ふええええん!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
ケガを治したりしてやった白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや、美幼女は、なんと魔王の幹部の一人だった。
名前は『カナミ・ビーストクロー』。超獣人族らしい……。
俺はそいつに食べられそうになったが、銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』のおかげで助かった。
「カナミちゃん、やっちゃったね」
ユミナ(黒猫形態)が自分の寝室の壁際に横たわっているカナミに話しかけた。
カナミはそれに反応したかのように意識を取り戻した。
「うるさい……黙れ……魔王の幹部の中で最弱なお前に……言われたく……ない」
「えー? そうかなー? 私の前で無様な姿を晒している人が本当に私より強いのかなー?」
「八つ裂きに……されたいのか?」
「できるものならやってみなよ。まあ、どうせ無理だろうけどね」
「今さら謝っても……許さない……からな!」
カナミはユミナに手を伸ばした。しかし、ユミナはその手が自分に当たる前にこう言った。
「それ以上、私にその手を近づけない方がいいよ?」
「ふん……何をバカなことを……その手には乗らな……」
カナミの右手の中指がユミナの鼻に触れた瞬間、カナミの体は急に重くなり、床に叩きつけられた。
「いったい……なにを……した……!」
カナミは驚愕と殺気のこもった瞳でユミナを睨んだ。
「いや、私に触ったら体が重くなるように私自身に魔法をかけてただけだよ」
「なん……だと!」
「私は君が起きてから一歩も動いてないし、君に魔法をかけたりなんてしていない……。君は私のことを最弱だと言ったけど……今はどうかな?」
「殺してやる……! 殺してやる……! 殺してやる……! 殺してやる……!」
「おー、怖い、怖い。見た目は可愛いんだから、もっとそれらしくしないとー」
「黙れ! お前なんていつでも殺せるんだぞ! それにお前が次期魔王候補の一人と共に過ごしていることが魔王様の耳に入れば、お前は確実に……」
「あー、いいよ。魔王の幹部なんて今すぐにでも辞めたいって思ってるから、好きにしてくれ」
その時、カナミの顔から殺気が消えた。
「なんだと? では、お前は本当に……」
「うん、もう人間なんて襲わないし、魔王に仕える気なんてないよ」
「バ……バカなことを言うな。お前は魔王様のおかげで今まで生きてこられたんだぞ?」
「誰もそんなこと頼んでないのにね。まったく、おせっかいにも程があるよ」
「お……おい、ちょっと待て。本当に辞めるつもりなのか?」
「私の気持ちは変わらないよ……。だからもう帰ってくれないかな? 私の店にこれ以上いてもらっちゃ困るから」
「そ……そんな。自ら魔王の幹部を辞めるなど前代未聞だぞ?」
「私にはもう、魔王の幹部をやる意味は無くなっちゃったよ。だけどね、今はこの店でお客さんや可愛い従業員たちと一緒にのどかな時間を過ごすことが心から楽しいと感じているんだよ。だからさ、もう私に関わるのはやめてほしいんだ。頼むよ、カナミちゃん」
カナミは少しの間、俯いていた。
しかし、突然、キッとした目つきでユミナの赤い瞳を見ながらこう言った。
「なら……なら、私もここで働く! 魔王の幹部の中で最弱なお前がなぜこの店に執着するのか、私の目で確かめてやる!」
ユミナはそれを聞くとニヤリと笑い。
「……計画通り」
どこかで聞いたことのあるセリフを言った。
その直後、ユミナは、ニャーンと鳴いた。
すると、座敷わらしの『ハヤト・フライト』と『イーグル・フライト』が部屋に入ってきた。
ハヤトはユミナ(黒猫形態)を抱きかかえると、部屋から出ていき、イーグルはカナミに店のメイド服を着させるために、じりじりと近づいていった。
「や……やめろ……それ以上、近づくな!」
ニッコリ笑顔でカナミに近づくイーグル。
しかし、カナミにはそれが悪魔の微笑みのように見えてしまった。
それのせいで、カナミはまた気を失ってしまった……。
*
ハヤト共に部屋に入ってきたユミナは、メイド服を着たカナミを見るなりこう言った。
「おー、結構似合ってるじゃないか。いやー、やっぱり本物の猫耳とシッポは作り物とは違うねー」
「こ、こんな格好で仕事ができるか!」
「えー、でも似合ってるよ? ねえ、二人とも」
『はい! 超絶可愛いです!!』
「ふええええん! 私を見ながら、そんなこと言わないでよー!」
こうして、魔王の幹部の一人である『カナミ・ビーストクロー』は【メイドカフェ レインボー】で働くこととなった……。