59 両親がいなくなった日
俺が記憶を取り戻してから三年がたった。つまり俺は今五歳だ。
この三年間、父親は毎日俺に暴力を振るった。
日常的に父親から暴力を受け続けたせいで、俺は人間そのものが苦手になってしまった。
いや、それ以前から…、あのレムナットで生活していた時から人間は苦手だったのかもしれない。
公園などに遊びに行っても、あの大人はいつ俺に手を振り上げるのだろうか。あの子供はいつ俺に持っているボールを投げつけてくるのか。そんなことばかり考えてしまう。
それにこの世界に自分の味方がいないと言うことも分かった。父親は勿論のこと、母親も最近は俺を庇うことはない。逆に父親にやられた暴力をお返しとばかりに俺に振るうようになった。
親戚などもいないし、二人とも外面だけはいいため、両親を止めることのできる人間はいない。
一つ幸いだったことは、自身に貸していた『自身に重力の負荷をかける。』という修業が成功し、ボルト並みの身体能力を手に入れた。しかもそれは重力の負荷をかけている状態でだ。ちなみに今かけている負荷は5Gだ。
今俺はリビングにいる。
四歳の時に引っ越したため、今俺がいるのは一戸建ての家だ。
勿論まだ五歳ということで、自分の部屋なんて持っていない。
さて、俺が何をしているかというと、母親の帰りを待っている。
なんだかんだ言って母親の料理はうまい。暴力を振るうようになっているが、それ以外のところはちゃんと母親をやってくれていると思う。
まあ、こんな俺でも母親が好きだという気持ちに嘘はないと言うことだ。
ガチャ!
玄関から鍵を開ける音が聞こえた。
俺は玄関まで走っていく。
「お母さん!」
俺はリビングの扉を開け、玄関にいるであろう母親を出迎える。
「ああ!?誰がお母さんだ!」
そこにいたのは父親だった。
俺はその男を見ただけで体が動かなくなった。
「何ボーッと突っ立てやがる!こっち来い!」
父親は靴を乱暴に脱ぎ捨てると、俺に近づいてくる。
「ひっ!」
俺は短い悲鳴を上げると少し後ろに下がった。
「何だぁ!?その態度は!」
その行動は父親のお気に召さなかったらしい。
男は俺の肩をつかむと、拳を振り上げる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
俺は必死に謝るが、この男の暴力は止まらない。
「チッ!ウゼェガキだぜ。」
父親はリビングに入っていく。
俺は胸をなでおろす。
「おい!俺のつまみはどこだ!?」
この男は酒のつまみによく柿ピーやスルメを食べる。
しかしそれらのつまみは今母が買いに行っているためない。
「な、無いよ。」
「ああ!?お前が食ったのか!?」
「ち、違うよ。」
「嘘をつくな!」
この男は俺の言葉を無視して殴りかかってくる。
「どうしたの?」
その時、母親が帰ってきた。
俺は一抹の希望を込めて母親を見る。
「こいつが俺のつまみを食いやがった!」
「あら、じゃあしょうがないわね。」
本当にこいつらはクズだと思う。
母親はこの男の前だと俺を庇うことすらなくなった。俺はされるがままだ。
俺はパンチを腹に食らい、倒れこむ。
「それで?つまみは買ってきたんだろうな?」
この男は母の手にあるスーパーのレジ袋を見て問う。
「ええ、スルメでよかったかしら?」
「ああ!?柿ピーはないのかよ!?」
「え?ごめんなさい。買ってないわ。」
「ふざけんな!」
この男はそう言って母を殴る。
「キャッ!」
母は男のパンチを受け、吹き飛ぶ。
ガン!
吹き飛ばされた母はそのまま壁に頭を打ち付け、倒れた。
「おい!起きろ!」
男はなおも母を蹴り続ける。
「おい!お…い。おい、なんで起き上がらないんだ?」
男はさすがに不審に思ったらしく、母に触れる。
「ひっ!」
男は丁度首に触った。それ故わかってしまった。
母がもう生きていないことに。
男は呆然と宙を見始めた。
「お、おい!どうした!?」
その時隣に住む夫婦が様子を見に来た。さすがに大きな音がしたため様子を見ることにしたらしい。
「だ、大丈夫ですか!?」
隣の夫婦は母の状態を見て、救急車を呼ぶ。
救急車が来る頃には、俺は隣の夫婦にすべてを話し終えた。男はまだ呆然としている。
母は速やかに病院に搬送された。しかし病院に着いた時には手遅れで、母は帰らぬ人となった。
男は警察に連れていかれた。恐らく殺人罪か何かで刑務所にでも入るのだろう。
俺は一夜にしてすべてのかぞくを失った。




