休養
皆の治癒が済んだ時にザウリスが目覚めた。「俺は今まで何をやっていたんだ…思い出せない…」ルーダが近付き声を掛けた。
「影なる者が君を乗っ取ったんだ、大分苦戦したよ。」「俺が連れてきたアホの最上位魔法でお前を眠らせたんだ、本体を眠らせれば影も効果を発揮出来ないからな。」「ちょっとー!アホって酷くないですかー?僕の名前ちゃんとあるんですから!」「こいつの名前はマルシオ・デルタだ、俺が所属していた元ギルドメンバーの一人で、睡眠魔法を駆使したサポート寄りの大魔法使いだが、頭のネジが少し緩いから大目に見てやってくれ。」「凄い言い方しますねー!相変わらずー。」「マルシオさんありがとうございます、時間が空いているなら今後のザウリスさんの事について話し合いませんか?」「賛成だね、私もウールスもこれからの事について考えていたんだ。」ウールスも頷いた。
「取り敢えず場所を移そう、ザウリス立てるか?」「すみませんチルスさん、足が震えて立ち上がる事が出来ないです。」「そうか、肩を貸そう」チルスに肩を貸してもらい運んでもらった、記憶に無い戦闘で身体にも直接ダメージを受けていた、影の正体は誰なのか、敵の魔法なのか、潜在能力なのか。それすら理解が出来なかった。いや、間に合わなかった。
「ザウリスは俺の恩師の所へ連れて行く、敵の魔法の可能性を踏まえてだ。ついでになるがサーニャの記憶も恩師なら戻せるかも知れない。」「サーニャの記憶が戻るのか!?」声を荒げてしまう程嬉しかった、まだ戻るとは決まってはいないが戻るかも知れないという大きな期待があるという事、可能性はゼロでは無かったのだ。
「ああ、恩師はそういう精神系にも長けている、なんせ100年以上生きている魔女だからな。」魔女は本の中の空想の世界にしか居ないと思っていたが、実際居るようだ。「俺は魔力が高過ぎて親に捨てられた、だが俺の恩師は一から育てて魔法を教えてくれたんだ。だからこうしてサポート魔法や攻撃魔法を兼ね備える事が出来たんだ。」チルスは続けた。「恩師の住む所まで転移するが、四人とも休養が必要だろう。まずは英気を養ってくれ。後日出発しよう。」宿へと連れて行ってもらった。
昨日泊まった宿とは全く別の宿へ着いた。「ええと、ここじゃないですよ?チルスさん。」サーニャは傾げていた。「ああ、知ってるさ。一泊だけ君らを高級な所を泊めてあげようと思ってね。」チルスは続けた。
「ここの宿は俺の知り合いが経営しているんだ、元冒険者の従業員や元金級の従業員もいるから、例えザウリスが暴走してもある程度は止められる。しかもここは滅多にない温泉付きだ。しっかりと休んでくれ。」ザウリスを個室へと連れて行き回復魔法で動ける程度までは回復した。「これで大丈夫だろう。」「ありがとうございます、チルスさんもここで休んでいかれるのですか?」「また暴走するかも知れないからな。」凄く心配されているようだ、一体俺は何をしたんだ?未だに思い出せない。思い出そうとしても黒いモヤがかかってしまっている。
「その暴走、思い出せないんです。」「精神支配をされると乗っ取られてる間の記憶が無くなるんだ。仕方ないさ。」「思い出すのは不毛だ、温泉へ入ってくるといい、夜景を見ながら酒を飲むと最高なんだ、ここの温泉は。」「なるほど、じゃあ入ってきます。」ザウリスはドアを開け温泉がある階へと向かった。ドアが閉まるとチルスがボソッと呟いた。「あ、混浴だって事伝え忘れていたが、まあいいか。」
服を脱ぎ、温泉へのドアを開いたらそこは絶景だった。「こりゃチルスさんも認める訳だ」と一人で呟き、温泉へ入った。丁度いい温度で身体も暖まっていた。ドアが開く音が聞こえたが、まあ他の客だろうと思っていた。
「おっザウリスじゃないか。」聞き覚えのある女性の声が聞こえた、ん?女性?「ななななんでルーダさんが?」驚きを隠せなかった。「ここは混浴だぞ?なーんで独り占めしようとしてるんだ?」ルーダはニヤニヤしていた。「隣失礼するぜ。」目線をキョロキョロしてしまう、異性が隣にいるんだ、挙動不審になるのも仕方ない。うん。そう葛藤しているとルーダが話し始めた。
「私はな、妹が居たんだ。二個下の可愛い子でね、良い子だったんだよ。あの日が無ければ。」ルーダが静かになった。「私も村を魔物達に襲われた、唯一生き残ったのは私と妹のスールーだ。」「スールーって、三本の矢の一人のか?」「ああ、そうだよ。」ザウリスは正直に打ち明けた、自分自身が殺めてしまった事を。「成る程、そうだったのか。君が殺してくれたんだね。」「嫌われるかと思ってましたよ。」「いいや、寧ろ感謝しているよ。あの子をこれ以上外道な道に進んで欲しくなかったのさ。」ルーダの顔が一瞬だけ切なかった。そしていつもの笑顔に戻った。
「話を変えるけど、サーニャちゃんとの進展はどうなんだい?上手く進んでいるのかい?」呑んでいた酒を吹いてしまった。「なっなんて事言うんですか!」ルーダはニヤニヤしていた。「好きと言う感情じゃなく、家族として見てますから。」とゴニョゴニョと言った。
「ふーん、じゃあ好きな人はいないって事かい?」「つまり、どういう事です?」ルーダはニヤニヤしながら続けた。「私が好きって言っても?」耳元で囁かれた、余りにも体験した事の無い出来事の連続でザウリスはのぼせてしまった。




