プロローグ
波のさざめきを切り裂くように、砂浜を駆け抜ける駿馬の足音が迫る。凛とした漆黒の瞳に、陽光を弾く美しいたてがみ。神々しい佇まいの白馬は、速度を落とさずまっすぐに浜辺を駆けていた。
そして、馬を自在に乗りこなす一人の青年。狩装束を身にまとい、合図の扇を高く投げ捨て、間髪入れずに弓を番える。視線を海へと定め、精神を研ぎ澄ます。勇ましい矢声を出した直後、一本の矢が流星の如く放たれた。
小舟に用意された大的に命中すると、静かに見守る観衆から拍手が送られる。しかし、青年は動じることなく、二の的へと意識を切り替えた。
『我、断たず。祓うのみ』
青年は心の中でそう念じ、二本目の矢を放つ。矢は的の中央を射抜いた。
***
この矢が、誰かの運命を変えるとするなら。私はその人のために、真摯に向き合い、真心をこめて射貫くことができるだろうか。
その一方で、もしこの矢のせいで、誰かの命を奪ってしまうのなら。私はその人のために、弓を握らず、ただ黙って目をそむくことができるだろうか。
人は、いつも二つのものを抱えている。光と影、善と悪、生と死……。
弓を引くことで、魂を祓うのか、穢れるのか。矢を放つことで、人が生きるのか、死ぬのか。私はあのとき、どちらを選ぶべきだったのだろうか……。
***
白馬の速度に合わせるよう、青年は呼吸を慎重に整える。最後に三本目の矢を放つと——。
大的は二つに割れ、海面へと吸い込まれるように落下。皆中した青年には、大勢の観衆から拍手と歓声が送られた。




