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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第二章 シナーラ
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84 才能

 里の修練場に着くと、俺は三人を準備させた。


 「早めにな。」


 「わかった。」


 いつもは元気いっぱいのスミレが少し暗い表情でそう言い、、準備を始める。


 紫音は魔銃、楓は杖を、そしてスミレは数々の札を準備する。


 「準備できたか?」


 俺が問いかけると、三人は無言で呟く。


 「じゃ、始めるけど、俺は何もしないから適当に攻撃してきて。」


 俺がそう言うと、紫音が魔銃の引き金に指をかける。


 紫音の指が引き金にかけられた瞬間、紫音の目がかっと見開かれる。


 「ハハハハハハハ!」


 引き金に指をかけた紫音は、魔銃を乱射してくる。


 「は!?」


 俺は驚愕にのあまり体を一瞬硬直させてしまう。


 しかし、すぐに我を取り戻し、魔銃の弾を処理する。


 「ハハハハハハ!死ね死ね死ね!」


 ついさっきまでいた大和撫子のような少女、紫音は完璧に消え去り、正にバーサーカー紫音であった。


 「何これ!?」


 俺はあちゃーと言う顔をしている楓とスミレに問いかける。


 「あー、なんていうか、紫音っていわゆる『トリガーハッピー』って奴なのよ。」


 「まじかよ!?」


 あまりの事実に、俺は驚愕する。


 「でも、大丈夫。多分もうすぐ…。」


 「アフン!」


 楓が何かを言おうとすると、紫音が変な声を出して、倒れ込んだ。


 「こんな風に、魔力切れになる。」


 楓はそう言葉を続けた。


 それは当然のことだろう。紫音は、魔銃を秒間訳五発撃っていたのだから。そしてさらに火や、雷をエンチャントした弾も撃っていた。


 毎秒五発と聞けば、少なく聞こえるが、紫音が使っているのはただの単発式の銃だ。それを秒間五発とは、驚異的な連射速度だ。


 そんなのを続けていたら、すぐに魔力が尽きる。紫音が倒れたのは、魔力不足の貧血のようなものだ。


 「とりあえず、紫音は端っこのほうにに行っていてくれ。」


 「はい。」


 紫音はふらふらと立ち上がり、端っこのほうに行くと、体育座りで座り込んだ。


 「次。」


 俺は気を取り直して、楓とスミレのほうを向く。


 「行きます!」


 楓は、そう言って詠唱を開始する。


 「水よ!大いなる水よ!濁流となりてわが敵を撃ち滅ぼし給へ!水嵐ウォーターストーム!」


 楓が詠唱を終えても、何も起こらない。


 「あ、あれ?出ろ!出ろ!」


 楓は魔法が出ないことに困惑して、ブンブン杖を振る。


 「なるほど。知識はあるが、実践できないタイプか。」


 「うっ!」


 楓は俺の言葉に、いじけ始める。


 「どうせ私なんて、知識だけの女よ。」


 「楓ちゃんは知識だけの女なんかじゃないよ!」


 スミレは楓を慰める。


 「うう、ありがと。スミレちゃん。」


 楓は若干涙がたまっている目をスミレに向ける。


 「じゃ、頑張って。」


 楓はスミレにそう言葉を送り、紫音の隣に腰かける。


 「最後はお前か。」


 「行くよ!」


 スミレは札を取り出し、それを投げる。


 「火炎之札!」


 スミレがそう言うと、札が炎の玉に変わった。



 一センチぐらいの。



 「・・・・・・・。」


 俺は何も言葉が出せない。


 「か、火炎之札!」


 スミレは場を支配する沈黙に耐え切れず、もう一つ札をとりだし、もう一度火の玉を作り出す。


 その火の玉は、最初に出した火の玉に当たると、五センチほどの火の玉になる。


 「えい!」


 スミレはその火の玉を俺に向けて放つ。


 ポスン。


 火の玉は俺に当たる前に消えてしまう。


