36曲目
俺は宣言してからもう一度深呼吸してから、稔に親指を立てて言った。
「そして稔! お前に刻まれてた真っ暗い闇の世界に光が灯され、世界と風景を見えるようになりまさに人生の架け橋となった俺のカッコよさに気づくんだ!」
「えっ? そ、そうなの? え、今そういう話になってるの?」
稔はどうやらこの急展開に進んだ話に着いていけない感じだ。
そんなのお構いなしに俺から滲み出される熱風はまだまだ続く。
「ああ、そうとも! 確かにお前の書く歌詞も最高だし、ギターボーカルで演奏する姿も様になってるし、きっと文化祭でやる二時世代音芸部バンドの演奏は超絶ヤベェ盛り上がりを出すことは間違いない」
俺も女子軽音部の実力はちゃんと把握してるし、正直言って俺より上手い。
歌詞の作り方も、曲の構成の仕上がりも、楽器も歌も段違いに上である。
そんなことは俺にだってわかりきっているが、それでも譲れない思いがある。
「けれど俺は、俺が作った曲で出される熱意と闘争心はその上をさらに駆け上がる最強の演奏を出すと宣言してやる。俺のカッコよさに気づいて好きになれば、お前は俺が刻んじまった忌々しい男性恐怖症も克服できる! そしたらっ、俺とお前は両想いで恋人になれる! そのときはお前のその声優顔負けなエロボイスで俺のことを"ダーリン"と呼んでもらうからな。ダーリンとな! 俺もお前を"マイハニー"っつって最高の恋人生活を送ってやる。いいか、マイハニーだぞ!」
「あららっ、ダーリンもマイハニーも二回言ったね」
「顔真っ赤にして引くに引けなくなったなら、素直に言わなきゃいいのに」
「だぁーもうっうるせぇうるせぇ! 話を混ぜっ返すんじゃねえ!」
ケンと結理が揚げ足を獲っては笑みを零して話を掘り返す。
俺は心の底から稔のことが好きだし、この宣言も真剣なんだ。
だってそうだろ。あのとき偶然会って運命とも言えるほどに好きになっちまった女の傍に近づけない、触れられもしないだなんて、そんな気に食わなくて飲み込めない不条理がこの世にあってたまるもんか!
このままの道じゃいつまで経っても同じ境界線を維持するだけで、俺と稔との仲は全然進展しないしいい方向に向かえるわけがないじゃないか!
俺の一番かけがえのない人から遠ざかる人生、そんなのまっぴらごめんだ。
それがあの日のように与えられた運命なら、己がまま受け入れずぶち壊す!
「とにかく、あの日以来人生が変わった稔は変えるきっかけを与えて背中を押してやれた俺と結ばれれば学園内だけじゃなく、世界中の人々がみな幸せに満ち溢れるんだぞ! これこそ一点の曇りも無く燦々と照り付けられる太陽の俺とその象徴となる天照大神のお前とのハッピーエンドを向かえて最高の恋人生活を満喫できるんだぞ! 俺もお前もハッピーラッキーで、まさに祝福そのものだ」
「バーカ、そんなのどう考えてもバットエンドまっしぐらでしょーが」
稔の隣でバカ笑いを決め込んでいた結理がそう悪態をつく。
熱意と熱気で彩られアドレナリンマッハな俺にはそれも聞こえない。
「だから稔、今度の文化祭、心の底から期待してて待っててくれよなっ!」
「えっ、あ、う、うん……熱川君、頑張って、ねっ?」
2から3メートルほどの距離を保ち、稔は恥ずかしそうに応援してくれる。
縛られた絶望の運命をぶち壊してから一瞬にして自分で作り出してしまったとはいえ、この僅かに離れた距離が言葉に表せずなんとも言えずもの悲しく、俺の背中に罪の意識が這い上がるのも共に感じ強く意識させる。
クソっ! とにかく、今から怒涛の練習だ!
ロックンロールを元にしできたソルズロックといえども、練習は必要なんだ。
作詞作曲も、ギターの練習も、歌と共に弾き語るのも、創造と練習が形なんだ。
だから心して待っていろ、俺の真上に広がる空に、全てを包み込む世界よ。
今から俺が、ギラギラに輝けるもう一つの翼を手に入れて輝かせてやるからよ!
時間は待ってはくれないし、無慈悲にもそのまま時を刻んでしまうんだ。
だったらその一分一秒を無駄にすることなく、動き出すしか方法も道も無い。
「うしっ! んじゃ、俺今から男子軽音部の部室に行くわ!」
そう言うと俺は自分の近くに置かれたテレキャスターのギターケースを手に取る。
そして三人から踵を返す様に後ろに振り返って教室のドアへと一目散に向かう。
「えっ? 陽ちゃん、家に帰って作詞作曲とかするんじゃないの?」
背中からケンののんびりとした口調でそう聞かされる。
きっと結理も稔も俺の後姿を見ているだろう、実に良い気分だ。
俺の大きく燦々と輝ける太陽の姿を、その目に焼き付けておいてくれ。
「ああ、文化祭に最高で最強の……熱くて楽しくてカッコいい演奏しなきゃなんねえからな! そうと決まったら居ても立っても居られないんだ。俺はもっともっと、ずっとその先にある未来を掴み取るために。練習あるのみだっ! ケンも早く部室に行くぞ!」
俺は男は背中で語らせるように3人に振り向かず大声でそう言う。
すると後方からケンだろうか、慌てふためいて支度をし俺の後ろまで近寄る。
そしてすぐに教室を後にして、俺らは男子軽音部のとこまで全速力で走り出す。
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