第四話 一匹入った、だけだった
校庭で見つけた、美しい青いトカゲ。教室で飼い始めたその日から、“数”が合わなくなっていく。
一匹のはずが、二匹に。
そして――それは、増えるたびに内側から現れる。
校庭で、体長10センチほどの青く美しいトカゲを見つけた。
教室に持ち帰ると、みんなが声を上げた。
「わー、きれい」「ねえ、教室で飼ってみない? ちょうど水槽もあるし」
多数決で決まり、トカゲはクラスの一員になった。
当番を決めて世話をし、みんなで覗き込む日々が続いた。
そして、ある日。
「……あれ?」
水槽の中に、二匹いる。
「いつ卵産んだの?」「見てないよな……」
誰も答えられないまま、不思議そうに水槽を囲んでいた――その時だった。
ガタン、と誰かの肘が当たり、水槽がひっくり返る。
床に水が広がり、トカゲが跳ねた。
「うわっ!」
一匹が弾かれるように飛び出し、近くにいた生徒の開いた口の中へ――吸い込まれた。
「わああああっ!」
喉を押さえ、その場に崩れ落ちる。
教室が凍りついた。
恐る恐る覗き込んだ、その瞬間。
ぐちゅ、と音がした。
倒れている生徒の両目の奥が、内側から押し上げられる。
にゅるり、と。
片方の目から一匹。
もう片方の目から、もう一匹。
「……え?」
確かに、飛び込んだのは一匹だった。
なのに、這い出してきたのは二匹。
そうなると、水槽にいたもう一匹は卵じゃない。――すでに誰かが犠牲になっていた。
そういえば今日は、最初にトカゲを拾ってきたやつが学校を休んでいる。
完全に外へ出たそれは床に落ち、ぬめりながら動き出す。
目を潰された生徒は、喉を鳴らしながら立ち上がった。
顔中を血だらけにしたまま、ふらつく足取りで教室の外へ歩いていく。
誰も、止められなかった。
「うわああああああ!」
悲鳴が弾け、生徒たちは一斉に教室から逃げ出した。
ドアの外で、誰かが震える手で鍵をかける。
静まり返った教室。
逃げ遅れた数人だけが、その場に立ち尽くしていた。
カサ、と音がした。
気づけば、トカゲは四匹に増えている――はずだった。
なのに、一匹足りない。
「おい、どうする」
震えた声が響く。
「……もしかして、火に弱いかも」
「誰かライター持ってたよね。プリント燃やして、近づけてみよう」
震える手でライターに火をつけ、プリントへ燃え移らせる。
揺れる炎をトカゲにかざすと――
スッ、と後ずさった。
「いけるかも……!」「みんなも紙を!」
次々と火が灯り、教室に焦げた匂いが広がる。
逃げ場を失ったトカゲたちは、壁際へ追い詰められ――
じゅっ、と焼けた。
小さな体が黒く縮み、やがて動かなくなる。
三匹。
「……ふう」
誰かが座り込む。
「やっと、全部殺した……」
しばらくの沈黙。
灰が静かに床へ落ちる。
「……鍵、開けてもらわないと」
一人が立ち上がり、窓へ向かった。
ガラ、と窓を開け、外を覗き込む。
そして――止まった。
「……おい」
その声は、かすれていた。
残りの二人も、恐る恐る窓の外を見る。
言葉を失った。
校庭が、見えない。
地面が、見えない。
そこにあるのは――無数の青。
びっしりと、隙間なく、うごめいている。
すべて、トカゲだった。
……いや、よく見ると制服の青も混じっている。
合間合間に、クラスメイトの目玉の無くなった顔が見えた。
一緒に逃げ出した一匹に、やられたのか……。
光を反射し、波のように揺れながら――ゆっくりと、こちらを見上げている。
開いたままの窓を。
その隙間を。
一斉に。
「……閉めろ」
誰かがそう言った時には、もう遅かった。
一匹の青いトカゲが、俺の開いた口めがけて跳ね上がった。