 「・・・・・・・。」


 場をもう一度沈黙が支配する。


 「まあ、とりあえずお前らの実力はわかった。」


 俺はそう言って、三人を集める。


 「まずはお前らに言いたいことがある。」


 俺はそう前置きしてから、うなだれている三人に向かって口を開く。


 「お前らバカじゃねえの?」


 「「「うっ!」」」


 三人には、俺の言葉に、胸を押さえてうずくまる。


 「ええ、分かってましたよ。私に魔法を使う才能はあっても、魔術師としての才能はない事なんて。」


 「どうせ私なんて、魔術の知識だけがあるエセ魔術師よ。」


 「うう。私なんて、何の才能もないただの一般人です。」


 上から紫音、楓、スミレだ。


 「お前らに才能がないだと?」


 俺は三人が言ったことに眉根を寄せる。


 「だって、さっきも何にもできなかったし、バカって・・・。」


 俺は大きなため息をつく。


 「何言ってんだ。お前らには、才能がある。ありすぎる。」


 俺の言葉に、三人はぽかんと口を開ける。


 「あ、あの、椎名君。そう言ってくれるのはうれしいけど、自分でいうのもなんだけど私たちはかなりダメダメな部類だよ?」


 スミレはそういって、顔に影を落とす。


 「いや、そんなことはない。」


 俺はスミレの言葉を否と断言する。


 「まず、紫音だが・・・。」


 俺は紫音のほうに向きなおり、紫音が持っている魔銃を指さす。


 「その武器はないいだ?」


 問いかけられた紫音は、キョトンとした表情でこちらを見てから、質問に答える。


 「これは、北欧の会社の最新モデルで、威力や連射速度、命中精度より、魔力消費の効率化を重視したモデルで、消費魔力は一発十と言う優れものです。」


 紫音は少し自慢げにそう言った。が、俺はその説明を切って捨てる。


 「何だその鉄くず?」


 「は?」


 「いくら魔力効率を重視したとはいえ、威力、連射速度、命中精度がここまで落ちるなんて、製作者はどんな腕してんだ?それに、魔力効率もそこまでよくない。とんだ不良品だな。」


 俺の言葉に、三人は困惑した表情を浮かべる。


 「で、でもこれは、今ある最高の技術で作られた一品です。これ以上の品は、今の技術では作れません。」


 「できるぞ。」


 俺は収納の中から、一つの銃を取り出す。その銃は、真っ黒の散弾銃だった。


 その銃の名は、覇王の弓。名前の由来は、その昔チンギス・カンが使っていたとされる弓だ。


 これは武軍に入れることのできなかった武器だ。


 まず、武軍という物は俺が作った武器ならば何でも武軍に入れらるわけではない。武器にはレア度とは他にランクがあり、下からノーマル、レア、レジェンド、ゴッドとなる。


 武軍に入れられるのは、レジェンド以上となり、俺が最初に作った葉隠れや、今回の覇王の弓などレアの武器は武軍に入れられなかった。


 よって、この覇王の弓はある意味失敗作と言ってよかった。


 「今度からこれを使え。」


 「こ、これは?」


 「俺が作った武器のうち一つだ。まあ、失敗作だが、今お前が持っている奴よりはいい出来だ。」


 「そ、そうですか。」


 紫音は、試し打ちをしようと、魔力回復ドリンク--見た目まんまコーラ--を飲んで、覇王の弓に手をかける。


 「ハハハハハハ!」


 紫音は、例のごとく引き金に指をかけると、弾をあたりにまき散らし始める。


 楓とスミレはすぐに魔力切れを起こすと思い、魔力回復ドリンクを用意する。


 しかし、それは全くの杞憂に終わった。


 「ハハハハハハ!」


 紫音は、かれこれ三十分銃を乱射し続けている。


 「もういいだろ。」


 俺は、紫音を止める。


 「はっ!あれ?魔力がまだ残ってる?」


 紫音はまだ魔力が残っていることに驚き、俺のほうを見る。


 それも当然だ。この魔銃は、今最新鋭の魔銃、その一万倍以上の魔力効率を誇っている。たとえ一時間撃ったところで、魔力はかなり消耗するだろうが、魔力切れを起こすことはない。


