37曲目
読んで下さってる方様。
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音楽室がまぶしいオレンジ色の色彩に染まっていた。
太陽が夕陽へと衣装チェンジし楽器や機材がピカピカにその色に輝かせる。
窓越しに、夏である夕日の陽射しがじりじりと照りつけるグラウンドが見える。
放課後となる時間帯で世界を悠々自適に動く夕陽空はどこまでも赤く、遥か遠くに立ち昇る積乱雲は、俺にとっては見知らぬ大地に恵みと祝福の雨をもたらしているのかもしれない。
俺はそんな音楽室でテレキャスターを掲げ、ボーカルマイクの前で歌っている。
いつでも波風を立て平和な世界を乱し面白おかしく生きていくための歌を歌う。
この学園から生まれた時世代音芸部の実績のお陰なのか男女どちらの軽音部も使用する部室は防音設備が整い、冷暖房完備の音楽室の窓から見下ろす光景は、とてもこの世のものとは思えなかった。
外は猛暑ともなる気温での地獄で、こちらは冷房完備での天国。
ガラス一枚を隔てただけで、そこには天と地ほどの差が生まれる。
「うん。楽曲もいい感じに仕上がったし、そろそろ終わりにしようか」
ギターを抱えたサイドギター担当の三岳部長が、練習の終わりを告げる。
その告げる言葉を訊いた俺以外の部員はすぐ楽器を閉まったりし身支度をする。
「えっ? でも部長。練習はまだ始めたばっかりっすよ?」
一瞬にして音楽室の室内に広がる空気が凍りつく。
それはそんな言葉を言って不服そうにしている俺に視線が一気に集まる。
練習にも熱を入れているのに不完全燃焼を告げられた俺はそう不満を漏らすと、さも高学歴で頭が良いですよと思える高そうなメガネの端を指で押して位置を絶妙なとこに直して俺をジッと見据えた。
部員も"空気読めよ"みたいな感じで見てくるが、それがどうも気に食わない。
三岳部長は俺の問いを訊き思わず頭を掻いて困ったような顔つきを出す。
「熱川。お前のことはケン君からも女子軽音部に所属している稔ちゃんや結理ちゃんからもよく聞いている。凄く音楽に打ち込んでるのは知ってるし、お前が小学生の頃からずっと歌手の道を目指して頑張ってるのも知ってる。やる気と熱意があるのはいいことなんだけど……悪いけど俺たち、今日はもう練習には付き合えないんだ。今から予備校や塾に行って勉強をしなきゃならないからさ」
三岳部長の言葉に、他の部員たちもうんうんと頷く。
俺は納得がいかないが三岳部長から話を聞くと予期せぬ真実を伝えられる。
外は異常気象とも言える熱気のこもった気温を出す癖してまだ5月だというのに、鐘撞学園3年生の先輩たちはそろそろ大学や専門などに進学するための受験で準備に入っているらしいのだ。
確かに3年生からしたら大事なことだろうし、やらなきゃいけないとは思う。
けれど俺にとってはそんなことはどうでもいいし、なんだそりゃ、と思う。
まるで文化祭の演奏なんてまあまあな出来で十分だ、と言われているみたいだ。
「いやおかしいでしょ。塾とか予備校に出向いてせっせと受験勉強をするとか悠長なことを言ってる場合ですか? 一世一代の大舞台となる文化祭はもうそこまで迫っているんですよ?」
「まあ、そう言わないでくれよ。今日は悪かったって、明日はちゃんと俺たち時間を取るからさ。お前はまだそんな危機感ないと思うけど、こう見えても俺たち受験生なんだぜ?」
「はっ? それじゃあ受験とバンド、どっちが大事なんだよ。なあ」
俺は真剣な目で真意を口にする。
そんな俺の至極当たり前な問いを言うと、先輩たちはキョトンとしてまるで豆鉄砲を食った鳩のようなマヌケな顔を出して部員同士で見合わせた。
しばしの静寂の後、プッと思わず吹き出しそうになる顔を出してきた。
真剣に音楽と向き合っているのは俺だけで、他はおまけ程度しか考えないのか?
「ははっ、それはもちろん。どっちも大切だよ」
すぐにニコニコとした表情でそんなふうに答えた。
他の部員たちも三岳部長と同じ様にそう言いうんうんと頷く。
俺にはその場しのぎでごまかそうとしているようにしか聞こえないし見えない。
ちくしょう、なんでこういう人たちの言葉ってこんなに薄っぺらいんだろうか?
「ああ、そうか。熱川たちはまだ練習に作詞作曲がやり足りなくてしょうがないんだな。それなら個人練習はしてってもいいし気が済むまでガンガンやっててくれよ。部室の鍵はここに置いておくから……それで勘弁してくれよ。そろそろ俺たちも行かないと時間に遅れるから話はそれだけだ」
バンド練習に熱を入れている俺では話にならないと悟ったのか、三岳部長は黙って話を聞いていたケンに部室の鍵を手渡した。
「時間一杯まで練習するのはいいけど、戸締りだけはしっかりな?」
「あ、はい。先輩方、練習おつかれさまでした。お気をつけて~」
「ああ、おし皆。早く行って勉強しないとヤバいぞ!」
『はいっ!』
音楽室の扉が無造作に、それでいて納得いかない音を響かせる。
そんな音は聞くに堪えないし、なによりこのままじゃ終われない。
それなのにそんな俺とは会いまみえないように、先輩らは勝手気ままだ。
音楽に再度人生を賭けた俺には、しまわれる楽器が泣いているように見えた。
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