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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
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 走り出したカシムだが、次の瞬間には龍人の里にいた。


 カシムの圧倒的なステータスにより、走る速度が尋常ではないためだ。


 ちなみにカシムが走る速さは魔力を練るなど、何個かの手順を踏まなくてはならない転移より早かったりする。


 カシムは里の惨状を見る。


 「くそ!」


 まず目に入ってきたのはここ最近日中はほとんど一緒にいた少女、サナの骸だ。その死体は何回も何回も執拗に切られている。


 里を回ってみたが、生存者はおらず、さらにどの死体も執拗に攻撃されていた。


 「ルキ!」


 カシムは最愛の女性、ルキを探す。


 ルキはすぐに見つかった。カシムの家の中にいたのだ。


 「あぁぁ…。」


 ルキは家の中にいたが、生きてはいなかった。胸を剣で貫かれ、少し目立っていたお腹も切り裂かれていた。


 「あぁぁぁ!」


 カシムはもう動かぬルキを抱きしめる。優しく、いつものように。


 「何故だ!」


 カシムはそこにいない誰かに問う。しかしカシムは確かに神に問うていた。


 「お前が俺からすべてを奪うと言うなら!」


 カシムは虚空を殴りつける。


 バキン!


 カシムが殴ったところがひび割れていき、穴になる。


 「こんな世界、もういらない。」


 カシムは穴の中に入り、どこかに向かう。


 彼が向かったのはここにいた魔力を持つ集団のところ、つまり王都である。



--グローリア王国 王都グローリア--



 「この戦、我々の勝利だ!」


 グローリアでは今、勝利の余韻に浸っていた。


 龍人の里を潰した彼らは来た時と同じように転移で帰ってきていた。


 彼らは龍人を全員殺せば、この戦は勝ったものとみている。


 戦で一番重要なことは何か。地球ではそれは数である。


 しかしここ、レムナットでは、数よりも個が重要になる。それは個の力が極端に分かれているため、百の兵よりも一の将のほうが強いからだ。


 そして龍人たちは、数もあり、個の力もある。それを潰した今、いくら強いと言えどたった一人が兆にも届く軍勢と、その中にいる億にも上る手練れを相手にできるとは思っていないのだ。


 バキン!


 その時、何処からかガラスが割れるような音が聞こえた。その音は勝利に湧き上がっている各種族の戦士たちにも聞こえるほど大きな音だった。


 「何だ今の?」


 「知らん。」


 「お、おい。あれ。」


 一人の兵士が空を指さす。その顔はありえないものを見たような顔だった。


 その兵士につられ、あたりの兵士も空を見る。


 「何だあれ。」


 空にはが入っていた。


 その日々はだんだん大きくなっていく。


 バキバキバキ!


 その罅は一気に広がり、大きな穴を作り出す。


 「あいつは…。」


 その穴から、誰かが出てきた。


 「異世界人、海原優。」


 王女であるクレアがその名前を口にする。その名前はそこにいる全員が知っている名前、即ち異端にして邪神の眷属の名前だった。


 ユウ、いやカシムは空に立っていた。カシムが出てきた穴はもうふさがっている。


 「お前ら…。」


 カシムが口を開く。それだけで各種族の戦士たちは動けなくなる。


 「みんな死ねよ。」


 それは死刑宣告だった。カシムがそう言った途端、戦士たちは口を開けた龍の舌の上にいる錯覚を覚えた。カシムの殺気がそうさせたのだ。


 「あ、相手は一人だ!打て!」


 どの種族の将かわからないが、誰かがそう指示した。その指示を受けて、魔法使いや弓兵が一斉に魔法や矢を放つ。殺気に押されながらも冷静に指示を下すその技量はさすがと言わざるを得ない。


 しかしそれが効くかどうかは別だ。


 「そんなものが効くと思うか?」


 カシムは魔法や矢を全て雷帝で切り刻んでいく。


 カシムは魔法や矢が来ないのを見ると、地上に降りる。


 「炎皇。」


 カシムは炎皇を異空間から取り出す。そして龍の里でやったように構える。


 「来いよクズども。」


 カシムは雷帝と炎皇に魔力を流す。それによって雷帝は雷を纏い、炎皇は炎を纏う。


 「うああ!」


 戦士の一人がカシムに突っ込んでくる。


 「一人。」


 カシムは雷帝を振るい、その戦士の首を落とす。


 ドン!


 カシムは戦士を切った勢いを殺さず、そのまま戦士たちに突っ込んでいく。


 「雷鳴。」


 雷帝を右に薙ぐ。魔力を宿した雷帝は雷を放出し、一振りで何十人もの人間を一度に葬る。


 「炎波。」


 炎皇を左に薙ぐ。魔力を宿した炎皇は炎の波を作り出し、戦士たちに放つ。


 「武軍発動。」


 このままでは埒が明かないと判断したカシムは武軍を発動させる。


 空中から次々と武器が現れ、それに靄が集まったと思うと幽霊のような体を得て戦線に加わる。その数は千ほどだ。


 だがその強さは圧倒的だ。カシムに加え、全部軍の兵士たちが参戦し、そこからはただの蹂躙になった。


 風切り音がするたびに万の兵士が切り裂かれ、爆発音がするたびに数千の体が粉々になる。戦場が血に染まるのにさほど時間はかからなかった。


 「なぁ、ルキ。」


 カシムは天を仰ぐ。


 「俺はお前がいない世界で生きていくことはできないよ。」


 悲し気にそう呟くと体中の魔力を練り上げる。それはカシムが作った魔法。まだ構想段階でしかないが、その魔法がもたらすであろう結果故に、試すことができなかった魔法。


 「輪廻崩壊。」


 カシムが魔法名を呟く。カシムの魔力は破壊の暴風となり、彼を中心に全てを破壊していく。


 土、草、木、虫、動物、魔物、人間を含めた全種族。さらに破壊の暴風は続き、空間、時間まで破壊する。







 その日、第30059世界【レムナット】が消滅した。

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