 「お前、三十分撃ちっぱなしだったぞ。」


 「え!?本当ですか?」


 紫音は、楓とスミレに本当かどうか確認する。


 「ええ。本当よ。」


 紫音は、実感がないのか、ポカンとしたまま、動かなかった。


 「まあ、紫音は置いといて、次は楓。」


 「私はそもそも魔法が使えないから無理よ。」


 「ああ。確かに、お前は詠唱魔法に必要な『声に魔力を乗せる』と言うことができていなかった。」


 楓は、俺の言葉を聞いて俯く。


 「けど、道具、今回はその杖だな。そういう、道具に魔力を乗せるのは非常にうまかった。」


 俺がそう言うと、楓は首をかしげる。


 「それがどうかしたの?」


 「まあ、聞け。」


 俺はそういって解説を始める。


 「魔法陣魔法ってあるだろ?あの魔方陣を使って戦うやつ。」


 「ええ。でも、魔法陣は一回使えば、それで効力を失うから、奇襲にしか効果がないわよ。」


 「いや、そうでもないぞ。」


 俺はそう言って、一つの杖を出す。


 「これは?」


 楓が杖を受け取って、聞いてくる。


 「これは、頭に思い描いた魔法陣を魔力を通すことによって具現化、さらに発動させることのできる杖だ。ちなみに、これも俺が作った。」


 「は!?」


 「ま、とりあえずやってみろって。」


 俺は楓に、試してみるよう言う。


 「わかったわよ。」


 楓はしぶしぶ杖に魔力を通し、自分がイメージした魔法を発動させる。


 「水球。」


 楓が発動したのは、水の初歩の魔法だ。その魔法はものすごい速さで修練場の端にある的に向かって飛び、的を木っ端みじんにした。


 「え!?」


 自分がやったことが信じられないのか、楓は自分の手の中にある杖と、的とを何度も見ている。


 「あ、あんたの武器ってすごいのね。」


 「いや、今のは俺の武器のせいじゃあない。この杖は、ただ思い浮かべた魔法陣を具現化するものだ。あの威力は、お前個人のものだ。」


 「うそ。」


 楓は、信じられないと言った表情で、自分の手を見つめる。


 「最後にスミレだが・・・。」


 俺はスミレに向きなおる。


 「は、はい!」


 スミレは、紫音と楓の弱点が改善されたのを見て、少し期待した目で見てきた。


 「お前は、札術には向いていない。」


 「え?」


 「まず、お前は札術による攻撃が何一つできていない。はっきり言って、お前に札術の才能は全くない。」


 「ちょっと!そんな言い方ないんじゃないの!?」


 どんどん顔に影を落としていく。


 それを見かねた楓が、割って入ろうとするが、俺はそれを手で静止する。


 「だが、それは攻撃札術・・・・の場合だ。」


 「ほえ?」


 俺の言葉に、スミレはまの抜けた声を出す。


 「最後にお前がやった、札と札の力を合成するのには、かなり繊細な魔力コントロールが必要になる。さらに、ただ混ぜ合わせるのではなく、効果を何倍にも引き上げていた。だから、お前には恐らくだが補助札術の才能がある。」


 「補助札術、ですか?」


 スミレだけでなく、楓や紫音も首をかしげる。


 本来、陰陽道における戦闘方法は、一馬のような式神を使うもの、スミレのように札を使う者、それに、錫杖など、武器を使う者に分かれている。


 式神は補助。札術は攻撃のためのもので、武器を使う者はそのどちらもこなすことができる。


 しかし、札術において目くらましや、状態異常の札はあっても、補助の札は存在しなかった。


 そのため、スミレたちは困惑の表情を浮かべる。


 「補助札なんてあるんですか?」


 「ああ。まあ、これも俺が作ったんだけどな。」


 そう言って、俺はスミレに本を渡す。


 その本には、補助札の理論が綿密に書いてあった。


 「すごい・・・。」


 それを見たスミレと、他二人はまさに開いた口がふさがらない状態になっていた。


 「とりあえず、これ使ってみます。」


 スミレは一つのページに書いてあった補助札を、自分の札に書く。


 その札は、速度アップの札だ。


 「速度上昇。」


 スミレはそれを、紫音に向かって使った。


 「あれ?何ともないですよ。」


 紫音は、何か変わったことがないか辺りを見渡すが、勿論何かがあるわけではない。


 「まあ、ちょっと走ってみてくれ。」


 「え?走るんですか?」


 紫音は、俺に言われて走り出した。


 ものすごい速さで。


 「きゃあああ!」


 紫音は、驚きのあまりこけてしまう。


 「な、なんですか!?今のは!?」


 紫音は起き上がり、ゆっくりとこっちに戻ってくる。


 「実験は成功だな。」


 紫音を宥めた後、俺は得意げにそう言った。


 「いろいろありがたいんですが、あなたは本当に何者なんですか?」


 紫音たちは、これだけ規格外なことをした俺に対し、またしてもこの疑問を投げかける。


 「はぁ。じゃあ、ちょっとだけ教えてやる。」


 俺は少し間を開けると、自身の正体の一端を口にする。


 「俺はただの転生者さ。ちょっと世界を壊したことのある、ね。」


 俺はそう言うと、学園へ三人を連れて転移した。


 この後、もっと俺の正体を知りそうにしていた三人だったが、俺が絶対に口を割らないことを悟ったのか、それ以上聞いてくることはなかった。

早く三章に行きたいので、少し駆け足になるかもしれませんが、よろしくお願いします。


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