶり、残虐さ、卑怯さ、それに天国から地獄に落ちたような表情と、達成感から一転した絶望感、苦悶。


最高よ、最高の味だわ。』


ダルクとエマは何度も振り返り、シンは振り返ることなく虫かごを後にした。


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