1-9 一期一会
「ここまでで何か質問はあるか? ワシも全部を詳しく知ってるわけではないがな」
聞きたい事は色々あるけれど、今までの話の内容から、何聞いてもリアルと同じだという答えが返ってきそうな雰囲気だった。
「とりあえずお金の稼ぎ方とか・・・も、働けばいいんですよね、きっと。こんな自分でも出来そうな仕事はありますか?無理そうなら、せめて冒険者ギルドとか」
「金はもちろん稼げばいい。仕事はいろいろあるが、手っ取り早いのはハンターギルドに登録して、依頼を受けるくらいだな」
やっぱあるんだ。その辺はベタな設定なんだな。
「ただし国によっては無いところもあるし、呼び方が違っている場合もある。もちろん仕組みも違うはずだから、現地で教えてもらえ」
「魔法は無いと聞いていますが、大けがしたりとか、たとえば病気になったりとかしたらどうなりますか? 回復はどうしているんですか?」
「たとえば怪我で片腕を無くしたら、もう生えてこないぞ。分かってるとは思うがな。怪我は薬や薬草が売っているから、高いけど買う事は出来る。病気は頑張るか諦めるしかない。あとはそうならないように教会で祈れ」
神頼みですか・・・
「食事取らなかったら、死にます?」
「当たり前だ」
ぐぬぬ・・・味覚も多少フィードバックされそうだな。
「こっちで死ぬほど食っても、リアル側にいる本体は空腹のままだから、ログアウトしたらちゃんと食えよ。こっちより先に本体が死んでしまうような間抜けにはなるなよ」
そうだよな、いくら感覚がリアルっていっても、デジタルデータでは空腹は満たされない。ということは、2回食わなきゃならんのか。
「メインストーリーというか、グランドクエストというか、ゲーム的なシナリオってどういう感じなんですか?ラスボス的な奴はいるんですかね?」
「ふむ。人生は十人十色。出会いは一期一会。他人と同じ人生が送りたいのか?」
あーやっぱそーきたかぁー。
このゲーム、もうゲームじゃないね。もうひとつの人生なんだ。
ステータス気にしてレベル上げたり装備変えたりしなくていいんだ。
レアドロの為に同じモンスター狩りまくらなくていいんだ。
必要な装備揃えなきゃボス戦に参加できない世界じゃないんだ。
一回やったクエストを仲間変えて何度も挑まなくていいんだ。
攻略サイトなんて意味が無いんだ。
・・・・・面白そうじゃないか。マジでリアルゲームだ。
ハードモード?
望むところだ。ただ数値やダメージが変化するだけの温いハードモードなんかじゃない、本気のハードモードじゃないか。
「ふっ、他人と同じ人生なんて、クソ食らえですね」
この時、きっと不敵な笑みを浮かべていたのだろう自分に、軍曹殿も同じように不敵な微笑みを返してくれた。
「最後の質問なんですが、いいですか?」
「何だ、言ってみろ」
「軍曹殿は、いや、軍曹殿や、あの受付の方たちは、ゲームマスターやそれに関係する方々なのですか?それともNPCなのですか?」
「NPCとはノンプレヤーキャラクターの事だ。
しかし、ワシはワシの意思で動いている。
one’s onlineには運営が無いので、GMも居ない。
それがすべてだ」
「ありがとうございました。自分はただ一人の弱い人間ですが、精一杯このone’s onlineの世界を生きてみようと思います。」
「うむ。では頑張れよ、レン」
「はい。ありがとうございました。」
「最後に、この場所は48時間、お前の好きに使うとよい。ワシが消えて48時間後には強制転移が始まる。例えログアウト中でもだ。
小屋の中のベッドの上には、旅に使える装備一式が現れているはずだ。あまり高価なものではないがな。携帯食料も2日分あるはずだ。
48時間以内に準備が完了したら、希望するリアルワールドとの時間差を考えながら、『転移』と叫べば、晴れてone’s onlineの世界へと旅立てる」
なるほど、安全に準備できるのは48時間か。
「では、良き冒険を」
「軍曹殿も、お達者で」
すーっと透明になって消えていく軍曹殿を見送る。
もう会う事は無いし、短い間だったけどお世話になった軍曹殿へ、自然と頭を下げていた。まさに出会いは一期一会だ。
さて、感傷に浸っている暇は無い。
小屋に戻ってベッドを見ると、皮製の胸当てと腰に付ける防具、肘近くまで覆える皮のガントレット、厚底のシューズの裏には鋲が打ってある。そして両手持ちも可能なサイズの両刃の剣が鞘に入れられて置かれていた。長さ的には腰に差せる長さだ。
剣の横にはリュックサックと刃渡り20センチほどのナイフ、そして恐らくマントのような布が置かれている。
リュックの中を確認してみると、カチカチの乾パンのようなものが袋に入れられていて、今着ている肌着とズボンが一式、あとは靴下か?これは。
そして縄ひもと形状から言うと水筒になるんだろう蓋栓の付いた筒があった。
「まさにビギナー用冒険者セット一式って感じだな。とにかく装備しよう」
鏡が無いから判らないが、キャラクタークリエイトした訳ではないリアルと同じ体型では、こんな装備してもカッコ良くは無いんだろうな。
「そもそも、あの時右側にイメージした弓エルフはどうなったんだ! これっぽっちもエルフが混ざってないじゃないか。そもそもエルフ居るのだろうか。」
いや、判ってる。リアルにエルフなんていないんだ。そういうことなんだ。気にするだけ無駄な気がしてきたので忘れよう。
装備を終え、一度外に出てみたが、特に動きづらいという訳でもなく、トレッキング感覚で十分歩けそうな気がしてきた。リュックをおろせばそれなりに戦えそうだ。
「じゃ、48時間あるって言ってたけど、せっかくなのでさっさと済ませて、one’s onlineとやらの世界を冒険してみますか。」
まず剣を持って色々イメージした動きを実際にやってみた。色々なゲームをやっていたので、イメージだけは立派な剣士だ。ただ、このアバターではやはり動きに誤差があるというか、抵抗を感じる。
「筋肉が付いていないんだろうな。鍛錬あるのみだ。」
ある程度動けるようになったら、いよいよこの世界での動きをHMDのスキルアシストに登録していく。ステータス画面も何も出ないし、HMDの設定画面すらも現れないので出来るかどうか不安だったが、登録する意思を思考して脳波入力に伝えると、あっさり出来てしまった。
とりあえず今の体でも大丈夫そうな剣さばきや足さばき、ナイフ投げなどを10個ほど登録して、何回か練習をすると、どことなく空腹感を感じるようになってきた。
「これはどっちの空腹なんだろう・・・
とりあえず乾パン喰うか。水筒も入っていたし。小屋の裏に井戸っぽいのもあったから、水の補充も大丈夫そうだ。
乾パンをかじりながら、スキルアシストが出来たので、もしかしたら声も変えられないかと試してみたら、これもあっさり変えられた。どうやらソフトウェアでのゲーム世界への干渉は不明だが、HMD側の機能でなら、問題なく出来る事が判った。
「これで誕生日に、自分へのご褒美だとHMD一式と一緒に買った数々のオプションボイスが使えるぜ。安くは無かった買い物だからな」
「・・・いつ使うんだ。自分の顔で女声とか正直キモい」
最近気に入っている貫禄の魔法使い声かなぁ・・・なんか違うな。
今のでいっか。リアルに割と近いし。
と、すぐさま元に戻した。




