何すんだ!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
「お待たせしました! こちらが当店自慢の一品! 【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】になります!!」
ケンジはユミナの寝室のベッドに入っている白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや、美幼女のところに料理を運んできた。
「動きたくないから食べさせて」
首にあった切り傷はとっくに治っていたのだが、彼女は動きたくなかったため、彼にそう言った。
「はい、喜んで!」
ケンジはその子の口にスプーンですくったクリームを近づけた。
「はい、口を開けてください」
「え? あー、うん。あ、あーん……はむっ」
「どうですか? おいしいですか?」
真っ白で甘くて濃厚なクリームを堪能したその子の顔は幸せそうだった。
「おいしかったみたいですね。よかったです」
「ねえ、これ、誰が作ったの?」
「え? あー、私ですけど、それがどうかしましたか?」
「え? 男なのに料理できるの?」
「まあ、両親を亡くしてから、一人で暮らしてきましたから、それの影響かもしれません」
「そう……。その……なんかごめん……」
「いえ! とんでもありません! 誰かのために料理を作るのは楽しいですから!」
「そう……なら、私のお願いを聞いてもらえる?」
「はい! 私にできることならなんでも!」
「そう……なら、追加注文。人間の肉が食べたい」
それを聞いたケンジはスプーンを床に落としてしまった。
「え、えーっと、今なんと?」
「人間の肉が食べたい……って、言ったんだけど、聞こえなかったの?」
「い、いえ、そういうわけでは」
「なら、早く用意しなさい。人間なのに五属性を付与している次期魔王候補の肉をね」
その直後、ケンジはパフェをその子に向かって投げつけた。しかし。
「私の糧となれ」
その子がそう言うと、パフェはピンポン球くらいの大きさになり、食器ごと食べられてしまった。
「お前、いったい何者だ。答えようによっちゃ、この店から出ていってもらうぞ」
ボロボロの服を纏ったその子は、拳を構えたケンジを見ながら、ベッドを降りると、自己紹介をした。
「私は超獣人族の『カナミ・ビーストクロー』。魔王に仕える10人の幹部の一人よ」
それを聞いたケンジは、五属性の力を込めた拳でカナミに襲いかかった。しかし。
「噂どおり、五属性を同時に扱えるようだけど、まだまだ使いこなせてないよ!」
「な……!」
カナミはケンジの拳を片手で受け止めた。
「ケガを治してくれてありがとう。もっとゆっくり食べたかったけど、パフェもおいしかったよ。けど、ここで死んでもらうよ!」
カナミは彼をベッドに投げ飛ばすと。
「私がいいと言うまで動くな!」
そう言って、彼が動けないようにした。
「な、なんだこれ! 動けねえ……」
ケンジは大の字で仰向けになった状態のまま、動けなくなっていた。
カナミは不気味な笑みを浮かべながら、馬乗りになると彼の首筋をペロリと舐めた。
「な、何すんだ! 俺はおいしくなんかないぞ!」
「ううん、とってもおいしそうだよ。あー、人間の肉なんて久しぶりだなー」
彼女に舌で舐められた直後、彼は声を出せなくなった。これは……魔法……か。
身動きを封じられ、声も出せない。まさに絶対絶命の状況の中、ケンジは一発逆転の一手を思いついた。
「それじゃあ、早速……いっただっきまー……」
「お兄ちゃんに……触るなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
寝室の扉を開けるというより壊す勢いで入ってきた銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』は拳に水を纏わせると、カナミの右側のこめかみを思い切り殴った。
部屋の壁まで吹っ飛んだカナミは、気を失った。
その直後、彼にかけられていた魔法が解けた。
「あー、死ぬかと思った。助かったよ、ルルナ。ありが……」
「お兄ちゃんのバカあああああああああああああああああああああああああ!!」
ルルナは涙目になりながら、彼を抱きしめた。
「ちょっ……どうしたんだよ。お前は、俺の心の声が聞こえたから、助けにきてくれたんだろ?」
「そうだけど! 次はもっと早くに言ってよ! 私、お兄ちゃんがいなくなったらって、思うと……う……う……」
大声で泣きだしそうだったルルナを彼はギュッ!と抱きしめた。
「悪かった……。でも、次からは気をつけるよ。だから、もう泣かないでくれ」
ルルナはさらに彼を抱きしめた。
「うん、約束だよ……お兄ちゃん」
「ああ、約束だ」
二人は、しばらくそのままの体勢だったという……。




