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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
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53

 「もっと酒を持ってこい!」


 カシムは今、上機嫌に酒を飲んでいる。龍達は尻尾などで上手にコップをつかみ、酒を次々飲んでいく。


 「それにしても龍でも酒を造るんだな。人に姿にはなれないんだろ?」


 カシムは何気なく聞いてみる。


 龍達は笑いながら答える。


 「私たちはあまりすることもないですから。」


 「そうか。」


 カシムはたいして気にすることなく酒を飲み続ける。


 しかしこの説明にはいろいろとおかしな点がある。例えば龍達は酒は自分たちが作った物だと言ったが、人の姿にはなれない龍達に酒を造るのは難しい。さらにうたげの用意ができすぎている。カシムが外に出るとそこには大量の料理が用意されていた。宴はカシムが素早く患者たちを治したから開かれたはずだ。カシムは一応それに気が付いていたが、あえて指摘しなかった。


 「酒の味はいかがですか?」


 龍の一人が聞いてきた。


 「ああ、うまいぞ。」


 カシムはコップを掲げ、それに答える。


 カシムは意識こそ失っていないが、かなり酔っており、もう立って歩けないほどだ。


 「そうですか。それより、酔いが回ってきたようですね。一度休まれては?」


 「大丈夫だ!」


 カシムはコップに入った酒を飲み干す。


 「もういいだろう。」


 龍の長がそう呟くと、今まで笑顔(龍の体では笑っているかの判断はできないが、口調的に。)を浮かべていた龍達が笑みを引っ込める。


 「やれ。」


 龍の長がそういうと、一匹の龍がカシムに突っ込む。もちろんカシムはべろんべろんに酔っぱらっているため、ボートそれを眺めている。


 ドゴン!」


 龍がカシムにその詰めを振り下ろすと、その衝撃で土煙が上がる。


 「やったか?」


 誰がつぶやいたのだろうか?龍の一人がそう言った瞬間、土煙が魔力によって吹き飛ばされた。


 「な、何だ!?」


 土煙が晴れてそこにいたのは、龍の一撃を右腕一本で受け止めているカシムだった。


 「何かを隠しているとは思ったが、こんなことになるとはな。」


 カシムは心底悲しそうにそう呟く。


 「なぜこんなことをした?」


 カシムは龍達にそう問う。


 「お前が神の敵だからだ。」


 「神…、か。」


 カシムはカミールとカミールが神にされたことを思い出し、怒りをあらわにした。


 「じゃあ、お前らは俺の敵だ。」


 カシムはそう言って放出していた魔量を強める。


 「囲め!」


 里長がそういうと、龍達がカシムを囲む。ある龍は地中へとと潜り、ある龍は空を陣取る。他の龍達は地上でカシムを囲む。


 「うまい酒をご馳走になったのに、そのお礼がこれになるとはな。」


 カシムは酔いが完全に冷めたらしく、ゆっくりと立ち上がると、雷帝と炎皇を取り出す。今まで説明していなかったが、強化したことで雷帝は普通の刀から、大太刀になっていた。炎皇は普通の刀だ。


 カシムは雷帝右手で持ち肩に担ぐように構え、炎皇を左手に持ちそれを正眼に構える。


 「来いよ。」


 カシムは笑うと、龍達を挑発する。


 「ガアアア!」


 三匹の龍がカシムに突っ込む。カシムはまず雷帝を体の回転に合わせて振り、一番前にいた龍を斬る。それを好機と見た他の龍がカシムの胴めがけて牙を突き立てようとするが、左手に持った炎皇を振るい、それを斬って捨てる。最後の龍は地中から奇襲を仕掛けたが、それを察知していたカシムは体を僅かにずらしてそれを回避すると、雷帝から雷の刀身を出し、空中の龍を両断する。


 「ブ、ブレスだ!」


 龍の長がそう言って、口に魔力をため始める。ほかの龍達もそれに倣い、口に魔力をためていく。


 「打て!」


 口に魔力をためているため喋りにくいはずだが、器用に号令をすると、龍達は一斉にブレスを放つ。


 火、水、土、風、光、闇、雷、氷、様々な属性のブレスがカシムに殺到する。


 ブレスのせいで爆発が起こり、視界が悪くなる。


 「それだけか?」


 龍達は確かな手ごたえを感じていたが、いまだ倒れないカシムを見て、目を見開く。


 「神の味方を名乗ったのなら、お前らは生かしておかない。全員死んでもらう。」


 カシムは実験の意味も含め、銃などを試す。


 「すぐに死んでくれるなよ?」


 そこから先は蹂躙だった。様々な武器に換装していくカシムに、龍達は対応できないでいた。


 「実験はもういいか。」


 カシムは銃火器を一通り試したところで、武器を雷帝と炎皇に戻した。


 「実験だと?」


 龍の一匹がカシムへ問いかける。


 「ああ、お前らのおかげで良いデータが取れた。ありがとう。」


 「ふざけるな!」


 龍は魔法を身にまとい突っ込んでくる。


 「我々は正義のはずだ!」


 龍はカシムに到達する寸前で自分に言い聞かせるようにそう言った。


 カシムはそれを聞き、炎皇を一回しまうと、その龍を左腕一本で受け止める。


 「お前たちが正義だと?違うな。正義とは勝者だ。」


 カシムはその龍を地面にたたきつける。


 「ガッ!」


 「つまり俺が正義だ。」


 カシムは苦悶の表情を浮かべる龍に歩み寄る。


 「クク、クハハハハ!」


 すると突然龍が笑い出した。


 「何がおかしい?」


 カシムは突然笑い出した龍を訝し気に見る。


 「ついさっき連絡があった。無事、龍人の里を潰したようだ。」


 「何!?」


 カシムは自身の耳を疑う。しかし、その龍はさらに言葉を続けた。


 「龍人は皆殺しにしたそうだ。」


 その瞬間、龍の里全体にカシムの魔力が荒れ狂った。その魔力は浴びるだけで跪きたくなり、死を覚悟させるものであった。


 「オマエラ、殺ス。」


 今のカシムは、正に死神と呼ばれるに相応しい覇気を纏っていた。


 「雷轟。」


 カシムが魔法名を呟くと、雷が球状になって広がっていく。


 その雷の球体は半径五キロの生物、非生物を問わずにすべてを破壊した。


 「間に合え!」


 カシムは走り出す。龍人族の里に生存者がいることを信じ、そのことを祈って。


 しかし彼は理解していたもう手遅れであると。


 しかし走らずにはいられなかった。


 それほどまでカシムは龍人族の里を大切に思っていたのだから。

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