バカ兄貴のクセに!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
夏休み……俺の家……アヤノの部屋……。
「えーっと……お前、今なんて言った?」
「バ、バカ野郎! 何度も言わせるな!」
「しかしな、アヤノ。俺の耳がおかしくなければ、お前は今、自分のことを好きにしていいと俺に言ったということになるぞ?」
ピンク髪ロングと赤い瞳が特徴的な美少女『アヤノ・サイクロン』は少し頬を赤く染めながら、こう言った。
「あ、ああ、そうだよ。なんか文句あるか?」
なぜか俺のYシャツを着ているアヤノが俺にそんなことを言うのは、初めてだった。
「いや、別に文句はないけどさ。お前って、そういうキャラだったっけ?」
「はぁ!? そんなのどうでもいいんだよ! というか、あたしがバカ兄貴を好きになっちゃいけないのかよ!」
「いや、別にそういうことじゃ……」
「もういい! とっとと失せろ! 二度と顔見せんな!」
アヤノは俺を追い出そうとしたが、俺はギュッとアヤノを抱きしめた。
「……な、何すんだよ! 離せ!」
「……それは無理だ」
「はぁ!? なんでだよ! 今さら謝ったって、あたしは許さな……」
「泣いている女の子を……妹を……放っておくわけにはいかないからな」
「あ、あたしは別に泣いてなんか……!」
「じゃあ、お前の目から次から次へと出てきているその透明な液体はなんだ?」
「こ、これは汗だ! さっきまでトレーニングしてたから、きっとそうだ!」
「本当にそうか? お前からは、汗のにおいなんて全くしないぞ?」
「う、うるせえ! あたしは目からも汗が出るんだよ!」
「はぁ……なあ、アヤノ。そんな言い訳が俺に通用すると思っているのか?」
「う、うるせえ! いちいち正論ばっか言うんじゃねえよ! バカ兄貴のクセに……!」
「バカ兄貴……か。そういえば、お前、俺のこと名前で呼んでくれたことそんなにないよな?」
「ま、まあ、初めて会った時以外はな……って、そんなことはどうでもいいから、さっさと出てい……」
「なあ、アヤノ。俺のことを名前で呼んでくれないか? そしたら、ここから出ていくからさ」
「そ、そんなこと……急に言われたって……」
「なんだ? たった三文字だぞ? ほら、言ってみろよ」
「こ、この……! 調子に……乗るなあああああああああああああああ!!」
アヤノは俺をベッドに押し倒すと、馬乗りになった。
「あたしがバカ兄貴のことをなんと呼ぼうと勝手だろ! というか、バカ兄貴はあたしのことを一人の女として見たことねえだろ!」
「確かに今まではそうだったかもしれない……けど、今は違うぞ」
「そうかよ。だったら、ここで証明してみ……」
俺はアヤノが最後まで言い終わる前にアヤノを抱き寄せると、優しくキスをした……。
「…………これでわかっただろ? 俺がお前のことを一人の女として見てないとしたら、こんなことするわけがない……。そうだろ? アヤノ」
恋という名の病にかかっている5人の義理の妹を救えるのは、俺だけ……。
それを治せるかどうかは、俺次第……。
なら、俺はとことんみんなと向き合うまでだ……。
「……う……う……」
「……どうしたんだ? アヤノ。どこか痛むのか?」
「……お兄ちゃん……ごめんなさい」
「……え?」
「バカ兄貴なんて失礼な呼び方をしてしまった私をどうか許してください……」
「ちょ、ちょっと待て。お前、本当にアヤノなのか?」
「あっ、そうでしたね。私と会うのは初めてですよね」
その直後、彼女は自己紹介をした。
「私はアヤネ・サイクロンといいます。アヤノお姉ちゃんの妹です」
「え、えーっと、なんでお前はアヤノの体の中にいるんだ?」
「それはですね。私とアヤノお姉ちゃんは産まれたその瞬間から不完全だったからです。まあ、わかりやすく言うと足りないものを補い合っているということです」
「そ、そうなのか……。ところでアヤノは今どこにいるんだ?」
「えっと、さっきから頭の中でいい意味で発狂してますよ。あっ、お兄ちゃんが嫌でなければ呼んでみますが、どうしますか?」
「いや、大丈夫だ。それより……なんかごめんな。お前の姉ちゃんとキスしちまって」
「いえ、私とお姉ちゃんの心と体は繋がっていますから、私もお兄ちゃんとキスをしたようなものです」
「そ、そうか。じゃあ、俺はもう行くけど、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。これからも姉ともどもよろしくお願いします」
「おう、よろしくな。アヤネ」
現在、彼は4人を満足させた……。
しかし、最後まで油断してはいけない。
慢心、ダメ、絶対!!




