19
優が王都に入ると、死体がそこら中に散乱していた。
「ごめん。」
ユウは死体に向かって謝ると、王城に向かって走り出した。
「アレンさん!ユーラさん!バズさん!トコミさん!」
ユウは、今までここで知り合った人の名前を呼んでいく。
「くそぉ!」
ユウが知り合った人も、矢知りあわなかった人も、皆等しく殺されていた。
しかし、いくら探してもレナの死体だけがない。
ユウは城を出て、町を見て回る。
『アミーダの服屋』のアミーダさん、名も知らぬ、奇行を多々するカップル、そのほか、ユウが知り合った、もしくは見たことのある人間の死体が転がっていた。
やがて、ユウは城門までたどり着く。
北の城門だけ開け放たれており、そこには大量の死体が転がっていた。
ユウは、死体に刺さっていた一つの剣を引き抜く。ユウはその剣に見覚えがあったのだ。そう、検問で引っかかる原因になった、王国兵の剣だ。
「まさか!?」
ユウは北門から外に出て、草原を疾走する。
すると、軍隊が見えてきた。そして、ユウの強化された視覚がとらえたものは、なん本もの槍で貫かれた、レナだった。
ユウは、それを見た瞬間、ありえないほどの殺気を放出した。
それに気づいた王国兵が、こちらを振り返る。
王国兵が見たものは、正に悪魔だった。
ユウは王国兵に向かって一歩踏み出す。それだけで、王国兵は二歩下がる。
「あの子は…。」
ユウは小さくつぶやく。
「まだ八歳だったんだ!」
ユウはそう言って地を全力で蹴る。
ドン!という音とともに、ユウは弾丸など話にならないほどに速度で走り出す。
「まだ子供だった!」
ユウが剣を振る。それだけで、およそ三十万いた王国兵たちのうち、五万が物を言わぬ屍と化した。
「ただの強がりな女の子だった!」
ユウは、レナが強がっていることを知っていた。いつも、笑顔を絶やさずにいたが、ユウと一緒話しているとき以外、本当の笑顔というものを見たことがない。
ユウは、再度剣を振る。今度は、八万の兵士が骸と化した。
「それなのに!」
ユウがただの飛剣を発動させるが、兵士たちは防ぐことができず、両断されていく。
「やめろ!」
その時、ユウに声がかかった。声がしたほうを見ると、ユウと一緒にこの世界に召喚された、勇者たちがいた。
「なのになぜ殺せる!?」
ユウは構わず構築していた魔法を発動させる。
「雷滅轟槍!」
ユウが放った魔法は、勇者もろとも王国兵をすべて吹き飛ばした。さらに、あまりの熱量に砂漠がガラス化していた。
「ガフッ!」
死体の中で、一人生きていたらしい男が血を吐く。
ユウはゆっくりその男に近づいていく。その男は自分の最期を感じたのか、胸の前で手を組み、
「神よ、命令を全うした私たちに、祝福を与えたまえ。」
そう呟いた瞬間、ユウに首を落とされた。
「神?」
ユウは男が最後に言った言葉を、頭の中で反芻した。
「神だと?」
ユウは顔を上げる。その顔は、笑っていた。
「ククク、ハハハハハハハハハ!」
ゆうは、笑い出した。
「神!?神だと!?ふざけるな!」
ユウは笑うのをやめると、底知れない憎悪を顔に浮かべる。
「あ、主?」
ルキがユウに追いついたのか、声をかけてきた。
「町や、近隣の状況を見てきたのじゃ。」
「生存者は?」
ルキはギリッと奥歯をかみしめると、口を開く。
「いなかった。」
「そうか。」
ユウはそう言ってルキのほうを振り返り、【イカヅチ】を向ける。
「主?」
ルキは困惑しながら聞いてきた。
「俺の質問に答えろ。いいな?」
ユウが命令すると、ルキはこくこくと首を縦に振る。
「お前は神を信仰しているか?」
ユウがそう聞くとルキは首を横に振る。
「我らドラゴンは、紙など信仰しておらぬ。」
「信じていいんだな?」
「魔物が、神を信仰すると思うか?」
「それもそうだな。」
ユウは【イカヅチ】を鞘に納める。
「手伝え。」
ユウはそう言って、ルキと一緒に魔族たちの墓を作った。
すべての魔族の墓を作り終えると、ユウは南に向かって歩き出す。
「どこに行く気じゃ?」
「どこだっていいだろ。」
「しかし…。」
「頼むから!」
ルキは急に声を荒げたユウを見て、言葉を詰まらせる。
「一人にしてくれ。」
そう言ってユウは、歩いて行った。
その場に残ったルキは、寂しそうに呟く。
「しかしお主はあの時…。」
(泣いておったではないか。)
ルキは後につながる言葉を飲み込み、里に向かって羽ばたいた。
ユウが夢で見た日付は、こうして終わった。
最終的にはハッピーエンドになるので、批判などはご容赦を。




