020話 突然の報せ
翌朝、始業1時間前、普段は自分の部屋でシリアルやらフルーツやらで軽く済ませていたのだが、珍しく朝飯を外で食べようと思い立って、いつも昼食時に利用している食堂に来ていた。
さすがに、様々な国の生徒がいるだけあって、和食から洋食まで品揃えは凄かった。
無難に和食を頼んで、ガラガラの食堂の、前の方に座った。
しばらく味噌汁やら白米やらを食していると、食道内に何台か設置されている先ほどまで真っ暗だったモニターに『臨時ニュース』という文字が表示され、画面に見覚えのある日本人のアナウンサーが映った。
次の瞬間、モニターに映されたものを見て、寝ぼけていた俺は一瞬で目が覚めた。
「は…?」
映し出されたモニターの中で、まだ7日といない学園都市の街並みなんかより、何倍も見慣れた場所から煙や火が上がっている。
俺は即座にスマフォの電話帳を開き、登録された名前の中から、家族でも友人でもなく、『藤堂麗奈』の名前を選択した。
意外なことに、多忙なはずの生徒会長はすぐに応答してくれた。
「あっ、突然すみませんっ、ニュース見たんですけど、一体何が起こってるんですか!?」
「綾瀬さん、少し落ち着いてください。ただいま確認中ですが、先日のテロ事件の残党が日本で再びテロを起こしたようです。」
「どうしてあの場所なんですか!?この前とは違って俺の地元に能力者なんていませんよっ」
「残念ですが、テロリストの目的や標的は全く分かっていない状況です…」
「わかりました。それじゃあ最後に一つだけ、どうしたら日本に帰れますか」
わからないことを聞いても仕方ない、今すべきことを…
電話越しに少しの沈黙が訪れた。
「学園都市の外へ自由に行けるのはSランク以上の生徒だけなんです…」
「Sランク……ですか…」
此の期に及んでもランク制の格差が重くのしかかる。
「生徒会長として学園の規則を疎かにすることはできません。お力になれず、すみません」
会長に非は全くないわけで、そう言われてしまっては何も言えなかった。
「…いえ、お忙しい中ありがとうございました。」
会長との電話をきってすぐ、頭をフル回転させて考えた。
どうしたら日本に帰れるか
本来Sランク未満の者が帰省やらなんやらで学園都市の外へ出る際は、事前に申請しておかなくてはいけないらしく、承認までに1日以上はかかり、Sランク以上の者が一緒だろうと手続きなしに出ることは許されないらしい…
正規の方法では戻れそうにないな…
『正規の』という考えを捨てた時、一人だけ、俺を日本に送れる可能性のある人物の顔が脳裏に浮かんだ。
まだ2回しか会ったことのない彼女が、今どこにいるかなんてわかるはずもなく、当然電話番号なんかも知らない…
咄嗟に、学園に来てからの知人の中で一番の情報通であるところの朝霞レンに電話をかけた。
何度か呼び出し音が鳴った後、すでに起きていたようで、割とちゃんとつながった。
「おぅ、どうした?リンから連絡なんて珍しい」
「学年、クラス、電話番号はわからないけど名前はわかるって人と連絡取るにはどうしたらいい」
「はぁ?なんだそりゃ…」
突然、こんなわけのわからない質問をされたのだから当然の反応だった。
「悪い、急いでるから詳しいことは後で…」
「名前がわかってるなら学生証から学生データベースにアクセスして、名前検索で正確に名前打てばパーソナルページに飛ぶから、そっからTELマークのとこ押せば学内ネットワークの無料通話ができるはずだ」
大した説明もない意味不明な質問に、すぐに的確かつ簡潔に答えてくれた。
「なるほど、すまん、マジで助かった。」
「いいって、全部終わったらちゃんと説明しろよ?」
その言い方がすでに何かを察しているように思えた。
「うん、ありがとう」
すぐに、学生証端末を取り出し、名前検索ページを開いたのだが…
「名前は確かに聞いたけど漢字がわかんねぇ…くっそ、全部試すっきゃないか」
以前聞いた「はづき のあ」という名前にあうであろう思いつく限りの漢字を入力した。
珍しい名前だけに、3回『アクセスエラー』の文字を見た後の4回目、「葉月乃亜」と入力したところでアクセスが通り、パーソナルページに入れた。
すかさずTELマークを押して、相手が「もしもし」っというよりも先に用件を伝えた。
「突然で本当に申し訳ないんだけど、今すぐどこかで会えない?大至急頼みたい事があるんだけど…」
学生証端末の向こうから返事はない…
さすがに駄目かと思った時、唐突に後方から、か細く眠そうな声が響いた。
「頼みって何…?」
振り返って、おそらくパジャマであろう、ルーズな服装の彼女が、一瞬にして目の前に現れた事で、自分の考えが間違ってなかったことを確信した。
「君の能力で俺を日本のある地域に送ってほしい」
これ以上ないくらい真剣な表情で、率直に用件を伝えた。
「今朝のニュース…?」
「あぁ、あそこは俺の地元なんだよ」
「あなた一人が行ってどうこうなるものでもないでしょ」
「そうかもしれないけど、画面越しに黙って見てる事なんてできない」
「そんな遠距離で人を移動させた事はないの…どんな副作用があるかもわからないし、正確にあなたの地元に送れるとも限らない…」
「それでも…行きたいんだ」
彼女が「それでも?」と聞く前に、俺の意思を伝えた。
「はぁ」
深いため息をついて、長袖のパーカーからわずかに手を出して、こちらへ向けた。
「どうなっても知らないからっ」
「本当に、ありがとう、この礼は戻ってこれたら絶対返すよっ」
「期待しないで待ってるわ」
ボソッと言うと能力を発動させた。
「瞬間移動」
透明の球体が俺の体を包んでいき、一瞬にして目の前が真っ暗になった。




