ケガしてたのか!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
この世界にいる魔王を倒すことが、俺に与えられた使命なのだが、ルルナたちが乗り気でないため、それは保留となっている。
俺しか料理を作るやつがいなかったため、人員募集をかけたが、やってきたのは、元気の良い返事しかできない、『座敷わらし』の兄妹であった。
俺は店長であるユミナに、二人をどうするのかは俺に任せると言われた。
俺は、一度、二人を不採用にしようと思ったが、二人を【見習い】として、この店で働かせることにした。
俺たちが高校に行っている間、つまり午前中の間は二人に昼までにやっておいてほしい仕事をさせるというものだ。
え? 高校が午前中で終わるわけがないだって? それは、異世界と俺の世界とでは、時間の流れ方が違うからだ。
だいたい5時間ほどの時差があるため、高校が終わってから異世界に行くと、異世界は昼である。
さて、今日も働くとしよう。6人分の食費を稼ぐために……。
開店前……。いつものように準備体操がてら、モンスターを倒しまくっていると、草原に誰かが倒れているのに気づいた。
俺は素手で熊型のモンスターをぶっ飛ばすと、そこへ向かった。
「うーんと……この子は……獣人……なのかな? でも前に会った獣人は二足歩行ができる見た目が完全に獣なやつだったような……」
俺がそんなことを呟いていると、その子が目を覚ました。
「さ、さぁて、そろそろ戻らなきゃな」
俺はそう言って、ユミナの屋敷に戻ろうとした。しかし、その子は俺の目の前に両手を広げて立ち塞がった。
「え、えーっと、そこを退いてくれないかな?」
俺がそう言うと、その子は気を失い、パタリと倒れた。
俺はその子を支えると同時に、首筋の切り傷に気づいた。
「お前、ケガしてたのか! 大丈夫か!」
その子は返事をしなかったため、俺は急いでユミナの屋敷に戻り、ユミナにその子の治療を頼んだ。
*
ユミナの魔法による応急処置が終わると、俺はユミナの寝室にその子を運び、ユミナのベッドに寝かせた。
なぜボロボロの服を着ているのかは、わからなかったが、とりあえず、その子の様子を見ることにした。
「出血は止まったけど、その子……結構、危ないよ」
ユミナ(黒猫形態)は俺の足元にやってくると、そんなことを言った。
「それはわかってる……。けど、俺にできることなんて何もな……」
「あるよ……君にしかできないことが」
「ほ、本当か? なら、教えてくれ。俺はどうしたらいいんだ?」
俺はユミナを抱きかかえると、ユミナの赤い瞳を見ながら、そう言った。
「まあ、少し落ち着きなよ。その子が助かるか、助からないかは、君次第なんだからさ」
「そ、そうか……。すまない、少し焦りすぎた」
「謝る必要なんてないよ。ほら、私の目を見て」
「あ、ああ」
俺がユミナの目を見ると、ユミナは。
「えいっ」
俺の頬に猫パンチ……いや、ユミナパンチをした。
「……な、なんだ今の?」
「今のはね、うーん、まあ、おまじないだと思ってくれていいよ」
「そ、そうか」
「……さてと、それじゃあ、その子を助けられるかもしれない方法を教えるね」
「ああ、よろしく頼む」
その後、俺はユミナに言われたとおり、その子に俺の血を5分おきに飲ませ始めた。
店の料理担当である俺が抜けては困るため、ユミナは魔法で影製の俺を作り、そいつに俺の仕事を頼んだ。
____俺が数十回、その行為を繰り返すと……その子はゆっくりと目を開けた。
「うーん……こ、ここは?」
「……よ、よかった。目を覚ましてくれた……!」
人間がどうして私なんかを……。でも、この人間の手はなんだか心地いいな……。
その子はゆっくりと起き上がると、泣きかけている俺の頭を優しく撫でた。
「ありがとう、人間。おかげで助かった」
白いケモ耳と白髪ロングと黒い瞳と真っ白なシッポが特徴的な美少女……いや、美幼女に、そんなことをされた彼は泣き出してしまった。
「どうしたの? 大丈夫?」
彼は泣きながら、その子にしゃべっていたため、その子には彼が何を言っているのか、ほとんど理解できなかった。
____しばらく経つと、彼は落ち着いた。
「落ち着いた?」
「あ……ああ。すまないな……見苦しいところ見せちまった」
「ううん、大丈夫だよ。けど、お腹空いたから、何か作って」
「あ、ああ! 任せとけ! 何が食べたい?」
「えーっとね、人間の……」
「え? なんだって?」
「あ、今のなし。えーっと、オススメは何?」
「え? あー、えーっと、【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】だ」
「じゃあ、それでいい。早く作ってきて」
「かしこまりました! それでは、迅速かつ丁寧に作ってきますので、少々お待ちください!!」
彼はそう言うと寝室から出ていった。
「変なやつだけど、私を助けてくれたんだよね……」
その子は、右手を開いて閉じると。
「人間にも優しいやつはいるんだね……」
彼女はそう言うと、自分の口の周りについた彼の血を舌で舐め取り、それでも取れない血は指で拭き取り、飲んだ。
「久しぶりに……人間の肉が食べたいな……」
ぼそっと怖いことを言った彼女の口元からはほんの少しだけ『よだれ』が出ていた……。