黙らっしゃい!
魔王の幹部の一人である『ユミナ・ブラッドドレイン』の屋敷で【メイドカフェ レインボー】を開いた俺たち。
俺は魔王を倒さなければならないのだが、ルルナたちが乗り気でないため、まだ働かなければならない。
しかし、料理担当が俺しかいないという状況にやっと気づいたルルナたちは人員を募集した。
後日、やってきたのは双子の兄妹だった。どうして分かったのかって?
面接した時に全く同じことを同時に二人が言ったからだ……。
ちなみに名前は、【ハヤト・フライト】と【イーグル・フライト】である。
俺は二人のマシンガントークを中断させると、実技試験を受けるように促した。
うちの店に対する熱意は二人のマシンガントークから、よーく伝わってきた。
しかし、それだけでは店の役には立たない。働くという字は『人』が『動く』と書く。
故に、スムーズに動いてもらわないと、人員募集をした意味が無くなってしまう。
さて、そろそろ実技試験を始めるとしよう……。
「はい、それじゃあ、これから実技試験を始めます。えーっと、とりあえず、うちの看板メニューである【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】を30分以内に作ってもらいます。分からないことがあったら、俺に訊くように……。質問は?」
『ありません!』
「ホントか? 一応、メモは渡すけど、フルーツの切り方とかわかるのか?」
『な、なんとかします!』
「……そうですか。じゃあ、ルルナ。ストップウォッチ持ってきて」
「は〜い」
銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』はメイド服と猫耳とシッポを身につけた状態で、屋敷の2階に上がっていき、数十秒後に戻ってきて、俺にストップウォッチを渡した。
「これでいいんだよね? お兄ちゃん」
「あー、そうそう、全世界の時を止められるやつ……って、これは、タ○ムウォッチじゃないのかな?」
「あ、あははは、間違えちゃったー」
「笑って誤魔化すな」
俺が軽くルルナの頭をチョップすると、ルルナは嬉しそうに。
「ごめんなさ〜い♪」
俺に謝った。まったく、一応、俺の義理の妹になったんだから、もうちょっとしっかりしてくれよ……って、あー、そうだった。
ルルナには、俺の心の声が聞こえてるんだよな。すまん、ルルナ。今のは忘れてくれ。
「さて、茶番はこの辺にして、そろそろ始めましょうか。実のところ、ストップウォッチは俺が持っていましたー」
俺がズボンからストップウォッチを取り出すと、なぜか拍手が起こった。
「あー、はいはい。それじゃあ、始めますよー。ほら、二人とも移動して」
『はい!』
返事はいいんだよなぁ……。二人はルルナから渡されたエプロンを身につけた状態でキッチンに立った。
「それじゃあ、始めます。よーい……ドン!」
『おんどりやあああああああああああああ!!』
「…………え?」
すると、二人とも包丁で鬱憤を晴らすかのように、フルーツを切り始めた。
俺は、この二人には料理は無理だと思ったため、中断させた。
「はい、そこまでー。とりあえず、やめー」
『え? もうですか? まだフルーツしか切ってませんけど?』
「いえ、結構です。フルーツの切り方を見れば、どんなパフェになるか、だいたいわかりますから」
『すごいですね! 尊敬します!』
「あー、はいはい。次に行きますよー」
『はい!』
料理はダメか……。なら、次は接客だな。
「はい、それでは、これからあなた方には、接客をしてもらいます。分からなければ、ここにいる5人に訊いてください」
『ウラー!』
「ロシア語で返事をしなくても大丈夫ですよー。はい、それじゃあ、早速始めましょう」
『よろしくお願いします!』
それからのことは略す。なぜかって? それは、この二人には、この店に必要なスキルが何一つとしてなかったからだ……。
「はい、これで実技試験を終わります。結果報告は……今日中がいいですか?」
『はい! よろしくお願いします!』
「分かりました。では、当店の看板メニュー【レインボーパフェ・スーパーノヴァ】を召し上がっていてください」
『い、いいんですか!?』
「頑張ったご褒美です。もし、残しても、うちのスタッフが美味しくいただくので安心してください。では、少し店長と話をしてきますので、お待ちください」
※スタッフとは、ルルナ、マキナ、マリア、アヤノ、ミーナのことである。(別名:接客特戦隊)
俺はその場からできるだけ早く離れると、ユミナ(黒猫形態)の寝室に行き、事情を話した。
すると、ユミナはこう言った。
「うーん、多分、その二人は『座敷わらし』だね」
「え? 座敷わらしって、あの?」
「うん、そうだよ。西洋の方では、大人だったり、結構、おじいさんだったりするから、別におかしくないよ」
※アニメ『怪○レストラン』の『誰のコート?』から引用……。
「そうか……。なら、俺はどうすればいいんだ?」
「どうするかは君が決めたらいいよ。私は一応、ここの店長だけど、君の方がこの店のこと、よーく知ってるでしょ?」
「そう……なのかな?」
「うん、そうだよ。だから、二人をここで働かせるかどうかは、君が決めてくれないかな?」
「……はぁ……分かったよ。それじゃあ、結果を伝えに行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
ギィ……バタン……。ユミナ(黒猫形態)の寝室から出ていった俺は、二人に結果を伝えにゆっくりと歩き始めた。
二人をどうするかは俺が決めろ……か。まったく、困った店長だ……。
俺はそんなことを考えながら、二人のところへ歩いていった。
「はい、それじゃあ、結果を発表します。よろしいですか?」
『は、はい!』
なんかもう涙目になってるんですけど……。まあ、いいか。
「えー、結果を発表します。『ハヤト・フライト』および『イーグル・フライト』は……」
その場にいる俺以外が生唾を飲んだ。
俺は意地悪く間を長めに空けると、こう言った。
「不採用です……」
『…………』
一瞬、空気が沈んだが、俺はそれに付け加えた。
「ですが……正社員としてではなく、『見習い』という形でなら働くことを認めます。以上……」
『えっと、そ、それって……』
二人が俺の顔を涙目で見つめながら、そう言った。俺は二度、言うつもりはなかったが、二人を安心させるために、もう一度言った。
「俺……いや、私たちがいない間……つまり、午前中はここで雑用などをこなしてもらうという意味での『見習い』です。よろしいですか?」
二人は嬉し涙を流しながら俺に抱きつくと、感謝の言葉をたっぷり俺に浴びせてきた。
『ありがとうございます! これから24時間365日、休まずに働きます! 今は何もできませんが、必ず役に立てるように頑張ります! 不束者者ですが、よろしくお願いします!! 何かできることがあったら、言ってください! それから、それから……」
「えーい! 黙っらっしゃい! とりあえず、うちは定時には終わりますから、ちゃんと休んでください。いいですね?」
『はい!』
こうして、座敷わらし?の『ハヤト・フライト』と『イーグル・フライト』は【メイドカフェ レインボー】の『見習い』として、働くこととなった……。
え? 二人の髪型と髪の色と目の色が知りたい? それは、まあ、次回に分かるから、待っててくれ。